レビュー

「Apple Watch Ultra」はかつてないマルチスポーツ向けウォッチかもしれない

Apple Watch Ultraがマルチスポーツで大活躍する

唐突だが、筆者はガーミンのスマートウォッチユーザーである。日々の生活やスポーツのお供にスマートウォッチのfēnix 6Sを愛用しているのだけれども、2022年9月に発売された「Apple Watch Ultra」を1カ月ほどお借りできたので、そのUltraなところを確かめるべく試用してみることにした。

気になる存在ではあったものの、必ずしもスポーツに特化したウォッチではないため、あまり大きな期待を抱かないようにしていたのだが……試してみた結果、マルチスポーツにおける機能性の高さにすっかりやられてしまった!

バイクとランニング、計76kmのマルチスポーツで試してみた

バイクとランニングを連続でこなすマルチスポーツに使ってみたい!

Apple Watch UltraとiPhone

マルチスポーツというのは、複数の競技を連続して行なうスポーツのことで、代表的なものとしてはスイム、バイク(サイクリング)、ランニングの3種目からなるトライアスロンがそれ。ただ、スイムとバイクだけでも、あるいはバイクとランニングの組み合わせでも、マルチスポーツだ。Apple Watchシリーズにはご存じの通り元から単一のスポーツやアクティビティを記録する機能はあったが、watchOS 9からついにマルチスポーツにも対応し、スイム、バイク、ランニングの3種目を自由に組み合わせたワークアウトをこなせるようになった。

ウォッチ本体のワークアウト画面から選べるマルチスポー ツ
屋内外のスイム、バイク、ランニングに対応する

しかしながら、Apple Watchにおけるマルチスポーツ対応については懸念点もあったようだ。というのも、たとえばこれまでのApple Watchシリーズのバッテリー持続時間は一貫して最大18時間。しかも、それはあくまでもAppleが想定している標準的な使い方をしたときの目安だ。GPSをフルに活用し、常にタイムや心拍を計測しながらの屋外アクティビティとなると、当然ながらバッテリー持続時間はそれより短くなる(Apple公式では屋外ワークアウトでの使用は最大7時間としている)。

3~4時間かかる一般的なトライアスロンであれば大丈夫だとしても、より長距離(ロングディスタンス以上)のトライアスロンでは最後までバッテリーがもつのか不安だし、途中で電池切れして記録が不完全になるのでは意味がない。マルチスポーツとは異なるが、100km以上走り続けるウルトラマラソンのような競技でも、12時間かそれ以上かかることもあり、Apple Watchシリーズのバッテリーの少なさはそうした長時間のアクティビティには不向きではないかと考えられていた、と思う。

ところが、Apple Watch Ultraの登場によってそれも風向きが少し変わってきそうな雰囲気だ。バッテリー時間はスタンダードモデルに比べて2倍となる36時間(Apple公式では、GPSを使用した屋外ワークアウトで最大12時間)。長時間のマルチスポーツにも、もしかしたら対応できるスタミナをもつのではないか。さすがに筆者にウルトラマラソンにチャレンジできるほどの体力も経験もないが、サイクリングとランニングを組み合わせたある程度長時間のマルチスポーツでならその性能を少しは確かめることができそうだ。

そんなわけで、自宅からおよそ34km離れた東京八王子市の高尾山までロードバイクで走り、高尾山の山頂までトレイルランニングして(片道3km以上)、下山した後再び自転車で戻ってくるというマルチスポーツをApple Watch Ultraでこなしてみることにした。距離はトータル76kmほどになる。

画像は実際の走行ルートとは若干異なるが、自宅から高尾山までは約34km。登山は片道3km以上で、往復計76kmほどの距離を走る

ウォッチ単体でトランジションを「自動」化する設定がある!

