こどもとIT

【連載】The Teachers' Voice~学びのアップデートをめざす先生からのメッセージ 第1回

生徒たちが使う端末に制限はかけさせない。こだわり続けた自由度の高いiPad導入

〜近畿大学附属高等学校 乾武司教諭がめざす学びのアップデート①

学校現場は今、これまでの学びの価値観が揺らいでいる。学校が果たす役割は何か、今までの学びをどのように変えていくべきか。本連載『The Teachers' Voice』では、学びのアップデートをめざす先生自身の言葉をお伝えしていく。今回は、長年ICT導入や学校改革に挑んできた近畿大学附属高等学校(以下、近大附属高校)の乾武司教諭に、教育の今をどのように捉えているのか寄稿いただいた。同校が2013年から始めたiPadによる1人1台でめざす学びを、全5回でお届けする。
近大附属高校、2013年にiPadを導入した頃の学習風景

端末の制限が、やがて「学びの制限」を作ってしまう

「生徒たちに自由にiPadを使わせるなんて、そんな危険なことはさせられない!」

1人1台のiPad導入を進めていた2012年、ある先生が教職員会議中に大声で発言しました。iPad導入計画のメンバーだった私は、生徒が持つ端末に制限をかけたくないと考えていたのですが、他の多くの先生は、その方針に反対だったのです。

私がiPad導入でめざしたのは、「インターネットの自由な利用」「アプリの自由なインストール」「24時間自由に使える」といった自由度の高い使い方で、当初から授業の中だけでiPadを使うという発想はありませんでした。

なぜなら、私自身に置き換えても、さまざまな制限がかけられた端末を持たされるのはストレスを感じます。そして、何よりも「端末の制限」は「活動の制限」を作り、「活動の制限」は「学びの制限」を作ってしまうことになると考えたのです。

また本校のiPad導入は、高校1年生1048名全員に対して1人1台を実施するというもので、当時の規模感としては、他の学校で類をみないものでした。そのため、私たちの学校のiPad導入は教育関係者の関心も高く、大規模導入は成功するのか、どのようにiPadを運用するのか、と注目を集めていました。

だからこそ、制限ありきのiPadを導入してしまったら、後に続く学校もその方針を真似て、やがて、それが日本の学校のスタンダードになってしまうかもしれないと恐れを感じていました。これから日本の学校でICT活用が本格化しようという過渡期だったこともあり、どうしても自由度の高いiPadを生徒に持ってもらいたかったのです。(ただし、校内のWi-Fiに関しては、ファイアーウォールによる最低限のフィルタリングをかけて、学習環境としての安心・安全を確保しています)

iPad導入から間もない2013年、生徒がKeynoteでスライドを作成しているところ

「使ってみれば必ずわかる」と信じ、導入に取り組む

ただ、私のこのような考えが、校内ですぐに受け入れられたかというと、そうではありません。多くの先生方にとっては、生徒たちがSNSやゲームのアプリまで自由にインストールできるのは許しがたいと感じられたようです。その当時、SNSによる不適正な写真投稿や陰湿ないじめの事例などが報道されていたことも背景にありました。

そんなSNSアプリを禁止しないとは何事かと。ましてや、ゲームなど学習や学校生活に必要のないアプリのインストールまで認めるなど、生徒に自由を与えるにしてもナンセンスだと激しく非難されました。ICT導入に関する教職員会議が開かれるたびに、大多数の先生方から「こんな計画は学校を潰す!」と抗議され、身辺の危機を感じるくらい、緊張感が続く日々を送りました。

そんな状況を救ってくれたのは、当時の校長でした。彼は「生徒たちは未来から預かっている留学生のようなものだ。生徒たちは将来、情報端末を自由に使っていく世界で生きる必要がある。そんな生徒たちの活動を、私たち大人が勝手に制限してはいけない。今までにない新しいものを導入するのに、今までの価値観で規制してはいけない!」とハッキリ言い切ってくれました。

SNSやゲームに関しても、「禁止して封印するのではなく、しっかりとした教育を行い正しく使えるよう教えるべきだ」と私たちの背中を押してくれました。その結果、アプリのインストールを含めて、自由なiPadを生徒たちに持ってもらうことが実現しました。

ちなみに、学校内で何か新しいことを始めようとする時、反対される先生は必ずおられます。きっと、全国の学校でICTを推進される立場の先生なら、同じような気持ちを味わっておられるのではと思います。ただ、私の経験になりますが、反対される先生方も、根底では「生徒のために良い教育を提供したい」という想いは同じだということを強く感じました。

その先生の中でICTを活用するイメージが持てないので、メリットよりも、生徒に与えるデメリットを強く心配され反対されるのだろうと。また、今までの伝統的な学習スタイルが最高だと信じたい気持ちもよくわかります。今までやってきたことを否定するのは辛いですし、先生がすべてをコントロールする授業では、自由なiPadは邪魔にしかならないのです。

しかし、時代は確実に進んでいます。明らかにメリットがあり、これだけ生活の中で普及したICTを、学校が無視していつまでも生徒から遠ざけてしまうことはできません。私はすでにiPadを生活に取り入れてその利便性を享受していました。そして、それを生徒が同じように自由に利活用することで、学校生活そのものが変化するイメージを強く持っていました。「使ってみれば必ずわかる」、そう信じて何としてでも導入を実現させたいと思って取り組んでいたのです。

