こどもとIT

リアルな教育現場でICTを活用する教育者たちが語る『本当に育みたい子ども達の力』とは

──Microsoft Education Day 2019レポート(後編)

教育現場におけるテクノロジー活用を先導する教育者、「マイクロソフト認定教育イノベーター」(Microsoft Innovative Educator Experts, 以下MIEE)による体験型教育カンファレンス「Microsoft Education Day 2019」が2月に開催された。同イベントは、ワークショップや講演を通して教育分野におけるテクノロジー活用の情報収集や体験ができる場だ。その基調講演や展示ブースなどの様子は前編『世界で存在感を失いつつある日本で、2040年に生きる子どもたちに必要な教育とは?』で紹介した通りだ。

後編の本稿では、MIEEによる実践報告や教育版マインクラフトを活用したワークショップの内容を中心にレポートする(MIEEの所属は2019年2月16日時点)。

「Microsoft Education Day 2019」(主催:マイクロソフト認定教育イノベーター、企画:MIEE Talks@Admin、共催:日本マイクロソフト)で開催されたマインクラフトのワークショップ風景

Microsoft認定教育イノベーターによる実践紹介

「Microsoft Education Day 2019」では、MIEEが全国から集まり、それぞれの実践を発表するセッション「MIEE Cafe」が行われた。ICT教育やプログラミング教育、特別支援教育など、さまざまな領域でテクノロジーを活かすMIEEの実践とはどのようなものか、紹介しよう。

栃木県大田原市大田原小学校の大高伸吾教諭は、さまざまなツールを用いたプログラミング教育に取り組んでいる。たとえば、3年生では体育の授業でアンプラグド教材「ルビーのぼうけん」を使ってダンスを行ったり、国語や音楽ではビジュアルプログラミングツール「Scratch」を用いたストーリーづくりや作曲活動に挑戦した。また発表では、実際に児童が作った作品なども紹介した。大高教諭はプログラミング教育について、「ICT機器の操作」や「プログラミングの技能修得」に時間がかかることが課題であり、発達段階に応じた指導・支援が必要だと指摘。一方で教師としては、“まずはやってみる”という気持ちを大事にしていると述べた。

大高伸吾教諭(栃木県大田原市大田原小学校)。3年生の音楽では「Scratch」を用いてカエルのうたのプログラムを作った

埼玉県立蓮田特別支援学校の苅田龍之介教諭は、SpheroMiniを活用したプログラミング学習を発表した。特別支援の生徒たちはルールを理解することが困難であるが、同教諭はSpheroMiniを迷路上で動かし、スタートからゴールまで動きを細分化して考えることでプログラミング的な思考を学べるのではないかと学習に取り組んだ。具体的には、苅田教諭が自作した木製の迷路を用いて、生徒たちはコースを作成。その後、SpheroMiniを操作してプログラミングを体験した。苅田教諭は「以前は一度むずかしいと感じてしまうと諦めてしまうことが多かったが、プログラミングの学習を通して“こういう考え方もある”と思う姿や、分からないで終わらせる姿が減った」と手応えを語った。

埼玉県立蓮田特別支援学校の苅田龍之介教諭。SpheroMiniを活用したプログラミング学習を発表。迷路のスタートからゴールまでの動きを細分化して考えることをめざした

宝仙学園小学校の加藤朋生教諭は、自身が名付けた「コミットラーニング」の取り組みを発表。同教諭曰く、ICTはツールとして教育にインパクトを与えることは可能であるが、児童に対しては人に対して“何かをしてあげたい”“人を喜ばせたい”という気持ちを育みながら学びの質を高めていきたいと語った。例えば、林間学校の宿泊先の街が観光客減少の課題を抱えており、どうすれば人が来るようになるか。児童たちは街の魅力を書いて発信したり、旅番組を動画で作成したりしながら街の活性化に貢献した。しかし、それだけで終わらないのが加藤教諭の唱えたコミットラーニング。本当に自分たちのやったことが役に立ったのか、自ら気づいて改善点を改良し、社会で通用するような活動にまでコミットしていこうというのだ。その結果、児童たちは現地のホテルに置いてもらうパンフレットを作成したり、お客さんに対してプレゼンを披露する活動を加えることにしたという。加藤教諭は「ICTを使うことは今の時代はもう当たり前であり、テクノロジーを使って人のために何かしたい、だからもっと学びたいという気持ちを育みたい」と語った。

