西田宗千佳のイマトミライ

第231回

見えてきた「EUでのApp Store」 代替ストアでのアプリ配布の形

EU圏でのDMA(デジタル市場法)対策のため、アップルはApp Storeの運営ルールなどに変更を加えた。その実現方法と状況がもう少し見えてきたので、具体的な情報をお伝えしたい。

今回の施策はあくまでEU向けのものであって、日本など他国でそのまま採用されるわけではない点に留意いただきたい。そもそも、このEUでの対応から学んで日本向けの対応を考えるべきだ。

そのためにも、全体の状況をここで把握しておきたい。入手した情報に基づき筆者側で解説図を作ったので、それも合わせてご紹介する。

以前の記事でも解説したが、EUでのDMA規制に伴う対策のため、アップルは主に以下の4つの施策を実施する。

  • 外部決済の本格的な導入
  • 外部ストア形式でのサイドローディング対応
  • NFCを使った決済において、Apple Payをデフォルトとする設定を変更可能に
  • WebKitベースのウェブブラウザー以外を許容し、デフォルト設定も変更可能に

特にここでは、外部決済と外部ストアの構造について解説してみたい。

代替ストアであっても「アップルの審査」はある

アップルは今回、決済について3つの形を用意した。

まずはいままで通り、App Storeを使う方法。これは決済額や仕組みなど、なにも変わりない。

次に、App Storeを使いつつ、外部決済を使う方法。この場合、アプリの流通経路自体は変わらないがアップルへの支払額は変わる。

最後が「代替アプリストア」を使う方法。この場合、アプリの流通は代替アプリストア経由になり、アプリの使用料などの支払い先も変わる一方で、アプリ提供元にはアップルには別途「コア技術利用料」の支払いが発生する。

ここで重要なのは、「ではアプリの安全性はどう担保するのか」という点だ。

第一義的には、代替アプリストアが責任を負う。そのため、代替アプリストアを開くには、アップルに審査を依頼し、決済などを含めた条件を満たしているかどうかの条件を確認したのち、代替アプリストアを開く。

アプリケーションをインストール可能にする場合にはユーザーからも「このアプリストアからのインストールを許容する」操作をする必要が出てくる。

アプリには提供元に紐づいた暗号鍵が埋め込まれ、それが認証されないとインストールできない。これはMacで使われている手法に近い。

次に、アップル自身も基本的な「審査」を行なう。

理由は、アプリの基本的な安定性やマルウェア混入の有無など、アップルとして許容できるテクノロジー上の安全性を担保するためだ。

この審査プロセスは、代替ストア向けであっても行なわれる。

そのため、アプリの「配信に向けた提出」を、アプリ開発者はこれまで通りアップルに対して行なう。

その上でアプリ開発側は、どの代替ストアでアプリを提供するのか、App Storeでも提供するのかどうかを選ぶ形になる。

アプリはアップルに登録され、その後どのストアに登録するのかを開発者が選ぶ。取材で得られた情報より筆者作成

すなわち、代替ストア経由だからといって一切アップルの技術的なチェックが行なわれないというわけではなく、最低限のチェックはアップルの手で行なわれることになる。

これは、Android向けに提供されている代替ストアとは大きく違うアプローチと言える。

代替ストア・代替決済を選んだ時にどのアップルのサービスが使われるかは、次の図のようになる。

支払い方法やストアの違いによる、アップルの関与度の違い。取材で得られた情報より筆者作成

アップルが支払いを求めている「コア技術使用料」とは、OSやプラットフォームなど、アップルのプロプライエタリな技術を使うコストだけでなく、アップルによる最低限の審査を通すためのコストも含んでいると考えられる。

代替ストアの運営方針にアップルは関与せず

では、代替ストアとApp Storeはどう違うのか?

基本的な技術面での審査はアップルが行なう。そうなると同じになるように見えるが、実際にはそうではない。

アップルはApp Storeにおいて、複数のポリシーを定めている。海賊版対策や誤解の生じないアプリに対する解説など、人力でチェックしている部分が多い。すべてが常に100%機能しているとは言えないが、見過ごされるものが多くないのもまた事実だろう。

同時に、ポルノなどの要素が許容されないのは、アップルが「そうしたものがないストア」を望んでいるからだ。

また、課金後の返金対策なども、アップルが方針を決めて対応している部分だ。

代替ストアにおいては、基本的な技術部分を除く、こうした「ストアの運営ポリシーによって定められる」ということだ。どんなアプリが許容されるかはアプリストアの側に委ねられる。

つまり、自由なストアと、今まで通り安心できるApp Storeがそれぞれ併存することになる可能性が高い。自由度が増すことは良いことにも思えるが、一方で、海賊版対策や返金対応などが甘い、質の良くないストアが出てくる可能性もある。その場合、すべての部分で「安全」か、というとそうではなくなる。

おそらくアップルが懸念する「安全とは言えなくなる」とは、そういう部分を指すのだろう。

日本の動きは「EUを見定めてから」でいいのでは

安全性の面で考えると、アップルの危惧するのは「ストアの運営ポリシーによる違い」ということになるのだろう。

ただ、マルウェアの混入や動作安定性など、最低限の部分はアップルが関わることになるので、野放図な状況にはならないようだ。この点は安心できる。

一方で、結局アップルが関わるため、「コア技術使用料」という支払いが発生することには、代替ストアを求める事業者などから批判も出ている。

アップルが安全のために審査するから……という立て付けはあるにしろ、その額が妥当なのかという議論はもちろん出てくるだろう。「自分達で面倒を見るのでそのコストを下げて欲しい」という企業も出てくるだろう。

支払い費用と自由、自社でストアを開くことのバランスを考えた場合、なかなか難しい選択はあるだろう。自由を求めてストアを開く選択をする企業もあれば、コストの問題から独自決済だけを選ぶところもあるだろうし、いままで通りの企業もいるだろう。アップルもかなり慎重にバランスを見て、消費者の安全も担保しつつ、自社の不利益が大きくならず、それでいてEU側の求める条件にも沿う選択をしてきたのだろう。

日本での議論の中で出てきた「代替アプリストア策」も、おそらくはこの流れで出てきた話を参考にしているものと思うが、筆者としてはまず、EUでどう受け入れられ、どんな問題が出るかを見定めてから判断してもいいのではないか、と考える。

この案には良いところも悪いところもあるように思う。少なくとも「野放図にアプリが配布される」わけでないことはプラスだが、コストと用途のバランスがどうなるのか、慎重に見定める必要はありそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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