西田宗千佳のイマトミライ

第89回

PS5時代の次世代VRデバイスはどうなるのか

PlayStation VR(CUH-ZVR2)

ソニー・インタラクティブエンタテイメント(SIE)は、2月23日に自社ブログを更新、PlayStation 5(PS5)世代に向けた次世代のVRシステムを開発中であると発表した。

PS5向け次世代VR開発発表 これまで以上の没入感

筆者はこの件を含め、SIEのジム・ライアン社長兼CEOに単独インタビューをしている。といっても、詳細が聞けたわけではない。

明確になっているのは「PS5に向けてまったく新しいシステムになる」こと、「ケーブル1本でPS5本体と接続するシンプルなシステムになっている」ことくらいだ。発売時期も「2021年には出ない」「まだアナウンスできる状態ではない」ということだから、詳細を開示できる状況ではないのだろう。

とはいえ、ライアンCEOの話では「もうすぐ、開発キットがデベロッパーなどに向けて供給開始される」とのことなので、仕様はもう決まっているはず。そのうち、徐々に詳細も明かされていくだろう。

その前にちょっと「どんなものになるのか」を予想してみたいと思う。

実は昨年から「予告」されていたPS5向けVR機器の開発

SIEがPS5向けVRシステムを再び開発しているのは「公然の秘密」だった。2020年11月、筆者がSIE シニア・バイス・プレジデント プラットフォーム・プランニング&マネジメント担当の西野秀明氏にインタビューした際、彼は次のように答えている。

西田さんのご質問についての回答は、『PS5にはPS5にふさわしいVR体験を期待したいですよね』とお答えします。それ以上のコメントはできませんが、期待したいですよね(笑

PlayStation 5はこうして生まれた(AV Watch)

「PS5はこうして生まれた」ハード・プラットフォーム開発トップに聞く

プラットフォーム企画のトップがこう話す、ということは、「PS4時代のPlayStation VRのままではないし、なにか違うものを作っているのだろう」と思って当然だ。

だから、ライアンCEOがインタビュー中に「次世代のVRシステムを開発中である」と話し始めたときにも、驚いたというよりも「ああ、今がアナウンスのタイミングなのだな」と納得した感じだった。3月は、例年であれば、サンフランシスコでゲーム開発者会議「GDC」が行なわれている時期。初代PlayStation VR(PSVR)が正式発表されたのも、2016年のGDCだった。

PlayStation VRは10月発売。「シネマティックモード」も(2016年)

今年のGDCは6月に延期となっているが、長期的にみた場合、このくらいのタイミングで発表されるのはおかしなことではない。

「PS5とケーブル接続」を選択、Questとは違う道へ

では、具体的にどういうものになるのか? PSVRの特徴や、今のVR機器のトレンドを勘案すると、なんとなく狙っているところは見えてくる。

今回の発表で注目されているのは「ケーブルでPS5と接続する」という点だろう。市場には「Oculus Quest」のような、ケーブルとの接続を必要としないVRデバイスも登場しているし、ハイエンド向けに、ワイヤレスによる接続も登場してはいる。だから、「PS5とケーブルで接続する」ということをマイナスに感じた人もいるようだ。わからなくはない。

Oculus Quest 2

ライアンCEOは、ケーブル接続を選択した理由について「ゲーム体験を重視するため」と説明している。その理由も、冷静に考えるとわかる。

半導体の性能は向上し、スマートフォン由来のプロセッサーを改良したもので「単体型VR機器」を作れるようになっている。Oculus Questシリーズはその代表だろう。確かに、単体でケーブルのないVR体験はすばらしいが、プロセッサーの性能には限界があり、VR体験の規模はある程度抑えなくてはならない。現実問題として、現在もグラフィックや体験のリッチさでは、PC接続で利用する方が上である。

そして、発売から時間が経過しているとはいえ、PS4+PS VRでのVR映像体験も、Oculus Questシリーズのものよりまだ上だ。

PS4向けのシステムであったPSVRは、PS4というシステムの負荷を勘案した上で開発されたものだった。HMDのポジショントラッキングは、PSVRのライトをカメラで認識する形で、映像についてはPS4本体とPSVRのHMDの間に「プロセッサーユニット」を配置し、プロセッサーユニットが処理の一部を代替する形になっていた。

PlayStation VR(CUH-ZVR2)の同梱品。プロセッサーユニットなどが必要

HMDは1,920×1,080ドット・最大120Hzのパネルが1枚という仕様で、実質的に両目分、960×1,080ドットを2画面分描画する必要がある。登場から5年が経過したPS4は、“いま”の視点で見ると性能的に十分、というわけではない。VRでは両目分、多くのコマ数を、処理落ちなく描写しなければならず、性能的には厳しかった。だから別体のプロセッサーユニットを活用する形になった。

