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免許の要らない「電動サイクル」に乗ってきた

電動パーソナルモビリティを手掛けるglafitは、3月14日からMakuakeで先行販売を開始した特定小型原動機付自転車(特定原付)タイプの新しい電動バイク「電動サイクル NFR-01Pro」について、記者発表会と試乗会を行なった。

「NFR-01Pro」の価格は、Makuakeでの先行早割などで218,790円~。特定原付は、2023年7月に施行された改正道路交通法で追加された新たなカテゴリーのモビリティ。特定原付としては電動キックボードが主流だが、glafitではあえて、多くの人が乗りやすく馴染みやすい自転車型のデザインを採用した。

特定原付は、最大時速20kmで車道を自走可能。歩道走行時は、モードを切り替え、電動車いすなどと同等の最高時速6kmで走行できる。16歳以上であれば運転免許も不要。NFR-01Proは一見自転車のようで、ペダルも装備するが脚を置くためのもので漕ぐ必要は無い。

ペダルは脚を置くためのもの

会場では実際に試乗することができた。NFR-01Proはロックを解除しないと電源が入らない仕様で、まずはロックを解除する必要があるが、解除方法は付属のNFCタグで行なえるほか、スマホをキーとして設定することも可能。こうした「コネクティッド」機能も特徴の一つとなる。

スマホや専用のNFCタグで解錠可能

スマホで車両のキーを解除できるだけでなく、車両の位置や、バッテリー残量の確認、タイヤの空気圧の確認時期(走行距離で判断)なども教えてくれる。車両の位置確認用には衛星測位システムと4G LTEのモジュールを搭載。位置情報を提供することで、盗難防止に一役買う。4G LTEを内蔵した特定原付は日本初。

4G LTEなどのモジュールはロック機構の中に搭載している

また、車両は必ず正規の手段でロックを解除してからでないと、電源が入らない仕様。たとえロック機構部分を分解して外しても、電動で走行はできない。

ハンドルには、左側にウィンカーやホーンのボタンを装備。左側には電源ボタンやモード切替スイッチを備える。モードは、車道走行モードと歩道走行モードの2つがあり、車道モードのまま歩道に進入したりすることがないよう、走行中にそれらを切り替えることはできない。一旦停車してから切り替える必要がある。

左側にはウィンカーとホーンボタン
右側には電源ボタンやモード変更ボタンを備える
モードを変更することで歩道走行モードにできる

アクセルはハンドルの右側にあり、ひねると加速を開始する。NFR-01Proでは、定格出力500Wのモーターを搭載しており、最大出力は600Wを超えるという。本来なら時速40kmぐらいは軽々と出せるパワーがあるが、これを最大時速20kmの特定原付に特化した仕様として開発。速度よりも坂道の登坂能力を重視した。

試乗は高低差の多い渋谷の車道で行なわれたが、坂道登坂に特化した車両は、実際にもたつくことなくスムーズに坂道を登っていくことができた。開発時には、都内で「激坂」といわれる、東京都品川区の「まぼろし坂」でテストを行ない、傾斜29%の坂道を実際に停車状態からスムーズに登れることを確認したという。

まぼろし坂でのテストの様子

同社が開発した自転車と電動バイクを合法的に切り替えて走行できる「モビチェン」搭載の二刀流バイク「GFR-02」では、モーターの出力は定格出力が250Wだった。それでも都内の上り坂をそうそう登れないということはなく、いざとなったらペダルも漕げたために特に問題は感じなかったが、2倍の出力があるNFR-01Proでは、さらに不安を感じることなく、加速しながら登ることができたのが印象的だった。

ディスクブレーキを搭載し、しっかり止まる印象
ハンドルを折りたたむ事ができ、クルマなどに搭載するときもよりコンパクトに収納できる
バッテリーは取り外して充電もできるが、取り付けた状態でも充電ができるよう充電口を装備している
ライトは原付などと同様に電源を入れると常時点灯でオフにはできない

また、実際に乗ってみると思ったより「自転車感」があり、思わずペダルを漕ごうとしてしまった。自転車の感覚で、あるべき位置にあるべきはずのペダルがない(足を置くペダルはあるが漕げない)ので、最初のうちは停車して発進するたびに、脚がペダルを探してさまよい、違和感があったのが面白い。初めて乗る人にはありがちなことだそうだ。もちろん、直ぐに慣れることができる。

