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NECとNTT、12コア光ファイバーで7000kmの長距離伝送に成功 世界初

NECとNTTは、世界初となる12コア光ファイバーによる7,000km以上の長距離伝送実験に成功した。これにより、光海底ケーブルの大容量化を実現するほか、将来は陸上用の光ケーブル網にも適用し、NTTが推進するIOWN計画の基盤技術の一つとする。

世界の海洋ケーブルは、現在約450本で、総延長は約140万km。1ケーブルあたり最大で2時間の映画約1万本を、1秒間で大陸間送信が可能になっている。

海底ケーブルは一般的に、太平洋横断級の長距離伝送(~16,000km)、ペタビット級の伝送容量(0.2~0.5Pb/s)、システム設計寿命25年という長期寿命、メンテナンスの頻度が低く最大水浸8,000mに耐える高耐圧性など、高い信頼性が求められる。NECは過去60年以上にわたり、約40万km(地球10周分)の海底ケーブルを施設してきた実績を持つ。

2018年~2022年の間に、インターネットの通信量は年平均成長率30%で増加しており、海底ケーブル1本あたりの容量は20年で100倍になっている。海底ケーブルは常に大容量化のニーズがあり、時代と共に新技術を投入しながら大容量化を継続してきた。

通信の大容量化の要素は「バンド幅」「信号/雑音比」「伝送経路数(偏波面を含む)」の3つに分けられる。これを道路で例えると、バンド幅は信号を乗せる光や電波の幅を増やすことで、「道を広くすること」に相当、信号/雑音比は信号を劣化させずに届けることで、道路の凹凸面を減らし、そこを通過できる快適な車を作ることに相当、伝送経路数は、信号を送る経路の数を増やすことで、道路の数を増やすことに相当する。

今回発表された成果は「道路の本数を増やす」技術に相当し、空間多重技術(SDM)と呼ばれ、これを「マルチコアファイバー伝送技術」によって実現する。

マルチコアファイバーとは、1本のケーブル内に複数のコア(光信号の伝送路)を持つケーブルで、NTTが開発を行なってきたもの。通常は1本の光ケーブル内にコアは1本だが、マルチコアでは2本以上のコアを持っており、今回の実験では12コア結合型のマルチコアファイバーが利用された。

1コアの光ケーブルでも、複数のケーブルを束ねれば同時に通信できる容量は増えるが、重量が増加してしまう。海底ケーブルは運搬船で施設を行なうため、ケーブルの太さや重量が増えてしまうと取り扱いが難しくなる。マルチコアファイバー技術であれば、従来のケーブルと同等の太さや重量で運用ができる。

複数のコアを持つことで1コアだけのケーブルよりも同時に大容量の通信が可能になるが、マルチコア化によって光信号の漏れ(クロストーク)などが発生し、通信効率が低下する。これを、NECが開発した「長距離伝送対応高速MIMO信号処理技術」によって軽減することで、通信効率を補償するしくみ。MIMOとは、無線通信で活用している「MIMO(Multi Input Multi Output)」のことで、これを光ファイバー通信に応用したもの。

クロストークは、光増幅中継機など、ケーブル同士を接続する機器の間で発生することが多い。これをMIMO信号処理技術によって、混線した光信号を元の信号情報に復調したり、光信号間の遅延や、長距離伝送で蓄積される雑音などの要因も取り除く。

今回の実験は、長さ52kmの12コア光ファイバーケーブルの中に光信号をループさせ、7,000km以上の距離に相当する間、データ伝送の品質を維持することが可能であったことを確認したもの。太平洋の横断(約9,000km)は現時点でかなわないが、大西洋の横断は可能であると見込んでおり、将来的には太平洋も横断できる性能を確保する。

ただ、実際の通信速度は、1コアの光ファイバーケーブルに対して、12コアのケーブルが単純に12倍の速度で通信できるということにはならないという。1コアよりも確実に通信速度は向上するが、今後の研究開発により、12倍により近い速度を実現することを目指す。

さらに、2030年代のIOWN構想や、Beyond 5G/6G時代を見据えた長距離大容量光海底ケーブルとしてだけでなく、陸上コアネットワークシステムとしての実用化も目指す方針。