自分の持ち物としてのiPadを使うことで、学校生活の質を向上できる

私自身、iPadの導入は「学校内のデジタル環境を一般企業並みにする」ために行うのだと考えていました。企業ではコンピューターなどのデジタルデバイスが必要不可欠で、インターネット無くして仕事は進められない時代なのに、学校では生徒にデジタルデバイスをほとんど使わせない。

むしろ、それらは学習の邪魔だという論調が主流ですし、学習にデジタルデバイスを利用するのは「ずるい」という意見もよく聞きます。しかし、社会人の生活にデジタルデバイスが不可欠なように、今の時代を生きる生徒たちにとっても必要なものなのです。自分の持ち物としてiPadを持つことができれば、生徒たちの学習や学校生活の利便性を格段に向上できると考えていました。

なかでも、教科書や教材、プリントなどをデジタル化することで、生徒たちが持ち歩く荷物を減らしたいというのも、iPad導入の大きな理由のひとつでした。本校の生徒たちは当時、10kg以上の荷物を持って通学しており、そんな環境から生徒を解放したいと考えていたのです。

またiPadに制限を設けず、使いたいアプリを自由にインストールしながら、自分の生活をよりよくするために自分で考え行動して欲しいと思っていました。生徒たちはアプリのことも詳しく、実際に便利なアプリを教えてもらうことも少なくありません。

2014年の授業風景

いつでもどこでも使えるインターネットとクラウドの活用環境を整備

iPadを導入した後は、デバイスを自由に使う生徒たちを見て、学校での学習が生徒たちにとって、知識から非常に遠い場所にあると気づかされました。

今の子どもたちは、分からないことや疑問があれば、まず自分のスマートフォンで検索して調べるのが常識です。しかし学校では、生徒たちが疑問を持っても自分のスマートフォンを授業中に使えず、教師が説明してくれるまで待たなければなりません。これまで、疑問が解決しないまま、終わってしまう授業もたくさんあったでしょう。Googleで検索すれば、一瞬で解決してしまうのに。

こうしたことに課題を感じていた私は、校内どこでもインターネットにつながる環境を整備し、生徒たちが自由にデバイスを利用できるようにしたいと考えました。今では、教室はもちろん、食堂や体育館、そして運動場にもWi-Fiを整備してもらい、いつでもどこでも自由にインターネットが利用できるようになっています。

生徒たちが自発的に、自分の分からないことや疑問について調べるようになると、教師がすべての知識を授業の中で教え込む必要がなくなります。これは、授業の構造を根本から変える可能性が出てきたことを意味しています。実際に、近大附属の授業がどのように変わってきたのかについては、また回をあらためて紹介したいと思います。

また1人1台の環境を実現するにあたって、クラウドの利用は必須だと考え、学校生活や学習の基盤となるプラットフォームを構築しました。本校がiPad導入を検討していた2012年当時はまだ、実用に足る既成のシステムは存在しておらず、本校の教育理念を理解して協力してくれる企業の方と一緒にシステムを構築しました。

システムの構築で重要視したことは、「誰でも、簡単に、目的とする人に、必要な情報やファイルが送信できるシステム」ということでした。そして、そのシステムのコントロール権が学校側にあることを最重要視しました。それが「CYBER CAMPUS(サイバーキャンパス)」というシステムで、現在に至るまで本校で使用しています。

2013年当時の「CYBER CAMPUS」生徒用画面

現在、類似のサービスが多く販売・提供されていますが、学校側の都合を優先してくれるシステムは、これ以外に存在していません。実際、新型コロナウイルス感染症による休校期間中に、日本中に数多くのユーザーを持つ、ある大企業のシステムが不具合を起こしました。そのため、そのシステムを使用していた膨大な数の学校が全く生徒と連絡が取れない状態になり、生徒の学習の継続が困難になりました。

本校でも休校期間中は通信量が倍増しましたが、サイバーキャンパスのサーバー容量を増加するなどの対応で、通信が途絶えたことはなく、生徒の学びを止めることなく休校期間を乗り越えることができました。この時ほど、システムの構築における学校側の姿勢や、企業担当者の方とのコミュニケーションや信頼関係について大切だと感じたことはありませんでした。

2020年、最新バージョンの「CYBER CAMPUS」教師用画面

生徒たちが自由なiPadを持ち、常に連絡が取れるシステムを整備する重要性は、今回の新型コロナウイルス感染症による休校措置で真価を発揮することになったのでした(第2回につづく)。

近畿大学附属高等学校(大阪府東大阪市)
2013年度に高校1年生1048名に対して、iPadによる1人1台環境を実現。アプリのダウンロードやウェブサイト、SNSへのアクセスに制限を設けず、生徒による自由な使い方を認めるiPadの運用ポリシーで注目を集めた。現在は、中学・高校合わせて約4000台のiPadが稼働する。2014年から3期連続で、アップルが認定する先進的な学びに取り組む教育機関「Apple Distinguished School」にも選ばれている。
乾 武司(近畿大学附属高等学校 教育改革推進室室長)

高等学校、塾、予備校等の講師を経験後、平成14年より理科専任教員として近畿大学附属高等学校に勤務。電算室主任として校務学績管理システムの構築や教科「情報」の設置に携わる。学内情報のデータベース化・ペーパーレス化とともに、 lCT教育環境のアウトラインデザインに取り組む。 平成31年度から教育改革推進室室長。Apple Distinguished Educator 2015。