教員のICT活用 - こどもとIT

プログラミング、特別支援、学校組織改革など、ICTで学びを支え・進める教育者たちの成果が集結

――Microsoft Education Day 2020 レポート(前編)

マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)による体験型教育カンファレンス「Microsoft Education Day Tokyo 2020」が、2020年2月15日に日本マイクロソフト本社で開催された。

今年のテーマは「学びのカラフルゼリー」。子どもたちのカラフルな個性と、さまざまな社会の課題に対応できる柔軟性や応用力を育てたいという思いから、このテーマが選ばれた。ほかにも、MIEEの教師たちが日頃の成果を発表するポスターセッションや、さまざまなツールが体験できるワークショップなども開催。前編では、基調講演やセミナー、ランチセッションの模様をレポートする。

Microsoft Education Day Tokyo 2020のテーマは「学びのカラフルゼリー」(画像はMIEE Talks@Admin Facebookイベント告知ページより引用)

ビスケット開発者 原田康徳氏 基調講演「コンピューターはみんなのもの、子どもたちには当事者意識を育ててほしい」

基調講演は、Viscuit(ビスケット) 開発者の原田康徳氏。「こんなに進んだ ビスケットの教科への応用」と題し、プログラミング教育のツールとして多くの小学校で利用され、平日の作品保存数は1万を越えるというビスケットの今が原田氏から語られた。

ビスケット開発者の原田康徳氏

原田氏はビスケットが生まれた経緯を、そのルーツとなった自身の研究内容に触れ、「プログラミングの楽しさと可能性を伝えるためにビスケットを作った」と述べる。しかし、どんなプログラミングツールであっても、楽しさを伝えることは簡単だがプログラミングの可能性を伝えるのは難しい。そのため、ビスケットはシンプルさにこだわったという。「プログラミングの本質は組み合わせ。機能を充実させるのではなく、シンプルさを重視し、いろいろな組み合わせですごいものが作れる演出を大切にしている」とビスケットの開発思想を語った。

ビスケットは近年、多くの教育者にプログラミングツールとして選ばれており、多彩な実践が生まれている。たとえば、兵庫県尼崎市立園田小学校の林孝茂教諭は、小学2年生で漢字のシューティングゲームや英語のゲームを作成。ゲームを作る過程で漢字や英単語に親しむ学習を行った。また大分県の竹林芳法教諭は、国語と算数でビスケットを活用し、その実践内容をまとめて自費出版したという。実践だけでなく、教師のレベルも確実にアップしているようだ。

漢字のシューティングゲーム。「生」と「日」がぶつかると「星」の漢字が表示されるプログラム
大分県の竹林芳法教諭が自費出版したビスケットの書籍

ほかにも徳島県鳴門市立里浦小学校では、5年生を除く、小学1年から6年でビスケットを活用したプログラミングの授業を実施。1年生は国語でしりとりゲーム、2年生は生活科で「うごく生きもの図鑑」の作成、6年生は社会でストーリーづくりなどに挑戦した。

原田氏は、いずれの実践も「“プログラミングをしよう”を授業のねらいにせず、“プログラミングを使って○○をしよう”と位置づけていたのが印象的。ツールとして捉えている点がすばらしい」と評価した。なかでもビスケットの使い方として興味深いのは6年生。子どもたちが織田信長、明智光秀、豊臣秀吉の中から好きな武将を選び、天下統一への動きが分かるストーリーをビスケットで表現した。信長とポルトガル人が出会い、鉄砲を得ることで戦が変わったことや、織田軍と今川軍が戦い、室町幕府を倒したストーリーを表現するなど、子どもたちの個性あふれる作品が出来上がった。

ビスケットで歴史のストーリーを表現した作品

また、横浜市立仏向小学校は「『自分のキラキラ』を見つけよう」というテーマの作文をビスケットで表現したり、横浜市の通級指導教室では、自分が何に怒ったのかをビスケットで表現するという実践も行われた。子どもたちはビスケットで作品を作っている間に気持ちが落ち着き、起きた出来事を振り返ることができたという。