Apple Watch Ultraで今回のようなやや変則的なマルチスポーツを行なうときにはあらかじめ設定が必要だ。ウォッチ本体のワークアウト画面でマルチスポーツのメニューを表示し、「ワークアウトを作成」ボタンで新規にメニューを作る。

「ワークアウトを作成」ボタンをタップ
「追加」で1つずつアクティビティを追加する

最初のアクティビティは「屋外サイクリング」とし、次が「屋外ランニング」、そして最後にもう一度「屋外サイクリング」を追加する。山登りになるので本来なら「屋外ランニング」ではなく「トレイルランニング」としたいところだが、マルチスポーツで指定できるアクティビティには含まれていない。というか、そもそも「トレイルランニング」というアクティビティ自体がApple Watchには用意されていない。ここは少し残念なところだ(「ハイキング」という名称のものはあるが)。

最初は「屋外サイクリング」を選択
続けて「屋外ランニング」ともう1つ「屋外サイクリング」を追加して3種目に

また、さらに細かいことを言うと、マルチスポーツで指定できるアクティビティは屋内外のサイクリング、ランニング、スイムの計6種類だけで、通常のワークアウトには用意されている「室内/屋外ウォーキング」はマルチスポーツでは指定不可となっている。これについては後ほど言及するが、おそらく他の機能との兼ね合いで「ウォーキング」はあえて不可にしているのではないかと推測している。

それはさておき、このマルチスポーツの設定で注目すべきが「トランジション」の「自動」化だ。トランジションというのは、トライアスロンの競技中、スイムからバイクに移行するとき、あるいはバイクからランニングに移行するときの切り替え区間のこと。ここで装備を変えたり、補給などを行なったりするのだが、そうしたトランジションの最中も競技時間に含まれるため、記録を狙う場合にはトランジションをいかにスムーズにこなすかも重要になってくる。

「トランジション」の設定
「自動」と「手動」を選べる

なので、マルチスポーツを記録するにあたっては、トランジションにかかる時間も計測できることが大切なのだが、このとき既存のほとんどのスポーツ向けウォッチは「トランジションに入った」ときと「次のアクティビティに移った」ときに、都度ウォッチ本体のボタンを操作する必要がある。これは実際のところかなり手間だし、極限の疲労状態にありながら適切なタイミングで画面やボタンを操作できるとも限らない。

Apple Watchではトランジションをそのような手動操作で対応することもできるが、「自動」に設定することで、トランジションも、その前後のアクティビティの終了・開始も、一切のボタン操作なしで勝手に対応してくれるもののようだ。おそらくはウォッチ本体が備えるセンサーなどで検知するものと思われるが、これが本当に可能なのだとすれば画期的と言ってもいいかもしれない。

ちなみに、こうしたトランジション前後の記録操作を自動化するものとしては、Wahooのスマートウォッチ「ELEMNT RIVAL」がある。ただ、同社製のサイクルコンピュータと連携することで実現している仕組みのため、スマートウォッチだけでなくサイクルコンピュータも必要だし、スイムとランニングの組み合わせや室内ワークアウトでは利用できない。屋内外ともに単体で自動のトランジションを実現しているスマートウォッチは、現時点で筆者の知る限りApple Watchシリーズだけだ。

Wahooの「ELEMNT RIVAL」もトランジション自動化の仕組みをもつが、同社製サイクルコンピュータとの連携が必須

サイクリング→トレイルランニング→サイクリングで使ってみた結果

朝7時に自宅をスタート

といっても、開始と終了は手動操作が必要だ。先ほどの手順で作成したメニューをマルチスポーツから選び、ワークアウトをスタート。ロードバイクで高尾山を目指して走り出す。事前にシミュレーションしていたときも感じたのだが、外に出てから屋外ワークアウトを始めるまでわずか数秒しかなくても、後でiPhoneに転送されたデータを見るとしっかり出発地点からの位置情報が記録されているのは驚く。fēnix 6SだとGPS信号を検知するまで、場合によっては数十秒~数分待たないとならなかった。まあ、その間は準備運動していればいいのだけれども。

先は長いので抑えたペースで走行

ところで、プライベートで屋外サイクリングをする場合、コースが整備されたロードレースなどとは違って、公道を定められた交通規則に則って普通に走行するため、当然ながら信号には引っかかるし、渋滞に遭遇したときも停車することになるだろう。トランジションを自動にしていると、こういったときにウォッチ画面上ではトランジションの表示に切り替わってしまう。おおよそ10秒程度停車するとトランジション中であると判定されてしまうようだ。

