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NTT、光ケーブル1本で通信と"電気"も供給 世界初14km先に1W給電

NTTは、北見工業大学と共同で、光ファイバーケーブル1本で14km先に1Wの電力を供給しながら、10Gbpsの高速通信も実現する世界初の実証に成功した。光ファイバーの通信速度に影響を与えず電力を供給できる。

光ファイバーと同じ太さの「マルチコア光ファイバー」に、光通信用と光給電用の2種類の光信号を伝搬し、無電源の遠隔地に電力を供給しながら高速通信が行なえる。光ファイバーケーブルには、通常、1本の「コア(光の通り道)」が通っているが、マルチコア光ファイバーでは、同じ太さの光ファイバーの中に4本のコアを通している。それぞれのコアは通常のコアと同等の性能を有し、構造や寸法は国際規格に準拠している。

4本のコアは光信号が混信することなく独立して使用でき、任意のコアを給電用や通信用、またはその両方もに割り当てが可能。マルチコア光ファイバーは、NTTのIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の要素技術の一つとして研究が進められているもの。

光ファイバーを使って電力を供給する「光給電」の実験は、これまでも一般的な光ファイバーケーブルを使って行なわれていた。1本のコアに波長の異なる光通信用と光給電用の光信号を流し、通信と電源供給を同時に行なう仕組みだ。光給電用の光信号は、光-電気変換器によって電力に変換する。

しかし、従来の光給電は、長距離では供給電力が低くなり、通信速度も低下していた。多くの電力を給電光で伝送しようとすると、一定以上の出力では光が光ファイバー内で錯乱を起こし通信光に影響が出るため通信速度が下がってしまう。このため、1Wの電力を供給できたとしても、数百mから1km程度の距離でしか実現できなかった。

マルチコア光ファイバーを使うことで、1本あたりの通信光/給電光は増やさないまま、4倍の出力と通信速度を供給可能になる。今回の実験では、給電元から3Wの給電光を14km先に供給して、1Wの電力を受電し、通信性能としては、10Gbpsを実現している。これにより給電先で小型のセンサーやカメラ、通信モジュール等をケーブル1本で駆動可能になる。

マルチコアではなく、コア自体を太くする方法もあるが、大電力を供給できる反面、伝送性能が低いため長距離の給電ができない。長距離で電力を供給するのはマルチコア構造が最適解になる。ただし、マルチコア光ファイバーは現状では普及しておらず価格が高いという課題がある。

現在は実験段階のため、長時間にわたって運用する試験等はまだ行なわれていない。今後も追加の検証を行ないながら、将来的には災害時の緊急用の回線や、これまで光通信網が施設されていなかった河川、山間部などの非電化エリアや、強電磁界や腐食などによる電化困難エリアなどでも光通信を利用できるようにすることを目指す。