特定小型原付はキックボードだけではない

現在市場にある特定原付の大半は電動キックボードタイプになる。しかし、特定原付は電動キックボードのために策定された規格ではない。車両のサイズは一般的な自転車の大きさに収まれば、形状に縛りはなく、車輪も2輪だけではなく、3輪や4輪も可能だ。

glafit代表取締役CEOの鳴海禎造氏は特定原付について「多くの可能性を秘めたカテゴリーだ」とし、NFR-01Proでその可能性を伝えたいという。

glafit代表取締役CEO 鳴海禎造氏

これまで、シェアプラットフォームとして、電動キックボードが主流ではあり、同社も原付一種扱いの電動キックボード「X-SCOOTER LOM」を2020年に発売している。電動キックボードを排除したいという意図ではないとしつつ、同氏は「シェアプラットフォームとして誰でもどんな年齢でも乗れる乗り物としてキックボードには懸念を抱いていた」という。

電動キックボードは海外で普及していたが、同時にさまざまな社会問題も起こしていた。事故の原因としては、運転手の不注意を原因とするパターンと、そもそも車両性能として問題があることで事故が誘発されるパターンの2種類がある。このうち車両性能については、対策の余地があると考え、多くの人が乗り慣れている自転車型のモビリティを開発した。

自転車型を採用した理由はいくつかある。立ち乗りのキックボードにくらべて、座り乗りの自転車型は重心が低く安定感があり、最低地上高(地面から車両本体の最も低い位置の高さ)がある程度確保されていることから、一般道で電動キックボードよりも安全に走行できる。最低地上高が低すぎると、路上の段差で引っかかりやすくなってしまう。タイヤサイズも20インチと、一般的な電動キックボードに比べて大きく、路面の段差を乗り越えやすい。

電動バイクというカテゴリーは昔からあったが、市場はそれほど広がることはなかった。glafitは、同社が初めて手がけた、ハイブリッドバイク「GFR-01」を開発する際、その原因を調査したところ、一番の原因として上げられたのが「坂道が登れないこと」だったという。

電動バイクで坂道が登れない状態になると、押して登るしか手段がないが、GFR-01は、自転車にモーターを搭載したハイブリッド仕様の原付なため、坂道を登るときにモーターのパワーが足りなければ、ペダルを漕いで登ることができた。GFR-01の発表時にはこれをメリットとしてアピールしたが、特定原付であるNFR-01Proも電動バイクと同じく自転車としての機能はないので漕ぐ事ができない。そのため、漕がなくても余裕を持って坂道を登れることに主眼を置いて開発したという。

坂道を登れる性能を実現するため、バッテリーセルはEV向けのリチウムイオンバッテリーセルを39本搭載。モーターは48V・500W仕様のインホイールモーターを内蔵することで登坂力を高めた。

違法な状態では走れない仕組み作り

昨今では、ナンバープレートも付けず自賠責保険にも入らない違法な電動自転車の走行が横行し、問題となっているが、glafitではそうした状況を助長しない仕組みも導入。たとえば、X-SCOOTER LOMの販売時にも同様の取り組みを行なっていたが、注文があっても本人確認やナンバープレートを取得して自賠責保険への加入などが確実に確認できてから納車する態勢をとっていた。このため、ユーザー側の都合で手続が遅くなることがあり、注文から納車に数カ月かかるようなケースや、途中でキャンセルされるケースもあったという。

今回はあらたに「ライドスタートシステム」と呼ばれる、スマホアプリで申し込みを行なえる仕組みを開発。注文後直ぐに車両は納車されるが、本人確認やナンバー取得、自賠責保険の手続が終わるまでロックが解除できないため電源が入らず、乗ることはできない。ナンバープレートは同梱の「出庫証明書」と認印を持って市町村役所等で手続きすることで即日無料で取得可能。自賠責保険もコンビニで手続が可能なため、これらの手続が終われば直ぐに乗ることができるようになった。また、アプリでの登録時には一般的な道交法のテストも行なわれ、ルールの周知を図る。

特定原付を知っているのは3割

同社の行なった3,000人を対象とした調査によると、特定原付を知っていると答えた人の割合は28%と、7割以上の人が知らない状況だった。さらにその中でも、16歳以上なら免許無しで運転できるということを知っている人は37.8%で、特定原付の詳細なルールを把握している人は非常に数ないというのが現状であることがわかった。

特定原付は、車体の前後に装備された緑色のランプによって、外部から走行状態が分かるようにしている。特定原付は車道を走行中は緑色のランプが常時点灯するが、歩道走行モードを使用している時はランプが点滅することで、走行モードを外部から把握できるようにしている。こうしたルールも理解している人が多いとは言えない状況で、同社としては今後も特定原付の周知と、利用者へ交通ルールの遵守を徹底してもらうための取り組みを続ける方針。