停車中はこんな風にトランジションに入ったことになってしまう

しかし、再び自転車で走り始めるとすぐに元のサイクリング時の画面に戻るので心配はない。信号待ちなどでトランジションとしてカウントされていたタイムはサイクリング中に停車状態だったものとして扱われる。じゃあ、たとえば補給のためにコンビニに寄ってみたらどうなるのか、というのも気になるところだろう。それについても、歩いて移動しかしていないのであればトランジション画面が継続するだけで、その後自転車に乗って走り出せばやはり元のサイクリング画面に戻る。

これは別の日のワークアウトの軌跡だが、サイクリング中にお店などに入っても、トランジション画面にはなるが次のランニングには移行しない

ただ、そこで駆け出してしまうとランニングが始まったと判定されて次のワークアウトに移行してしまう可能性があるので注意が必要だ。そもそもコンビニなどでの補給中など、休憩時間が長くなりそうなタイミングでは、画面やボタンの操作で一時停止しておいた方が記録としてはきれいに残せるだろう。

さて、高尾山までの34km余り、一時停車中は必ずと言っていいほどトランジション画面になっていたが、問題なくサイクリングの1ワークアウトとして記録された状態で麓に到着。急ぎランニング用の装備に着替えたうえで、荷物を背負って走り出す。ほとんど休むことなく再スタートしたつもりだったが、後で記録を確認するとトランジションに7分近くもかかっていた。もちろんこのとき画面・ボタン操作は一切していない。疲れて余計なことに気を回す余裕がないなか、何も操作しなくてもきちんとデータをとってくれるのは本当にありがたい。

高尾山口駅の駐輪場に到着。この場面がまさにトランジション。着替えて次のトレイルランニングに向かう

平日の午前中でありながら、高尾山には大勢の登山客が押し寄せていた。山頂まではいくつかのルートがあるが、そのなかで最も利用者が少なく、勾配がきついとされる「稲荷山コース」を選択したものの、それでも数十メートルも走れば数人とすれ違うか追い越すくらいの混雑具合だ。休日だとトレイルランニングは難しいと思われるので、他の登山客の迷惑にならないような曜日・時間帯を選んで走りたい。

人が比較的少ないとされる「稲荷山コース」の入口

と言いつつも、トレイルランニングは初心者の筆者。往路の自転車ですでに34km以上走ってきたこともあり、急勾配もそれなりにある稲荷山コースは脚にくる。ところどころの平坦路や下り基調の箇所では小走り程度で進めるが、少しでも勾配がきつくなると足取りは重く、通常のウォーキングより遅くなるほど。このとき、Apple Watch Ultraは「ランニングしていない」と判断して容赦なくトランジションの画面に切り替わる。

まだたいして走ってもいないのに心拍が上がりまくっている
この階段を上りきれば頂上だが、もうほぼ歩き

ある意味これは、トレイルランニングではなく「ランニング」として設定していることによる弊害でもある。Appleにはぜひとも「トレイルランニング」をワークアウトに追加してほしいところだが、もしそうなったとしても、ほとんどウォーキングと変わらない動作になることもあり、トランジションの自動検知が使えなくなる可能性もあるだろう。

先ほどマルチスポーツで「ウォーキング」が選べないと書いたが、「ウォーキング」も設定できるようにしてしまうと、今度はトランジションの自動検知に不都合が出る、というのも制限の理由になっているのではないか、と想像している。であるのなら、「マルチスポーツにウォーキングを含めたときは手動切り替えのみにする」という仕様にしてもいいとは思うけれど……。

とにかく、サイクリングで信号待ちしているときと同じで、登山中に走れない区間(だいたい10秒くらい)が続くと自動でトランジションに入ってしまうのは仕方のないところ。走れる箇所で軽くでも走ればやはりランニングの画面にきちんと戻ってくれるし、少なくとも復路の下りでは走れるはずなので、不安に思う必要はなさそうだ。下山して駐輪場に戻ると、再び自転車装備に着替えて自宅に向けて出発したが、このときのトランジションも正確に記録されていた。

頂上から富士山を望む。25分ほど休憩して下山した

ちなみに同時にfēnix 6Sでもマルチスポーツの記録をとっていたのだが、このタイミングのトランジションでボタン操作を忘れ、慌てて操作したら連打してしまいワークアウトが完了状態になってしまった。疲れているとやっぱり操作は忘れるし、ミスもすることを身をもって経験したことで、自動で検知してくれるApple Watch Ultraのありがたさを再度実感する。

