こどもとIT

教員のグローバルプログラムに参加し、教育の視野を広げよう!

――「Learn Global – 日米教育委員会 ICT日米教員交流プログラム&Microsoft Education Exchange勉強会」レポート

2019年4月27日、「Learn Global – 日米教育委員会 ICT日米教員交流プログラム&Microsoft Education Exchange勉強会」と題して、教員向け海外研修の勉強会が日本マイクロソフト株式会社にて開催された。

同イベントは、小中高や大学、特別支援学校の教員らが参加できる海外研修について情報収集できる勉強会。日米教育委員会と日本マイクロソフトの両者は、教員向け海外研修の場を提供しており、教員間の関心も高まっていることから、このような場が設けられた。実際に、教員向け海外研修ではどのようなことが学べるのか、勉強会の様子をレポートしよう。

「Microsoft Education Exchange 2019」に参加した教員達(左から甲南高等学校・中学校 村上仙瑞教諭、つくば市立学園の森義務教育学校 特別支援教育コーディネーター 山口禎恵教諭、東京学芸大学附属小金井小学校 鈴木秀樹教諭)

マイクロソフトが開催、世界最大級の教員研修「Microsoft Education Exchange」

最初に登壇したのは、米マイクロソフト本社が主催する世界教員研修「Microsoft Education Exchange 2019」に参加した東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹教諭だ。マイクロソフトは毎年、同社が認定する教育者「Microsoft Innovative Educator Experts」(MIEE、以下日本での呼称「マイクロソフト認定教育イノベーター」と記す)の中から、優れた実績を残す教育者に対し、世界規模の教員研修を実施している。今年で5回目を迎えた同研修は、4月2日から4日の3日間、フランスのパリで開催され、世界70カ国350名もの教員
が集結。日本からは鈴木教諭を含む3名の教師が参加した。

東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹教諭

「Microsoft Education Exchange」とは、どのような研修なのか。鈴木教諭は内容については次の5つ、「Keynote(基調講演)」「Educator Challenge(グループワーク)」「Breakout Session(講習会)」「Learning Marketplace(個人発表)」「Award Celebration and GALA(表彰式)」に分かれると述べ、それぞれ写真を見せながら詳しく語った。

「Keynote(基調講演)」

「Microsoft Education Exchange」、Keynoteの様子

「Keynote」は、さまざまな教育関係者が登壇し、テクノロジーを活用した教育事例からマイクロソフトの製品紹介まで幅広い話を聞くことができた、と鈴木教諭は語る。なかでも、米マイクロソフト教育部門バイスプレジデントであるアンソニー・サルシト氏の講演を取り上げ、「とても刺激的で感銘を受けた」と同教諭は述べた。

Keynoteでサルシト氏は、研修会のテーマでもあった「Change Makers」の言葉を参加者たちに投げかけた。「今の時代ほど教育に変化をもたらす教育者が必要とされた時代はない。現場で変化を起こすことは、勇気もいるし、怖さもあるが、チェンジメーカーとして、元の場所に戻っても変革を起こせる教育者を広げてほしい」と訴えるなど、非常にメッセージ性の強い言葉が研修のテーマに掲げられていたという。

米マイクロソフト教育部門バイスプレジデント アンソニー・サルシト氏の講演では、研修会のテーマのひとつ「Change Makers」を強く訴え、教育現場に変革をもらす人を増やそうと伝えた

「Educator Challenge(グループワーク)」

続いて鈴木教諭は、「Educator Challenge」と呼ばれるグループワークについて述べた。これは、Microsoft Education Exchangeに参加した350名の教育者全員が、国籍や人種、文化、宗教などに関係なく、グループに分かれて、与えられたテーマに基づいた授業プランを作り上げるというもの。完成した授業プランは2分間の動画にまとめて制限時間までに提出し、最終日の表彰式で授賞チームが発表されるという流れだ。

「Educator Challenge」と呼ばれるグループワークでは、参加者全員にグループに分かれて授業をデザインする

今年のテーマは「学習者がパリの世界に夢中になる授業をデザインしよう」。どの年齢の学習者に向けて、どのような学びを提供し、どう評価するのか、参加した教員達はグループごとにアイデアを出し合い、ひとつの授業プランを作り上げる。事前に、学習到達度の評価基準となるルーブリックも示されるため、授業プランはそれを考慮したものでなければならない。チーム内のコミュニケーションはすべて英語で、ネイティブでない教育者にとってはチャレンジングであるが、それも含めてチームワークが求められる。

