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iPhoneの「Apple Intelligence」って実際なにができる? AIが“標準”になる価値

AppleのAIシステム「Apple Intelligence」が2025年4月初旬から正式に日本語対応となります。この原稿を執筆している3月半ば時点では、iPhoneの場合は、iOS 18.4の開発者向けベータ版(Developer Beta)をインストールすることで、日本語対応のApple Intelligenceが利用可能です。

スマホではAndroid(Google Gemini)が先行してOSにAIサービスを組み込んでいますが、iPhoneに本格的にAI機能が統合されることとなります。Apple Intelligenceは果たしてどのようなものになっているのでしょうか。ベータ版を利用してGeminiとの違いをチェックしてみました。ベータ版については許可を得たうえで記事化しています。

2025年2月末に発売されたiPhone 16eでApple Intelligenceにトライ

Apple Intelligenceとは?

Apple Intelligenceは、iPhone、iPad、MacのOSに組み込まれる、Appleいわく「パーソナルインテリジェンスシステム」です。同様にAIを活用したツールとして音声アシスタントのSiriもありますが、Siriはこれまで通り継続しつつ、Apple Intelligenceは日常的な作業をサポートする機能として、音声認識に留まらないより幅広い範囲で活用できます。

日本語対応のApple Intelligenceを利用するには、2025年3月時点では「Developer Beta」のインストールが必要
ベータ版のインストール後、設定アプリの「Apple Intelligence と Siri」からApple Intelligenceを有効にできる

対応するのはiPhone 16シリーズ、iPhone 15 Pro、iPhone 15 Pro Max、iPad mini(A17 Pro搭載機種)、M1チップ以降を搭載したiPadおよびMacと、比較的新しい機種です。すでに米国(などの英語環境)では利用できましたが、2025年4月初旬に正式リリースされる予定のiOS 18.4より日本語環境でも利用可能となります。

Apple Intelligence対応端末(AppleのWebサイトより)

Apple Intelligenceの機能は、アプリ内に設けられているメニューやボタンなどから利用できます。もしくは、Siriを立ち上げてApple Intelligenceの能力が必要になるアクションを要求することで呼び出すこともできます。

このようなアイコンからApple Intelligenceの機能が使える
音声やサイドボタン、画面下部のダブルタップで呼び出すSiriからApple Intelligenceの機能にアクセスすることも可能

一方、GoogleのAIアシスタントであるGeminiは、AndroidスマホやGoogleのWebサービス上で利用できるシステムです。Androidや各種Googleサービスへの統合が進んでいるほか、Google Pixelシリーズのスマホだと「消しゴムマジック」やレコーダーアプリでの文字起こしなど、より進んだ機能を活用できるようにもなっています。

Androidスマホ(Pixelなど)もアプリ内のボタンや、画面左下隅から右上に指をスライドさせる操作でGeminiを起動できる

Apple IntelligenceとGoogle Geminiは、機能としては似た位置付けにあります。が、それぞれに違いや特徴となるところがあるようです。発売されて間もないiPhone 16eをお借りできたので、それとGoogle Pixel 8 Proの2台で、できることの違いを確かめてみることにしましょう。

多くのアプリで“標準機能”として使える「作文ツール」

Apple Intelligenceのなかでも最初に注目したいのが「作文ツール」です。簡単に言えば、既存のテキストの修正や要約などが可能なもの。生成AIらしいよくある機能とも言えますが、OSに統合されていることから、iOS標準のUIコンポーネントを利用しているアプリならどれでも使える、という点が大きなポイントです。

Pagesでは、テキスト選択して「作文ツール」を選択するかアイコンタップでApple Intelligenceの作文ツールが立ち上がる

メモやPagesのようなApple純正アプリはもちろんのこと、Gmailのようなサードパーティアプリでも、テキスト入力エリアの長押しなどから「作文ツール」が呼び出せます。既存のテキストを選択後、それに対してどういう処理をしたいのかテキスト入力(または音声入力)して指示できるほか、要約・校正・書き直しを指示する専用ボタンをタップする方法もあります。

