レビュー

新MacBook AirとMac Studioの登場 性能アップから見える「生成AI」の時代

M4版MacBook Air。カラーはスカイブルー

アップルがMacの新製品「MacBook Air(M4)」と「Mac Studio(M4 Max/M3 Ultra)」を発売する。発売前に試用する機会を得られたのでレビューをお届けしたい。

M4 Max版Mac Studio

どちらもプロセッサーの変更を中心とした変化だが、これからを見据えた細かな変更も多い。

その主軸の1つが「Apple Intelligence」だ。

どのような変化なのかをチェックしていこう。

MacBook Airに新色、Mac Studioはデザイン継続

デザイン自体は、どちらの製品も過去モデルと大きな違いはない。前述のようにプロセッサーの変更が中心だ。

一方、MacBook Airは新色の「スカイブルー」が追加され、これが大きな変化になっている。MacBookで長く使われてきた「スペースグレー」が代わりに姿を消した。

試用したモデルは新色のスカイブルー

スカイブルーはかなり明るく清潔感のある色合いで、かなり人気が出そうな色合いである。アルミボディらしい素材感も残っている。黒系の色合いに比べ、指紋のあとが残りにくいのも重要だろう。

もう1つ、MacBook Airのキーボードには変更もある。

日本語キーボードで変換に使う「英数」「かな」キーが「ABC」「あいう」に変更になっていることだ。機能は変わっておらず、純粋に表記だけの変更ではある。同様の変更はMacと同日に発売となる、iPad Air用のMagic Keyboardでも「ABC」「あいう」になっているので、今後アップルはこの表記を使っていくのだろう。

2020年発売の「M1版MacBook Pro」のキーボード。「英数」「かな」表記になっている
新MacBook Air。「ABC」「かな」表記に変わった。機能に違いはない

Mac Studioについては、デザインは変更されていない。筆者は昨年発売されたM4版Mac miniも持っているので比較してみたが、サイズは全く違う。逆に言えば、これだけのボディを使って放熱する必要のあるプロセッサーとメモリー、ストレージを搭載するのがMac Studioということでもある。

Mac StudioとMac mini。同じデザインモチーフだが、サイズはかなり異なる

プロセッサーは性能アップ

今回レビュー用に貸し出されたのは、MacBook Air(カラーはスカイブルー)とMac Studio。

前者はCPU10コア・GPU10コア・メインメモリー16GB・ストレージ1TB。アップルのラインナップ的に言えば、ストレージのみ大きくカスタムした中位モデルである。

MacBook Airは164,800円からだが、このプロセッサーを搭載したモデルは194,800円からだ。

後者は「M4 Max」搭載モデルと「M3 Ultra」搭載モデルがあるが、貸し出されたのはM4 Max搭載モデル。CPU16コア・GPU40コアでメインメモリーが128GBなので、M4 Max搭載モデルの中でも上位のもの、ということになる。

同じく、M4 Max搭載のMac Studioは328,800円からだが、このプロセッサーを搭載したモデルは403,800円からであり、メインメモリーを128GBにすると553,800円となる。

なお、さらに性能が高いM3 Ultra搭載モデルは668,800円からであり、メインメモリーを512GBまで搭載すると149万3,800円になる。

Mac Studioはまさにプロ・業務向けの性質が高く、価格はかなり高い。M3 Ultraの価格帯はプロ向けのワークステーションと同等の価格帯であり、個人ではなかなか手が出せない。一方でM4 Max搭載モデルは、かろうじて「高性能なMacが欲しい個人」までターゲットにしている製品……と言えそうだ。

インターフェースは細かく進化

デザインは変わっていないが、どちらの機種もインターフェースに変更がある。

MacBook Airは、M3版ではThunderbolt 3だったが、M4版はThunderbolt「4」になった。

本体左側。左から、MagSafe 3(電源)、Thunderbolt 4(USB 4)端子が2つ
本体右側。ヘッドホンジャックがあるだけ
付属品。本体色に合わせたMagSafe 3ケーブルと、USB PD対応の充電器がついてくる。写真はデュアルUSB-Cポート・35Wタイプのもの

データ転送速度自体は変わっていないが、PCIeでの接続が16Gbpsから32Gbpsになった。周辺機器をつながない場合には差を感じられないだろうが、デスクトップPC的に色々なものをつなぐならプラスだ。

外部ディスプレイを接続する際にも、従来は「外部に2つ、本体内蔵ディスプレイはオフ」だったものが、「外部に2つ、本体内蔵ディスプレイも有効」で、実質3つ同時に使える。こちらも、据え置きとして使う場合に有利な仕様変更だ。

Mac Studioについては、インターフェースがThunderbolt 4から「5」になった。

上がMac miniで下がMac Studio。インターフェース自体の数や配置に変更はない。Mac Studioは電源ボタンも背面にある
Mac Studioの電源。三芯仕様になっている

これは、少しでも速度を稼ぎたいMac Studioについては重要な点だ。最大40Gpbsだったデータ転送速度が「最大120Gbps」になり、PCIeの接続速度も「64Gbps」になる。このレベルの周辺機器を個人で揃えるのは大変だが、プロ用途なら別。大幅に高速化するので、プロセッサーの進化と同様に大きな変化でもある。

