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環境にやさしいだけじゃない! 暮らしが快適・お得になる「デコ活」とは?

環境省 地球環境局地球温暖化対策課 デコ活応援隊 隊長(脱炭素ライフスタイル推進室長) 清水延彦さん

環境省では、脱炭素につながライフスタイルへの転換を推進する「デコ活」を展開しています。消費者にとっては、この活動をすることで生活の快適化やコスト削減にもつながるので、ぜひできることから取り入れたいところです。まずは「デコ活」とはどういったものなのか、個人ではどのようなことができるのか、環境省 地球環境局地球温暖化対策課 デコ活応援隊 隊長(脱炭素ライフスタイル推進室長)の清水延彦さんに教えてもらいました。

清水:「『デコ活』とは、国民・消費者の行動変容、ライフスタイル転換を後押しするプロジェクトの愛称で、正式名称は『脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動』です。皆さんもご存知のとおり、今は地球温暖化や気候変動が重要な課題となっており、日本でもパリ協定に基づいて2050年にはカーボンニュートラル、つまり温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする、という目標を掲げています。この目標は国民一人ひとりにご協力いただかなければとても達成できないため、デコ活を多くの方に知っていただき、暮らしの中に取り入れていただきたいと考えています」

温室効果ガスは製造業などの産業部門で多く排出されるイメージがありますが、実は全体の約15%(発電等に伴う排出量を家庭に配分した場合)は家庭から排出されています。この部分は一般の消費者のアクションがなければ減らすことはできないでしょう。

清水:「とはいえ、個人としては『何をやっていいのかわからない』という方も多いと思うので、その道しるべとなるようなプロジェクトとして『デコ活』を立ち上げました。今の時代は、温室効果ガス削減と同時に豊かな暮らしを手に入れることができ、さらに『お得』につながるので、その価値を周知し、実践していただくことがデコ活の意義であり、役割だと思っています」

なぜデコ活をすると暮らしが豊かになって「お得」になるの?

清水:「『脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動』の名称にもあるように、デコ活に取り組むことで暮らしが豊かになるなど、脱炭素だけでなく一般消費者にとってはメリットになることも多くあります。大きくは2つ、1つは生活の質の向上、もう1つは金銭的負担の軽減です。例えば、断熱リフォームをすることで快適な居住空間を実現できるだけでなく、ヒートショックの防止、結露やカビ、ダニなど、健康に支障をきたす要因の抑制、住宅の耐久性向上など多くのメリットがあります。さらに断熱化することでエアコンの効きがよくなり、光熱費を抑えることができる。また、テレワークを取り入れると通勤によるストレスや疲労もなくなり、浮いた時間を余暇に利用できる上、通勤代もかからない。このように、デコ活に取り組むことで、さまざまな『いいこと』があるのです」

金銭的なメリットは、環境省が作成した下のイラストを見るとよくわかります。衣食住はもちろん、働き方やモビリティなど、脱炭素と快適性・お得のためにできることはたくさんあり、ちょっとした行動でもその効果を期待できます。

節約額等は平均的な世帯を想定し、一定の前提を置いて試算したもの(2022年算定)(デコ活公式サイトより)

清水:「例えば住宅関係では、省エネ家電やLEDの導入、住宅の断熱化を行なうと、年間で12.5万円の節約の効果があると試算されています。イラストの左下にある『地産地消・食べきり』という項目の関係では、『食品ロスをなくす』ために少し工夫することで、年間9千円の節約ができる。自動車関係では次世代自動車への乗り換えによりガソリン代が減るなどして年間7.5万円の節約が期待できます」

個人レベルでは具体的にどんなことをしたらいいの?

「環境にやさしい取り組み」といっても、具体的には何をすればいいのかわからない方も多いでしょう。そこで、デコ活では生活の中で実践してほしい取り組みを「デコ活アクション」として例示しています。

清水:「全部で13のアクションを提案していて、その中から、まずはここから始めて欲しい、という身近な取り組み4つを『デコカツ』にちなんだ形で紹介しています」

清水:「それぞれを簡単に説明すると、快適な居住空間を実現しながらも省エネにつながる断熱住宅に住む、LED照明や省エネ家電などを選ぶ、食事を食べきって食材も使いきる、テレワークを活用して移動によるCO2排出量を減らす、ということ。また、主要の4項目以外でも、具体的な行動として9項目を提案しています」

主要な4項目以外の9項目は以下のとおりです。

  • 高効率の給湯器、節水できる機器を選ぶ
  • 環境にやさしい次世代自動車を選ぶ
  • 太陽光発電など、再生可能エネルギーを取り入れる
  • クールビズ・ウォームビズ、サステナブルファッションに取り組む
  • ごみはできるだけ減らし、資源としてきちんと分別・再利用する
  • 地元産の旬の食材を積極的に選ぶ
  • できるだけ公共交通・自転車・徒歩で移動する
  • はかり売りを利用するなど、好きなものを必要な分だけ買う
  • 宅配便は一度で受け取る

清水:「環境にやさしいエコな行動と言われると“何かを我慢しなければいけない”と思われがちですが、デコ活では我慢することなく、快適な暮らしを追求しながら、脱炭素に貢献できるアクションを提案しています。ただ、これらのアクションはあくまで例示で、皆さん一人ひとりの暮らしの場面に置き換えていただくと、まだやれることはいろいろあると思います。それをご自身で見つけることも意識していただきたいと考えています」

