西田宗千佳のイマトミライ

第232回

値下げが難しいPS5、他社にゲーム供給するMS ゲーム専用機ビジネスの変化

先週はコンソール(ゲーム専用機)ビジネスについて、大きな話題が続いた。

2月14日にはソニーグループ(ソニーG)の決算会見があり、ゲームビジネスの現状が語られた。その中でソニーG 代表執行役 社長 COO 兼 CFOの十時裕樹氏は、「過去に比べると、半導体進化の恩恵がなかなか得られなくなっている」と話し、PlayStation 5(PS5)が過去ほど大幅には値下げされないであろうとの見方を示した。

2月16日早朝には、米マイクロソフトがXbox関連の施策を発表した。具体的には、「今後、PS5やNintendo Switchなど他社プラットフォームにも、4作品の独占タイトルを提供する」こと、そして「ハードウェアビジネスも継続し、年末には複数の新製品を発売する」ことなどだ。

こうしたコメントはどのような意味を持つのか、そして、今のコンソールビジネスがどのような位置付けにあるのかを、改めて解説してみたい。

売り上げは拡大も利益は減少、普及を優先させた「PS5」

2月14日に公開された、ソニーGの2023年度 第3四半期業績は、売上高3兆7,475億円(前年同期比22%アップ)、営業利益4,633億円(同10%アップ)とかなりの高水準となった。一部投資家はより高い値を予測していたようだが、決して悪い数字ではないと筆者は考える。

ソニーGの2023年度 第3四半期業績。売上・利益ともに前年比で増加している

売上の柱となっているのはゲーム&ネットワークサービス(G&NS)事業だ。1兆4,444億円という四半期売り上げは、前年同期比で1,979億円増加しており、かなり大きい。

一方、利益を見ると前年比で301億円のマイナスとなっている。これは、PS5を積極的に販売したことに伴うマーケティング費用などがかさんだためとされる。

ゲーム&ネットワークサービス部門の業績。売り上げは拡大したが利益は伸びず。23年通期の売上予想も下方修正

PS5はコロナ禍に品不足を起こし、積極的な販売が行なえない時期が続いた。この年末商戦は、PS5発売以降初めての「潤沢に製品が存在する状況で迎えるホリデーシーズン」であり、プラットフォームビジネスの前提となる「普及台数」を積みますには、非常に重要な時期でもある。だから、マーケティング費用が積み増されることは想定内でもある。

PS5の“5年目”の課題

一方、PS5は2020年末発売。今年の末になると「ビジネス開始から5年目」を迎える。一般論として、もはや新製品ではない。

そうしたことから、ソニーG・十時社長は「5年目を迎え、(ハードウェアの)販売数量はピークを超える」とコメントした。

ソニーG 代表執行役 社長 COO 兼 CFOの十時裕樹氏

さらに冒頭でも述べたように、「過去に比べると、半導体進化の恩恵がなかなか得られなくなっている」と説明した。

この言葉には、いくつか前提知識が必要となってくる。

どんな製品も、発売当初の製造原価は高く、量産するほどにコストが下がる傾向にある。特に半導体が原価の多くを占めるIT機器は、半導体製造技術の進化、いわゆる「製造プロセスのシュリンク」により、使っている半導体の製造コストが下がっていくことが、全体の収益に大きく影響した。

ざっくり言えば、同じ性能の半導体を作るコストが下がれば原価も下がり、消費電力も冷却機構のコストも下がる。それが製品の製造コストを下げる結果となり、値引きの原資や収益拡大に結びついたわけだ。

だが、現在は半導体のシュリンクによるコストへの影響が過去よりも小さくなった。

十時社長も「PS4、もしくはそれ以前に比べるとチップシュリンクの恩恵をなかなか得られなくなる。したがって、コストダウンも難しい」とする。

この点は、新型PS5が出たタイミングで、本連載において「ゲーム機は待っても大幅には値下げされない理由」として解説している。

これらのことから、「PS5のビジネスモデルが行き詰まっている」とみる向きもあるようだが、それは少々単純な見方ではある。

こうしたコスト構造になっていくのは前の世代から十分にわかっていたことで、ソニーもよくわかっている。それを理解した上で、ネットワークサービスやゲームのダウンロードコンテンツといった「サービス収益」を重視するようになったのだろうし、価格が下がらないといっても、ゲーミングPCがPS5などのコンソールと同じような価格帯に落ちてくるわけでもない。

いかに底堅い収益を確保し、安定的なプラットフォームビジネスとするかが、今後のコンソールビジネスにとっては重要なのだ。過去のように、「大きな赤字が出るがライフサイクル後期には驚くような収益が見込める」というモデルを描くのではなく、「最初からシュアなビジネスを目指し、いかに安定性を長期的に確保するか」が大切になっている……といってもいいだろう。

十時社長は、今年4月からソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の暫定CEOに就任する。そのため、SIEのビジネス状況を改めて精査しているとのことだが、「より収益性とユーザーエンゲージメント、販売数量のバランスをとってビジネスをしていくことが重要」(十時社長)としている。

