レビュー

自転車になるglafitの「二刀流バイク」に乗ってみた

「モビチェン」の電動バイク「GFR-02」

12月15日から予約を開始した、glafitの「モビチェン」は、電動バイク「GFR-02」を自転車としても使える「二刀流バイク」に進化させることができるオプション装備です。今回、その便利さを実際に試乗して確かめてみました。

「GFR-02」はglafitが以前から発売していた電動の原動機付自転車(電動バイク)です。見た目はいかにも普通の自転車なのですが、原付として必要なウィンカーなどを装備し、原付としてアクセル操作だけで自走が可能なほか、自転車のペダルもついていて、モーター駆動+ペダルを漕いで走ることもできます。電動アシスト自転車とは規格外のハイパワーになっており、運転には普通自動車免許や原付免許が必要です。

ただし、あくまで常に「原付」ですので、公道上の自転車レーンや自転車道の走行、自転車用駐車場への駐車はできません。原付ですので電源が切れた状態では整備不良となる為、自転車として公道を走行することも禁止されていました。

そこで登場するのがモビリティ・カテゴリー・チェンジャーこと「モビチェン」です。既にGFR-02を所有している人も、glafitのバイク取扱店で後付けが可能で、GFR-02の新規購入時にはオプションとしてあらかじめ装着できます。価格はGFR-02が275,000円、モビチェンが27,500円です。

原付と自転車の「二刀流」

モビチェンの役割は、GFR-02を「原付バイク」としても「法律上の自転車」としても使えるよう、「法律上も完璧にクリアする」条件を満たして切替えることです。原付モードにすれば公道を原付として走れますし、自転車モードなら自転車として走行して、自転車用駐車場にも駐められます。

モビチェン

元々、2021年7月から道交法の解釈変更によって「電動バイクと自転車の区分の切替えが認められる」ことになったことから可能になりました。一般向け商品としてはモビチェンが日本初となります。

モビチェンの動作としては、原付モード時はナンバープレートを表示し、自転車モード時にはナンバープレートを隠すようになっています。モード変更は停車時しかできず、両手を使う必要があります。これは、認めてもらう過程での警察庁との取り決めによるものです。

操作方法は、モビチェンの左側面にあるボタンを長押ししながら右側にあるスイッチを押し込み、カバーを親指等で動かします。はじめは多少手間取るかもしれませんが、慣れれば数秒で変更可能です。

しかし、ナンバープレートを隠すから自転車として認められた、という単純な話ではありません。モビチェンは、GFR-02の電気系統の制御と連動しているからこそ、原付と自転車の切替えを認められたのです。

向かって左側面にあるボタンを長押ししながら右側にあるスイッチを押すとカバーを動かせます
ナンバープレートを隠すことで自転車として走行が可能

モビチェンを自転車モードから原付モードにすると、ナンバープレートの表示とともに、GFR-02の電源がオンになります。これにより、モーターやウィンカー、ライト等が使えるようになります。原付モードから自転車モードにする場合は、電源を手動でオフにしてからモビチェンでナンバープレートを隠すことで「自転車」として使えるようになります。

原付モードになるとナンバープレートが表示され電源が入ります

GFR-02単体は、前述の通りあくまで原付ですので、バッテリーがゼロになると灯火類への電源供給も切れ、整備不良となるため、自転車としてペダルを漕いで走ることは出来ませんでした。しかし、モビチェンを搭載したGFR-02なら、バッテリーがゼロになっても灯火があれば原付としてペダルを漕いで自転車として走ることが可能になります。これは大きな変化です。モビチェンが無ければ、遠出をしてバッテリーがゼロになったら、「法律上は」押して歩くしかありませんでしたが、モビチェンが装着されていれば、「合法的に」自転車として漕いで帰ることができます。

ペダルを漕いで自走も可能に

モビチェンの操作は停車時に両手を使って手動で行なう必要がありますが、これには重要な意味があります。

もし、走行中に原付と自転車を手軽に切替えられるようにしてしまうと、自転車道をこっそり原付モードで走行し、取り締まりの警察官などが見えたら自転車モードに素早く切替えて誤魔化すということもできてしまいます。

モビチェンではこうした不正行為を未然に防ぐため、原付と自転車の切替えは、停車時に両手を使って操作することによってのみ行なえるようにしています。これにより、走行中にモードを切替えることは不可能にしました。

自転車としての装備も充実しています。別売とはなりますが、前かごやリアキャリアも装備可能なほか、自転車用として市販されている「センタースタンド」も装着可能で、2本足のスタンドを取り付ければ、より安定して駐輪することが可能です。

