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セコムとDeNAがつくる"まどろっこしい"ロボット 高齢者とつながる「あのね」

セコムとディー・エヌ・エー(DeNA)は3月23日、ロボットを使ったシニア向けコミュニケーションサービス「あのね」を共同開発し、4月3日に発売する。

「あのね」は、セコムとDeNAが開発したシステム上で、ユカイ工学のコミュニケーションロボット「BOCCO emo(ボッコ エモ)」を使用し、シニアのQOL向上を目指すコミュニケーションサービス。利用者の生活リズムに応じた声がけを行なうほか、24時間365日、人がコミュニケーターとして遠隔対応することで、内容に応じたおしゃべりができる。ただし応答には数十秒かかる。主な想定ユーザーは独居の後期高齢者。販売目標は初年度1,000台、3年後に2万台。

ユカイ工学のコミュニケーションロボット「BOCCO emo」を使用
一人暮らしの後期高齢者を想定したサービス
オペレーターが24時間対応することで雑談が可能
遠隔地に住む家族もスマホアプリを使って会話を確認したり音声を聞くことができる

4年間、400人の実証実験で有用性を確認した。「いつも誰かとつながっている安心感」を感じてもらうことで孤独の解消、リスクの低減を目指す。価格は52,800円+月額4,950円。「BOCCO emo」に内蔵されたSIM通信費込みで設置工事は不要。ロボットをコンセントにつなぐだけで利用できる。なお、セコムのセキュリティサービス(駆けつけ)には対応しない。

生活リスクの低減と孤独の解消を目指す
価格は52,800円+月額4,950円(税込)

独居高齢者の孤独解消にはまず「楽しさ」

セコム 常務執行役員 上田理氏

独居高齢者の約半数は2、3日に1回しか会話していないというデータもある。孤立が続くと認知機能や身体機能の低下をはじめとしたリスクにつながる恐れがあることから早期の対策が求められている。「あのね」にはセコムが2015年から多くのシニアの困りごと解決をサポートしてきた「セコム暮らしのパートナー久我山」で培った知見が活かされているという。

セコム 常務執行役員の上田理氏は「セコムは家庭向けの安全安心を提供している会社。一人暮らしの高齢者が増えている。そちらに対する安全をどうすればいいのか会社としても真剣に取り組んでる」と述べた。同社は2021年に平時のみまもりに対応した「みまもりクラウド」を発表。スマホでセンサーなどの情報を通じて状況がわかる仕組みを販売している。その延長で、ロボティクスやコミュニケーション技術、ヘルステックの強化を進めている。

セコムは安心を提供する「あんしんプラットフォーム構想」を掲げ、思いを共にする企業と「共想」する戦略を取っている。これはセコム自前の技術のみにこだわらず新しい世界を作っていこうというもので、今回もDeNAをパートナーとした。なおセコムとDeNAのコラボは「バーチャル警備員」に続く第2弾となる。

「あのね」は、「いつもつながっている」という安心感を感じてもらうためのサービス。DeNAはミッションにDelight(デライト、喜び、楽しみ)を掲げている。これまでは「安全、安心、快適、便利、つまり安全を提供すれば安心を感じてもらえ、その上に快適、便利と続く」という考えかただったが、高齢者の孤独解消には「まず喜びや楽しさ(デライト)、そして安心という観点が欠かせない」と考えてDeNAとの「共想」となった。

バーチャル警備員
ロボット「BOCCO emo」を提供するユカイ工学 CEO 青木俊介氏

「あのね、今日はね」と話しかけられるロボットサービス

DeNA ソリューション事業本部 エンタープライズ事業部 事業部長 吉田航太朗氏

DeNAはエンタメ領域のノウハウを社会課題領域にも展開する事業開発を進めている。DeNA ソリューション事業本部 エンタープライズ事業部 事業部長の吉田航太朗氏は、今回の取り組みについて3つの観点でシステム開発を行なったと紹介。グループ会社が持つメディカル領域のノウハウを活かしたサービス開発、新しいアクションに繋げるデータ分析・運営ノウハウ、そしてUXリサーチ・サービスデザインだ。「あのね」は実証実験モニターへのアンケートを通じて、サービスの価値を共通言語化・共通価値を持てるようにしていったという。