原田氏はこのような事例を紹介し、「歌を歌う、文章を書く、絵を描くなど、子どもたちが自己表現する手段としてプログラミングの存在感が増してきた。なかでも、スピーチや会話などの言語活動とプログラミングを組み合わせるのは、子どもたちにとっても伝えやすい手段ではないだろうか」と述べた。

「自分のキラキラ」を見つけようという作文をビスケットで表現した作品
この作品は自分は何に怒ったのかをビスケットで表現することで、作った子ども自身が気持ちを整理できたという

最後に原田氏は、「プログラミングはいずれ、AIに代替され、私たちは自分のため、身近な人のためにプログラミングをするようになる。これを『プログラミングの大衆化』と呼んでずっと訴え続けているが、文化的に豊かな情報化社会を築くためには、いろんな人達がコンピューター関わることが大切。専門家やお金持ちだけがコンピューターを学び、世の中をつくるのではなく、コンピューターはみんなのもの。子どもたちには、この当事者意識を育ててほしい」と語り、基調講演を締めくくった

高崎健康福祉大学 村田美和氏「学習障害のICT活用は、児童生徒が選べる柔軟性が大切」

続いて登壇したのは、高崎健康福祉大学の村田美和氏だ。同氏は「通常学級の多様な児童生徒に合わせた授業づくりと合理的配慮」というタイトルで、主に学習障害の子どもたちに関する支援について講演した。

高崎健康福祉大学 村田美和氏

村田氏によると、「書くのが遅い」「書けるけど間違う」といった学習障害をもつ子どもは、診断されているケース、そうでないケースも合わせて、現在、通常学級に4.5%の割合でいるという。こうした子どもたちが、授業に参加するだけでなく、内容理解につなげるためにはどうすればいいか。同氏は“授業全体の工夫”と、“個に対する合理的な配慮”の2つのアプローチが必要だと述べる。

合理的な配慮について村田氏は、ある中学校の一例をあげた。書くことが苦手な生徒が、ノートPCとスキャナ、プリンタの3点を通常学級に持ち込み、ノートを取っている。この生徒は、試験もこのスタイルで受けており、試験問題をPCに取り込んで書き込み、それをプリントアウトして提出しているという。村田氏は「この生徒の場合は、机をひとつ用意してもらうなどの配慮を受けている。このように、ICTを使うことで自学できる環境をつくることができる」と訴える。

ノートPCとスキャナ、プリンタの3点を通常学級に持ち込んで学習する生徒

一方で、潜在的に書くことに困難を抱えている生徒は多いと村田氏。ある中学校で1年生3クラスを対象に視写速度を調査した結果、最も視写速度が速い生徒で3分間に171文字、遅い生徒になると3分間に62文字しか書けないことが明らかになった。その差は約3倍に達するにも関わらず、書くのが遅い生徒たちは学習障害と診断されているわけではないのだ。

ある中学校で1年生3クラスを対象に視写速度を調査した結果

村田氏はこの調査結果を示し、「診断ベースの支援では取りこぼされる生徒がいることを知ってほしい」と強調する。ゆえに、授業全体の工夫として、本当に書くことが必要なのかを見直し、無駄な書字時間を省く努力も必要だと訴えた。

書字時間を省く際に見直すポイント

このような学習障害を抱える多くの子どもたちが必要とする、文章の音声化ソリューションの一例として、OneNoteやWordの「イマーシブリーダー」やWordのアドオン「WordTalker」、マイクロソフトが開発した視覚障碍者向けトーキングカメラ「Seeing AI」などを紹介。村田氏は最後に「学習障害を抱える子どもたちにICTの活用を進めていくことは大事であるが、一方で、本人が選択できる“緩み”を持たせることが大事だ」と述べ、学習支援の在り方を示した。

教科書の電子データの読み上げに使えるソリューション

新しい学びをつくる教師たちの活躍

ここからは、ランチタイムに行われた認定イノベーターによる口頭発表を紹介しよう。

立命館小学校 正頭英和教諭「今の教師に求められているのは想像力」

トップバッターは、教育界のノーベル賞と呼ばれる「Global Teacher Prize 2019 TOP10」に選出された立命館小学校の正頭英和教諭。同教諭は、「行動力の時代」というタイトルで、英語を学ぶ価値の変化や教育にテクノロジーを活用する本質について掘り下げた。

