こどもとIT

世界で存在感を失いつつある日本で、2040年に生きる子どもたちに必要な教育とは?

──Microsoft Education Day 2019レポート(前編)

マイクロソフト認定教育イノベータ(MIEE)による体験型教育カンファレンス「Microsoft Education Day 2019」(主催:マイクロソフト認定教育イノベータ、企画:MIEE Talks@Admin、共催:日本マイクロソフト)が、2019年2月16日に日本マイクロソフト本社で開催された。

今年のテーマは「2040年に生きる子どものための学びのニューモデル」。昨年同様、多くのワークショップやMIEEによる実践紹介などが設けられ、当日は教育関係者や一般参加者など合わせて約400名が集まった。教育分野におけるテクノロジーの可能性をさらに広げるイベントとなった。

子どもたちは「妄想力」と「妄想を具現化する力」が必要!

「Microsoft Education Day 2019」で特別講演に登壇したのは、17歳以下のクリエータ人材育成を担う一般社団法人未踏ジュニア代表の鵜飼佑氏だ。同氏は元マイクロソフトで「Minecraft: Education Edition」などのPMを務めたほか、小学校のプログラミング教育普及にも尽力している。講演では「2040年に社会や世界で活躍する子どもたちに必要な教育とは?」と題して、同氏が考える人材育成やプログラミング教育の在り方などを語った。

特別講演に登壇した未踏ジュニア代表の鵜飼佑氏

鵜飼氏はまず、今後2040年に向けて社会がどのように変わるのか、自身の見解を述べた。

アメリカと日本のGDPが世界トップクラスであった2000年代初め。中国はまだ今のような発展を遂げていなかった。しかし、2019年の今、同国の経済は飛躍的に成長し、その一方で日本経済は停滞している。今の小学生が活躍する2040年の世界は、中国がさらに発展し、インドネシア、インド、アフリカなどの国も人口増を背景にさらに発展していくだろう。そうした時代が来れば、日本の存在感はますます失われ、産業構造も大きく変化すると鵜飼氏は述べた。実際に1990年代の世界時価総額ランキングトップ20には多くの日本企業が名を連ねていたが、2017年は1社もない。

鵜飼氏の特別講演には、多くの教育関係者らが詰めかけた

このような時代の到来は何を意味するのか。鵜飼氏は「今の子どもたちは世界と仕事をするのが当たり前になる」と述べた。同氏は韓国を例にあげ、人口が少なくなれば一部の大企業を除いて、世界市場で勝負しなければならないというのだ。加えて、AIがさらに進化すれば職業自体も変化する。鵜飼氏はGoogle Chinaの前社長Kai-Fu Lee氏の著書『AI Super-powers China, Silicon Valley, and the New World Order』を取り上げて、“約50%近く(の職業)が技術的にはAIに飲み込まれる可能性があるが、法制度等が要因で10-25%程度になるのではないか”という著者の見解を紹介した。

こうした未来の社会を生きる今の子どもたち。鵜飼氏は「これからの教育に必要なのは、妄想力と妄想を具現化する力、その両方が必要だ」と述べた。同氏のいう“妄想力”というのは、単に“あんなものがあったらいいな”と思い描くだけではなく、身の回り人を幸せにしたい、身の回りの困りごとを解決したいと、課題感に裏打ちされたビジョンや夢を持つことだという。そして、それを具現するためには、技術(プログラミング)、デザイン、グローバルに人を巻き込む力がこれからの時代は必要だと述べた。鵜飼氏は「決して大層なことを求めているのではなく、自分で考えたアイデアを形にし、周りに自慢したり、使ってもらったりしながら実現していく、その経験が大切だ」と語った。こうした取り組みを通して、日本全体がクリエータになる社会をつくりたいと述べた。

鵜飼氏は2040年の社会に向けて、「妄想力」と「妄想を具現化する力」が重要だと語った

鵜飼氏は、自身がクリエータ育成のひとつとして取り組んでいる未踏ジュニアから、ロールモデルになる2人の10代クリエータを紹介した。講演では、彼らが登壇し、未踏ジュニアで制作したプロダクトを紹介した。

平野正太郎さんは、小さな子どもたちが英語を楽しく学べるようにとキューブで学べる英単語ゲーム「Let’sえいごパズル!」を作成、「好きなものを作ってきたので基礎知識がなく、赤外線通信などに苦労した。でも成功したり、道が見えたときの喜びはたまらない」と語った
西村唯さんは、クラスの掃除当番表が“いたずらで勝手に回す”“回し忘れる”という課題に対し、LINEで設定・通知できる当番お知らせサービス「Toubans!」を作成、アメリカ最大級の教育イベントSXSW Eduの「Student Startup Competition」のファイナリストにも選出されたことを受け、「自分の作ったものが未踏ジュニアを通して世界につながったことが嬉しい」と述べた

