小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第25回

地方都市が初めて経験する「ステージ4」の世界

年明けすぐの1月7日より、首都圏1都3県に緊急事態宣言が発出された。追って13日には関西3府県ほかにも発出され、執筆時点では合計11都府県が緊急事態宣言下にある。

緊急事態宣言の対象となるのは、爆発的感染拡大とされる「ステージ4」からである。ステージの基準は新型コロナウイルス感染者用の病床使用率だと思っている方も多いと思うが、実際には6つの基準からなる。


    【ステージの目安】
  1. 病床のひっ迫具合(現時点の確保病床数の占有率)
  2. 療養者数(人口10万人あたりの全療養者数)
  3. PCR等陽性率
  4. 新規報告数(直近1週間の人口10万人あたりの感染者数)
  5. 直近1週間と先週1週間の感染者数の比較
  6. 感染経路不明割合

首都圏と関西のニュースに押されて全国ではほとんど報じられていないと思われるが、宮崎県も首都圏と同じ1月7日のタイミングで県独自に9日から22日までの緊急事態宣言を発令した。1月6日には過去最多となる感染者105人を記録し、人口10万人あたりの療養者数で全国3位に急浮上した。

1月2日~8日の間で10万人あたりの感染者数が全国第3位に

宮崎独自の緊急事態宣言で出されている主な行動要請は以下の通りである。

  1. 原則、外出自粛要請 ※特に午後8時以降の外出自粛など
  2. 原則、県外との往来自粛
  3. イベントの中止・延期
  4. 会食は4人以下、2時間以内
  5. テレワーク、時差出勤の推奨
  6. 高齢者、基礎疾患のある方、高齢者施設や医療機関の従事者に対し、会食等はできる限り身近な人に限るよう留意

加えて酒類提供飲食店等に対する営業時間短縮要請が出ており、営業は午前5時から午後8時まで、酒類提供は午後7時までとなった。

内容自体は、政府の措置とそれほど大きく変わるところではない。しかし首都圏では第1回目の宣言時に比べると、繁華街の人出は減っていないことが報じられている。活動自粛はそれほど効果がなかったという個人の判断だったり、1回目の宣言のあとにGo Toなどの経済優先の政策へ転換したことなどから、自粛要請に応じない人が増えたのかもしれない。

一方で宮崎県の場合は、昨年4月の全国一斉緊急事態宣言の際にも感染者が少なく、全国に先だって休業要請を解除したほどである。それが独自宣言とはいえ、初めて「当事者」としての緊急事態となった。

1月9日に市内大手スーパー「イオンモール宮崎」の店内を取材したが、土曜日の16時過ぎという普段なら最も賑わう時間帯ににもかかわらず、店内はかなり閑散としていた。店舗そのものは今のところ閉店したり休業したりという動きはないが、市民はかなりまじめに外出を控えているのがわかる。

宮崎市最大のショッピングモール「イオンモール宮崎」、緊急事態宣言直後の様子

昨年11月に、宮崎駅前にオープンした大型商業施設誕生で人の流れが変わる可能性について考察したところだが、Agoopによる人流変化の解析によると、宮崎駅周辺の人出はオープン時の11月に平日で2万人越え、12月に入っても好調だったものの、緊急事態宣言後には急激に落ち込み、特に土日は例年を下回る水準にまで低下した。せっかく生まれた人の流れも、コロナ禍で台無しになりかねない。

緊急事態宣言は駅前の人出に影響を与えている

突然「当事者」となった地方の現状

子供たちにとっても、影響は大きい。特に昨年末、県立高校4校が合同で行なった部活動の練習で、22人が集団感染したことから、公立高校は正月休みから続けて1月17日までの臨時休校を決め、私立高校もそれに追従した。公立の中学校も部活動が停止され、時間差登校となった。

大人も極力テレワークが求められているが、宮崎にはIT産業が少ない上に業務のデジタル化が遅れているので、テレワーク可能な事業者が少ないのが実情だ。時差通勤も求められているが、県民の通勤はほとんどが自家用車で密になることがないため、どれだけの効果があるのか疑問である。これは自粛要請のモデルケースが大都市圏を想定したものしかなく、地方の事情を汲んだモデルがないということである。

飲食店も夜8時までの営業となるため、夜7時半ごろから弁当屋やコンビニが混雑し始め、三密を避けるどころではない状態になっている。本来ならば外食で済ませるはずだった人たちが集まって来るわけだ。外食といっても飲みに行く人たちばかりではない。牛丼・天丼・ラーメンといったフードチェーンや、ショッピングモールのフードコートも8時で終わるので、必然的にテイクアウト可能な時間帯ギリギリに人が集中するわけである。

宮崎県の感染者数の推移

感染者数を見ると、一つの山は越えたように見える。だがこれで収束するという判断もできないことから、県では緊急事態宣言を2月7日まで延長した。しかし長期間に及ぶ自粛要請は、同じテンションでは続かない。飲食店は県と市合同の協力金が支給されるため時短営業には応じるが、新型コロナウイルスは飲食店のみで感染するわけではない。

県内では26日ごろから、公立中学校や認定こども園、認知症介護施設などで次々とクラスターが発生した。これらは、夜の飲酒を伴う外食との関連性があまり考えられず、現状の施策が効かない部分での感染である。すでに27日から私立高校の入試がスタートしており、中学3年生にとっては「将来」と「健康」という、同じ基準では測れないものを天秤にかけて挑まなければならなくなっている。

宮崎市では、新拠点が出来たために取り壊す予定であった宮崎市郡医師会病院の旧建物を、今後コロナ感染者の受け入れ施設として活用することを昨年10月にまとめている。実はこの旧建物は筆者が住むマンションに近いため、昨年11月には宮崎市から理解を求める手紙が郵便受けに投函されたりしていた。

ところがこの事態になって、看護師の不足によりこの施設も開設の目処が立たないことがあきらかになった。隣県に頼ろうにも感染者数は似たり寄ったりで、余裕があるとは思えない。一時期よりは減ったとはいえ、県内で毎日20人程度の感染者がずっと出続ければ、医療にも限界が来る。感染者の重篤度は人によって異なるため、毎日20人ずつところてんみたいに押し出すわけにはいかない。

感染者が身近に発生し、医療も逼迫する中、市内では学校に対して感染者の特定や対応への誹謗中傷が発生しているという。これを受けて宮崎市PTA協議会では、子供たちの間に不当な差別や偏見、いじめ等がいじめが広がることを懸念して、緊急に「お願い」文書を配布した。筆者宅には26日に届いたばかりである。

市PTAから配布された文書

長期に及ぶ緊急事態宣言で、感染への焦りと感染予防に対する気の緩みが、同時に起こっている状態だ。外出自粛にも限度があり、かといって手指の消毒とマスク着用以外に有効な対策がない。加えて宮崎には第一次産業従事者が多いにも関わらず、末端の飲食店への手当ばかりで、生産者や卸・流通事業者に補償がないなど、産業構造としては手袋と靴下だけ履いてあとは全裸、みたいな状況になっている。長期戦になれば経済的体力が奪われる一方だが、これも補償施策が都市型モデルしかないからである。

大都市圏以外の地方都市では、ステージ4に突入したところは少ない。しかしいつ何があったというきっかけもわからないままに、突然感染が拡大した際、手立てが都市部と同じでは無理がある。地方には地方独自の感染防止と補償モデルの構築が急務だ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。