復路のバイクはマルチスポーツとして設定した最後のアクティビティということもあり、しばらく停車してもトランジション画面には切り替わらない。あとは最後、ゴールしたときに画面をフリックし、「終了」のボタンを選ぶだけだ。結局、途中でコンビニに寄ったときと山頂で少し休憩したときにワークアウトを「一時停止」した以外(スクリーンショットを撮ったりもしたが)、Apple Watch Ultraを操作したのはスタート時とゴール時だけ。つまり2回こっきりの操作でマルチスポーツのワークアウトを完了できることになる。トランジションの自動設定の威力がおわかりいただけるだろうか。

ワークアウトの最終的な結果。休憩(一時停止時間)を含め5時間以上
トランジション時に操作しなかったのに、きっちり記録が種目ごとに分かれている
GPSの精度もかなり高い
登りの心拍はほぼ高止まり状態。きつかった

連続14時間以上のアクティビティもこなせる! が、あとひと押しが欲しい気も

合計4時間42分のワークアウト終了時、バッテリー残量は65%となっていた。同じようなメニューでアクティビティを続けたとすると、14時間連続でこなせるくらいのスタミナがあることになる。半日走り続けるウルトラマラソンもカバーできそうだし、watchOS 9からはワークアウト中のGPS測位や心拍計測の頻度を低くする「低電力モード」も搭載されたので、これを使えばさらに稼働時間が延びる可能性がある。

ワークアウト終了時のバッテリー残量は65%
「低電力モード」をオンにすればさらに稼働時間が延びるだろう

ただ、マルチスポーツに適しているということをもって、すでに高機能なスポーツ向けスマートウォッチを持っている人はApple Watch Ultraに今すぐ乗り換えるべき、とまでは言いにくいところもある。もちろん時計として重要な所有感、心拍や心電図といったヘルスケアに関わる機能、iPhoneとの連携なども総合的に考えなければならないが、あえてスポーツウォッチとしての機能だけを考えるのであれば、あと一歩と感じるところもあるからだ。

たとえば、アクティビティの細かな分析項目が、専用のスポーツウォッチに比べるとまだやや少ないところがある(ガーミンのfēnix 6Sには、Apple Watchにはない有酸素・無酸素運動の負荷レベルや、推定発汗量、気温といった項目がある)し、Apple Watch本体では過去一定期間のアクティビティの概要しか表示できず、詳細な情報はiPhoneで確認するしかない。運動の直後、風呂に浸かりながらウォッチ上でアクティビティの詳細を振り返る、みたいなことも個人的には楽しみの1つだと思うのだが……。

また、操作性について言えば、ワークアウトの「終了」方法も気になる。いちいち画面を右フリックしてボタンを押すという2アクションが必要なのだ。疲労しているときの「終了」ボタンのタップは誤操作にもつながりやすいから、せっかく3つもある物理ボタンをもっと活かしてほしいと思う。

画面を右フリックして「終了」を押すという操作は、少々回りくどい気がする

加えて、スポーツやヘルスケアという意味では睡眠も重要なファクターのはずで、それを十分に計測するには最大36時間という今のバッテリー持続時間はまだ少なすぎる。せめて常時心拍計測していても1週間以上もつくらいのスタミナは必要ではないだろうか(fēnix 6Sは常時心拍計測状態、かつ毎日1時間程度のアクティビティを実行しても1週間以上もつ)。

しかしそれでも、Apple Watch Ultraはマルチスポーツのお供に最適なデバイスの1つ、と言って間違いないだろう。なにより、トランジションの自動検知はこれまでのスマートウォッチにはない要素で、ワークアウト中の機器操作の煩わしさを解消しているのは画期的な感じだ。

スタンダードモデルのApple Watch Series 8などと比べてケースサイズは大きいものの日常生活で気になるほどではないし、今回試用したモデルに付属していた「アルパインループ」バンドも、筆者としてはシリコン製より汗をかいたときにかゆくなりにくく、洗いやすさや乾きやすさの面でも優れている。装着時に少し手間がかかるなあ、と思わなくもないが、総じて満足度は高く、Apple Watch Ultraがあれば、きっとこれまで以上に屋外スポーツが楽しくなるに違いない。

汗をかいてもかゆくなりにくい「アルパインループ」バンド。洗いやすく乾きやすいのもうれしい
日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。