こどもとIT

【連載】The Teachers' Voice~学びのアップデートをめざす先生からのメッセージ 第7回

ASDやADHDを抱える子どもたちへの支援から、“安心できる学び”のヒントを探る

~つくば市立学園の森義務教育学校 山口禎恵教諭がめざす学びのアップデート②

これまでの学びの価値観が揺らいでいる今、学校が果たす役割は何か、学びをどのように変えていくべきか。本連載『The Teachers' Voice』では、学びのアップデートをめざす先生自身の言葉をお伝えしていく。一人ひとりの子どもに合わせた“オーダーメイド”の支援に取り組む、つくば市立学園の森義務教育学校の山口禎恵教諭。今回はASDやADHDの特性をもつ子どもたちへの支援を通して、“安心できる学び”のICT活用を紹介する。

手順や情報を視覚的に示すことで、子どもたちが安心できる環境を

今回は、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(多動性症候群)の子どもたちに対して、私が取り組んでいる“オーダーメイド”の支援を紹介します。

とはいえ、こんな風に書いてしまうと、ASDやADHDと診断されていないお子さんをお持ちの方には“自分には関係ない”と思われてしまうかもしれません。しかし、特に診断がなくとも発達障害が疑われるようなお子さんには、このような支援が合う場合が多くあります。基本的に、特別支援で用いられる手立ては「障害があってもなくても理解しやすい」手立てでもあるので、このような支援もあると知っていただければと思います。

初めてのことや急な予定変更に直面すると、パニックを起こしてしまう子どもたちがいます。そうした場合は、アナログな手法ではありますが、紙やホワイトボードに予定などを書いて見せるだけでも子どもたちは安心します。この方法は、支援学級だけでなく、交流学級でも合理的配慮として使われていて、先を見通せることで不安が解消されるのです。

先の行動を書いて見せるだけでも、安心できる子どもたちがいる

また電車に乗って出かけるときなどは、“どんな電車に乗るのか”、“切符はどうやって買うのか”といった様子が分かる写真やスライドにまとめ、事前に視覚的な情報を見せてあげると理解しやすく、安心できます。私の場合は、PowerPointでスライドを作って見せることが多いです。

PowePointのスライドは、多動性や衝動性の強い子や視覚優位の子たちにも有効で、授業の導入や、大事なポイントを押さえるときも、電子黒板にスライドを提示して注意を引く、という形でよく使います。ほかにも問題行動を起こしたときに、本人がその行動を後で客観視できるように、スライドにして見せるというのも自立活動ではよく使っています。

不適応行動があったときは、客観視できるようスライドで理解

ASDの子どもたちには、手順を細かく視覚化する「TEACCH(ティーチ:Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped CHildren)」と呼ばれる手法を頻繁に使います。実はこの手法、プログラミング的思考と同じなのです。

例えば部屋に入る際の行動は、「ノックする→ドアを開ける→“失礼します”と一礼する→中に入る…」というように分解されます。これを主に小学校低学年の子どもたちが、コンピューターを使わない“アンプラグド”と呼ばれるプログラミング授業の一環として学習しています。数年前、同様の内容を支援学級の小1の子どもたちにやってみたところ、保健室など自分の教室以外に行くことができなかった子どもたちが行けるようになりました。

ASDの子どもたちのために手順を細かく視覚化する手法は、プログラミング教育とも通じるところがある

私たちが「これくらい」と思っていることが、苦痛な子たちもいる

DCD(発達性協調運動障害)などで、身体がうまく使えなかったり、細かい手作業が苦手という子には、はさみの使い方やボールの投げ方、リコーダーの音の出し方などを事前にスマホやデジカメで動画に撮って見せています。リコーダーのお手本動画では過鏡の向きで示した方が分かりやすく、真似をしやすいようです。

動画の利用については最近、通常学級の子どもたちもネット上にある動画を見ながら学ぶなど活用が増えていますよね。自分のペースで何度も見られる動画は、どんな子どもたちの学びにとても有効だと思います。

図工の時間などで絵を描く際に、見たものを描くことはできるけど、想像して描いたり、自由に描いたりするのは苦手、そんな状況になると、とたんに固まってしまう子どもたちもいます。そのような子たちには、事前にインターネットで写真などを検索し、一緒に見ながらどんなものを描きたいのかを言語化してイメージにつなげられるようにします。直接手元に具体物があった方が良い子どもには、写真をプリントアウトしてあげたり、PCやタブレットを手元に置いてあげたりすると、それを見ながらスムーズに描き終えることができます。

もちろん、図書室で本を借りてきて、描きたいものを探すことでも問題ありません。しかし、ネットを使ってしまう方が圧倒的に時短になります。ネットの方が情報も多いので、子どもたちの描きたいものと合致しやすい場合が多いです。