Educator Challengeの今年のテーマは「学習者がパリの世界に夢中になる授業をデザインしよう」だ
授業プランのルーブリックには「Collaboration(協働)」「Creativity(創造性)」「Student Voice(意見の吸い上げ)」「Inclusion(インクルーシブ)」の4つが挙げられた

その後、参加者達は授業プランのアイデアを広げるために、バスツアーでパリの街に繰り出した。このバスツアーは単に観光地を周るだけでなく、10ヶ所ほどの場所で「Social Media Challenge」と呼ばれるタスクも用意されており、チームで協力してSNSに発信する写真を撮影する。いかに、ユニークで楽しい写真を発信することができるか、そんなチャレンジに挑みながら、教員同士の親睦を深めていく。鈴木教諭は「パリの街を見て歩くだけでもテンションが上がった。授業プランの作成へ入る前にグループで良い雰囲気を作ることができてよかった」と述べた。

バスツアーでパリ観光に繰り出す、グループワークに参加した教員達
「Social Media Challenge」で、指定された場所で写真撮影を行う鈴木教諭のグループ

バスツアーの後は、いよいよ授業プランの作成だ。鈴木教諭は「異なる国の人と授業を作るのは、刺激的な反面、戸惑うことも多かった」と率直な感想を述べた。たとえば、全員の連絡や情報共有の手段として「WhatsApp」が使われたり、学校の先生とは思えないほど人の話を聞いていないチームメイトがいたりと、日本人から見た文化の違いに苦労する場面もあったようだ。また、鈴木教諭はルーブリックの作成を担当したそうだが、「テクニカルな部分を重んじる教育者がいれば、パリの街を知ることに対して評価したい教育者がいるなど、国の違いや人の違いを感じることができ、自分にとっては学びになった」と述べた。

ちなみに、鈴木教諭のチームは、パリの街が抱える社会問題について課題解決型学習で取り組む授業プランを考案したという。情報収集には「Microsoft Forms」を使い、専門家の意見を聞く際には動画ベースの学習プラットフォーム「Flipgrid」を利用するなど、テクノロジー活用も盛り込んだ。

グループごとに授業プランを作成していくが、制限時間内で終わらないときは、カフェなどに移動して作業の続きを行ったという

「Breakout Session(講習会)」

「Breakout Session」とは講習会のようなもので、マイクロソフトが提供する教育ソリューションについて学ぶことができる場だ。内容としては、教育版のマインクラフト「Minecraft: Education Edition」や、前述の「Flipgrid」など、比較的、新しいソリューションが用意されている。参加者は希望するセッションを受講することが可能で、実際に体験をしながら、基礎的な使い方や活用事例を学ぶことができるという。

マイクロソフトが提供する教育ソリューションについて学べるセッションも用意されている

「Learning Marketplace(ポスターセッション)」

「Learning Marketplace」はポスターセッションのようなもので、教育者全員がこれまでの取り組みを披露し合うものだ。各ブースでは、教育者達が民族衣装を身にまとったり、自国のお菓子を用意してもてなすなど、カジュアルなスタイルで交流する。

各国の教育者がこれまでの取り組みを披露し合う「Learning Marketplace」

鈴木教諭はLearning Marketplaceを「いろいろな国の教育者と自由に話ができて、とても良かった」と振り返る。なかでも、鈴木教諭と同じインクルーシブ教育の研究に取り組む教育者達との交流が印象的だったようで、「みんな同じ悩みを抱えながら、インクルーシブ教育に取り組んでいることが分かった」と述べた。国は違えど、教育者が抱える課題は同じ。皆、同じ悩みを持って日々の実践に取り組んでいるというのだ。

Learning Marketplaceでは、教育者同士が直接会話をしながら交流できる

「Award Celebration and GALA(表彰式)」

Education Exchangeの最後は、表彰式とパーティを兼ねた「Award Celebration and GALA」となる。参加者たちはドレスアップしてパーティ会場まで移動し、アルコールを片手に交流した。場が温まったところで、Educator Challengeの表彰式となり、優秀な授業プランを作成したチームが表彰される。表彰式では、日本から参加したつくば市立学園の森義務教育学校の山口禎恵教諭のチームが、「Social Media Challenge」の部門で授賞した。

Award Celebration and GALAの表彰式会場の様子
日本から参加したつくば市立学園の森義務教育学校の山口禎恵教諭のチームが、「Social Media Challenge」の部門で授賞

鈴木教諭はEducation Exchangeの全体を振り返って、日本で受ける研修との違いは3つあると語った。

それは「Learning(学び)」「Diversity(多様性)」「Inclusion(インクルーシブ)」の3つで、教科や校種で区別された日本の研修とは全く異なるという。鈴木教諭は「めざしている学びのカタチが違う。いろんなテクノロジーを組み合わせて複合的に進めていくことは当たり前であり、その上でどのような学びが実現できるのかを考える研修だった。テクノロジーの組み合わせ方や、使い方の自由度も高く、紙の世界が悪いとは言わないが、テクノロジーを使わないことで子ども達に見せられていない世界があると思った」と述べた。

まずは「マイクロソフト認定教育イノベーター」にチャレンジしよう!

