トピック

運転免許証との一体化は間もなく? 2024年のマイナンバーカード

「運転免許証があれば、マイナンバーカードは不要では?」と言われ続けて幾星霜。少なくとも発行枚数の上では、マイナンバーカードが運転免許証を超えました

政府が「デジタル社会のパスポート」と位置付けるマイナンバーカード。2016年1月の発行開始から8年が経過し、国民の保有枚数は9,215万5,578枚(2024年3月31日時点)となりました。人口に対する保有割合は約73.5%にまで増加。2023年末時点の運転免許保有者数8,186万2,728人を越え、申請枚数では“1億”の大台を突破しました。“日本で最も普及している身分証明書”としてのポジションを確立しています。

政府はマイナンバーカードの普及・利活用促進に向けて、マイナポイントのようになんともストレートな特典を設ける一方、カード機能の拡充にも努めてきました。

2023年度だけでも、Androidスマートフォンにおける電子証明機能の搭載、「マイナポータル」の大幅刷新が実現しました。一方、別人の保険証情報がマイナンバーカードに誤って紐付けられるなどのトラブルも多発しましたが……。

そしてマイナンバーカードは、これからも変わり続けていきます。2024年度には果たしてどんな変化があるのか? どんなことが新たにできるようになるのか? 政府やデジタル庁が示している資料を基に、紐解いてみましょう。

間もなくスタート? 財布から1枚カードが減る? 運転免許証との一体化

2024年は、マイナンバーカードの今後を考える上で非常に大きなトピックが2つあります。

その1つ目が、運転免許証との一体化。マイナンバーカードそのものが、運転免許証としても使えるようになります。

財布やパスケースに入れている運転免許証。2024年度中には、マイナンバーカードと入れ替える人が増えるかも?

一体化のメリットとして挙げられるのが、住所変更手続きの省力化です。これまでは転居などの際、市町村役所への届出とはまた別に、運転免許証の住所変更を警察や免許センターに申請しなければなりませんでした。これが一本化されるメリットは大きいでしょう。

そして何より、運転免許証を持ち歩かなくても、マイナンバーカードで運転資格を証明できるようになります。2022年4月27日に公布された改正道路交通法では、マイナンバーカードに免許関連の情報を電磁的に記録する規定が整備されました。条文を読む限り、免許情報格納済みのマイナンバーカードと従来の免許を併用したり、あるいはマイナンバーカードを主体としつつ従来型免許を返納するといった運用が想定されているようです。

免許証とマイナンバーカードの一体化については、法律とは別に政令で規定される部分も多いとみられ、実際に制度が開始してみないと分からない部分は多々あります。ただ、マイナンバーカードは保険証利用が今後進みます。このままいけば、マイナンバーカードが運転免許証と保険証にもなる、まさに“一石三鳥”体制が整います。国民全員がこの恩恵を享受できるかはまた別の話ですが、免許不携帯の違反が減り、さらには旅行先で体調が悪くなった場合に医者に行きやすくなったり等、思わぬ使い道が増えるのではないかと、筆者は考えています。

運転免許証一体化の経緯についても振り返っておきましょう。具体的検討は2020年11月にスタートしました。ただし各都道府県の警察ごとに異なるシステム基盤を共通化するなど、技術的課題もあったため、すぐに制度開始という訳にはいきませんでした。議論の最初期の段階で「2024年度末」の目標が掲げられ、その2024年度を今まさに迎えた格好です。

とはいえ、2024年度と一口に言っても実際には12カ月ある以上、その時期が気になります。デジタル庁の河野太郎大臣は、自身のX(旧Twitter)で「(2024年度中に)なるべく早く始められるように調整していますが、正確な時期はおって発表します」とポストしています。

2023年6月6日には、内閣総理大臣を議長とする「デジタル社会推進会議」が開催され、3日後の6月9日には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されています。この補足資料でも、運転免許証との一体化は「2024年度(令和6年度)末までの少しでも早い時期に、マイナンバーカードと運転免許証の一体化の運用を開始する」とされており、大臣の発言はこれに沿ったかたちです。

あくまで筆者の予想・想像となりますが、周知期間などを踏まえれば、6~9月頃が1つのメドになるのではないでしょうか? 期待して待ちましょう。

スマホが運転免許証代わりになるのはいつ?

閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」ですが、その本文には色々と興味深い記載があります。例えば、運転免許証の更新手数料引き下げ。免許一体化に向け、警察庁および都道府県警察で管理システムの共通基盤集約が進められていますが、それに伴って相当の行政コスト削減が見込まれることから、手数料引き下げなどの負担軽減を“検討する”としています(49ページ)。

そして免許情報をスマートフォンに記録する「モバイル運転免許証」についても検討が始まっています。デジタル庁では、さまざまな資格情報を格納するための汎用システム整備を進める方針で、運転免許についても同システムの活用を前提に検討を進めるといいます。実現の時期も「一体化の運用開始後、極力早期の実現を目指す」とのこと(同じく49ページ)。意外に早く、“スマホ免許証”が実現するかもしれませんね。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」は、デジタル庁のウェブサイトでチェックできます

従来の保険証廃止は12月2日! どうなる「マイナ保険証」

マイナンバーカードの将来を左右するトピックの2つ目は、健康保険証廃止の影響です。

従来の(紙の)保険証は12月2日に廃止されます。こちらは広報用のポスター画像(厚生労働省の資料より引用)

マイナンバーカードを保険証として利用できる制度、いわゆる「マイナ保険証」は2021年10月にスタート済みです。2022年6月からの「マイナポイント第2弾」においても、健康保険証登録がポイント受取の条件となっていたため、すでに多くの国民が利用できる状態です。

こうした状況もあってのことでしょう。政府は従来型健康保険証の廃止方針を明確に打ち出しており、その期日は2024年12月2日と公表されました。同日以降、(おもに紙形式での)保険証は新規発行されなくなります。ただし廃止後最長1年間は、現行の保険証が利用できます。一方、マイナンバーカードの取得や保険証利用登録はあくまで任意なので、マイナ保険証未利用者をフォローするために「資格確認書」の発行が行なわれます。

ただし、スムーズに移行できるかは別問題です。厚生労働省の第177回社会保障審議会医療保険部会の資料1によれば、2024年3月(単月)のマイナ保険証利用率は5.47%に過ぎません。乳児からシニアまで幅広い層が病院・薬局に足を運んでいる現実を踏まえれば、さすがに廃止は性急すぎないか。そんな疑問が出て同然です。

厚生労働省としては、この5~7月をマイナ保険証利用促進集中取組月間と位置付け、テレビCMを含む広報展開を行なうとしています。

12月2日の目前になって急遽、廃止が延期になるのではないか。そんな心配はあります。ただ12月2日時点で有効な保険証は、最長1年という期限付きながら、そのまま使えるのも事実。例えば、筆者が居住地で加入している国民健康保険では毎年7月1日に保険証が切り替わり、その都度、紙の保険証が送られてきます。よって2025年6月30日までは、従来の保険証で通院できます。

マイナンバーカードに対する意見は人それぞれでしょうが、筆者は保険証に限るなら、むしろ積極利用したい派。なぜなら、行政側が紙の保険証を毎年必ず1回送る手間・コストが、多少なりとも軽減されると考えるからです。ただ、そうした思惑を他者に押しつけるつもりもありません。あくまで「使いたい人だけ使えばいい」。

そんな筆者ですが、実はまだ1度もマイナ保険証を医療期間窓口で使ったことがありません。定期健診で半年に1回通っている歯科医院では、マイナ保険証に対応していないのです。この場合、問題はむしろ医療機関側にあります。

立場によって事情が異なるとはいえ、保険証廃止からマイナ保険証移行までに半年程度の猶予は皆にあるはず。病院や厚生労働省など所轄官庁の努力に期待しましょう。

なおマイナンバーカードの電子証明書をスマートフォン内に格納(保存)する機能は2023年5月から、Androidプラットフォーム向けに提供されています。このスマホ内電子書証明書を利用した、言わば“スマホ保険証”機能については、2024年4月から提供する方針が示されていましたが、2024年4月中旬の段階では具体的なアナウンスがありません。開始時期を「2025年度」とする報道も見られるようになってきました

新生児には写真なしカードを発行 iPhone対応はどうなった?

