こどもとIT

【連載】The Teachers' Voice~学びのアップデートをめざす先生からのメッセージ 第6回

読み書き計算に困難のある子の学びを支える"オーダーメイド”の支援

〜つくば市立学園の森義務教育学校 山口禎恵教諭がめざす学びのアップデート①

これまでの学びの価値観が揺らいでいる今、学校が果たす役割は何か、学びをどのように変えていくべきか。本連載『The Teachers' Voice』では、学びのアップデートをめざす先生自身の言葉をお伝えしていく。今回は特別支援の現場で子ども一人ひとりに合わせた支援に取り組む、つくば市立学園の森義務教育学校の山口禎恵教諭。学びに困難を持つ子どもたちにとって、ICTで学びはどう変わるのか。現場の実践をもとに綴ってもらった。
漢字を書くのが困難な子も、漢字を書いたシールを張ることで穴埋め問題に向き合える

一人ひとりに合わせた“オーダーメイドの学び”をめざして

最近は、特別支援のICT活用に役立つさまざまなアプリが出ています。保護者の方はすでに情報をお持ちでしょうし、特別支援の教員も情報を仕入れ、研修なども受けています。

しかし、子どもに合うICTを見繕うことができる教員は少ないと感じています。必ずしもそのアプリがその子に合うかどうかは、やってみないと分かりませんし、別の方法が良いかもしれない。私は、そのような実践に日々取り組んでおり、一人ひとりに合わせたオーダーメイドな支援であることが私の自慢です。

このオーダーメイドを、世間では「合理的配慮」と呼んでいます。合理的配慮は、教師・保護者・本人の合意の上で成り立つもので、いくら私が勧めても、子ども本人が納得いかない場合には配慮になりません。逆に保護者の方が「わが子にもこのような配慮をしてほしい」と学校に掛け合うこともあります。

しかし、私の肌感覚ですが、残念ながら合理的配慮を要望されるご家庭は少ないと感じています。その原因のひとつには、「どんな配慮が受けられるのか分からない」という悩みがあると思います。インターネットで探すと、様々な合理的配慮の例があるのですが、何の情報もなしにそうした情報にたどり着ける保護者の方は少ないでしょう。

この連載では、このような配慮で「できた!」と自信につながった子どもたちがいる、私の実践例を紹介していきます。合理的配慮を受けたいと思っている保護者の方が、学校に「こんな配慮例がある」と掛け合ってみるきっかけになれば幸いです。

読みに困難のある子に、ICTの読み上げ支援を

「振り仮名(ルビ)をふる」。たったこれだけの配慮でも、点数の伸びる子や、今までテストを受けるのが嫌だった子が、テストに向き合えるようになった例があります。

またICT活用では、「音声付教科書」が有効です。これは音声付教科書と音声ペンがセットになったもので、音声ペンで紙面をタッチすると文章の朗読音声が再生されます。また自由に音声を録音し、録音シールを音声ペンでタッチすれば再生される機能もあるので、テストにも使えます。教師が子どもの傍らで文章を読み上げる必要がなく、自分で何度も聞けるのでとても便利です。イヤホンも使えるので、先生やクラスメイトへの説明などをクリアできれば、通常学級での使用も可能でしょう。ただし、低学年の子は喜んで使用しますが、高学年以降になると、支援学級では使えても、「通常学級では恥ずかしくて嫌だ」という子が多いと感じます。

録音シールを音声ペンで押さえると、予め録音した音声を読み上げてくれる

そこで高学年には、印刷物を読むことが難しい児童生徒のためのオンライン図書館「AccessReading」を勧めています。教科書が読めて、家庭のパソコンからでも使用できます。また、「マルチメディアデイジー教科書」を申し込んでいるご家庭もあります。学校によってはこちらを中心に活用しているところもあるので、お子さんが通う学校では教科書の読み上げに何を使用しているか聞いてみると良いかもしれません。

テストなどに関しては、Wordの読み上げ機能を使っています。本当はハイライトなどの機能が充実したWordのアドイン機能「WordTalker」が一番良いと思いますが、有料のためご家庭の判断に購入をお任せしています。ただ、そこまでの機能にこだわらない場合は、今のところWordの読み上げ機能で十分です。

書きに困難のある子には、タイピングも有効だが書く量を減らすなどの配慮も

書くことに困難のある子は、読み書きスクリーニング検査をして、その子の苦手を把握することが必要です。子どもによっては、書く練習が必要な場合もありますが、学校は時間的な制限もあり、練習時間が圧倒的に足りません。そのため、支援学級では書く練習に力を入れるのではなく、別の手段を用いて書くことの苦手さを補う支援が大事になってきます。

一番効率が良いと感じたのは、パソコンを使うことです。タイピングができればデジタルノートのOneNoteや、Word、PowerPointを使って文章が入力できます。作文についても、最初にイメージマップを使って書く内容をイメージし、PowerPointで「はじめ」「なか」「終わり」の構成を視覚化した後、Wordの作文用紙に直接入力するようにすれば、一人でも作文が書けるようになりました。

社会のノート代わりにOneNoteで記入
作文補助のPowerPoint

タイピングは速くできなくても大丈夫です。ある程度、訓練を積めばできるようになります。私は、「キーボー島アドベンチャー」というタイピング練習ソフトを活用しており、毎日10分でも練習を続けると、半年後にはかなりの速さでタイピングができるようになります。

タイピング練習ソフト「キーボー島アドベンチャー」

一方で、書くことの支援に、いつもパソコンを使うわけではありません。タイピングが遅い子や低学年の子には、書く量を減らして「みんなと同じことができた」と思えるように支援します。漢字のドリルやテストの穴埋め問題では、漢字を書いたシールを準備し、貼って解答することを通常学級の先生にも認めてもらっています。例えば50問の漢字テストでは、何の支援もなければ20~30点しかとれない子でも、シールに代替すると、80点以上とれる子がほとんどでした。