ビジネスが好調である理由として、ソニーGはPlayStation全体のユーザーエンゲージメントが拡大していることを強調

開発段階での収益性について見直しも行なわれていくと考えられるが、そのためにも「無理をせず台数は増やす」路線が大切、ということになるだろう。

昨年11月14日に開催された'23年度第2四半期業績説明会では、「(PS5の年度内2,500万台出荷という)目標はかなり高いものであることは事実。実現に努力するが、利益を無視してまで実現することはない」(十時社長)と語っている。

実際、今期の値としては820万台の販売にとどまり、期末に2,500万台を達成するのは難しい。これをPS5の限界と取るか、「濃いユーザーが集まった市場」と見るかは立場によって違いそうだ。

決算資料より。年末には1,000万台販売し、年度末2,500万台を目指すとした時期もあったが、無理はせずに820万台にとどめている

特に今年は、SIEとしての大型タイトルが「出る予定はない」(十時社長)とされており、サードパーティータイトルの売れ行きに左右される部分も大きい。「ソニー」としての売り上げで考えればこのことはマイナスでもあり、不安視される要素にもなった、と考えられる。

決算資料より。2024年度はハード売上や自社による大型タイトルの発売予定の問題から、今年度に比べ大幅な収益増は見込まれていない

マイクロソフトは「他社へのソフト供給」を決断

ではマイクロソフトはどうだろう?

マイクロソフトは2月16日早朝の発表で、「マイクロソフトの独占タイトルである4本を、まず、PS5やNintendo Switchなどで発売する」と発表した。タイトルがなにかは明確になっていないが、昨年のヒットタイトルである「Starfield」や、今年後半に発売が予定されている「インディ・ジョーンズ/大いなる円環」ではない、としている。

詳細は以下の公式動画から見られる。

マイクロソフトでMicrosoft Gaming CEOを務めるフィル・スペンサー氏は、動画の中で「Xboxの継続的かつ健全な成長のために選択した」と話す。

マイクロソフトの公式配信より。マイクロソフトでMicrosoft Gaming CEOを務めるフィル・スペンサー氏

彼は以前より「Xboxという特定のコンソールだけがゲームのあるべき場所ではない」と説明している。現在も、XboxとPCの両方に同時にタイトルを発売することは多く、「Xboxの独占タイトルを他のコンソールに提供する可能性」にも何度も言及していた。

ゲームの開発は以前よりコストがかかるようになっている。収益性を拡大するには、より多くの人が楽しめるよう、複数のプラットフォームで出すことが望ましくはある。

一方で、開発する上では、同時に複数のプラットフォームに対応させるにはコストと時間の両方が必要になってくる。「特定のコンソールに人を集める」という事情だけでなく、ゲームを素早く市場に投入するという観点でも、「プラットフォームを限定する」必要はある。

そうなると、ゲームをまず特定のプラットフォームで出しつつも、収益性とファン拡大の両面から、他のプラットフォームに後日展開する……という考え方が必要になってくる。

それはサードパーティーにとっては一般的な選択であるが、同時に「プラットフォーマーに紐づくファーストパーティー」でも選択されるようになってきた。

マイクロソフトがPCとXboxを両方考えるのはそうした要素に基づくものだし、SIEも自社タイトルを、1年以上後にPCにも出すようになっている。マイクロソフトの場合、アクティビジョン・ブリザード買収後の独占懸念に対する対応、という意味合いもあるだろう。

「ユーザーエンゲージメントを切らない」が基本路線に

だからといって、マイクロソフトはハードウェアビジネスを止めるわけではない。

年末には「コンソールやコントローラーを含む複数のハードウェア製品」を発売する予定だという。その先の「新しい体験を備えた新世代機」の開発もしている。数千万人規模の消費者に対し、最適の体験を良いコストパフォーマンスで提供するには、コンソールという「専用機器」がまだまだ必要だからだ。

この辺は、SIEも事情は似ているだろう。SIEで「PS5 Pro」的なものが今年出るのかは疑問だが、ユーザーエンゲージメントを切らない形で、この先のハードウェアにもビジネスをつなぎたいと思っているのは間違いない。

ハードを値下げできず、単純なハードの魅力だけで買い替えを強いるのは難しい時代だ。だから、「コンソールの世代が変わると互換性がなくなり、ソフトが遊べなくなる」ことはもう許容されない。PS4からPS5でもそうだし、Xboxのシリーズ全体でもそうだが、「前の世代のゲームも遊べる・選べる」「買い換えてもリスクはない」というのが今の基本路線だ。

その中で、PS5やXboxは、ソフトの供給体制を含めたバランスを見ながらビジネスを継続していくことになるだろう。

では、もう一つの軸である任天堂はどうするのだろうか?

噂はあるが、どう動くのか正確にはわからない。出るのがいつかも断言はしない。

だが、半導体などの技術動向は他社と同様に影響する。だとすれば、「ライフサイクルの中で価格が大幅に変わることがない前提のハードウェア」で、「現行世代(Switch)との互換性を含めた連続性が断たれない構造」のものになるのではないか……と筆者は予測している。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41