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施行目前「改正電子帳簿保存法」ってなに? 3つ+αのポイント

誰もが知っておくべき「改正電子帳簿保存法」のポイントを整理

「電子帳簿保存法」という法律をご存じだろうか。簡単に言うと、法人や個人事業主がやり取りする請求書、領収証などの主に会計関連の書類を電子データで保存するときの取り決めだ。実はこれが2020年に改正され、2022年1月1日に施行されることになっている。

もう間もなく始まってしまう「改正電子帳簿保存法」ではあるが、今からでも、できる限り多くの人がきちんと理解しておくべき法律だったりする。というのも、企業に勤める1社員も、個人事業主などのフリーランスも、「電子データで請求書などを受け取っている」なら、全員が意識する必要があるからだ。

気になって「改正電子帳簿保存法」をすでに調べている人もいるだろう。しかし、実際のところ自分たちの業務の仕方を変える必要があるのか、変えるとすれば具体的にどうすればいいのか、はっきりわからず困った……なんて人も少なくないかもしれない。

というわけで、「改正電子帳簿保存法」がどんな法律で、1社員やフリーランスとしては一体どんなところに注意しなければならないのか。Sansanでクラウド請求書受領サービス「Bill One」のプロダクトマーケティングマネジャーを務める公認会計士の柴野亮氏にご協力いただき、要点をまとめた。

改正電子帳簿保存法の狙いとは

改正電子帳簿保存法の目的の1つは、書類の電子化のさらなる促進だ。「改正」ということもあって、すでに「電子帳簿保存法」は存在している。現行法ももちろん電子化促進に向けた内容だったが、いくつかの面倒な決まりごともあって、「促進」はある意味建前みたいなものになっていた。

改正電子帳簿保存法ではそれらネックになっていた点を緩和し、紙の書類でも、最初から電子データの書類でも、両方を電子データで保存することが一段と容易になる。企業がペーパーレス化をより積極的に進めやすくする狙いがあると言える。

しかしながら、緩和とともに新たな要件も追加され、厳格化しているところもある。正しく運用できなかった場合の罰則もあるので、しっかり法律の内容を把握しておかなければならない。

一定の要件さえ満たせば、紙の請求書なども電子で保存することが可能になる

ただし、これは電子化にかかわる法律であって、紙の会計書類については全く関係がない。これからも紙でしか処理しないし、電子データは一切扱わない(取引先から必ず紙で発行してもらう)、という鋼の心をもち続けるのであれば、気にする必要はないのだ。

でも、これだけパソコンやインターネットが普及した現代で、請求書や領収証を電子データで受け取らないなんてことはまずありえないだろう。であるならば、事業に関わる世の中の全員が頭に入れておくべき知識と言えるはずだ。

ポイント1:電子は電子で、紙は紙か電子で

名称が電子帳簿「保存法」とある通り、我々が押さえておくべき一番のポイントは、受け取った会計書類をどう保存するのが正しいのか、というところ。ここで覚えておくべきなのは、「電子は電子で、紙は紙か電子で」だ。

つまり「電子データとして受け取った請求書などは、電子データで保存する」のが鉄則となり、「紙書類で受け取った請求書などは、紙のままか電子データ化したもの、どちらかで保存する」という意味になる。

電子データは電子で、紙は紙のままか電子で保存する

元々電子データとして作成されたものを、紙に印刷してそれだけを保管するのは不可。社内管理上、紙に印刷して確認するようなフローがあるとしても、最終的に保管すべき「正」となるものは電子データのみ、ということを頭に入れておきたい。といっても、印刷したところで結局意味をなさないものになるのであれば、最初から最後まで電子データで社内処理した方が合理的だろう。

一方、紙で受け取った場合は、紙のまま保存してもいいし、スキャナー(スマートフォンのカメラを含む)でスキャンして電子で保存してもいい。後述の「ポイント2」「ポイント3」の要件を満たすのであれば、紙書類は破棄して電子だけ保存する、という運用でも当然問題ない。

ちなみに、現行法では電子データは紙で保存してもいいことになっていたが、先ほど書いたように改正後は紙保存は不可ということで厳格化される。そして紙書類は、税務署に対して事前に申請しなければ電子保存することが認められていなかったが、改正によって緩和され、申請が不要になる。この厳格化と緩和によって、電子化をより進めやすい(進めざるを得ない)形になるわけだ。

ポイント2:データの「真実性の確保」ができるようにする

「ポイント1」にある通り、以前より電子化しやすくなったとはいえ、ただただ無条件に「受け取ったファイルをそのまま保存しておけばいい」わけではない。元が電子にしろ紙にしろ、それらを電子データで保存する際には主に2つの要件が求められる。

その要件の1つは「真実性の確保」。

わかりにくいかもしれないので言い換えると、「そのファイルがいつ受け渡しされたものかがわかり、後で変更されたりしていない(変更してもそれがわかる)」こと、つまり「ユニーク性を担保できるようにせよ」ということだ。

ではその「真実性の確保」はどのようにすればいいのか。いくつか選択肢はあるが、1つ目の方法は「請求書を出す側がタイムスタンプを付与する」もしくは「請求書を受け取る側がタイムスタンプを付与する」こと。なのだけれど、これは大企業ならともかく、中小企業、フリーランスにとっては最初から選択肢として考えない方が良さそうだ。

請求書を送る側がタイムスタンプを付与する
または請求書を受け取る側がタイムスタンプを付与する

なぜならこの「タイムスタンプ」は、単にファイル日付のことを指しているのではなく、国税庁によって認められた第三者のタイムスタンプサービスを利用してファイルに証明書的に付与するものだからだ。

現在のところいくつかの企業がタイムスタンプサービスを提供しているが、その利用料金は1件あたり数万円~数十万円かかると見られ、多くの事業者にとって現実的ではない(自前でタイムスタンプを付与するシステムを開発する、ということも考えられるが、なおさら現実的ではないと思われる)。

取引先がそれらのタイムスタンプサービスを利用していて、その電子データを受け取る、ということであれば、その部分だけは要件を満たせることになる。が、そうではない他の取引先からの請求書には代わりに自分でタイムスタンプを付与しなければならないし、電子データを受け取ってから付与するまでの事務処理規程を整備する必要もある。手間とコストが増大することは避けられない。

なので、通常はそれ以外の手段をとることになる。

ということで2つ目の方法は「データの訂正削除の防止に関する事務処理規程を整備する」というもの。請求書などをデータで受け取ったときに、それをどういう社内フローで回して、変更や削除を行なうときにはどういう手順で実行し、管理するのか。そうした一連の処理について社内規程として文書などできちんと整理しておく、ということだ。

国税庁では、この「事務処理規程」のひな形を用意しているが、特にこれといったフォーマットが定められているわけではない。自社にとって利用しやすい形式で作成し、現状の社内業務に照らし合わせながら、従業員らが間違いなく処理するための参考にできる資料にすればいいだろう。

社内の事務処理規程を整備し、それに沿って運用する。国税庁が公開しているサンプルをベースにしてもOK

参考資料(各種規程等のサンプル)|国税庁

既存業務のあいまいさをなくして再整理するという意味でも、事務処理規程を作っておいて損はない。けれど、従業員が1~数名程度の小規模事業者やフリーランスの場合は、いちいち社内規程として整備することの合理性が感じられない、というのも確か。

そうした事業者は3つ目の方法として、「データの訂正削除を行なった場合にその記録が残るシステム、または訂正削除ができないシステムを利用する」を選ぶことになるだろう。

改正電子帳簿保存法に対応するSansanの「Bill One」などを利用すれば手っ取り早い

たとえば、請求書などのやりとりを独自または汎用のシステム上で行なって、データとしての「真実性の確保」を自動的に可能にする。こうすることで、利用するシステムによってはさらなるメリットがある。後述のもう1つの要件である「可視性の確保」も同時に満たせる場合もあるのだ。そうしたシステムの1つに、今回ご協力いただいたSansanの「Bill One」も含まれる。

ポイント3:読める内容で、すぐ探せるようにする

「真実性の確保」と並ぶ電子保存におけるもう1つの要件は「可視性の確保」だ。これは「ちゃんと読める内容になっていて、日付や取引先などですぐ検索できるようにせよ」という意味になる。

文字化けしていたり、「5と6が区別できない」など正しく読み取れない内容になっていたりすると、自分自身にとっても不都合なので、これは妥当な要件と言えるだろう。が、検索性についてはどのレベルのものを求めているのか気になるところ。

ここは、その請求などに関する「日付」「取引金額」「取引先名」という少なくとも3つの項目が、ファイルを一覧で見た時にわかるようになっていることが1つ。さらに日付と金額については範囲指定で検索(絞り込み)できるようにし、そのうえで2つ以上の要素を組み合わせて検索(絞り込み)できるようにしなければならない。

具体的なやり方としては、まず請求書のデータ1つ1つのファイル名を「日付_取引先_金額.pdf」のように、一定の命名規則で保存していく、というもの。日付や取引先をフォルダ名にしてファイル整理する、という方法でもいい。もしくは、ファイル名に規則性がないとしても、個々のファイルに対応する日付、取引先、金額などの要素すべてを正しく参照できるよう、別途スプレッドシートなどで「索引簿」を作って管理する、という方法もある。

可視性の確保 パターン1:ファイルの命名規則を定めて運用する/パターン2:フォルダとファイルの命名規則を定めて運用する
可視性の確保 パターン3:各ファイルに対応する情報を索引簿に記録して運用する

運用の中身としてはそれほど難易度の高いものではないだろう。けれど、取引が多いと単純に作業負担が増え、余計な人的リソースが必要になることは想像に難くない。そのため、おそらくこの部分についても現実的には何らかのシステムを利用することが一般的な解決策となりそうだ。

それ以外に注意しておくべきポイント

電子データもしくは紙書類の保存期間は、法人の場合、確定申告書の提出期限より7年間と定められている。したがって、7年間はそのファイルが破損することなく保管し続けられる環境も必要だ。

パソコンのHDDにのみ保存していると、その7年間のうちにHDDの老朽化によってファイルが破損する可能性があるし、うっかり削除してしまう危険性もある。 SSDなど不揮発性メモリ使用のストレージも、媒体寿命が長くないこともあるため注意が必要だ。

自分自身で管理しようとするなら、無難なのは、冗長性のあるクラウドストレージやネットワークストレージ(NASなど)を利用することだろう。今回の電子帳簿保存法の改正においてはバックアップを行なうことは必ずしも求められていないが、操作ミスや機器トラブルでファイルを失ってしまうことのないようにあらかじめ対策を考えておきたい。

NASやクラウドストレージなど、冗長性(万が一データ破損や故障があっても復旧できる)のある媒体にバックアップしておくことが大事

また、請求書を送る側としても注意しておかなければならないポイントもある。たとえば電子と紙の両方で請求書を送るようなケースだ。このとき、両方とも全く同一の内容であるのなら、受け取り側がどちらを保存するかを決めてもいいことになっている。受け取り側が社内処理しやすい方を選べばいいわけだ。

ただ、最初に暫定的な金額の請求書の電子データを(メールなどで)送り、後で確定した金額の請求書を紙で送る、というケースもある。この場合、受け取り側は最初の電子データを破棄し、最終的に紙で送られてきたものを保存しなければならない。やり取りの仕方やタイミングによっては混乱する可能性もあるので、思いがけず法律違反してしまうことのないように、互いに配慮すべきだろう。

違反したらどうなるのか。電子化しない選択肢もアリ?

社内の事務処理規程を整備するか、あるいはシステムを利用することで、改正電子帳簿保存法に対応できるようにしたとする。しかし、運用上で手違いがあったり、正しくデータ保存していなかったりして、法律に違反した場合はどうなるのだろうか。

一番大きな罰則としては、「各税法上の保存書類として認められない」ということが挙げられる。デメリットとしてわかりやすいのは領収証だろう。通常なら経費として計上し、その分所得税から控除できるが、違反によって「適切な経費として認められない」ことになるため、控除が一切不可となる。

また、株式会社であれば法人税について、個人事業主は所得税について「青色申告の承認が取り消しになる」というペナルティもある。特に個人事業主においては、最大65万円の青色申告特別控除が不可となり(白色申告となる)、通常よりも税金を多く支払わなければならなくなるのが大きい。さらに不正があると判断された場合には「重加算税」の対象になる可能性もある。

正しく対応し、運用できなければ、主に3つの罰則が課される

とはいえ事業者が実際にどのように電子帳簿保存法に対応し、運用しているかを行政側が常に把握することはないと考えられる。たとえば決算ごとに税務署がチェックする、というような形も今のところは想定されていないようだ。

国税庁の一問一答には、従来の税務調査のように抜き打ち的に確認することがあり、そこで違反が見つかれば、(悪質でない限りは)違反の程度などを総合的に勘案したうえで判断する、という旨の内容が記載されている。どうなるかはその判断次第だが、いずれにしろ、改正電子帳簿保存法に対応するからには、その決まりごとを遵守して、社内で間違いなく運用し続けなければいけない、ということは肝に銘じておくべきだ。

電子化は大前提として、いかに運用を効率化していくか

改めて説明すると、最初の方で述べたように、電子帳簿保存法は電子保存に関する法律であって、紙で保存することについては規定されていない。なので、電子化のためにいろいろ面倒な対応が必要になるのであれば、いっそのこと全部紙にしてしまえばいい、と考えたくなる人もいるかもしれない。

が、すでに多くの書類が電子化し、その利便性を享受しているなか、今さら紙に戻すことを受け入れる事業者(取引先)はさすがに多くはないはずだ。印刷、封入、郵送といった直接・間接コストの負担が増えることの方が、長い目でみれば電子化にかかる負担より圧倒的に大きくなることは間違いない。電子化はする。そのうえで、どう効率的に対応し、運用していくかを考えるべきだ。

少なくとも請求書に関して言えば、先ほど例示したBill Oneを使えば「真実性の確保」と「可視性の確保」の両方を満たしたうえで、改正電子帳簿保存法に対応できる。同社の名刺管理サービスで蓄積したデータ化のノウハウを元に、紙の請求書を電子化するワンストップサービスも用意しており、かなりの労力を節約できるだろう。受け取る請求書が毎月100件までなら無料で利用可能な「スモールビジネスプラン」もあるため、中小企業も導入しやすいはずだ。

領収証などのデータ・書類を扱う他の会計関連のツールにおいても、その多くが改正電子帳簿保存法に対応できるよう改修、もしくはサービス拡充を進めているようだ。自社で利用している会計ツールの対応状況については早めにチェックしておきたい。

2022年1月1日の施行まであまり時間はない。しかし、中小企業やフリーランスであれば、対応の仕方によってはそれほど大がかりな準備や作業は必要なさそうでもある。施行されるその日までは、請求書を受け取ったときに「電子データだからこう保存しよう」「紙書類だからこうしよう」といった判断を今のうちから頭のなかでシミュレーションしつつ、実際の業務を改正電子帳簿保存法に即したものに少しずつ寄せていくのがおすすめだ。