宝仙学園小学校の加藤朋生教諭。ICTを使うことは当たり前であり、人のために役に立ちたいという気持ちを育む「コミットラーニング」の取り組みを発表。

「MIEE Cafe」のセッションには、他にもたくさんのMIEEが登壇し、それぞれの取り組みを発表した。以下、簡単ではあるが紹介する。

「PowerPoint」の教員研修なども担当する稲葉通太教諭(大阪府堺聴覚支援学校)は同ツールを活用したプログラミング教育や漢字クイズなどの取り組みを発表。なかでも大事にしている活動として「発信してつながる学び」の実践も紹介。耳が聞こえない生徒たちが、自分の思いや夢をPowerPointにまとめて発信し、社会とつながる活動を披露した。
佐藤正範教諭(東京学芸大学附属竹早小学校)は、小学校3~4年生においてテキスト型プログラミングツール「Sonic Pi」を活用した取り組みを発表。一般的に小学生はタイピングが苦手だと思われがちだが、そうではないと同教諭は主張。同ツールを使い、教師がうまく導くことで、子供たちは楽しくテキスト入力のプログラミングに取り組めた発表した。
数学を受け持つ芦部洋一郎教諭(工学院大学附属中学高等学校)は、日本の生徒たちは数学が将来役に立たないと考える割合が高く、将来に対しても不安を持っていると問題提起。もっと数学が役に立つと実感できる方法はないのか。同教諭はエクセルを活用してディズニーリゾート入場者数を予測するモデルを作成するなど、実社会と結びついた数学の学習について発表した
プロのマインクラフターでもあるタツナミシュウイチ氏(明治大学サービス創新研究所・プロスタキッズ)は、マインクラフトがいかに学習に活用できるかについて発表。「マインクラフトはもはやゲームではなく、学びのプラットフォームである」と述べ、電子回路が学べるレッドストーンや、城づくりの建築で得た学びの経験などについて語った
保坂英之教諭(NHK学園高等学校)は、通信制高校に通う生徒たちがどうすれば数学を楽しく学べるかについて考え、プロセスを重視した家庭学習教材「むげんドリル」を開発した。単に答えを求めるのではなく、公式の値を変えて変化を体験できるようにするなど数学を視覚的に理解できるのが特徴。生徒からは「答え合わせや見直しに役にたった」などの声があったという
根本貴明教諭(大阪府箕面特別支援学校)は、肢体不自由の生徒が通う特別支援学校で、さまざまなプレゼンテーションアプリを活用した自作教材の取り組みを発表した。たとえば、フライングクイズでは、視覚障害のある生徒向けに動きのあるクイズを作成。クリックひとつで問題が表示されるなど、既存のツールを駆使した教材づくりについて語った

マインクラフト、レッドストーン回路を学ぶワークショップも開催!

教育現場でプログラミング教育への利用が広がる教育版マインクラフト「Minecraft: Education Edition」(以下、マインクラフトEE)を用いたワークショップも実施された。マインクラフトEEを用いたワークショップはどれも盛況で、教師や子供たちがワイワイ言いながら楽しい時間を過ごした。

つくば市立学園の森義務教育学校の山口禎恵教諭は、マインクラフトEEの音符ブロックを用いて作曲を行うワークショップを開催した。マインクラフトにはブロックを叩くと24段階に音が変化する音符ブロックがあるが、このブロックとレッドストーン回路と組み合わせることで音楽を奏でることができる。同ワークショップでは、これらの仕組みを用いて「きらきら星」のフレーズの作曲に取り組んだ。参加者の多くはマインクラフト自体が初心者であったが、小学2年生のひとりは「置いたブロックを壊してしまったりして大変だったけど、マインクラフトで音楽が作れて楽しかった」と話してくれた。山口教諭は「レッドストーンは難しいと思っている子供たちが多いが、音符ブロックであれば簡単に使うことができる。マインクラフトで音楽も楽しめることを知ってほしい」と述べた。

