西田宗千佳のイマトミライ

第367回

AIが「最安」を選び続ける世界は幸せなのか? Museと節約・買い物自動化の光と影

常時動作型AIエージェントに頼るようになって2カ月ほどが経った。今はMetaのMuseをメインに使うようになっている。Museは無料で使い始められることもあってか、日本でも急速に利用者を伸ばしているようだ。

今回は、もう少し先の話を「夢想」してみたい。

Museを含むこの種のサービスが一般化するなら、我々の生活にはいろいろな変化が現れる。特に「お金」が絡む部分では、驚くほどの変化を我々にもたらす可能性が高い。

正確な予測が難しい範囲も多いし、長期的な変化についてはなおさらだ。だから、今回の記事で書くことは「正確に未来を予測した」ものではない。

だが、起こりうる話であるし、みなさんも「これから何が起こるのだろう」ということを考えてほしい部分もある。

今回は、そんな「AIエージェントとお金」の将来についてである。

MuseなどのAIサービスは「お金の扱い」を狙う

Museの特徴は、いろいろな使い方をサービス自身が提案してくることであり、お願いするとその先はMuseが大半を自分で処理してしまうことだ。

AIはいろいろなことができるようになっている。賢いモデルを扱う有料プランなら、おそらく大半の人の想像より、はるかにいろいろなことがこなせる。ただ、多くの人は「何ができるか」「どうお願いすればいいか」がわからない。

だからAIが本当にアシスタントとして働くには、できること・すべきことを積極的に提案し、自走する必要がある。MuseやGrok Bot、Dotsなどの最新サービスが注目されるのはそのためだ。

特にMuseは自律的な提案が得意。サービスとしてかなり意識的に作られている。

その中でも力を入れているのが「節約と買い物」だ。

機能提案の中には、「サブスクを把握して無駄を減らす」「住んでいる場所に応じて一番安い電気料金プランに変える」「節約の目標を決めて削減すべき項目を教える」などが並ぶ。

Museの画面。筆者に対して、サブスクの確認や電気プランの最適化などを促してくる

どれも仕組み的には、「メールなどから自分が契約しているものの状況を把握し、ウェブ検索で適切な情報をまとめ、突き合わせて提案する」というものだ。それぞれで扱う情報の内容こそ異なるが、作業自体は予定管理と違うものではない。だからできても不思議はないのだが、お金を扱ってくれる、ということになると、また違った感覚を受ける。

また、先日日本上陸を果たしたAlexa+も、Amazon内の買い物について、「いつも買うもの」「いつも買うブランド」のセールを教えてくれて、注文直前まで行なう。そして、ユーザーに確認した上で発注まで進めてくれる。

Alexa+には、Amazonで買うものの値段を自動チェックし、セールに合わせて買う機能もある

まだ実現していないようだが、過去のデモでは、好きなスポーツについて雑談し、その試合のチケットの価格を監視、自分が希望する価格になったところで買う……といったことが可能になるとしていた。

こちらも、自分の希望に合わせてAIが自動で動き、お金の無駄を省く機能と言える。

AIサービスは「お金の扱いでの信頼」を作りはじめた

そもそも、お金にまつわる話はいろいろ危険な部分が多い。勝手に処理された際に金銭的トラブルが起きると、解決は当然面倒になる。

だから、不安を感じる人もいるだろう。現状筆者も、Museのようなサービスにすべてを委ねるべきだ、というつもりはない。

とはいえ、こうした世界での「自動化」は以前から行なわれてきた。株式やFX取引の自動化はその典型だ。オンライン広告についても、リアルタイムでの自動買付による運用が基本。それがうまくいっているのは、安全に取引するための仕組みが存在するからでもある。

時には「お名前.com デスクトップクラウド」でのFXの自動売買ツールに関するトラブルのように、甘い管理を突かれて大きな問題に発展することもある。だが、そうならないようにシステム側で担保するのが基本だ。

AIでの購買や契約変更を当たり前にしていくなら、そのための安全な仕組みが必要になる。MetaはMuseでショッピングサイトやLink(Stripe)やPayPalなどの決済サービスとの連携を強調していた。そうすることで、より安全な決済が可能になるからだ。

9月のMetaイベント取材写真より。同社はMuseでのショッピング機能を重視している
大手ショッピングサイトとの連携のほか、PayPalなどの決済事業者との連携をアピール

