西田宗千佳のイマトミライ

第142回

「GoogleとSpotify合意」でアプリストアはどう変わるのか

スマートフォン上のアプリストア決済について各国で議論が巻き起こっているが、先週、そこに新しい変化が現れた。

GoogleとSpotifyが共同で、サブスクリプション料金の支払いについて、新しいシステムを導入すると発表したのだ。内容は簡単に言えば、「Google Play以外の支払いも選べるようにすること」。導入は2022年後半からとされている。

Google、アプリストア以外での課金に対応。Spotifyから

これはどのような意味を持つのだろうか?

これまでの「アプリストア決済問題」の経緯も含め、解説してみたい。

そもそも「アプリストア決済問題」とはなにか

今回、GoogleとSpotify共同発表の重要な点は1つに集約できる。

「支払いのプロセスにおいて、Google Playとそれ以外の支払いが並列に扱われる」ということだ。

次の画像はそれを示している。

支払い画面にGoogle Playと「その他の決済」が並んでいる

この画像では、Google Playとともに1つ、決済アプリが例として表示されている。支払いの際にはどちらを経由して支払うのかが選べるようになっているが、そこが大きな変化だ。

現状、アプリ内から決済するには、アプリストアのプラットフォーマーが扱う決済手段を使う必要がある。それぞれのプラットフォーマーに対して消費者が何で支払うか(クレジットカードやキャリア決済、POSAカードなど)は選べても、決済そのものをどこが行なうかは選べない。

いわゆる「販売価格の3割をプラットフォーマーが得る」という批判は、この点に紐づいている。

プラットフォーマーは、マルウェア対策の審査や決済データベースの保守などの目的から手数料を徴収しているが、「その額・比率が高い」と批判がある。

筆者の考えとして、プラットフォーマーがやっている管理は確かにコストもかかるもので、いくらかの手数料徴収に値するものかと思う。だが、企業によっては「決済は自分でやりたいし、できる」と考えるところもあるし、「もっと安くしてほしい」と思うところがいるのも事実だ。

画一的だった課金体系が変わり、一部ではアプリストア決済を利用しない「外部決済」への流れも出てきている。マイクロソフトがWindowsの「Microsoft Store」で独自決済を認めたのも、こうした流れに基づく。

「App Store課金体系変更」で何が変わるのか

「じっくり世代交代」していくWindows 11

Google・Spotifyの合意内容とは

そこで「外部決済」という考え方が注目されているわけだが、ここにも面倒な問題が存在する。

アプリストアの外でそれぞれの企業が決済機能をもつから「外部決済」なのだが、すでに行なわれており、それ自体は特別なことではない。

だが、そこでの「簡単さ」はサービスやプラットフォームによってまちまちだ。

例えばSpotifyの場合、すでに彼らはプラットフォーマー経由での支払いによる利益損失を避けるため、アプリストア経由での決済は行なっていない。いわゆる「外部決済」なのだが、アプローチは「AppStore向け」と「Google Play向け」で異なっている。

AppStore(iOS)向けの場合、アプリ内に他社の決済を埋め込むことは許諾されていないので、有料のPremiumプランについてもアプリ内からは決済ができない。アプリ内の「Premium」ボタンを押しても、なにも起きない。ウェブブラウザーでSpotifyのサイトへアクセスし、あらためて決済を行なう必要がある。

Spotify・iOS版アプリの表示。Premiumプランの説明はあるが「アプリからはアップグレードはできません」と明記されている。手続きはウェブから行なう

Androidアプリ=Google Play向けの場合には異なる。アプリ内決済は使われていないが、アプリ内から「他社の決済を内蔵ブラウザー経由で呼び出す」ことは可能なため、「Premium」ボタンをタップするとウェブが表示され、決済手段の入力に切り替わる。

Android版アプリにはアップグレードの価格も明示され、内部から「ウェブを表示して決済」ができる

前者(iOS)はウェブを利用者に開かせる段階で「やっぱりやめた」と考え、顧客が離脱してしまうことがある。「その程度のことで」と思うかもしれないが、わかりづらいと人は簡単に離脱してしまうものである。