音符ブロックを用いた作曲のワークショップ。マインクラフトでは音符ブロックとレッドストーン回路を組み合わせて作曲が可能。音符の長さとレッドストーンリピーターの遅延速度を対応させるのがポイント

明治大学サービス創新研究所・プロスタキッズのタツナミシュウイチ氏は、マインクラフトEEのレッドストーンやコマンドブロックについて、その使い方を学ぶワークショップを開催した。レッドストーンやコマンドブロックは、マインクラフトの中でさまざまな仕掛けを作ることができるブロックで、これらを駆使することでマインクラフトの世界で自動化や効率化を実現できる。参加者たちはタツナミ氏が自作したワールドの中に入り、用意された課題を解くような形でマインクラフトやブロックの性質を学んだ。ちなみに、同ワークショップにおける参加者の大半はマインクラフト初心者の教育者たちだった。レッドストーンやコマンドブロックはマインクラフトの中でも扱いがむずかしいが、挑戦する教育者も増えてきたようだ。

ワールドの中にチェストが用意され、その中に選択問題が隠されている。参加者たちは、それを解きながらマインクラフトの世界を楽しんだ
「AND回路」や「OR回路」などレッドストーン回路やコマンドブロックの使い方について、基本的な知識を説明した

教育現場で活用できる、動画による双方向コミュニケーションツール「Flipgrid」

マインクラフト以外のワークショップで注目したいのは、マイクロソフトが2018年6月に買収した動画ベースのソーシャル学習プラットフォーム「Flipgrid(フリップグリッド)」だ。同ツールは、YouTubeのように動画を簡単に投稿することができるうえ、動画でコメントを残すことが可能だ。YouTubeではコメントのやり取りはテキストに限定されるが、Flipgridでは動画による双方向コミュニケーションが実現された。教育現場での普及をめざし、ルーブリック機能やクローズドな使い方ができることも魅力である。日本の教育機関ではまだ利用実績が少ないが、マイクロソフトによると海外では180カ国2000万人の利用者があるという。

動画ベースのソーシャル学習プラットフォーム「Flipgrid(フリップグリッド)」のワークショップ

Flipgridのワークショップを開いたのは、西町インターナショナルスクールの堀井清毅教諭だ。同教諭は「Colorful Candies!」と題して、Flipgridでさまざまなスナックやキャンディーを紹介し合う活動に挑戦した。参加者たちは用意されたお菓子を手に取り、グルメレポーターになったつもりでその内容を説明する動画を作成。その後、Flipgridで共有しながら使い方や教育的利用について学んだ。堀井教諭は「動画によるアウトプットは子供たちの表現力が増し、昨今、注目されているソーシャルエモーショナルラーニングにもつながる。以前は他校と交流するためにスカイプを利用していたが、それだと時間を合わさなければならず、Flipgridを使うようになってから時間を気にせずに動画で交流できる点も良い」とメリットを語った。

ほかにも埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園の関口あさか教諭は、コミュニケーションロボット「OriHime」を活用したワークショップを開催した。同教諭は自宅からイベントに参加する形で、自分の代わりとして会場にOriHimeのロボットを設置。自宅から遠隔で操作しながら、参加者らとICT活用について話し合った。身体的・精神的な理由で教室に通うことができない児童生徒であっても、こうしたロボットを活用することで友達と席を並べて学ぶことができるというのだ。

コミュニケーションロボット「OriHime」は、行きたい場所に行けない人のもうひとつの体となってくれる

以上が、「Microsoft Education Day 2019」で実施されたMIEEによるワークショップや発表となる。当日は非常に多くのセッションやワークショップが設けられたため、その全てを紹介することはできなかったが、当日配布された『マイクロソフト認定教育イノベータによるICT活用実践集』はマイクロソフトのサイトでも公開されているので、こちらを参考にさまざまなICT活用を広げてほしい。

当日配布された『マイクロソフト認定教育イノベータによるICT活用実践集』には、さまざまなICTツールを活用したMIEEの実践が収録されている

【お詫びと訂正】初出時にタツナミシュウイチ氏の肩書きに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。