特に決済事業者との連携は、今後大きな価値を持つ。

多くの企業に対するサイバー攻撃で、毎日のように個人情報の流出が起きている。攻撃の激化自体が原因ではあるのだが、「あらゆる企業が決済情報を自社内に保存する」ことにより、管理負担を企業側に強いている部分があるのも否定できない。

今後は、注文に必要な最小限の情報だけを持ち、決済については専門事業者と連携して彼らに任せる……という手法が1つのリスクヘッジになり得る。

AIエージェントでの利用でも同様だ。

AIサービスに決済権自体を渡すのは不安、というのはわかる。ならば、決済サービスとの連携を使い、AIが決済するときには「AIが決済サービスを使うことを許諾する」形にしていけば、リスクは多少減ることになる。

「全員がAIで素早く賢く」なると価格はどうなるのか

人間は楽をしたがるものなので、AIによる管理を受け入れていくとしよう。

AIは人間より賢いとは言えない部分もあるが、人間よりは確実に作業を続けてくれる。人間だと細かく価格をチェックし続けるのは大変な作業だが、AIにとっては造作もない。だからお得になる……というのがAIサービス事業者の考えだ。

そうなると気になる点が出てくる。

すべてのもの・サービスの価格には、企業や流通が必要とするコストや利益が含まれる。安価だということは、「もともと原価が安い」か「コストや利益を削っている」か、「宣伝などの名目で価格を補填している」かだ。なんでも安くはならないし、安くなるには理由がある。

別の言い方をすれば、他社との競争の中に価格戦略は存在し、誰かが高い時に買うから安いタイミングがある、ということでもある。

AIが常に安価なタイミングを狙い、確実に実行してくれるとすれば、価格差はいつ生まれることになるのだろうか?

また、広告や認知拡大を前提に割引が行なわれる場合、購入をAIが代替してしまったら、その認知拡大の役割は、本当に果たされたと言えるのだろうか?

安価なサービスは長期的な利用を前提にビジネスが組み立てられていることが多い。だから、切り替えを阻害するダークパターンも存在する。それは論外ではある。だが、AIが簡単に切り替えを行なうのが前提になると、今のように「面倒だから契約を残す、変えない」という事態は起きづらくなる。

消費者の理想を言えば、すべてが最適化され、常にもっとも安価かつ、品質もベストな状態になるのが望ましい。AIはそれを助けてくれる可能性が高い。

だが、メーカーや事業者側から見れば、これまでのビジネス秩序の中には「全員が最速かつ最適な手を打たない」ことを前提としているものもある。この秩序が崩れるとすれば、どうなるのだろう?

ヒントはすでにある。旅客機やホテルのダイナミックプライシングだ。需要の変化に連動して自動的に価格が変わる仕組みは、ある意味で機械同士の「読み合い」でもある。

ダイナミックプライシングでは需要と供給の最適化が進む一方で、価格は高騰しやすい。相場の把握も、一定の期間で行なう必要があり、機械頼りになっていく。

すなわち、AIに依存した購買が進めば進むほど、AIの介入がない購買行動は単純に不利になっていくのである。

Museでは「サブスク見直し」をアピールしている

「自動で買う行為」を禁じるECサイト 公平性はどう担保するのか

もう一つ面倒な問題として、「購買タイミングの公平性」という話もある。

現在のECサイトでは、多くの場合、ソフトウェア的に「自動で購入する行為」は禁止されている。法的に禁止されているわけではないが、利用規約上、禁止行為になっていることが少なくない。

AmazonはMuseからの購買をシャットアウトしているが、その理由は「利用規約上禁止されているから」でもある。

なぜこうなっているかといえば、人間よりも素早く確実に購入できるため、買い占め・転売目的の購入につながるからだ。

禁止されてはいるが、今も転売目的での購入では、大量の機器による自動アクセスが使われており、人間が「買い負ける」ことが少なくない。

AIでの購買も、基本的にはこの課題に直面する。

異常な頻度でのアクセスや買い占めにつながるような行為を防ぎつつ、AIに頼むだけで購入やサービス切り替えを行えるようにするには、サービスと正当に接続する方法を定めていく必要がある。

さらには、AIに人間が買い負けないように、公平性を担保する仕組み(抽選や受注販売など)を整備していく必要も出てくる。

「買う」ことの選択にAIはどう絡むのか

買う、という行為を考えたとき、すべての商品が同じ行動で決まるわけではない。

「買いたいもの」として、頭の中で思いつくものはさほど問題はない。スマホなどのデジタルガジェットやアウターなどの服飾、家具や車に至るまで、「主要な買い物」は、価格だけで決まるわけではない。自分の意識の中に欲しいもののイメージがあり、それに基づいて購入が決まる。