ベンチマークで見える「上位モデル」の価値

では、ベンチマークでプロセッサーの進化をチェックしてみよう。

今回は、M4版MacBook Air・M4 Max版Mac Studioの他に、「M1版MacBook Pro」「M3 Pro版MacBook Pro」「M4 Pro版MacBook Pro」「M4版Mac mini」のデータも用意し、比較できる形とした。以下、グラフの赤枠内が今回発売される新機種のものだ。

まずは定番のベンチマークソフトである「Geekbench 6」と「Cinebench 2024」でのCPU速度チェックを見てみよう。

Geekbench 6でのCPUテスト。赤枠内が新機種
Cinebench 2024でのCPUテスト

M4搭載機種はM3 Proに速度で追いついてしまっており、コア数が多い「M4 Pro」や「M4 Max」はやはり速い。M1はM4に比べ半分くらいの速度しか出ていない。

同じく「Geekbench 6」と「Cinebench 2024」でGPUを比較すると、Pro・Maxを搭載した機種はかなり大きなアドバンテージを発揮する。すなわち、M4 ProやM4 Maxなどの上位プロセッサーは「GPUパフォーマンスを求めて選ぶべき」という点が明確に見えてくる。

Geekbench 6でのGPUテスト
Cinebench 2024でのGPUテスト

今回、最上位クラスの「M3 Ultra」搭載モデルを試すことはできなかったが、これらの傾向から考えれば、CPUコア・GPUコアの数が圧倒的に多い分、パフォーマンスは確実に上がる。

また、メモリーも最大512GBになり、メモリー帯域は819GB/sになった。MacBook AirのM4だと120GB/sなので圧倒的に異なる。一般的な作業では差を感じづらいだろうが、「巨大なデータを処理する作業」、例えば大規模言語モデル(LLM)を使った生成AI関連の開発となれば優位に働く。GPUを使った処理速度自体はNVIDIAのAI向けワークステーションに敵わない可能性が高いが、メモリーの量と速度という利点は、開発には優位と考えられる。

M1とM4では「Apple Intelligence」

もう1つ気にかかるのは「Apple Intelligence」を使った時の速度だ。

昨年から、Macの最小メモリー量は16GBに増えた。今回のMacBook Airでも同様である。これはアップルの生成AI機能である「Apple Intelligence」を活用するために有利であるからだ。

4月初旬にはOSのアップデートが行なわれ、ついに日本語に対応する。

プロセッサーの進化は、Apple Intelligenceにどう影響するのだろうか? Apple Intelligenceはプロセッサー内のAI特化コアである「Neural Engine」で処理される。

Macの場合、2020年発売のM1搭載モデルでも動くが、M1からM4に至る過程で、Neural Engineの性能も大幅に向上している。

「Geekbench AI」でNeural Engineのベンチマークをとった結果が以下のグラフだ。複数の値が得られるが、オンデバイスでのAI処理性能を測るのに向いた「Quantized」のスコアのみを掲載している。

同じM4世代であれば、差は誤差レベルといっていい。M1・M3世代との差は明確だ。

Geekbench AIによるNeural Engineのベンチマーク結果

一方で、これはあくまでベンチマーク。それがどのくらい実際の処理に反映されるのか、見えづらいところがある。

そこで今回は、Apple Intelligenceに含まれる機能の1つである「Image Playground」で画像を」生成する速度で確かめてみることにした。手元にあるM1版MacBook ProとM4版MacBook Airでそれぞれ同じプロンプトで5回ずつ描かせて、平均の速度を出した。

ただ、日本語でApple Intelligenceが使える「macOS Sequoia 15.4」の正式公開は先。そのため、設定を英語に変え、英語のプロンプトで試している。アメリカ英語版は昨年11月に公開されているので、新機種でも問題なく使える。

今回のプロンプトは「House at seashore with big dragon(海辺の家、大きなドラゴンと一緒に)」。シンプルなものだが、これをイラスト調で描いてもらった。

「House at seashore with big dragon」をApple Intelligenceで描くのにかかる時間を計測

結果ははっきりと出た。

M1版では「約4.7秒」、それがM4版では「約2.8秒」になった。処理時間は4割程度短くなっている計算だ。

ベンチマークではもっと大きな差が出ているが、AIの処理は内容によって大きく変わる。だが、画像生成のようなシンプルな作業でもここまではっきりとした違いが出たのは面白い。

Apple Intelligenceで画像を描く機会が多いか、というとそうでもないような気はする。だが、文章の要約やメールの代筆などはもう少し使う機会が多いだろうし、今後「日常的に使う機能」が増える可能性は高い。

そう考えると、相応に性能が高い、新しいNeural Engineが搭載された世代へと移行するタイミングになっていると感じる。

M1はよくできたプロセッサーで、今も不満なく使っている人はいそうだ。2020年からの5年で、そろそろ新しい世代へ切り替えてもいい頃だろう。

Mac Studioは「狙って買う」印象の強い製品だが、MacBook Airは「新世代に買い換える」タイミングの製品、と言えそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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