立命館小学校 正頭英和教諭は、その取り組みと実力が評価されGlobal Teacher Prize 2019 TOP10にも選出されている

冒頭、正頭教諭は「翻訳アプリが普及し、自学自習できる英語のデジタル教材が増えた今、学校で英語を学ぶ価値は何か」を来場者らに問いかけた。“伝える”ことが目的の英語教育であれば、すでにテクノロジーが代替している。正頭教諭はこうした時代の英語教育の在り方について、「語学としての英語ではなく、英語の情報を得ることや、英語を武器に行動できることが英語を学ぶモチベーションになっている。つまり、知識の習得から体験重視の英語教育に価値がシフトしている」と述べた。

英語教育は「知識」から「体験」にシフトしている、と正頭教諭

体験を重視した英語教育を行うためにはどうすればいいか。その手段として、正頭教諭はテクノロジーが学校現場で活かせるという。テクノロジーは時間と距離の制約を取り払い、これまで教師がやりたくてもできなかった学びを可能にしてくれるというのだ。例えば、費用の課題。今まで生徒たち全員に海外留学させるのは難しかったが、テクノロジーを活かせば、コストを削減しながら海外の生徒と触れ合うことはできる。

正頭教諭は、「学校教育におけるテクノロジー活用の本質は、今まで難しかった体験を提供できること。だからこそ、教員にはテクノロジーを通じてどのような体験を与えることができるのか、想像できる力が必要になる。それを磨くためには、実際に行動するしかなく、行動している人じゃないと浮かんでこないアイデアや発想がある。このサイクルに入らないとテクノロジーなんて活かせない」と述べた。

さいたま桜高等学園 関口あさか教諭「注力すべきは、可能性を広げるためのテクノロジー活用」

2番目に発表したのは、埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園の関口あさか教諭。「表現と学びのバリアフリー化と創造力の育成」をタイトルに、同教諭がこれまで取り組んできた実践を紹介した。

埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園 関口あさか教諭は、ICT夢コンテスト2017で宮島龍興記念教育賞を受賞、教員コミュニティMIEE Talks@Admin.代表も務める

肢体不自由、知的障がいなど、これまで特別支援教育を必要とする多くの子どもたちと接してきた関口教諭。自身の思いとして「本当は考えていることがあるのに伝えられない、本当は描きたいもの、作りたいものがあるのに表現できない。そんな子どもたちの可能性をなんとか広げたくて、テクノロジーの活用に挑戦している」と話す。

たとえば、重度のマヒがあり発語ができない子どもを受け持った時のこと。PCとピエゾスイッチと呼ばれる特殊な入力ツールを与えたところ、文章による意思疎通が可能になり、その子ども自身には年齢相応の認知発達があることが分かったという。「教師はもっと、子どもたちの可能性を広げるためにテクノロジーを活用しなければならない。そのことを改めて認識した出来事だった」と関口教諭。

ロボットボール「Sphero SPRK」をプログラムして表現した写真
「紙のプリントで宿題ができない子もOneNoteでテキスト化してあげるとできるようになる」と関口教諭。

ほかにも同教諭は、タブレットに描いた絵を印刷したTシャツづくりや、ロボットボール「Sphero SPRK」を活用した写真、マインクラフトを使った映像づくりなど、クリエイティブな教育活動に挑戦。単にプログラミングやツールの操作を学ぶのではなく、「表現したいものや、作りたいものがあるから学ぶという視点を重要視している」と述べる。また同教諭は、学習障がいのある子どもたちがOneNoteやWordを使うことで学習できるようになった事例も紹介。「学びにくさがある子は、その子に原因があるのではなく、環境設定で大幅に変わる。その手段としてテクノロジーがあり、子どもたちが考える、表現する場をもっと提供していくことが大事だ」と伝えた。