だが、生活の中で必要になるものには、そうした心理で選ばれていないものもある。

シャンプーやティッシュペーパーを選ぶ時、あなたはどうやって選んでいるだろうか? 相応のこだわりがあって選ぶ場合が多い、というのも事実だろう。だがそれも、広告による情報に加え、店頭で「手に取りやすいところにある」から選んでいる、という場合がほとんどではないだろうか。

「いや、私はティッシュペーパーにこだわっている」

もちろんそういう人もいるだろう。

ではテーブルの上に置くソースは? つまようじは? 牛乳は? お茶は? カップ焼きそばは? USBケーブルは?

生活の中で「買う」ものの大半は、日常的に消費する、そうした「そこまで強くこだわりはないが、なんとなく選んでいる」商品である。そんな製品では、「これを選び続けた」という惰性や、「店舗で目につきやすいところにあった」ということが重要になってくる。言葉を選ばずに言えば、「強い意志で選んでいないものを惰性で買わせる」ための仕組みが存在する。

だからこそ、定番になった製品は強い。量販店における営業活動やマス広告には、そうした行動を促すことを目的とした部分が多い。

以前Amazonは、「Amazon Dash」というシステムを提供していた。

これは、定番製品を簡単に買う方法を用意することで、定番製品からのスイッチを「させない」ことを目指したもの、とも言える。結局サービスは停止したが、定期的に購入することで割引を提供する「定期おトク便」は、利便性を提供するものであるのと同時に、「ライバル商品へのスイッチを減らす」ことも目的としている。

オンラインで購入するもの、契約するものに限られるとしても、人間の経済活動のうち「こだわりが薄いものをAIに依存する」ようになった場合、「定番から変更させる」もしくは「変更させない」ためにはどんな行為が必要になるのだろうか?

価格も重要だろうが、場合によっては「AIに選ばせるための手法」が出てくる可能性もある。

こだわりがある商品についても、AIに相談しながら買う可能性は高い。事実筆者も、あまり知見のない製品については、AIに聞いてから選ぶことが少なくない。その時、AIがなにを推薦してきたか、ということは、非常に強い購買経路になり得る。

そうした部分への広告やマーケティングキャンペーンの介入はどうあるべきだろうか?

「今ならキャンペーンで安くなります」とAIが判断して勧めてきて安くなる、とすればそれは魅力的な話にも思えるが、それが広告連携で促されたものだとすると、公平な提案とは言いづらくなってくる。

もちろん店舗などでも同じことが行なわれているので、「公正なルールと告知のもとに行なわれる」のであれば問題ない、という話なのだが。

こだわりのある商品でも、「似たデザインや機能で価格が安いもの」をAIが提示してきたらどうなるだろう? AI検索の中で「写真に写ったデザインに似た服」を探すのは、まさにこの問題とぶつかる。

さらに言えば、買うものは消費者が選択するとしても「販路」はどうだろう? 決済が楽になり、経理や税処理もやってくれるなら、今までのECサイトではなく、AIが使うECサイトと決済手段を選ぶようになる人もいるはずだ。

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AIと人間の「経済活動」はどうなるのか

ここまで考察してきたことは、現状では杞憂に過ぎない。「AIからの購買を禁じているサービス」を除けば、利用自体には問題がない。

だが、本当にAIが人間の経済活動の中に入っていくのだとすれば、考えるべき課題がたくさんあるのは事実だ。ざっと夢想してみただけで、ここまでで出てきたような矛盾と課題が見つかる。

ただ、AIが我々のパートナーになっていくなら、こうした経済活動は、サービサーにとって大きな収益源になるだろう。単純に広告を入れるのは課題が多いので、決済と家庭内経理のフロントとなることに収益性を見出していくだろうし、金融機関や大手ECサイトも、その可能性をすでに考えていることだろう。GoogleもAI検索の中では、単純な検索広告以上に「AIコマース」の可能性を高いものと見積もっている……という感触を得ている。

ここからの数年の間に、我々とAIの「経済活動」はどのようなものになっていくのだろうか?

AIの賢さ以上に、こうしたフレームワーク自体が大きなテーマになる、と筆者は予想している。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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