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「首都圏外郭放水路」を見に行った スケール感を見失う

皆さんは埼玉県東部の街、春日部市をご存知でしょうか。江戸時代は日光街道の宿場町として、現代では『クレヨンしんちゃん』の街として有名です(野原家の住民票がある)。そんな春日部市に、なにやら「地下神殿」が存在するというではありませんか。しかも、その神殿内部に入れるとのこと。行ってもよいのであれば行ってみるべし、ということでいざ、春日部へ!

と、冒頭から「謎」な感じで始めてしまいましたが、いきなり種明かししてしまうと、春日部の地下神殿とは、本当の名を「首都圏外郭放水路」といい、国土交通省が管理する国の防災施設なのでした。「防災地下神殿」なんて呼ばれ方もしています。見学するためには首都圏外郭放水路のWebサイトから申し込みが可能です(電話でもOK)。

ネット申し込みのラクラク地下神殿見学

見学コースはいくつかあるのですが、せっかくなので地下神殿を見学するだけのお手軽コースではなく、「立坑」という巨大な穴のキャットウォーク(高所用の通路・足場)を歩くコース(神殿見学もあり)に申し込みました。料金は1人3,000円。コース説明に「装備としてハーネス(安全帯)とヘルメット着用」とあるように、ぞくぞく感が満載な気がしての申し込みです。

参加したい日時と人数を選んで申し込み。参加費は現地で支払います

そして見学当日。東武伊勢崎線(スカイツリーライン)春日部駅からクルマで20分ほどの場所、江戸川沿いのだだっ広い大地に役所風の建物が立っています。ここが首都圏外郭放水路への入り口である地底探検ニュージアム「龍Q館」です。

地底探検ニュージアム「龍Q館」。建物には「国土交通省首都圏外郭放水路 庄和排水機場」と本名(?)が書かれている

館内には展示室などとともに施設全体を監視する「中央操作室」もあり、その様子も見学できます。見学できるどころかロケにも貸し出ししているとのことで、中小企業がロケットエンジンパーツをつくる某ヒットドラマでも使用されたそう。ちなみに地下神殿部分はミュージシャンのPVなどでも利用されているといいます。防災という使命を負った施設にしてはかなりフランクな印象です。

中央操作室。首都圏外郭放水路全体がモニターされている

「立坑体験コース」はこの中央操作室があるフロアでまずは首都圏外郭放水路について案内人である地下神殿コンシェルジュさんから学びます。具体的には埼玉県東部の中小河川の洪水を地下に取り込み、地底50m、総延長6.3kmのトンネルを通じて江戸川に流すという世界最大級の地下放水路であること。1993年から約13年をかけて2006年に完成したことなど。なお地下神殿と呼ばれる所以になったのは、その放水路の調圧水槽と呼ばれる部分で、長さ177m、幅78m、高さ18mにおよびます。まさに巨大な水槽で、ここから集まった大量の雨水を江戸川に放出するそう。

この日集まったのは老若男女約30名。平日の午後という時間帯ですが、けっこうな参加人数で、知る人ぞ知るというより、けっこう知られた見学会なことがわかります。

コンシェルジュさんの説明が終わったら、いよいよ首都圏外郭放水路に潜入! まずは命綱とヘルメットをつけての「立坑体験」です。

高所恐怖症の人は要注意。本格装備の立坑見学

立坑に潜入するための入り口は、「龍Q館」から200mほど離れたところにあります。つまり、この間の地中に調圧水槽と呼ばれる「地下神殿」があるのです。これから潜る第一立坑と調圧水槽は一体化した施設であることに気づきます。

地下神殿の地上部分はサッカーコート

ヘルメットとハーネスを装備してキャットウォークへ。キャットウォークというとかわいらしい語感ですが、行ってみると、ザ・足場です。立坑の深さは約70m。マンションでいうと23階ぐらいなことを検索して知りました。そんな巨大穴に仮設感たっぷりの通路や階段がへばりついてます(とはいえ安全です!)。逃げられないと観念するのに1分ほどを費やします。

立坑の内径は31.6m。その壁面にキャットウォークが設置されており、ハーネスの車輪状の部分を壁面のセーフティレールに通すことで命綱をしたまま歩き回れるという仕組みになっています。

キャットウォークに向かう途中、調圧水槽を撮影する同行カメラマンのA氏。別仕事のついでに参加
ハーネスがあるとはいえ、高いところが苦手な人はちょっと大変。でも帰りたくても帰れません
足場板のパンチ穴の下、70m先は巨大な水たまり

なかなかに非日常的な体験なので、参加者一同写真をバシャバシャ撮りまくります。少し怖いけれど、乗り出すように下を見下ろしたりして、それなりに忙しい時間が過ぎていくのですが、万が一にもスマートフォンやデジタルカメラを落とさないよう注意しなければなりません。コンシェルジュさんいわく、まれにスマートフォンを落とす人がいるらしく、「木の葉のようにひらひらと落ちていく」そう。もちろん落としたら回収できないし、まず無事ではないでしょう。

70m下を覗き込む。吸い込まれそうな深い穴
キャットウォークから見る調圧水槽(地下神殿)
穴(立坑)の全容。画面左上の穴下に伸びているのは階段

ちなみに見学時は穴底に水が溜まっているだけですが、大雨のときはこの水面がぐんぐん上昇してきて調圧水槽に流れ込むことになります。穴の壁をよく見ると濡れていて、それはかつての大雨の痕跡だといいます。その水の量たるや想像を絶すると同時に、自然への怖れや防災のためにこんな巨大なものをつくりあげてしまった人間の偉大さを感じたりします。

そんなふうにビビったり、もの思いにふけったりしているとあっという間に見学終了。ヘルメットとハーネスから開放され、次は当初の目的でもあった地下神殿と呼ばれる調圧水槽を目指します。

これが初めて身につけたハーネスと呼ばれる命綱。抜群の安心感を与えてくれる

スケール感を見失う巨大地下神殿

地下神殿には立坑とは別の入り口から潜入します。サッカーコートとなっていた多目的広場の端に、厳重に閉ざされた地下鉄の入り口風の建屋があり、そこが地下神殿への階段につながっています。

画面右の突き出たドアが地下神殿への入り口

地下には階段で降りていきますが、その段数116段(建物5〜6階分、約22m)。参加するには最低限この登り降りができなければなりません。とはいえ、降りていくのはラクラクなのでサクッと到着。ついに春日部の「地下神殿」にやってきました!

人がとても小さく見えるほど巨大な調圧水槽(地下神殿)

こちらがその地下神殿。冒頭でも同じような写真を使っていますが、こちらはスケールがわかるよう人物入りの写真です。とても巨大なことがおわかりになりますでしょうか。林立する柱は重さが1本500t、ぜんぶで59本あるそうです。

天井部分はこんな感じ
柱は円柱ではなく楕円柱というか、長い使い捨てライターのような少し平べったい形状

参加者は地下神殿のどこを歩いてもいい、というわけではありませんが、かなりの範囲を自由に行動可能です。もちろん写真撮影もOK。

地下神殿の容貌は、見学申し込みのWebサイトのトップページに掲載されており、すでに知っているビジュアルではあります。しかしながら、写真で見て想像するのと、実際に訪れてみるのとは雲泥の差。その圧倒的な空間、重量感、長い年月をかけてつくりあげた執念というか人間の営みの奥深さをひしひしと感じられます。なんとなく興味本位ではありましたが、ここまでやってきた甲斐があるというもの。春日部市、そして国土交通省、おそるべしです。

※首都圏外郭放水路事務局の許可のもと写真を掲載しています。