レビュー

野心的ではないが意欲的。「Pixel 5」のちょうどいい進化

Googleから15日に発売された「Pixel 5」は、5G対応でOSに「Android 11」を搭載するスマートフォンだ。

5G対応モデルとして「Pixel 4a 5G」も同時に発売されているが、「Pixel 5」は防水性能や8GBのメモリ容量、ワイヤレス充電対応などの特徴を備える上位モデルという位置づけだ。今回は、SIMロックフリーモデルを試用し、カメラなど新機能を簡単に紹介する。なお、スペックなどの詳細については別記事も参照していただきたい。

5G対応、有機ELディスプレイ、超広角レンズ搭載カメラ、指紋認証センサー、防水・防塵、おサイフケータイ、ワイヤレス充電などが特徴だ
「Pixel 5」、色はSorta Sage

Googleの5Gスマホ「Pixel 5」

5Gは未来への投資

製品の名前が「5」になるタイミングで5G対応を果たし、ある意味では分かりやすい「Pixel 5」だが、発売時点では、5G対応については「未来への投資」といった感が否めない。

というのも、2020年の春から日本の大手3キャリアが5Gサービスを開始しているが、10月時点ではまだまだ利用できる場所が限定されているからだ。例えばNTTドコモの5Gは、9月末時点で都内で利用できるのは、空港、スタジアム、東京スカイツリー、山手線の主要駅(新宿や渋谷など8駅)周辺、ドコモショップ周辺など、39カ所に限られる。今のエリアは「面」ではなく「点」の展開で、2年後にはかなり充実していると思われるが、現時点で日常的にお世話になるインフラになっているわけではない。

現時点での「Pixel 5」の優位性は価格だろう。3キャリアの5G対応のAndroidスマートフォンは本体価格10万円を超えるハイエンドモデルが中心だが、「Pixel 5」は、Googleが販売する“縛り”の無いSIMロックフリーモデルで74,800円だ。

搭載されているチップセット(Snapdragon 765G)からスマートフォンのハイエンドモデルとは言いにくい。しかし、Google謹製のPixelシリーズなので、発売から3年間はAndroidのバージョンアップとセキュリティのアップデートが提供される安心感・安定感に加えて、防水、FeliCa(おサイフケータイ)、Qi対応のワイヤレス充電といった特徴を考えると、「日常使いのスマートフォン」として十分な性能を備えている。

さらにミニマルなデザイン

「Pixel 5」の本体デザインは、Googleらしいミニマルなデザインを踏襲している。インカメラはディスプレイの内部に搭載する「パンチホール」型で、なおかつ額縁の四辺すべてがほぼ均等な厚みの狭額縁デザインになり、ミニマルな印象をいっそう強くしている。

このデザインはこだわりを持って開発されたようで、「Pixel 4」に搭載された、手をかざして操作する「Motion Sense」のための「Soliレーダー」は、ベゼルの狭額縁化(とコスト削減)を優先し、今回は搭載が見送られている。

背面ボディは、石材のような見た目で、サラっとした手触りの仕上げ。指紋で知らないうちに汚くなっていた、などということもなく、好印象だ。100%リサイクル素材のアルミニウム製とのことだが、手にしてもそれほど冷たく感じない。このため樹脂製かと勘違いしそうだが、剛性は高く、安心感がある。

インカメラはパンチホール型
ディスプレイは四辺すべてがほぼ均等な厚みの狭額縁デザインになった

防水やおサイフケータイなど、日本のユーザーも満足の仕様

指紋センサーは「Pixel 4」で省かれたため(Pixel 4aは搭載していた)、復活した形だが、マスクの着用機会が多い昨今では改めて存在が見直されている機能だろう。

左からPixel 5、Pixel 4、Pixel 4a、ディスプレイ側
左からPixel 5、Pixel 4、Pixel 4a、背面側

IP68の防水・防塵性能やQi対応のワイヤレス充電機能もうれしいポイントだ。FeliCaはもうマークが外装に刻印されなくなっているが、背面の指紋センサーの下側にアンテナが搭載されており、「モバイルSuica」を含めた「おサイフケータイ」のサービスを利用できる。

Qi対応のワイヤレス充電は、給電機能もサポートされるため、イヤホンの「Pixel Buds」の充電ケースを外出先で充電するといったことも可能だ。

緊急時などを想定した省電力モードはすでに一般的になっているが、「Pixel 5」では通常の自動調整機能に加えて、新たに「スーパーバッテリーセーバー」モードを搭載している。このモードをオンにすると、厳選されたアプリのみが起動し消費電力を抑える仕組みで、起動するアプリを追加することも可能。1回の充電で最大約48時間の駆動が可能になる。ちなみにこの「スーパーバッテリーセーバー」モードは「Pixel 5」と「Pixel 4a 5G」から対応する新機能で、旧モデルではサポートされない。

6インチ、FHD+(1,080×2,340ドット)の有機ELディスプレイは、「Pixel 4」でも採用されていた、最大90Hz駆動のスムーズディスプレイに対応している。ユーザーが駆動周波数を選べるわけではなく自動調整で、一部アプリやコンテンツは非対応となっているが、ニュースやSNSなどスクロールの多いコンテンツの閲覧は見やすくなり快適だ。