また子どもたちは毎日、黒板に書かれた「明日の予定・持ち物」を連絡帳に書き写さなければなりません。不注意や書字の困難さも相まって書き忘れてしまうような子には、タブレットで写真に撮ることを許可しています。そうすればタブレットを家に持ち帰って、撮った写真を見ながら自分で持ち物や時間割の確認ができます。

黒板に書かれた連絡も、タブレットで写真を撮って自宅で確認

保護者や教師のなかには、連絡帳を書くくらいは頑張らせたい…と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちにとっては「これくらい」と思っていることが、書字の困難がある子にとっては苦痛でしかない場合もあります。例えば、この持ち物に関することは、「連絡帳を書くこと」よりも、「確認して、忘れ物をしないこと」の方が大事なことですよね。

学校と生徒の連絡にMicrosoft Teamsなどのコミュニケーションツールを利用している学校では、個別のチャネルに予定の写真を張り付けたり、「1時間目数学、2時間目理科…持ち物、理科のプリント」という具合に、文字を教師が入力して連絡帳として活用するのも有効だと考えています。私も不登校傾向の子に、翌日の連絡の写真をTeamsのチャネル内に貼り付けて知らせています。

このように動画やネット検索、連絡や情報伝達など、簡単なICT活用ですが、学習に活かすことで安心して学べる子どもたちがいます。しかし、これはなにも特別支援だけの話ではありません。コロナ禍の休校期間中、みなさんの中にも学校との連絡が途絶え不安になった保護者やお子さんがいたのではないでしょうか。その時にICTが使えていたら、学校とのコミュニケーションも継続でき、みなさんの学びも広がったと思います。ICTを活用は、多くの子どもたちに安心を与えることができると思います。

子どもたちに落ちつける“場”を与え、コミュニケーションできる方法を広げたい

発達障害などの診断名がなくとも、支援学級を利用する子どもたちもたくさんいます。登校渋りや不登校傾向、教室に来ると話せなくなってしまうといった場面緘黙のあるような子どもたちは、通常学級ではしんどい思いを抱えている場合があります。そのような子どもたちには、落ち着ける場として支援学級を利用していくことを保護者にも提案しています。

以前、場面緘黙のある子がコミュニケーションをとるために、入力したテキストを読み上げるアプリ『たすくボイス』を利用してみました。小学校の通常学級では、朝の会で健康観察をするとき、先生から呼名されると「はい、元気です」などと返事をしますが、場面緘黙のある子はその返事ができずにいました。

そこで、朝の会が始まる前に『たすくボイス』を開き、「はい、元気です」と文字を打ち込んでおき、朝の会で先生に名前を呼ばれたら音声が出るボタンを押して返事をするようにしました。本人は、クラスのみんなと同じことができていると嬉しかったようです。もし今、同じことをするなら、スマホやiPadのアクセシビリティで、もっと手軽にできるかもと思っています。

入力したテキストを読み上げるアプリ『たすくボイス

支援学級に来ている子たちには、コミュニケーションが苦手で、通常学級ではあまり話をしない子たちもいます。そのような子たちでも、チャットなど、文字のやりとりになれば、雄弁に語る姿を見てきました。

このコロナ禍でGoogle ClassroomやTeamsなどのツールを使う学校も多いと思いますが、ツールが変わることでコミュニケーションが活発になることもあります。本学園の支援学級でも現在、チームを作って試しており、場面緘黙がある子やコミュニケーションが苦手な子は、こちらでのやりとりを好んでいます。また、不登校傾向のある子たちも、家で取り組んだことをこうしたツールで連絡してくれます。

不登校傾向のある子どもたちとMicrosoft Teamsでやりとり

これから多くの学校で1人1台のPCが導入されると、特別支援だけでなく、通常学級でもClassroomやTeamsなどのツールが使われていくと思います。学校現場で積極的にICTが活用されることで、特別支援を受けていなくても救われる子どもたちが増えることを期待しています。次回はそんな特別支援を受けていない、すべての子どもたちに向けた支援を紹介します(第3回につづく)。

つくば市立学園の森義務教育学校(茨城県つくば市)
2018年に開校。つくば市は全域で小中一貫教育を実施しており、市内に4校ある義務教育学校のひとつ。「挑戦・創造・協働」をモットーに、自分の可能性に挑戦し、創意をもって未来を切り開く学園生の育成をめざしている。プログラミング教育や遠隔授業などICTを活用した学習にも力をいれる。特別支援においては、コーディネーターを核とするチーム支援で、9年間を見通した個別支援や、授業のユニバーサル化、ICT機器の効果的な活用について取り組んでいる。
山口禎恵(つくば市立学園の森義務教育学校教諭)

つくば市立学園の森義務教育学校教諭。自閉症情緒障害学級担任と特別支援教育コーディネーターを兼任。特別支援学級・通級指導教室の子どもたち一人一人に合わせたオーダーメイドの支援に様々なICTを組み合わせて実践中。支援学級でのプログラミング授業も色々試しており、embot認定teacherにも選ばれている。2016年よりマイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)としても活動中。