政府によるマイナンバーカード利用促進策はまだまだ続きます。

その動向を掴む参考になるのが、デジタル大臣を議長とする「マイナンバーカードの普及・利用の推進に関する関係省庁連絡会議」です。その要旨はデジタル庁のウェブサイトで公開されています。直近3月19日に開催された第6回会議の内容から、特に気になった部分を中心にご紹介します。

「マイナンバーカードの普及・利用の推進に関する関係省庁連絡会議」第6回資料より。運転免許証一体化以外にも、さまざまな普及促進策がリストアップされています

出生届とマイナンバーカード申請書の一体化

マイナンバーカードは、生まれたばかりの新生児であっても取得可能です。ただ、写真撮影が必須なこともあり、実際の取得は親・保護者の判断によるところが大きいでしょう。

この枠組みが2024年12月までに変わる見込みです。1歳未満の場合、顔写真がなくても申請でき、さらに出生届の提出時に同時手続きできるようになるとデジタル庁は表明しています。第6回会議の資料でも筆頭に掲載されており、重点施策であることが伺えます。

マイナンバーカード活用による救急業務の迅速化・円滑化

通報で駆けつけた救急隊が、傷病者本人や関係者から事情を口頭で聞き取るだけでなく、マイナンバーカードも活用して正確かつ素早く状況を把握しようという試み。2024年度末までをメドに全国展開する計画が進められています。

現場では、マイナンバーカード読み取り装置とタブレット端末を準備。救急隊員は、保険資格のオンライン確認システムを通じて、傷病者のかかりつけ医療機関、既往歴、薬剤情報などが参照できるため、業務全般の効率化が期待されます。東京消防庁、大阪市消防局、名古屋市消防局など35都道府県の67消防本部(660隊)で実証事業が行なわれる予定です。

「マイナンバーカードの普及・利用の推進に関する関係省庁連絡会議」第6回資料より

スマホ搭載マイナカードでの本人確認が可能に

マイナ保険証の項でも述べたように、Androidスマートフォンではマイナンバーカードの電子証明書を保存することができます。これにより、各種行政手続きの窓口である「マイナポータル」へログインすることは、すでに可能です。

ただし、スマートフォンに搭載されるのはあくまで電子証明書だけ。マイナンバーカードの表面に記載されている氏名・住所・生年月日・性別の「基本4情報」や顔写真などをスマートフォンに表示して、それを対面で見せて本人確認するといった用法には対応していませんでした。

こうした“券面ベースでの本人確認”などもスマホだけで可能になる見込みです。関連する方針は3月5日に閣議決定され、法案が国会に提出されました。このまま成立すれば、2025年夏にも運用が開始されると報道されています

「マイナンバーカードの普及・利用の推進に関する関係省庁連絡会議」第6回資料より

iPhoneへのマイナンバーカード機能搭載は「すみやかな実現を図る」

マイナンバーカード用電子証明書のスマートフォン搭載は、いまのところAndroidに限られています。ではiPhone(iOS)にはいつ対応するのか? 利用者が多い日本では、特に気になるところです。

Androidの先行対応(2023年5月)から間もなく1年が経とうとしていますが、iPhoneについては未だ時期は明言されていません。資料でも「すみやかな実現を図る」といった記述に留まっています。ただ大臣記者会見などでもiPhone対応に向けて鋭意対応中である旨が度々発言されています。

海外転居後も継続利用、在留カードとの一体化も

これまでマイナンバーカード保有者が海外へ赴任したり、留学する際にはマイナンバーカードは一度失効する仕組みでした。これが5月27日以降は変わり、海外転出時にも継続利用できるようになります。また、在外公館でマイナンバーカードを申請したり、受け取ったりすることも可能です。