専用の前カゴを取り付け可能な基部を備えています
リアキャリアも装備可能

実際に乗ってみました

実際にモビチェン搭載のGFR-02に乗ってみました。試乗では、代々木公園周辺を原付モードで走り、自転車モードで代々木公園内を走ってみました。

まずは原付モードで、車道を走ってみました。原付モードは勿論ヘルメットは必須です。自転車モードの時はヘルメットは必須ではありませんが、メーカーとしては原付と自転車の切替を前提としているので推奨しています。

右手のグリップにあるスロットルレバーをすこし回せばゆっくり加速していきます。小型の電動モビリティの中には、スロットル操作が大味なものもあり、スロットルを少し回しても全く反応がなく、ある程度まで回ると「ガクン」と加速して、弱めると唐突にモーターが止る、という車両もあります。そうした車両はある程度慣れないとちょっと怖いのですが、GFR-02の場合は、ゆっくりスロットルを回せばしっかりとゆっくり加速し、細やかな速度調整が可能でしたので、安心して乗ることができました。

原付のようにスロットルレバーをひねって自走します
一般道を原付として走行できます

最高時速は30kmです。原動機付き「自転車」ですので、スロットルレバーでの走行ではなく、電動アシスト自転車のようにペダルを漕ぐ事で走行も可能です。本来の電動アシスト自転車の場合は、時速10kmあたりからアシスト力が弱くなり、時速24kmまでに完全にモーターアシストが切れますが、GFR-02の場合は、原付バイクのカテゴリですので、電動アシスト自転車とは比べものにならない力で時速30kmまでシームレスにアシストしてくれるのが面白いです。

速度やバッテリー残量などはディスプレイに表示されます

また、見た目よりも速度が出るため、ブレーキには一般的にバイクに採用されているディスクブレーキを搭載しており、制動力は抜群です。下り坂でもしっかり減速してくれます。

ディスクブレーキを搭載

原付ですので走行中は原付のルールで車道を走ります。交差点で右折したい場合は2段階右折が必要で、右左折時にはウィンカーも使います。

ハンドル左側にはウィンカー操作用のスイッチを装備
ハンドルの左右に搭載されたウィンカーの発光部

代々木公園周辺、というより都内は意外とアップダウンが多いのですが、電動バイクのGFR-02がどの程度走れるものなのか、正直不安がありました。しかし、実際に走ってみると杞憂でした。筆者は体重90kgですが、それでも代々木公園周辺の坂道程度ならフルスロットルで最高速度こそ出ないものの、けっこう急な坂道でも時速20km近くでなんなく走ってくれます。「坂道にさしかかったら、ペダルで漕がないとダメなのではないか」と思っていたので、嬉しい誤算です。

乗車時に便利だったのが、ハンドルの高さをレバー1つで大胆に変更可能なことでした。こうした機能は市販車ではあまりなじみはなく、glafitでは独自にパーツを開発して搭載したそうです。このおかげで、姿勢を起こした状態で乗ることも、前傾姿勢気味に乗ることも好みでいつでも変更ができます。

ハンドルの高さを自在に変更可能

そして、やはり便利なのが、「いざとなったら自転車に出来る」ことです。代々木公園内は自転車走行可能ですので、実際に自転車モードにして走ってみました。原付だったらこんなに気軽に公園には入れません。そもそも最近はバイク用の駐車場を探すだけでも大変です。モビチェンは自転車モードにすれば自転車走行可能な敷地内ならそのまま走れますし、自転車の駐輪場が使えるので駐輪場の選択肢が原付に比べて大幅に広がります。

代々木公園は原付進入禁止です
自転車モードにすれば進入可能になります
自転車用駐車場を気軽に使えるのも便利です

都内は一方通行も多いです。大抵の一方通行では「自転車を除く」で、原付は自動車と同じく一方通行になりますが、モビチェンならその場で自転車モードに変更すれば、自転車として通行できます。これは都内ではとても便利だと感じました。本来なら迂回しないと行けないシーンでも、自転車モードで近道ができます。自転車モード時はモーターによるアシストはないのですが、自転車としての走行性能にもこだわっており、平地なら特にストレスなく走ることができます。

自転車モードなら通行可能な一方通行は多いです

基本的にモビチェン搭載のGFR-02の利用イメージは、普段は原付として走行し、ショートカットや駐車時など、必要に応じて自転車にするという感じになります。

保険は「バイク保険」のみでOK

筆者が個人的に気になっていたのは任意保険の扱いです。原付ですので自賠責保険は当然加入が義務づけされていますが、原付でもあり自転車でもあるモビチェン付きGFR-02は、どのような任意保険に入ればよいのでしょうか?最近では自転車用の保険も注目されていますが、バイク保険と自転車保険の両方に加入しなければいけないのでしょうか?

glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏によれば、「バイク保険のみで大丈夫」ということです。モビチェン付きGFR-02は、例え自転車モードでも原付の自賠責と任意保険の対象になるため、別途自転車保険に入らずとも補償の対象となるそうです。

また、実際に事故が発生した場合は、公道上であれば、原付モードの場合は原付として、自転車モードの場合は自転車モードとして扱われます。

glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏
モビチェンの解説もしていただきました

折り畳み可能で原付、駐車は自転車という利便性

GFR-02は、折り畳み可能な二刀流バイクです。個人的には折り畳み機能も含めて2.5刀流(?)と読んでもよいくらいだと思っています。

折り畳み原付としてのGFRシリーズは鳴海社長自身の「クルマで移動した後の手軽な移動手段がほしい」というニーズから生まれたそうです。glafitは和歌山県の企業ですが、鳴海社長は「ドアtoドアでクルマをいつも利用しているので、クルマを使わない生活が考えられない。でもクルマを駐めた後の移動手段が欲しかった」と言います。

それだけに折り畳み機能自体にもこだわりがあり、折り畳めば軽自動車の後席を畳むこと無く「スキマ」に搭載可能なサイズに収めたほか、折りたたまなくても長さが軽自動車の横幅より小さなサイズのため、簡単に搭載できます。極力、クルマの移動を意識したサイズになっているのです。

折り畳みの様子

筆者自身もクルマに自転車を搭載して出かけることがよくありますが、折り畳み自転車ではないので狭い荷室に搭載するのが毎回重労働です。手軽にたため、しかも電動バイク、というポテンシャルは非常に高いです。ドライブ先でクルマを駐車し、そこからGFR-02で原付として走って、自転車として駐車する、という利用方法は、モビリティ利用の革命ではないかと思います。クルマに搭載できたとしても、原付のままなら、結局、バイク用駐輪場探しに右往左往することになります。

折り畳み後はとてもコンパクトになります

これらをすべて「合法的に」行なえるのがモビチェン最大のメリットと言えるでしょう。ただ、警察の認可を得るためにはさまざまな苦労があったそうです。

モビチェンの仕組み自体がそうした苦労の結晶といえますが、たとえば、「ライト」についても、モビチェンならではの仕組みが搭載されています。

原付などバイクはエンジンがオンになるとライトは自動的に点灯し、消すことができません。しかし、モビチェンでは自転車モード時には電源がオフになりますが、ライトは使いたい、という状況は当然あります。なら、ライトを点灯するスイッチをハンドルに付ければいい、と思いますが、バイクには「ライトをオフにするスイッチ」が機能として存在してはならず、搭載してしまうと原付バイクとしての保安基準を満たしません。ここも課題だったそうです。

GFR-02のライト

そこで解決策としたのが、モビチェン本体側面に付いているボタンを、自転車モード時のライト点灯用ボタンとして利用することです。この機能は、自転車モード時のみに作動しますので、原付バイクの保安基準も満たして操作する事が可能になりました。

折り畳み以外の展開も

鳴海社長は、初代「GFR-01」のクラウドファンディングを経て、東京進出を果たしたところから、別の市場も見えてきたといいます。クルマは所持せず、クルマに変わる手軽な移動手段として購入する人や、折りたたまなくても小型のため、駐輪場を借りずに自室に持ち込んだり、会社のオフィスに常備したりなど、思った以上に用途が広いことがわかったそうです。

そうしたことから、将来的には車に積み込む前提の折り畳み以外の選択肢も考えているとのことで、実際に次期モデルを開発中とのこと。昨年の道交法改正では、折り畳みに限らず、一般的なサイズの自転車を対象としています。ミニベロタイプか、ロードバイクか、さまざまな展開が予想されますが、開発中のモデルについての車種まではまだ明かせないとのことですので、楽しみに待ちたいところです。

また、現在は自転車モード時にモーターのアシストはなく、電動アシスト自転車のように使うことはできません。しかし、これも道交法上禁止されているというわけではなく、あくまでGFR-02にモビチェンを後付けする都合上、そうなっているということで、将来的には、自転車モード時には電動アシストとして動くモデルを開発する可能性はあるとのことです。

今回、モビチェン搭載のGFR-02に試乗してみて、合法的に原付としても自転車としても扱える利便性を実感できました。特に、自転車になることで利用出来る駐車場の選択肢が大幅に上がるのは、駐車場事情が厳しい都市部では大きな意味があります。GFR-02はこれまで原付として販売されていましたが、モビチェンの登場により本領を発揮し、モビリティの新たな利用シーンが生まれそうです。今後の展開にも注目していきたいところです。

清宮信志