石野純也のモバイル通信SE

第33回

ついにFelica対応した「Galaxy Watch 6」は日本のスマートウォッチを変えるか

サムスンは、日本に展開するGalaxy Z Fold5、Flip5などのデバイスを一挙に発表した

サムスン電子は、8月22日に日本向けの「Galaxy Z Fold5」「Galaxy Z Flip5」を発表した。この2機種に加え、「Galaxy Tab S9」シリーズ3機種や、「Galaxy Watch6」「Galaxy Watch6 Classic」も日本で導入する。

これらの端末は、7月26日に韓国・ソウルで開催された「Galaxy Unpacked」でお披露目されていたものと同じ。FeliCa対応などの日本向けのローカライズは加えられているが、基本的な特徴は同じだ。

日本対応を本格化。注目の「GalaxyWatch6シリーズ」

ただし、同じローカライズでも、スマホとスマートウォッチではその意味合いが変わってくる。前者は、2世代前の「Galaxy Z Fold3 5G」「Galaxy Z Flip3 5G」でおサイフケータイなどには対応済み。物理SIMとeSIMのデュアルSIMも、「Galaxy Z Fold4」「Galaxy Z Flip4」からサポートしていた。

これに対し、Galaxy Watch6シリーズは、同社のスマートウォッチとして初めてFeliCaに対応する。

Galaxy Watch6、Watch6 Classicは、いずれもFeliCaに対応する

これに加え、ドコモがLTE版の取り扱いを開始し、同社の「ワンナンバー」に対応する見込みだ。Galaxy WatchのLTE版は、初代モデルから用意されていたものの、日本での展開が始まったのは4世代目にあたる「Galaxy Watch4」から。ただし、取り扱いキャリアはauのみで、同社の「ナンバーシェア」でしか利用できなかった。このモデルの後継機にあたる「Galaxy Watch5」でも展開キャリアは同じで、ドコモでの販売はなかった。

これに対し、Galaxy Watch6はauが9月、ドコモが11月に販売を開始する。どちらも、スマホと同一の電話番号で電話の発着信やSMSの送受信が可能なサービスに対応。スマホを持ち歩かない近所へのお出かけやスマホを持ち運びにくい運動中などでも、ネットワーク経由のサービスを利用できる。ドコモのワンナンバーは、eximoだけでなく、ahamoやirumoなどの料金プランにも対応しているため、対応するユーザーの幅は広い。

LTE版は、ドコモの取り扱いもスタート。ワンナンバーで利用できるようになる見込みだ

同じWear OSを採用するスマートウォッチでは、グーグルの「Pixel Watch」が先んじてFeliCaを搭載し、LTEでの通信もサポートしていた。ドコモの取り扱いはないものの、KDDIのナンバーシェアやソフトバンクの「ウェアラブルデバイス モバイル通信サービス」には対応。単体での通信も可能だった。13年に「GALAXY Gear」を発売し、スマートウォッチでは大きく先行していたサムスンだが、ローカライズにはやや遅れを取っていた。Galaxy Watch6で、その差を埋めにきた格好だ。

スマートウォッチのFeliCa対応は、グーグルが先行していた。当初利用できる電子マネーはSuicaだけだったが、7月には、iDやQUICPayにも対応している

FeliCaをサポートできたのは、スマートウォッチのOSがWear OSに統合された側面も大きいだろう。元々サムスンは、自身が主導するTizenをスマートウォッチに採用していた。これに対し、グーグルはWear OSを展開していたが、同OSを搭載するスマートウォッチは一部のメーカーに限定されていた。iOSとAndroidの2強が寡占しているスマホ市場とは異なり、スマートウォッチはアップルのwatchOSとその他のOSがひしめき合っていた状況だったと言えるだろう。

こうした状況の中、21年にはグーグルとサムスンが両OSを統合することを発表。サムスンは先に言及したGalaxy Watch5から、グーグルはPixel Watchから、統合された新Wear OSを採用している。コアの部分にTizenを使いつつ、ユーザーインターフェイスやアプリなどのエコシステムは旧Wear OSを引き継ぐ形で統合されており、バッテリー駆動時間が伸びることがメリットとされていた。

同じWear OSを採用した結果として、Pixel Watch向けに展開してきたFeliCa用のアプリが容易に移植できたことは想像に難くない。

昨年発売されたGalaxy Watch5は、サムスン初のWear OS採用モデル

スマートウォッチ市場の台風の目となるか

ローカライズを進めたことで、Galaxy Watchの魅力は大きく高まった。特に、FeliCa対応を望む声はサムスンにも多数寄せられていたといい、ニーズの高さがうかがえる。Galaxyと銘打ってはいるものの、母艦となるスマホはAndroidのバージョンさえ合っていればブランドを問わない。

日本ではiPhoneのシェアが高いものの、全メーカーを合算すればAndroidも過半数と大きな母数になるため、Galaxy Watchを検討する余地が高まったと言えるだろう。

Galaxy WatchにFeliCa対応を求める声は高まっていた

Galaxy Watchは、Galaxyの高いブランド力を生かし、海外ではApple Watchに次ぐ高いシェアを誇る。調査会社のカウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチのデータによると、22年のサムスンのシェアは9.8%で、アップルに次ぐ2位につけている。シェアは横ばいだが、出荷台数は21年比で10%増加した。スマホではシェア1位のサムスンだが、そのブランド力を生かし、スマートウォッチでも高いシェアを誇っているというわけだ。

サムスンは世界で約10%のシェアを取り、2位につけている(出典:カウンターポイント)

翻って日本市場では、その存在感を十分発揮できていない。調査会社MM総研が5月に発表した22年度の出荷台数調査では、1位がアップル、2位がファーウェイ、3位がFitbitで、サムスンはベスト5にも名が挙がっていない。5位以下は「その他」でまとめられており、Galaxy Watchもここに含まれているものとみられる。2位で10%近いシェアを誇るグローバルでの状況とは、大きな開きがあると言えるだろう。ローカライズを進め、対応キャリアを増やしたGalaxy Watch6で、どこまで巻き返せるのかに注目が集まる。

日本では、アップルやファーウェイに押され、サムスンは十分な存在感を発揮できていない(出典:MM総研)

競合他社にとっても、Galaxy Watch6は脅威になりそうだ。40mm、44mmとサイズの選択肢があり、バンドの選択肢も比較的豊富。前モデルと比べ、薄型化、狭額縁化しており、機能性だけでなく、デザイン性も高まっている。初物ながらFeliCa対応やLTE対応で話題を呼んだPixel Watchだが、Galaxy Watch6はその強力なライバルになりうる。また、バッテリー駆動時間や機能性を売りにするファーウェイは、FeliCaやLTEに未対応。サムスンのローカライズが評価されればシェアを失うおそれもあり、競争が激化していると言えそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya