鈴木淳也のPay Attention

第136回

お金贈りアプリkifutownが「ウォレット」を導入した意味

ARIGATOBANKの新サービス「カード」の紹介ページ

4月1日の記事で紹介しているが、ARIGATOBANKはお金贈りアプリ「kifutown」で「残高(電子マネー)機能」の提供を開始した。ウォレットに相当する機能であり、同機能に対応したアプリであれば送られたお金を「残高」として受け取ることができる。残高は「電子マネー」として買い物が可能で、やはり同日よりサービスを開始した「Visaプリペイドカード」を通じてVisa加盟店での買い物が可能になる。

発行可能なカードは3種類あり、1つめはオンラインでの利用を想定した「ARIGATOBANKカード ネット専用」、2つめは300円の手数料で発行できる物理カードの「ARIGATOBANKカード ライト」、3つめは本人確認後に900円の手数料で発行できる物理カードの「ARIGATOBANKカード プラス」となる。

なお、本人確認手続き後は「残高(電子マネー)機能」で保持可能な残高の上限が初期状態の10万円から100万円まで上昇し、チャージ上限金額の緩和や海外利用などが可能になる。いずれにせよ、kifutownサービス開始から10カ月ほどが経過した現在、ARIGATOBANKは当初予告していたウォレット機能実装を果たし、ようやく送金と決済が一体化した金融サービスとして歩み始めた状態といえる。今回、ARIGATOBANK代表取締役の白石陽介氏と、ウォレット機能の事業を担当した同社事業企画責任者の細田敦史氏の両名に、現状までのサービスのサマリーとウォレット機能実装の背景について話を聞いた。

kifutownアプリで発行可能な3種類のVisaプリペイドカード

寄付プラットフォームへのウォレット導入の狙い

まずは今回の主役であるウォレット機能の話題から。以前のレポートでも触れたように、もともとkifutownのアプリでは登録した銀行口座に送金(振り込み)を依頼するという方式を採用しており、アプリ上で直接送金を受けられる仕組みにはなっていなかった。

今回の残高機能の付与により、アプリ上で直接お金を受け取るウォレット方式にサービスが全面移行することになる。

テクニカルな話をすれば、以前までは「収納代行」の仕組みを使って送金の中継を行なっていたものが、今回のウォレット機能提供に合わせて「前払い式支払い手段」へと移行する。会社的には「これまでお金の中継に徹して手元に残さない」ことに注力していたものが、前払い式へと全面移行することで、いわゆる「○○Pay」の電子マネーサービスを提供する競合他社と近い位置付けとなる。

kifutown自体は「寄付」という送金行為に注力したサービスではあるものの、その機能に加えて純粋な「モバイルウォレット」としての利用も可能になった。残高のチャージ手段として「クレジットカード登録による残高チャージ」「セブン銀行ATMでの入金」の2つが現時点で用意されており、アプリ上でVisaプリペイドカードを発行すれば、そのままVisa加盟店であれば一部を除いてほとんどの店舗で利用できる。

とはいえ、もともと寄付金の受け皿としてのウォレットであり、やはりチャージのルートとしては「寄付金の受け取り」が引き続き重要な位置を占める。例えば、以前に前澤友作氏が「全員お金贈りfrom宇宙」で配ったお金をウクライナの基金に募金せず、そのまま電子マネーで受け取る場合にはこのウォレット機能が必要となる。

後述するが、小額の寄付金であってもウォレットであれば気軽に受け取りが可能になるため、今後はkifutownにおいてより小額の寄付プロジェクトが増加すると予想される。プラットフォームを盛り上げる意味でウォレット機能は重要な位置を占めるようになる。

前澤友作氏が行った「全員お金贈りfrom宇宙」

なぜ送金プラットフォームでウォレットが重要かといえば、理由の1つには手数料の問題がある。

銀行振込の場合、金額にもよるが1件あたり200円台の手数料がかかるが、ウォレットへの送金であればこの負担がなくなる。従来の銀行振込では寄付する側に手数料負担をお願いしていたものが、ウォレットへの移行で緩和されることになる。

逆にデメリットとして、前払い式を選択したことで「現金」としての出金ができなくなり、残高をVisaプリペイドカードとして利用するしかないことが挙げられる。

この点についてウォレット機能開発を担当した細田氏は次のように述べている。

「Visa加盟店であればモノを買ったり、カバレッジの面で問題にはならないと考えました。逆にメリットを考えれば寄付者の方の負担が減りますし、なにより処理がスピーディになります。寄付のプロジェクト自体の審査や金額の大小にもよりますが、実際にプロジェクトを締め切って寄付金を送るという段階になれば、その日のうちに送金が完了します」(細田氏)

以前までは口座の登録から実際の振り込みまで、手数料のみならず事務作業負担に大きく作業時間がかかっていたものが、ウォレット化により一気に簡素化され、処理が迅速になるというのが大きな変化だという。もともと、ARIGATOBANKが設立された経緯が前澤氏の「お金贈り」企画での寄付送金の手間と煩雑さを解消するものであったことを考えれば、ようやくスタート地点に立ったといえるかもしれない。

もう1つ、ウォレット化移行における課題の1つは寄付を受け取るアカウントの審査だ。いわゆる「反社チェック」などがそれに該当するが、以前までであれば銀行口座を利用していたため、その部分で本人確認がすでに行なわれていると判断できた面がある。だが前払い式のウォレットでは誰でも簡単にアカウントを作ることが可能だ。この部分では本人確認を別途アプリ上で行うことで、10万円を超える高額な寄付の受け取りや残高利用が可能な仕組みになっている。Visaプリペイドカードが3種類用意されているが、このように“ティア”分けされている理由の一端はここにある。

なお、Visaプリペイドの発行にあたってはオリコと提携を行なっているが、同社を選んだ理由について細田氏は「すでにプリペイド発行で実績があったことを重視した」と述べている。

ARIGATOBANK事業企画責任者の細田敦史氏

実はモニタリングにすごく手間をかけています

このようにARIGATOBANKにとって重要なマイルストーンとなるウォレット機能のリリースだが、あくまで同社が提供するサービスの起点であってマネタイズの柱ではない。

白石氏は「現状のビジネスでは、kifutownを一般公開したタイミングで寄付額に応じて手数料をいただいており、これが収益になっている。もちろんカード発行によりイシュアになるのでその手数料収入というのも発生するが、専門用語でいう『IRF(Interchange Reimbursement Fee)の戻りが“薄い”』ということもあり、決済は中心的な収益源になるとは考えていません。基本的にはお金周りの課題解決を目標としており、派生していくサービスの方向はお金に関するものであって、必ずしも決済ではないのです」と今回のサービスの位置付けを説明する。

現状の同社を振り返ると、2021年7月にiOS向けのkifutownアプリの提供が開始され、9月にAndroid版の提供開始とサービスの一般開放(寄付プロジェクトの一般からの応募開始)、そして同年末の「全員お金贈り」という流れだ。アプリのインストール数は700万を突破し、寄付プロジェクト数は2,000件を超えている。「日本でも寄付という文化が起こりえる」というチャレンジの成果が得られる一方で、現状の課題としては「コンバージョン率」や「リテンション率」が挙げられる。

仮にアプリをインストールしていたとしても、1回目に寄付した人がベネフィットを感じなければサービスに戻ってくるか分からないし、寄付を受ける側が何回応募しても対象にならなければ諦めて離脱してしまう可能性がある。また、「全員お金贈り」では1,000万件以上のエントリーがあったというが、アプリの利用の実際をこの数字に近付けていかなければならない。

現在、サービス全体のリニューアル中であり、本インタビューを行なった3月時点で新規プロジェクトの受付を止め、リリースのための移行期間に入っている。ユーザーからの意見や通報はTwitterを含めいろいろと上がってくるが、より簡単でスピーディに寄付できる仕組みを目指すと白石氏は述べている。

ウォレット導入の狙いの1つとして、最低寄付金額を下げるというものがある。例えば寄付金額が1,000円に対し、銀行振込では手数料だけで2~3割を持っていかれてしまう計算になるため、プラットフォームとしては機能しないといっていい。現状で1人の寄付者に何万件の応募が集中するという構図だが、今後は数件ないし十数件など、より現実的で気軽なプロジェクトと寄付の関係を目指す。またクラウドファンディングに近いが、逆に寄付を受けたい方が「こういうことをやるので支援してほしい」というプロジェクトを立ち上げたりする仕組みも、そう遠くないタイミングでリリースしたいと述べる。

ARIGATOBANK代表取締役の白石陽介氏

また白石氏が強調するのが「おそらくkifutownを使っていただいている方が想像するよりはモニタリングにコストを使っている」という点だ。同氏をはじめ、ARIGATOBANKのメンバーの多くは他社でのECシステム構築の経験者が多いが、「寄付による送金」という業界であまりないビジネスのためノウハウが蓄積されておらず、当初はかなり苦労したという。

「細かいモニタリングはできないので、かなりの部分で人力を用いて何か怪しい動きはないかを監視しつつ、プロジェクトを停止する措置を執っています。実際に審査の段階を含め止まったプロジェクトは数多くあり、先ほど述べた2,000件の何倍もの起草されたものが存在し、申し込み段階ではさらに多くの数があります。現状、プロジェクトをAIで弾くのは難しく、外部の協力会社と組みつつ機械的な一律処理を経つつ、個別の審査を行なっている状態です。二重アカウントはそれほど問題にはなりませんが、例えば結託当選で事前に申し合わせがあるケースなど、いろいろなパターンが考えられます。応募者や当選者が増えれば当然コストも増加するので、モニタリングはユーザーが被害に遭わないためにも、われわれのビジネスで一番コストをかけている部分だと思います」(白石氏)

法令遵守の面でも関係当局の相談のうえでサービスの建て付けを行なっているということで、かなり見えない部分での手間がかかっている仕組みだといえるかもしれない。特にサービスの性格上、怪しいビジネスへの転用が容易など“レピュテーション”に関するリスクも他社に比べて多く抱えており、こういった視点から俯瞰していくと非常に興味深い取り組みだ。

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)