国境をまたいでの利用、あるいは外国籍住民との関わりでは、「在留カード」とマイナンバーカードの一体化もまた検討されています。健康保険証、運転免許証との一体化と同じ流れにある動きと言えるでしょう。

2026年には10年毎更新の第一陣、新たな券面も登場か

このようにマイナンバーカードの機能強化は続きます。運転免許証の一体化が予定される2024年度のさらに先を見据えると、2026年が1つの山場となりそう。というのも、マイナンバーカードの10年更新のタイミングがやってくるのです。

「次期マイナンバーカード」のデザイン案。表面右上には「日本国」などの表記が見えます(「次期個人番号カードタスクフォース」第4回資料より)

マイナンバーカードには10年の有効期限が設定されています。制度としての発行開始が2016年1月ですので、その10年後の2026年1月から、更新サイクルが本格化していくと予想されます(ただし未成年の場合は有効期限が5年のため、行政機関の窓口としては一定程度、更新手続きが行なわれている)。

そして「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、暗号アルゴリズムや偽装防止技術刷新の観点から、新しい“次期マイナンバーカード”の導入が目標として掲げられています。この目標時期がズバリ2026年となっています。

次期マイナンバーカード検討のためのタスクフォースも設置され、この3月には最終とりまとめ案が示されました。カード表面から性別の記載を除外する一方で、裏面にはマイナンバーの表記を継続。また、生年月日表記が和暦から西暦に変更されるなどの詳細が提案されています。電子証明書の有効期間が5年から10年へと延長される点は、実務上大きな変更点でしょう。

券面のデザインも変わります。富士山をイメージさせるイラストが表面背景に記載。また現状の案では「マイナちゃん」の顔アイコンはなくなる方向性のようです。

デジタル庁のウェブサイトでは、マイナンバーおよびマイナンバーカードのロードマップが掲出されています。確定申告などに用いる公的個人認証の開始にはじまり、旧氏併記への対応、住民票を手軽に発行できる「コンビニ交付サービス」などがこれまでに実現しています。

この先、マイナンバーカードが真の意味で国民に定着するか。運転免許証一体化は、8,000万人超の運転免許所持者に影響を与えるだけに、特に重要なステップとなることでしょう。

マイナンバーカードの保険証利用は、ある種の既定路線です。移行を巡って多少の停滞はあるかもしれませんが、中長期的には利用が広がるでしょう。この段階でも一人二役というか一石二鳥というか、メリットはあります。ただ「まぁ、そうだよね」のレベルです。

これに運転免許証が加われば、前述したように“一石三鳥”です。ここに至ってようやく、マイナンバーカードの魅力は加速度的に増すのではないでしょうか。

マイナンバーカードと運転免許証の一体化は、1つのターニングポイントになりそう

マイナンバーカードへの機能集約が進むと、紛失時のダメージが大きすぎるとの懸念もあります。ですが将来的にスマホ搭載マイナンバーカードが運転免許証および健康保険証として常用できるようになれば、相互バックアップ体制が整った、とも言い換えられます。技術的不安は、技術的手段によって克服するというのも、1つの手段でしょう。

もちろん、マイナンバーカード関連の施策を手放しに賞賛するつもりもありません。誰にとっても使いやすい、納得いくものへと発展・成長するよう、政府の動向を常に注視していきましょう。まずは、マイナ保険証へのスムーズな移行がその試金石となるでしょう。

森田秀一

1976年埼玉県生まれ。学生時代から趣味でパソコンに親しむ。大学卒業後の1999年に文具メーカーへ就職。営業職を経験した後、インプレスのウェブニュースサイトで記者職に従事した。2003年ごろからフリーランスライターとしての活動を本格化。おもな取材分野は携帯電話、動画配信、デジタルマーケティング。「INTERNET Watch」「ケータイ Watch」「AV Watch」「Web担当者Forum」などで取材レポートを執筆する。近著は「動画配信ビジネス調査報告書 2021」(インプレス総合研究所)、「BtoB-EC市場の現状と販売チャネルEC化の手引2020」(共著、インプレス総合研究所)。