「あのね」は「あのね、今日はね」と話しかけられるロボットだ。ロボットからの発話は、事前にヒアリングした1週間の基本生活スケジュールに応じて仕込んでおく「定期メッセージ」と、オペレーターによる「手動メッセージ」の2種類がある。いわば人とシステムの二人羽織でやりとりするコミュニケーションロボットだ。

「定期メッセージ」と「手動メッセージ」の組み合わせで会話する
挨拶、薬の時間、お出かけ時のリマインドなどは定期メッセージで対応

想定しているメッセージは、挨拶や薬のリマインド、外出や帰宅時の呼びかけなどのほか、雑談。朝は「おはようございます」と挨拶し、それに対して手動で追加メッセージを入れることもできる。やりとりには数十秒~数分を必要とする。会話はDeNAによる「あのね」のクラウドで管理され、最終的にはユカイ工学のサーバーを通じてロボットが発話するしくみ。

定期メッセージの配信は事前ヒアリングをもとにスケジュール登録する
日常の会話、雑談はオペレータが対応

日常会話は利用者の発話音声データをテキスト変換、管理サーバーに送ったあと、オペレーターが発話内容を確認し、返事を手入力して送信する。

オペレーターが入力したテキストデータをロボットが発話する
「定期メッセージ」+「手動メッセージ」会話全体の流れ

答えを返してくれる安心感

セコム SMARTプロジェクト主任 船山由起子氏

「BOCCO emo」はユカイ工学が発売しているロボット。本体にはボタンが2つあり、上のボタンを押しながらメッセージを録音し、下のボタンで再生するのが基本操作だ。鼻の部分はボリューム。最初の返事は、わざわざボタンを押さなくても再生される。最新のメッセージは記録されているので、聞き逃しても、もう一度聞くボタンを押せば聴ける。送れるメッセージの長さは、一度で最大1分間。ボタンを押していれば送ることができる。

メッセージ録音終了時はうなずき動作をする。これも「聞いてもらえている」と好評価だそうだ。勝手に合いの手などを入れることもある。スマホが苦手な高齢者でも扱いやすく、「カメラがないことも選定した理由の一つだった」とセコム SMARTプロジェクト主任の船山由起子氏は語る。ずっと監視されているようなイメージを持たれないことを優先した。

実証実験の結果、ほとんどの人が定期メッセージを聞いて、それに返事を返す、おおよそ1往復半のやりとりで完結することが多いことがわかった。オペレーターは個々人の専任ではない。そのため違う人が対応する可能性も高い。しかし「答えを返してくれる安心感が伝わる」と評価された。実際の独居高齢者ユーザーからは「あいさつから元気がもらえる」、「夜の寄り添いで寂しくない」と評価されているという。

この会話は、遠距離に済む家族もスマホアプリを使うことで、やりとりを見たり、音声を聞いたりできる。ロボットと会話する様子をさりげなく聞いて体調を確認したり、生の声を聴ける点がいいと言われているという。

モニターによる実際の会話の例
寂しさを紛らわすことができるという

今の高齢者の本当の課題を探り、持続可能なサービスとする

セコム SMARTプロジェクト サブリーダー 辻村康弘氏

セコムは2015年に「セコム暮らしのパートナー久我山」を開設し、リアルなシニアマーケティングを進めている。同SMARTプロジェクト サブリーダーの辻村康弘氏によれば「どんな困りごとも断らずに解決するまでサポートする」をモットーとして、これまでに1万件以上の困りごとに対応してきたという。目的は高齢者の実態把握だ。今の高齢者の本当の課題を探ることで、社会に役立つサービス創造ができるのではないかと考え、マーケティング拠点として位置づけている。