漢字ドリルのシール

漢字の宿題ができない子に関しては、「ドリルは1回だけでOK」という配慮を通常学級の担任にも認めてもらうように本人や保護者とも相談します。また、みんなと同じようにやりたい気持ちがあっても、何度も書くことが大変な子には、マス目を大きくしたり、「3回だけ書く」という配慮をしています。算数のノートなども、事前に教科書をコピーして貼り、書くのは式や解答、途中の筆算だけにすると、それだけで通常学級の算数の時間に取り組める子がいます。

作文指導には、「本人に口頭で話をさせて、教師がパソコンで代筆する」という方法をとっています。作文用紙の前では、ほとんど書けない子も、「いつの話?」「そのとき、○○さんはなんて言ったの?」と誘導していくと、口頭で内容をきちんと伝えられる子が何人もいます。そのような子は、通常学級では「勉強のできない子」と思われていますが、本当にただ書くことが苦手、表現することが苦手なだけだと思い知らされます。

計算等に困難のある子へ、やり方をマスターするまでは九九表や計算機の使用も

算数(数学)に対しても、困り感を示す子どもたちがいます。

計算で困り感が強くでるのは、3年生のわり算や、位の多い足し算・引き算、かけ算の筆算です。そこで、まずはアナログな支援からはじめます。九九でつまずいている子には、練習段階で九九表を提示し、さらに筆算などは事前にノートに書いてあげて、色をつけます。「①たてる②かける③ひく④おろす」というわり算の筆算のやり方が定着するまでは、筆算に色をつけてあげるだけでスムーズに取り組むことができます。

色分けつき計算ノート

「250÷78」という2桁で割る計算になると、九九表は使えません。こうなると、計算機の使用を認めるのが一番です。ただし、250÷78をそのまま計算機で計算するのではなく、78、156(78×2)、234(78×3)…というように78にいくつかけたら250に一番近づくかを計算機で確認していきます。わられる数(ここでは250)を超えてはだめなこと、また「何番目が一番近い?」という聞き方をすると、「3番目」と答えて一の位に3をたてられるようになります。

また計算機を使う理由を本人に伝えることが大事です。「あなたは、かけ算が苦手で今、百マス計算で一生懸命練習しているよね。でも、みんなが授業でやっているのはわり算で、かけ算ができないとわり算が解けないんだ。今、必要なのは、みんなと同じようにわり算の筆算のやり方をマスターすること。そのために、計算機を使うのはズルではないよ」という具合に、今何をしなければならないのかをハッキリさせると、本人も罪悪感なく使用できます。ただ、計算機に関しても、支援学級では使うけど、通常学級で使うには抵抗感がある子が多いです。

中学数学のグラフでつまずいている子には、「Geogebra(Web版)」を使っています。例えば一次関数の「y=2x」と「y=2x+5」「y=-2x」との違いを理解するには、Geogebraに式を入れるとすぐにグラフが作成されるので、自分でグラフを書くにもこれを見ながら書く練習ができます。

また現在、本学園の支援学級の子は無料で使用できるExcelドリル「Microsoft Excel で 100問ドリルをしよう」を使っています。これは私と同じMIEE(マイクロソフト認定教育イノベーター)で愛知県の鳳来寺小学校の鈴木英之教諭が作られたものです。

100問ドリルは、PC上でランダムに問題が出題され、実施時間や正答数などの学習履歴が残ります。本来は100問解いてその時間を計るのですが、計算の苦手さのある子は時間がかかるので、1日1回5分と決めて取り組んでいます。たった5分でも毎日続けると、解答できる数も増え、正答数も増えていきます。その結果をスクリーンショットで記録してTeams上に保存しておくと、子どもたちも自分の実力が少しずつアップしているのを実感できるようです。小学生のたし算から中学生の因数分解なども対応しているので、学年にとらわれることなく、子どもの実態に合わせて使えるのが魅力です。

100問ドリルの計算結果をTeamsにアップして学習履歴として保存

今回は、読み・書き・計算に困難のある子への配慮例を紹介しました。子どもの学年や本人の想いによってできることは異なりますが、アナログもICTも取り入れたオーダーメイドの配慮で、子どもたちの学びたい意欲を止めない工夫ができることを保護者の方や先生方に知ってもらいたいです。次回は、情緒・ADHD・自閉症の子どもたちにできる合理的配慮をお伝えしたいと思います(第2回目につづく)。

つくば市立学園の森義務教育学校(茨城県つくば市)
2018年に開校。つくば市は全域で小中一貫教育を実施しており、市内に4校ある義務教育学校のひとつ。「挑戦・創造・協働」をモットーに、自分の可能性に挑戦し、創意をもって未来を切り開く学園生の育成をめざしている。プログラミング教育や遠隔授業などICTを活用した学習にも力をいれる。特別支援においては、コーディネーターを核とするチーム支援で、9年間を見通した個別支援や、授業のユニバーサル化、ICT機器の効果的な活用について取り組んでいる。
山口禎恵(つくば市立学園の森義務教育学校教諭)

つくば市立学園の森義務教育学校教諭。自閉症情緒障害学級担任と特別支援教育コーディネーターを兼任。特別支援学級・通級指導教室の子どもたち一人一人に合わせたオーダーメイドの支援に様々なICTを組み合わせて実践中。支援学級でのプログラミング授業も色々試しており、embot認定teacherにも選ばれている。2016年よりマイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)としても活動中。