それぞれのライフスタイルによって取り入れやすいものが違うので、まずは自分ができそうなところから行動に移し、それを当たり前にしていくことが大切かもしれませんね。

断熱化などコストがかかる取り組みは補助金も活用できる

アクションの例示を見ると、節水や食べきりなど、生活の中で意識できるものもありますが、家を断熱化したり、太陽光発電を取り入れたりと、初期投資にコストがかかるものも見受けられます。そうなるとなかなか手が出しにくく、ハードルが高くなりますが、国や自治体が補助金を用意しているものあります。

清水:「金銭的な支援となる補助金は政策のツールとしてとても大事だと考えていて、国や自治体が、それぞれの立場で補助金制度を設けています。環境省では特に断熱リフォームに力を入れていて、『先進的窓リノベ2025事業』と銘打って進めているところです。住宅の断熱化、中でも窓のリフォームに特化した大きな事業で、国から最大200万円という大規模な補助金を受けることができます」

詳細は公式サイト「先進的窓リノベ2025事業」より確認できる

先進的窓リノベ2025事業

これだけ高額な補助を受けられれば、「これを機に変えてみようかな?」という人も増えてきそうです。この金額からも、環境省が本気でデコ活を推進していることがわかります。

清水:「この他にも各自治体で様々な補助金が用意されていることもあります。東京都でも断熱窓を対象にした補助金があるので、双方の仕組みを活用すればより費用の削減が可能です。断熱窓に限らず、高効率給湯器や省エネ家電導入での補助など様々な制度がありますので、ぜひ皆さまのお住まいの自治体も調べていただき、補助金制度を確認・活用していただければと思います」

さらに民間企業でもキャンペーンなどで多様なサービスが受けられるなど、コストがかかるものでも消費者が取り入れやすくなる仕組みができている、と清水さん。

清水:「企業にとっても、コストをいかに削減して消費者に訴求できるかが重要ですので、現在行政でも企業でも、消費者にとっての導入障壁を下げる努力をしているところです」

デコ活は今までの取り組みと何が違うの?

これまでも、様々な⾔葉で類似した取り組みが進められてきましたが、デコ活とこれらの取り組みに違いはあるのでしょうか。

清水:「デコ活はこれまでの取り組みの発展形で、バージョンアップした姿だと考えています。違いは大きく3つあり、1つ目はポジティブな価値観です。環境保全の行為は我慢するものではなく、生活の質の向上につながるというポジティブな価値観を打ち出しているところが、デコ活の一番の特徴です。2つ目は、先ほどもお話したとおり、具体的な行動を提示しているところ。『脱炭素のために何をしたらいいのかわからない』という国民・消費者の声を受け止めて、具体的な行動をお伝えするようにしています。3つ目は、単なる普及啓発ではなく、社会実装のプロジェクトだということ。政府が消費者一人ひとりに呼びかけるだけでなく、企業活動の環境配慮も取り込んで進めています。政府のサポートによって企業の取り組みが消費者にも届けられる、といった官と民の連携がデコ活の要になっているのです」

「デコ活はこれまでの取り組みの発展形」と話す清水さん

また、活動に賛同する企業や団体が参画できる「デコ活応援団」(官民連携協議会)があるのもデコ活ならでは。ここが、効果的な官民連携の実現へとつなげるプラットホームにもなっています。

清水:「多くの方々にご賛同いただき、現時点(8月20日)で2,637の自治体や企業、団体、個人の方々に応援団にご参画いただきました。これだけの賛同を得ていることに活動の手応えを感じますし、これだけのバックアップがあれば取り組みの成果を世の中に広く周知する手助けになると感じています」

消費者の意欲向上・実践につなげるのが一番の課題

これまでの活動を踏まえて課題となっていることや、今後の方向性についても聞いてみました。

清水:「まずは2050年の目標達成に向けて、デコ活をさらに推し進めていく必要があると思っています。もちろん、今後10年で進めるべき短期的な目標もありますが、まずは消費者の方に認知していただく、意欲を持っていただく、そして、実際に導入・実践していただく、というステップが重要だと考えています。とても地味な作業ですが、これが今の一番の課題です」

さらに清水さんは、社会実装の推進も課題のひとつだと話します。これまでも政府の政策として様々なキャンペーンを行なってきましたが、キャンペーンは単なる一過性のもので定着しない。そのため、2050年にまでつなげられるような仕組みづくりも必要です。

清水:「社会実装を加速させるには、デコ活応援団に参画いただいている方々同士をマッチングさせ新しい事業創出につなげたり、取り組みを喚起したりと、活動自体を生み出して消費者につなげていくことが大切です。そうすれば、2050年のカーボンニュートラル実現が見えてくるのではないかと思っています」

今の時代は、環境価値だけを追求すれば世の中がよくなるわけではなく、環境面の活動達成によって同時に解決できる環境面以外の問題もあるなど、課題が複雑に絡み合っています。そのため、環境省で目指しているのは一石二鳥、一石三鳥となるような総合的な政策設計です。そう考えると、デコ活応援団のこれからの活動にも期待が高まります。

最後に隊長の清水さんに、デコ活や環境保全に対する思いを聞いてみました。

清水:「脱炭素や地球環境の保全は、とても大きな課題だと思っています。今この世界に生きている私たちは、将来世代にこの地球環境を健全なままで受け継ぐ義務がある。私たちは将来世代に対して大きな負託がありますが、それを成し得る力や知恵を持っているはずです。一方で、経済活動や技術開発はすでにそれを見越して動き始めていて、最終的に皆さんの暮らしの中にまで落とし込むところまで来ています。一人ひとりに届くまでの道のりは、脱炭素に向けたラストワンマイルです。ただし、近く見えて遠い道のりだということは間違いないので、デコ活をポジティブな価値観で皆さんに届けられるように、チーム一丸となって『ラストワンマイル』を走り抜けたいと思います」

中野悦子