後者(Android)は自分で行なう作業は少ないので、わかりづらさや「離脱」はそこまで多くない。

だがそれでも「離脱」はゼロではない。アプリストア決済と違い、クレジットカード番号などの決済情報を再度入力しないといけないからだ。もしアプリストア決済で利用手数料を支払う必要がないなら、どこも外部決済は使わないだろう。

今回の合意の場合、決済のユーザーインターフェースとしては「アプリ決済」の動線そのままに、従来はウェブでやっていた外部決済をより自然に提供できるようになる、というのが利点となる。

アプリ内から他社の決済をウェブ経由で利用することを許容しているGoogleの場合、アップルのプラットフォームでの外部決済に比べ、変化は少ないのが実情だろう。

とはいえ、導線の整理は重要だし、Google・Spotify両社としても、「決済方式でよりオープンな形を目指す」ことをアピールするのはマイナスではない。

具体的な操作方法がどうなるかで多少評価は変わるだろうが、「開放路線」の中では、ある程度既定路線、というところかもしれない。

アプリの内容によって「決済の課題」は異なる

ただし、「今回の合意ですべてが解決、残るはアップルの出方次第」となるか、というと、まったく違う。

理由はアプリストアの決済問題が、「企業の規模」「決済内容」など多くのパラメーターによって複雑に入り組んでいるためだ。

外部決済を使えるのは大手が中心と言っていい。理由は、サービスや決済内容について周知できるのは、そこにプロモーションコストをかけられるところ=大手ということになるからだ。

また、外部決済を使うとしても、Spotifyのような「サービス利用料の支払い」に使うところと「ゲームの追加コンテンツ」に使うところ、「電子書籍などの購入」に使うところでは条件が異なる。

Spotifyのような「サービス利用料の支払い手続き」は、基本的には1度しかない。だから、ある程度特別な操作体系でもやってくれる部分がある。

一方、ゲームの追加コンテンツはちょっと違う。「欲しい!」という衝動が続くうちに決済されることが重要なので、決済のユーザーインターフェースが「使い慣れていて簡単」であることが重要となる。「決済はウェブで」などと悠長な話はできない。

電子書籍などのコンテンツの場合、アプリ内で見つけたものがすぐに購入できることが重要となる。ウェブでの外部決済でもいいが、決済の際に「ウェブでもう一度コンテンツを探す」ことになると厳しい。iOS/iPadOSのKindleアプリでは、本を買うときは「ウェブのAmazon上でもう一度本を探して決済」することになるので、なかなか面倒だ。

iOSのKindleアプリからはコンテンツを購入できず、Webから購入しなければいけない

最初からウェブストアだけを使ってもらえばいいのだが、そのためにはウェブストアを周知せねばならないし、「スマホ内でアプリを使う」ことに慣れた消費者にはマイナスでもある。

電子書籍ストアの中には、ゲームに近い「ポイント制」(ポイントを購入してそれで書籍を読む)を採用しているところがある。理由は、ウェブ経由での購入体験に慣れていない「スマホメインで使っているユーザー」のことを考えてのことであり、アプリ内で無料公開されている書籍を読んでもらい、そこから次の本へと移ってもらうよう、「アプリ内だけで動線を完結し、アプリの利用頻度を増やす」ためのやり方である。

集英社の「ジャンプ+」アプリ。無料でも読めるコミックが多いが、話を再読したり、単行本を読んだりするには「ポイント」が必要になる

外部決済の必要性やあり方はアプリやサービスによってまちまちであり、全てに1つのやり方で解決策を見つけるのは難しい。現状各所で出てくる「妥協案」「解決策」は、ゲーム以外のコンテンツを軸にしていたり、大手企業でないと採用がしづらいものであったりする。

GoogleとSpotifyの同意が伝えられても、問題の発端であるEpic Gamesの同意は得られないだろう、と見る業界関係者が多いのだが、筆者も同意する。

しかしおそらくは、こうした「合意」をアップルやGoogleが1つずつ積み重ね、全体として最適な妥結点を見出していくことになるのだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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