90Hz駆動のスムーズディスプレイに対応する

カメラはレンズ、AIともに進化

背面のメインカメラは「Pixel 5」と「Pixel 4a 5G」で仕様は共通。広角と超広角の2つのレンズを搭載している。広角カメラは1,220万画素、光学式および電子式の手ぶれ補正に対応する。視野角は77度で、35mm判換算で焦点距離27mmのレンズに相当する。「ウルトラワイドレンズ」として搭載される超広角カメラは1,600万画素で、視野角は107度、35mm判換算で焦点距離16mmの超広角レンズに相当する。

Pixel 5のカメラ

カメラを起動すると、ファインダーの中に「0.6倍」「1倍」「2倍」と表示され画角を調整できるが(ピンチイン・ピンチアウトで細かく調整も可能)、0.6倍~0.9倍が「ウルトラワイドレンズ」を使用した撮影、1倍以上が通常の広角レンズを使用した撮影になる。

16mm相当の「ウルトラワイドレンズ」は、一般的なデジタルカメラのキットレンズではカバーされていない超広角の領域で、その絵はどちらかというとアクションカメラに近いイメージだ。テーブルの上程度の距離感だと、よくも悪くも広角レンズ特有の歪みが如実に分かるため、日常使いにはクセが強いものの、街中や自然の風景なら、いつもと一味違うダイナミックな絵の写真や動画を撮影できる。

広角レンズ(1倍)、いい具合に収めようとすると煙突がフレームから出てしまう
超広角の「ウルトラワイドレンズ」(0.6倍)、全体を収めることができた
広角レンズ(1倍)、カウンター席で撮影。左右がフレームからはみ出てしまった
超広角の「ウルトラワイドレンズ」(0.6倍)、ほぼ全体を収めることができたが、円形のお椀は広角特有の歪みも目立つ
広角レンズ(1倍)、夜景モード
超広角の「ウルトラワイドレンズ」(0.6倍)、夜景モード

動画撮影の新機能「シネマティック撮影」は、手ぶれ補正機能のひとつとして用意されているもので、撮影後の処理でAIによる手ぶれ補正効果とスローモーション、低フレームレートを組み合わせ、ハリウッド映画のようなパン操作の映像になるという機能だ。撮影時にも可能な限りスムーズにパン(左右にカメラの向きを変える操作)できることが望ましく、上手くいけば、パン用の機材を使ったようなドラマチックな映像になる。

通常の動画は60fpsで保存されるが、このシネマティック撮影の動画は30fpsになっており、伝統的な映画のフレームレート(24fps)に近づけているのも映画のように見えるポイントだろう。

ただ、このモードで撮影された動画は、通常の50%のスローモーション動画になっている。そのため、映画の“問題のシーン”のような緊張感のある映像になるのだが、スロー動画の常として音声が付かないので、活用にはひと工夫いるかもしれない。

画質も少し落ちるため、SNSなどで共有して気軽に遊ぶための機能といえそうだ。

動画撮影の新機能「シネマティック撮影」は手ぶれ補正のメニューから選ぶ
「シネマティック撮影」で保存した動画4本を1つに編集。50%のスローモーション動画のた音声は付かない。撮影者が歩くと上下のブレやパンの速度のムラを吸収できず、映画チックな雰囲気は薄れてしまうようだ。被写体は人間のほうが映えるだろう

なおカメラの新機能のうち、ポートレートライトや夜景ポートレートといったソフトウェアで提供される一部の機能は、Pixelシリーズの旧モデルでも利用できるようになる見込みだ。

野心的ではないが意欲的な端末

かつての「Nexus」シリーズなどでは顕著だったように、Googleの開発する端末や「素のAndroid」は、「標準」「そっけない」「ちょっと不親切」というイメージだった(実際にそうだった)が、それはもう昔の話。OSのAndroid 11は成熟の域に入っており、Googleが熱心に開発しているカメラアプリも、UIの表示量や表示タイミング、内容は適切で、過不足がない。OS全般にわたって随所にヘルプやリンクが用意され、端末の新機能に関するガイドアプリも分かりやすい。

最新のスマートフォンやIT機器に詳しくない人でも、ストレスなく使い始められるだろう。

OSのAndroid 11は成熟し、端末メーカーのカスタマイズがなくても使いやすくなっている

「Pixel 5」は、チップセットがミドルレンジ向けであることからも分かるように、ハイエンドの下のレンジを狙った端末だ。Snapdragon 855を搭載していた前モデルの「Pixel 4」と比較すると、ターゲットにしているゾーンが異なっていると考えるのが適切だろう。「Motion Sense」のための「Soliレーダー」を省くなど、野心的で高コストな機能は鳴りを潜め、ハードウェアとしては「5G」対応を確保しつつ、基本性能の充実にフォーカスしたことが窺える。

カメラ部分は「Pixel 4a 5G」と共通化したことでコスト削減を見込んでいると考えられるが、「Pixel 4」と比較するとデュアルカメラの片方が望遠から超広角カメラに変更された点は興味深い。動画の撮影はより一般的になっており、望遠よりも広角のほうがより利用するシーンが多いということかもしれない。

auの「Mi 10 Lite 5G」など、キャリアのモデルでも安価な5Gスマートフォンが登場しているが、「Pixel 5」は、メイン端末としては妥協しづらい防水やおサイフケータイなどの基本機能が確保されており、7万円台という価格帯で期待される通りの、隙のない仕様だと感じる。基本機能に妥協なく5Gに対応し、妥当な価格帯のSIMロックフリー端末にまとめたという点で、「Pixel 5」は意欲的な端末だ。メイン端末としてじっくり使えると思う。

太田 亮三