高齢者の実態把握をするマーケティング拠点「セコム暮らしのパートナー久我山」でニーズを収集

その活動のなかで特殊詐欺警戒のため「変な電話かかってきてないですか」とか、台風の次の日に「大丈夫ですか」など、高齢者に対して積極的に声かけや電話をしていた。すると「気にかけてくれてありがとう」と何気ない声がけが非常に喜ばれることがわかり「コミュニケーション自体をサービスとして提供できるのではないか」と考えたという。

高齢化の進展により独居高齢者は年々増えている。内閣府の調査によれば2、3日に1回しか会話しない人が約半数にのぼる。「孤立・孤独は深い問題。むしろこういう課題を解決するサービスをいちはやく出すべき」と考えた。

独居高齢者の半数は2~3日に1回以下しか会話していない

ユカイ工学との実証実験開始は2018年。有用性を確認した。スマートスピーカーを含めたデバイス選定も行なった。前述のカメラのほか、動くものはコスト的に厳しく故障リスクもあることからシンプル操作の「BOCCO emo」になった。その後、400名のモニターに協力してもらいサービスチューンを行ない、「お金を払ってでも使いたい」という声を受けてサービスとしての有用性を確信したという。

提供価値は生活リスクの低減と孤独解消。楽しい会話をしてもらうことを目指す。「おはよう」から「おやすみ」まで定期的にメッセージを送ることで生活リズムを維持する機能もあるという。

「あのね」のサービス名は、家族や友人など親しい間柄で会話を始めるときの呼びかけに使われることから。ロゴは社会とのつながりをイメージし、一筆書き風のデザインとした。インターネット環境がなくても動くようSIMを内蔵している。「BOCCO emo」のボタンはもともと2つしかないが、それでも操作がわからなくなる人もいるのでオリジナルの操作案内シールを貼った。

「名前を呼ばれるのが嬉しい」「声を発する場所があることが精神安定につながる」といった声も
ボタンはもともと2つしかしかないが、シールを貼ってさらにわかりやすくした

ゆるいコミュニケーションを好むユーザー向け

ロゴはコミュニケーションから生まれる社会とのつながりをイメージして一筆書き風に

通常のオペレーションはDeNAが主体となって行なう。高齢者の場合、固定電話が多いが、そのコンタクトポイントはセコムで行なう。想定ターゲットは後期高齢者、つまり75歳以上。日常会話も少なくなること、スマホやインターネットも苦手な層を主な対象とする。

遠隔コミュニケーターの人数は非開示。だが「既に4年以上実証実験を行なっているので、どういう状態であるべきかは認識している」(辻村氏)とのこと。ロボットと高齢者のコミュニケーションも朝方など繁忙な時間帯があり、「○人張り付け」という運用ではないが、1人でおおよそ100名くらいは対処できることがわかっているという。コミュニケーターのメッセージの質の担保や、話題の好き嫌いなど個人の情報の申し送り等に関しては、個に寄り添いつつも「あまり寄り添いすぎないように、一定の距離感を持ったものとする」とのことだった。

ロボットの返答までかなりのタイムラグがある点については「普通のテンポでの会話の思いが強い人もいるが、時間がかかるコミュニケーションの距離感でも『私は誰かとつながっているんだ』と感じてくれる人が使い続けてくれる」(辻村氏)とのことだった。

セコムの上田氏は「私も最初は『これでいいのか?』と思った」という。だが今は「現時点ではこれがベスト」だと思っていると述べた。「AIを使うことも考えた。しかし目指すのはAIアシスタントやAI秘書ではない。遅いし、まどろっこしい。でも『それがいいんだ』という声もある。今はこの遅さ、ゆるさが、かえって良いのかなと考えている」と語った。