PS5は性能面で余裕が生まれる。それでも「性能が余る」ほどではないだろう。だが、PC向けVRの最先端により近いものになる可能性は高いし、プロセッサーユニットが必須、という形を採らない可能性が高い。SIEが「ケーブル1本でPS5とすっきり接続」と表現していることからも、プロセッサーユニットがなくなっている可能性は十分に考えられる。

新VRデバイスがPS5の周辺機器である以上、そして、SIEの製品としてすでにPSVRがある以上、それ以上の体験を準備するには、「PS5と安定的に接続する」形になると想定できる。

PlayStation 5

この辺はあくまで「ゲーム機」であるPS5の周辺機器である、という事情が大きいだろう。ゲーム以外も志向しているPC向けVR機器やOculus Questとは、結果的に違う道をゆくことになる。それはそれで一つの選択だ。

ではワイヤレス化はできないのか?

技術的には可能だろう。だが、その分コストが上がる。さらには、HMDにバッテリーと処理系を搭載する必要が出て、重くなる。詳しくは後述するが、「できるが無線化はオプション」というあたりが落とし所なのではないか、という気がする。

新VRデバイスの秘密は「ケーブル1本での接続」にある?

実は筆者は、「ケーブル1本でPS5とつなぐ」というのが、かなり大きなヒントなのではないか、と考えている。

PS5向けの新VRデバイスでは、技術の進化もあって、HMDが使うディスプレイパネルの解像度が上がるのは間違いない。どのくらいになるかは予測の域を出ないが、片目分で2Kクラスが妥当な線ではないか、と思う。これを大幅に超えると、PS5でも厳しい。PSVRとの差別化を考えると、片目分2K=両目で4Kで、さらに毎秒90コマや毎秒120コマといった描画、という感じではないだろうか。VR関連の各種タスクも含めて4K・120Hzというのはありそうな線かと思う。

一方、これだけの映像となると、ケーブルですら「非圧縮で単に転送する」のは厳しい。

PS5には、PS4のように「LEDの灯りで位置を把握する」システムを前提としていないように見える。新VRデバイスでの位置認識も、本体接続のカメラを使う「アウトサイド・イン」から、HMD内蔵カメラを使う「インサイド・アウト」形式に変わるのではないか、と予想される。だとすると、HMDからPS5へは、映像だけでなく位置関連情報も送られないといけない、ということになる。

だから、これらの点を考慮すると、ケーブル接続だからといって帯域が十分、というわけではない。おそらくは、なんらかの形で映像を圧縮してPS5から伝送し、HMD側で展開する仕組みになるのではないか。

Oculus QuestがPC接続に利用している「Oculus Link」に近い仕組みかもしれない、と予想している。PCのように汎用でなく、PS5+専用機器という組み合わせなら最適化設計もしやすい。なにより、10Gbpsを超えるような広帯域・高品質ケーブルや、それを2m・3mと引きずる必要がなくなる。ケーブルを細く軽く、しなやかなものにできれば、ケーブルの負担も減る。また帯域を圧縮できるなら、「オプションによる無線対応」も視野には入ってくる。

さらにコントローラーも、形状や機能はわからないながら、「Dual Senseの能力を引き継いだ新規設計のもの」のなるという。これもおそらくは、HMDで位置認識して使うことになるのだろう。

Dual Sense

そうすると、新VRシステムは「HMD側にもセンサー認識や画像処理など最低限の処理能力を持ちつつ、PS5と専用ケーブルでUSB端子と接続して使う。ケーブルの中は専用のプロトコルを利用」というものになるのではないか、と予想できるわけだ。

以上は、あくまでも「予測」だ。外れる可能性も多々あると思う。その点を念押ししておきたい。

その上で望むのは、「コントローラーを別売にしないこと」「シンプルな購入方法を採用すること」だろうか。PSVRでは、ハンドコントローラーの「PlayStation Move」が別売で、しかもPS3の時期に設計されたものだったので、使い勝手の面でも入手性の面でも問題があった。また、PSVRの販売初期には「体験してから予約販売」という形を採用した結果、買いたい人がなかなか予約も購入もできず、特に日本では大幅な流通量不足に苦しむ結果となった。

PS5本体の供給がまだ十分でないが、次期VR機器では「コントローラーまで含めてシンプルに店頭もしくは通販で買える」体制の確保を強く望みたい。消費者が販売に振り回され続けるのは本末転倒だと思うからだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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