作文ツール。テキスト入力して指示することも、ボタン操作で要約やテイスト変更などを実行することもできる
要約してみたところ
Gmailアプリでもメール文面の修正などを指示可能

ユーザーの指示によって生成されたテキストは自動で、もしくはボタン操作で元のアプリのテキスト入力エリアに直接差し込めますし、クリップボードにコピーして他のアプリに流用するのもOKです。

また、1から文章を生成することも可能です。ここは正確にはApple Intelligenceではなく、OpenAIのChatGPTとの連携によって実現しています。ただ、これもシームレスに統合されていて、Apple Intelligenceの標準機能の延長として違和感なく使えます。

1から文章を作成するときは、作文ツールの最下部にある「作文」へ
ChatGPTと連携する形になる
物語を作成してもらった

ちなみにChatGPT連携はChatGPTのユーザー登録なしに無料で使えます。使用回数については明確になっていないものの、高速な応答が得られる「1日当たりの上限」が設定されているようです。ChatGPT Plusなどの有料アカウントを所有しているなら、それを使ってサインインしておくと上限をあまり気にせず活用できるでしょう。

ChatGPTの有料アカウントでサインインして利用することも可能

対してGeminiは、1からのテキスト生成も含め全てGemini自体の機能でカバーしています。ただし、「どのアプリでも使える」というレベルの統合にはまだ至っていません。基本的にはGoogleのアプリやサービス上での利用が前提となり、他のアプリでGeminiを利用できるかどうかはサードパーティの実装次第です。それを除けば、Apple IntelligenceとGmailとでテキスト生成周りの機能面の違いはあまりない印象です。

GmailからGeminiを利用しているところ。Googleの各アプリに最適化した形で実装されている

「ボイスメモ」でリアルタイム文字起こし

これまで音声を録音する機能しかなかったApple純正の「ボイスメモ」アプリには、Apple Intelligenceによる文字起こし機能が追加されました。もちろん日本語音声にも対応し、録音しながらリアルタイムで文字起こしされたものを目で追っていくことが可能です。

文字起こし機能が加わった「ボイスメモ」アプリ

新たに録音する時だけでなく、過去に収録した音声データについても文字起こしできるようになっています。試してみたところ、1時間余りの音声データもわずか数分で文字起こしが完了しました。文字起こし後のテキストは選択して「作文ツール」を立ち上げれば、要約もすぐにできてしまいます。

画面左下のフキダシアイコンから文字起こし画面に。録音中はリアルタイムに文字起こしされていく
「作文ツール」で要約などを行なうことも

テキスト全体をクリップボードにコピーしたり、共有機能でテキストデータや音声データで出力したりして、他のアプリで再利用するのもOK。長時間に及ぶ会議もこれで録音しておけば、いちいち最初から聞き直すことなく論点を把握できるでしょう。ただし、録音中に認識できるのは単一言語で、言語設定の途中変更はできません。

クリップボードへのコピーや共有機能からのファイル出力が可能

Geminiにおいては、同様のリアルタイム文字起こし機能がPixelスマホの「レコーダー」アプリで提供されています。Apple Intelligenceとの大きな違いは、やはり録音中に言語変更ができること。手動切り替えになるものの、外国語話者と日本語話者が混在するような場面ではGemini(Pixelスマホ)の方が有利です。他にも自動でクラウドにバックアップしてパソコン用のWebサイトでも文字起こしデータを参照できるなど、機能の充実度はPixelスマホに軍配が上がります。

Pixelスマホのレコーダーアプリ
録音途中でも認識する言語の変更が可能
録音後のデータはパソコン用のWebサイトでも確認できる

気軽に、楽しく画像生成できる「Image Playground」

Apple Intelligenceは画像生成も可能です。「作文ツール」とは違ってアプリが個別に実装する必要があることから、今のところはAppleが提供する「Image Playground」というアプリを通じて利用する形となりますが、それでもいろいろと面白い使い方ができます。

画像生成できる「Image Playground」

Image Playgroundは、作りたい画像をテキストで指示する一般的なAI画像生成ツールと同じ使い方ができるほか、そこに既存の画像やアイコンタグ(キーワード)を追加して画像の見栄えなどをある程度コントロールすることもできます。

