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西川から“お尻のまくら”が生まれた理由。快適な「眠り」から「座り」へ

西川のお尻のまくら「Keeps」

布団といえば真っ先に思い浮かべる屈指のメーカー、西川から9月14日に「Keepsクッション」という新製品が発売されました。なんでもMakuakeで総額1,000万円(992名)超えの応援購入を記録したとのことで、満を持しての一般販売だそう。何がそんなにも人気を集めたのか、開発担当者さんに聞きにいってきました。

睡眠時間と同じぐらい座り時間が長い日本人

赴いたのは西川 東京オフィス。商品第2部で企画・開発を担当する池田奨さんにお話をうかがいました。まずはご挨拶ということで名刺をいただくと「チーフ」という役職とともに「スリープマスター」と印字されています。さすが西川、眠りのプロフェッショナル集団であることを一瞬にして諭してくれます。

西川 東京オフィス 商品第2部 企画・開発担当の池田奨さん

さっそくKeepsクッションを手にしながら、そしてKeepsクッションに座って、開発の経緯や製品そのものの特徴を解説していただきます。

「コロナ禍でテレワークが進んでから本格的に開発を始めたことになりますが、その前から姿勢を保持して腰やお尻に負担をかけないクッションの必要性を感じていました。なぜなら、私どものお客さまの多くが腰痛、腰への負担軽減のために西川の寝具をお求めになるからです。睡眠時はもちろん、日常生活でもその問題を解決するには新たな椅子やクッションを開発する必要があると思っていました」

池田さんの所属する商品第2部は、枕とマットレスを開発する部署。腰への負担を軽減するマットレスをつくっているのに、まわりを見渡すと意外にも腰痛持ちだったり、姿勢の悪さに悩みを持つ同僚も多かったそう。それがきっかけで「座る」ということはどういうことかをあらためて研究することになったそうです。

「いろいろと調べていて気付かされたのは、睡眠と同じぐらいの時間、椅子に座っているという事実でした。日本人は平均7時間も座っていると知ったとき、眠っている時間をケアする企業であるなら、座っている時間もケアするべき。マットレスで培った知見、技術をどうにかして応用できないかを考え始めました」

まくらの理論が、お尻のまくらを生み出すヒントに

開発するにあたって、「お尻が痛くならない」クッションの最適解は、マットレスの技術や製品開発事例などを参考になんとなく思い描けたといいます。しかし、高い壁となったのが「姿勢を正す」技術です。

「お尻が痛くならないよう、圧力を分散する技術はマットレスの技術から応用できますが、理想の座り姿勢をキープするためにどうするか、が大変でした。平面のマットレスを基準にしていると、立体的な座り姿勢になかなか考えがおよばず……。そんな行き詰まった雰囲気を打開したのが社長のアイデア、『お尻のまくらをつくる=まくら三点支持理論を応用すべし』でした」

まくらの三点支持理論とは、後頭部、肩、首の3点でバランスよく頭部を支えること。首1、肩1.2、後頭部2.5の圧力バランスが最も首に負担をかけにくくするという西川独自の理論です。この理論を座り姿勢に応用して坐骨、仙骨、大腿部の三点にかかる圧力バランスを分析することで“お尻のまくら”誕生への道が開けたそうです。

「背中側には仙骨を適度に押し返す役割を果たす『仙骨ポイント』があります。ここで骨盤を正しい角度に導きます。座面のふたつの穴は『坐骨ポケット』。坐骨がはまるような位置に設計してあり、前すべりを防ぐ効果があります。大腿部にかかる圧力を分散するのは『大腿部スリット』。この三点で骨盤の立った座り姿勢をキープします。ちなみに坐骨1、仙骨1.7、大腿部1が理想の圧力バランスです」

背中側の突起部分が「仙骨ポイント」、座面のふたつの穴が「坐骨ポケット」、小さな空気孔が空いている部分が「大腿部スリット」

「坐骨ポケットに坐骨をはめ込むことで正しい位置に収まります。そして仙骨ポイントで背中をちょこっと押してあげることで、理想の座り姿勢となり、長時間座っていても疲れにくいという効果が期待できます。足の閉じ方なども研究して、こういった設計になりました」

坐骨が「坐骨ポケット」に収まっている様子を骨盤模型で解説

「また、座っている時には坐骨に大きな圧力が掛かっています。座って固定された状態でも、骨のところの穴を開けることで、この圧力を逃がすことができるわけです。特許出願の内容の1つでもあります」

穴を開けることで坐骨にかかる圧力を逃がしている

「そのほか、自然に正しい位置に座れるようにすることも重視しました。長い時間座っていると、やっぱり姿勢が崩れるときは崩れます。そうなった時に、仙骨ポイントや坐骨ポケットといった、目印ともいえる所定の位置にはまっていないことに気づける。そのため、意識的に戻すことができます」

Keepsクッションに座った状態で池田さんのお話をうかがっていると、おっしゃる意味が身体に染み入るようによくわかります。たしかに仙骨ポイントは背筋を伸ばしてくれるほどよい反発力があり、坐骨ポケットと大腿部スリットはしっかりホールドしてくれている感じがします。柔らかいのにしっかりしたホールド感。そして、お尻の位置をずらしてみると、ちょっと座り心地が悪くなる。自然と姿勢がよくなるので、受付業務やお医者さんなど対面仕事の方が使うと相手への印象がよくなるという効果もあるかもしれません。

実際に座ってみるとこのような感じ
指で押すと、柔らかさとともに反発力も感じる
カバーの裏側は滑り止め生地を使用。クッション自体が椅子からずれるというストレスを軽減している

これから期待されるKeepsクッション活用の場

Keepsクッションはその名のとおりあくまでも「クッション」なので、背もたれのあるどんな椅子にも組み合わせられます。ワークチェア、ダイニングチェアからソファまで。実際、池田さんはソファでも使用しているそう。ソファだともたれかかりすぎて姿勢が悪くなる傾向にあるので、ソファでテレワークするならうってつけかもしれません。

「クルマで使うというユーザーの声も届いています。座面が高くなるのでうまく調整できる車種である必要がありますが。あと、床で使っている社員もいて『床でもまったく問題ない、すごくラクでいい』との意見が寄せられています。とはいえ椅子で使う設計なので、製品担当者として同じ効果が得られるとは申し上げられません(笑)。ただ、私もそうですが身体が固いとあぐらをかくのも辛いですよね。その辛さを仙骨ポイントが支えてくれることで緩和されるのだろうな、ということはわかります」

正面から見たところ。ウレタンフォーム素材のため適度な柔らかさがあり、汚れを拭くなどのメンテナンスもしやすい

オフィスでも自宅でもワークシーンにぴったりのKeepsクッション。池田さんはそれ以外にも活用分野を広げていきたいそう。座る場所がある限り、活用の場があるはずだからです。

「座る時間が長い高齢の方にもおすすめです。高齢者施設の椅子や車椅子に組み合わせてぜひ活用していただきたいです。また元気なシルバー世代の皆さんも楽器などの趣味をたしなむ方は座っている時間が長いと思いますし、お子様が塾などで使用しても集中力が高まると思います。坐骨が固定され前すべりしない。“すべらない”から受験生にぜひ使っていただきたい! 様々な体型に対応できるよう、ラインアップの追加も検討しています」

さらにクッションの枠を超えて椅子そのものの開発も視野に入れ、Keepsクッション搭載のゲーミングチェアをつくるという案もあるんだとか。クルマでの使用事例があったように、クルマのシートそのものに搭載することも可能かもしれません。

「寝るときも座っているときも腰に負担を感じている人がいるのなら、その負担を軽減するのが私たち西川の仕事。Keepsクッションが多くの人のラクな座り姿勢をキープしてくれるとうれしいです」

「腰が痛い」が挨拶がわりの中高年はもちろん、ご高齢の皆さんから子どもたちにまで理想の座り姿勢を自然にキープしてくれるKeepsクッションは、座っている時間が長い現代人にとって、必要不可欠なアイテムになるのかもしれません。

Keepsクッションのサイズは、44×41×18cm(幅×奥行×高さ)。カバーはイエロー、グレー、ブラックの3色展開(ウレタンフォームの色はイエローのみ)。