宝仙学園小学校 加藤朋生教諭「学校を変えるための組織改革に挑戦」

続いて登壇したのは、宝仙学園小学校の加藤朋生教諭。同教諭は、「チーム学校ビルディング」というタイトルで、同校がこの2年間ほど挑戦してきた組織改革について語った。

宝仙学園小学校 加藤朋生教諭は、第20回東京新聞教育賞やICT夢コンテスト2019の優良賞を受賞している

学校はもっと時代に合わせて変わらなければならない。多くの教師が分かっているのに新たなチャレンジができないのはなぜか。「人には探求脳と恐怖脳があり、恐怖脳が新たなチャレンジを阻む」と加藤教諭は話す。教師の探求脳を解放するにはどうすればいいか。同教諭は研修の内容を変更し、変化に強いチームを作るために組織改革に乗り出した。具体的なアクションとしては「教師全員でつくるコンパス」「研究授業の廃止」「宝仙学園小学校のハブ空港化」という3つの取り組みを実施した。

宝仙学園小学校では2018年から、教師全員で同校のディプロマポリシーをつくる作業を開始。そうして出来上がったのが、“いかなる時代であっても、主体的に学び、他者と共に考え行動できる人”というもの。「上から与えられた教育目標ではなく、現場の教師全員で考えたことに価値があり、ここに関わることで新たに生まれた意識がある」と加藤教諭は話す。

学校組織改革のために実行した3つの取り組み
宝仙学園小学校の教師全員で作成したディプロマポリシー

このディプロマポリシーを実現するために、同校では校内研究授業を廃止。従来の研究授業はコスパに見合う成果が出せていないと判断した。代わりに、教師のやりたいことが始まりになるプロジェクト型研究に切り替え、教科横断型の学習や、学習環境のプロジェクト研究など新たな学びが生まれる場を作った。さらに、チームを強化すべく宝仙学園小学校のハブ空港化に取り組む。保護者対象の研修会や、専門家を巻き込んだ学校運営など、さまざまな人材が関わる仕組みを築いた。加藤教諭は「『個』の時代は平成で終わり。令和は『チーム』の時代であり、教師全員がエースになる組織で学校を進化させたい」と述べた。

樹徳高等学校 関口悠教諭「すべての子どもにプログラミングを」

口頭発表の最後に登壇したのは、群馬県桐生市にある樹徳高等学校の関口悠教諭。CoderDojo前橋の代表も務める同教諭は、CoderDojoでの取り組みや課題点について語った。

樹徳高等学校の関口悠教諭、Intel Teach ProgramマスターTeacherでCoderDojo前橋のチャンピオンも務める

CoderDojo前橋を始めて3年が経過したという関口教諭は、なぜCoderDojoを始めたのか。同教諭自身、元々プログラミングを教えたくて数学教師になったそうだ。しかし、数学科教員という枠を超えてプログラミングを教える機会が欲しかったこと、自分の娘も小学生になりプログラミングを学んで欲しかったこと、地域に貢献したかったことが、CoderDojoを始めたきっかけだという。

関口教諭から語られるCoderDojo前橋の発表からは、プログラミング教育が地域に根ざすまでに抱える課題点も見えてくる。そのひとつとしては、「子どもが作りたいものを作るために、時間と場所を提供するというCoderDojoの理念に基づいて、教えないプログラミングを実践しているが、保護者の中には“何も教えてくれない”と不満に感じる者もいる」という点だ。子どもたちの習い事として人気の出てきたプログラミングであるが、CoderDojoの特徴でもある自由度の高さについては保護者の理解が低いというのだ。

CoderDojoの理念に則り、カリキュラムは特に用意せず、子どもたちが作りたいものを作るスタイルだ
マンネリ化によるモチベーション維持の難しさ、保護者の不満、ボランティアの赤字運営など、課題も多い

また「3年やっているとマンネリ化して、子どもたちのモチベーション維持が難しい」という課題もあるようだ。学習カリキュラムが存在せず、子どもの主体性を重視するCoderDojoのプログラミング、子どもたちをどのように導いていくかが難しい。モチベーションの高い子どもばかりではない一方で、講師が何も教えなくてもライントレースのロボットを作る子どももいるという。ほかにも、会場費などで赤字運営が続いていることなども課題だ。とはいえ、関口教諭のプログラミングに対する想いは熱く、「自分も小学生の時からプログラミングを始め、その楽しさを味わった。多くの子どもたちにプログラミングを学ぶ場を与えていきたい」と語った。

ここまでが、Microsoft Education Day 2020の前編のレポートになる。後編ではMIEEの教育者によるポスターセッションやワークショップを紹介する。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。