続いて勉強会に登壇したのは、日本マイクロソフト パブリックセクター統括本部 文教本部 ティーチャーエンゲージメントマネージャー 原田英典氏。同氏からはEducation Exchangeに参加できる、「マイクロソフト認定教育イノベーター」について説明があった。

本マイクロソフト パブリックセクター統括本部 文教本部 ティーチャーエンゲージメントマネージャー 原田英典氏

マイクロソフト認定教育イノベーターは、教育現場におけるICT活用を推進する教員を認定し、その活動を支援するプログラム。マイクロソフトが教育分野において、最も注力するプログラムで、教育者自身と、その仲間となる認定教員、マイクロソフトの3者で協力しながら、教育の変革をめざすことがその狙いだ。日本国内の初等中等教育および特別支援教育を行う学校で、ICT活用の実践を行う教育関係者が対象となり、年に1度応募できる。

マイクロソフト認定教育イノベーターの募集はすでに始まっており、7月13日が応募締切となっている

現在、マイクロソフト認定教育イノベーターの募集期間でもあり、原田氏は「テクノロジーを使ってすごい授業ができる先生を求めているのではない。簡単なICT活用でも良いから、情報発信できる人に応募してほしい」と参加した教育者達に訴える。

教育現場では、ICTを活用した教育実践は確実に広がってきているが、それを発信できる教師はまだまだ少ない。ここからさらに教育現場を変えていくためには、皆が真似できないような“テクノロジーのすごい使い方”を広げるのではなく、誰もができるICT活用の事例を発信できる教師の存在が重要だというのだ。

「教育分野で情報発信をすることは勇気がいることであるが、そのあり方を変えていくことを一緒にやりたい。情報発信できる人、周りを巻き込める人に価値があると考えている」と原田氏は述べた。

2019-2020年度 マイクロソフト認定教育イノベーター募集概要
対象者日本国内の初等中等教育 および 特別支援教育を行う学校にて ICT 活用の実践を行っている教育関係者
申込締切2019年7月13日(結果連絡は同8月21日)
応募方法Microsoft Educator Communityへの参加
②活動内容をSwayにまとめたものか、代用できるWebページのURL
ビデオ(動画)形式の資料(授業風景でなくとも、今まで撮った写真をつないだものなどでOK)が必要
支援内容実践機材の貸出、製品ライセンスの貸出、各種勉強会、公開授業の支援、発表登壇の機会提供など

今年から始まる「ICT日米教員交流プログラム」にも注目が集まる

最後は、日米教育委員会の生形潤氏が登壇し、今年の8月に実施される「ICT日米教員交流プログラム」について説明があった。

日米教育委員会の生形潤氏

日米教育委員会とは、日本とアメリカ、2つの国の出資金で運営されている国際機関だ。教育・文化分野における人物交流を目的とし、主にフルブライト奨学金の運営と教員交流の事業を担っている。教員交流事業は10年前から開始したが、今年から中身を変えて、「ICT」にフォーカスした交流プログラムを実施することになったという。

今年のICT日米教員交流プログラムは、「宇宙と地球」がテーマ。ICTの活用を通して、宇宙と地球について学べる授業プランを日米の教員で考えるという内容だ。実施期間は8月4日から11日で、場所はハワイ島。マウナケア天文台などを訪れて、米国教員とワークショップを行う。同プログラムには同時通訳がつくので高い英語力は必要ではないが、「積極的にディスカッションや米国教員と関わる姿勢は求められる」と生形氏。同プログラムでは、現地での交流だけでなく、プログラムが修了した後も、日米交流を大切にしていることから、日常英会話ができるのが望ましいという。

日米ICT教員交流プログラムは現在、応募受付期間で、締切は5月20日。ただし、今回に限り、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び、都道府県・各市町村の教育委員会に勤務する者が対象になる。小学校の教員は応募できないので要注意。

グローバル化や多様性、コラボレーションといった言葉が教育現場では飛び交っているが、教師自身が身をもって、それを体験しているケースは少ない。海外研修は英語の壁もつきまとうが、教育者の挑戦がない限り、現場の変化は起こらない。今のコミュニティから抜け出して学べるチャンスを活かしてほしい。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。