たとえば「レーサー」という既存のアイコンタグと、自撮り画像を選択すれば、それらを合成しているような演出の後、レーサーの格好をした自画像が完成します。そこに後付けで「サングラス」のタグを追加すると、サングラスをかけたレーサーの自分のイメージが簡単にできあがる、という寸法。

自撮り画像に「レーサー」と「サングラス」を追加して画像生成

凝ったプロンプトを組み立てることなく、アイコンを選択して見栄えを決めていくお手軽でポップな操作感のUIは、いい意味でスマホ黎明期の画像デコレーションアプリのような趣もあります。Keynoteで作成しているプレゼン資料に差し込む画像素材も、資料内のワードをピックアップして生成すれば、それっぽい雰囲気で資料を完成させられるでしょう。

Pagesで書いた物語の挿絵を(「幼い頃に亡くした父」をキーワードに)作成
Keynoteの画像素材も資料内のワード(惑星間通信)から作成してみた

一方のGeminiも画像生成にはもちろん対応しており、プロンプトで指示することで自由度高く画像生成できます。ただし、Apple Intelligenceのように「何らかの画像を参考に生成する」ということはできません。UIもオーソドックスなチャット形式なので、Apple IntelligenceのImage Playgroundの後だとつまらなく感じてしまいます。

Geminiで作成した「レーサー風の男性画像」。自撮り画像などを添付してそれを参考に生成してもらうことはできない

被写体の余計なものを消去 「クリーンアップ」ツール

Apple純正の「写真」アプリでは、画像内の余計なものを消去できる「クリーンアップ」ツールが使えるようになりました。これは、Pixelスマホで言うところの「消しゴムマジック」と似たようなものです。消去したいものを囲むようにしてなぞることで、消すべきものを自動で判定し、背景を補完して自然な見た目に仕上げます。

「写真」アプリで「クリーンアップ」を選ぶと、余計なものを消去できる機能が使用可能
かなり自然な仕上がり

家族や友人らとの集合写真に無関係な人が入り込んでいたり、風景写真に邪魔な障害物があるようなときに、元からなかったように見せることができるので、役立つシーンは多いことと思います。

ただ、画像編集で使えるApple Intelligenceの機能は今のところこのクリーンアップツールのみ。Geminiでは「消しゴムマジック」以外にも、それを拡張したような「編集マジック」や「ズーム画質向上」、「ポートレートのぼかし」といったAI編集機能を実現しています。このあたりはまだApple Intelligenceの進化の余地はありそうです。

Pixelスマホで使える「消しゴムマジック」
仕上がり品質はApple Intelligenceの方が高いと感じる
より高度な画像処理が行なえるPixelスマホの「編集マジック」
バナナ周辺をなぞると輪郭を検出。バナナが消えて、隠れていた指や耳もうまく補完された
遠くに写っていた富士山山頂付近を「ズーム画質向上」で高画質化
JPEGにありがちなノイズがなくなり、きれいな輪郭に

完成度は高い 今後の機能拡充にも大いに期待

Apple Intelligenceが備える4つの代表的な機能をもとに、Gemini(Pixelスマホ)と比較してできることの違いを見てきました。それぞれに一長一短あるとはいえ、Apple Intelligenceの全体的な完成度はかなり高いと感じられます。アプリによらず利用可能な作文ツールは強力で、画像生成はこれまでにない楽しさがあります。

ただ、反対にGemini(に関連するAI機能)にはあって、Apple Intelligence(Siri)にはない機能もいくつか見受けられます。たとえば、AIアシスタントとの自然なリアルタイム会話や、画面上の気になる箇所を丸で囲むだけでWeb上の画像を検索できる「かこって検索」が挙げられるでしょう。

再生中のメディア音声をリアルタイムに文字起こしして表示する「ライブキャプション」機能も、Pixelスマホなどでは利用できますが、Apple Intelligenceにおいては日本語環境だと未対応(英語環境は対応済み)です。まだ1つだけに留まっている画像編集関連の機能も含め、さらなる拡充を期待したいところです。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。