鵜飼氏は最後に、小学校のプログラミング教育についても触れた。現在、学校現場ではプログラミング教育に関してさまざまな課題があるが、「一番大切なことは、“プログラミングが楽しい”、“自分のアイデアを形にしたい”と思う気持ちであり、教育関係者らはその部分を伸ばしてほしい」と語った。一方で、プログラミング教育は学校内で完結しないとも主張。水泳と同じように、学校外に学べる場があることが重要であり、プログラミングを好きになった子どもたちが、さらに学ぶことができるよう、学校外、授業外で学びの場を作っていきたいと述べた。

プログラミング教育、教師が全てを教えるという発想は捨てる

鵜飼氏の特別講演では、後半に会場からの質問に答えるパネルディスカッションが行われた。パネラーには鵜飼氏ほか、佐野日本大学中等教育・高等学校の安藤昇教諭、明治大学サービス創新研究所・プロスタキッズのタツナミシュウイチ氏、 そして特別ゲストとして教育ICTの分野で先進的な佐賀県多久市の横尾俊彦市長も登壇した。

写真左から佐賀県多久市の横尾俊彦市長、明治大学サービス創新研究所・プロスタキッズのタツナミシュウイチ氏、佐野日本大学中等教育・高等学校の安藤昇教諭

会場の教育者らからは「プログラミング教育は首都圏と地方で格差がある。地方ではどのように進めていけばいいか」と質問があがった。多久市の横尾市長は「自分が市長になったときも同じ危機感を感じた」と述べ、多久市の場合は、民間会社と協力したり、総務省の実証事業などを利用して取り組みを広げてきたと経験を語った。

また「プログラミング教育を進めるにあたって参考になる海外の取り組みはどれか?」という質問について鵜飼氏は、「どこの国が成功しているといえる国はない。どこの国も課題を抱えながら進めているのが現状だ」と述べた。アメリカにしても、イングランドにしてもコンピュータ・サイエンスに取り組んでいるが、一方で教師不足、受験とのバランスなど日本とよく似た課題を抱えているという。安藤氏は「プログラミングを得意になるような生徒は、いずれ自分で学んでいく。学校はきっかけを与える場所になればいいのではないか」と語った。

会場からはプログラミング教育に関する質問が多数寄せられた

会場からは鵜飼氏の講演を受けて、「クリエータ育成という視点でプログラミング教育を取り入れるのはどうすればいいか?」という質問も出た。同氏は「全員が同じゴールに辿り着くようなパズル型のプログラミングではなく、子どもたちが作りたいものをサポートする学習が望ましい」と述べた。もちろん、最初のステップとしてパズル型のプログラミングは教室の中で教えやすいことも理解できるが、そもそもプログラミング教育については先生が全てを教えるという発想を捨ててほしいと鵜飼氏は語った。

横尾市長は「プログラミングを教える1回目、2回目の授業が重要になるのではないか」と語った。プログラミングが社会の何に活用されているのか、社会の何を変えたのか、何のために自分たちはプログラミングを学ぶのか、そうしたことを子ども達に教えていくことが重要だというのだ。なぜなら、それがプログラミングを学ぶモチベーションにつながるというのが同氏の個人的な考えだ。安藤氏は、「プログラミング教育では、知識があることを教員の優位性にするのではなく、知識に裏付けられた学び合いを大事にすることが大事だ」と語った。それにはまず、教師が子ども達にクリエイティブなものを求めていることを伝えることが重要だというのだ。

会場からは多くの質問が投げかけられ、どの教育者も子ども達により良いプログラミング教育を与えていきたいという思いが伝わってきた。今後さらにプログラミング教育を広げていくためには、このように教育者同士がカジュアルに意見を交わす場も求められるだろう。

実践者と企業をつなぐ、多様なワークショップと企業ブース

「Microsoft Education Day 2019」には多くの教育関連企業が協賛し、ワークショップや出展ブースが設けられた。教育者や一般参加者が実際にソリューションを手に取って動かしてみたり、ワークショップで体験したりと、新しい教育やテクノロジーの可能性に触れた。ワークショップの一番人気はマインクラフトであるが、それは後編で詳しくレポートするとして、ここではその他のワークショップや協賛企業の製品を紹介しよう。

株式会社島津理化は、同社が開発したプログラミングボードIO-27とソニーの新規事業創出プログラムから生まれたプログラミングツール「MESH」を組み合わせて、理科のプログラミングワークショップを行った。参加者たちは、自分がためた電気を用いて、明るいときはスイッチがオフ、暗い時はスイッチをオンになるプログラムづくりに挑戦。MESHの明るさタグを活用しながら、どうすれば電気が有効に使えるかを考えた。

株式会社島津理化は、「MESH」とプログラミングボードを用いた理科のワークショップを実施。電気の有効利用について考えた

NTTドコモは同社が開発したプログラミング教育用ロボット「embot」のワークショップを実施した。embotはダンボールと電子回路でつくるプログラミングロボットで、タブレットの専用アプリで制御できる。シンプルなうえに、子ども達がカラフルなデコレーションをして楽しめるのが特徴だ。

ダンボールでつくるプログラミングロボット「embot」
タブレットのプログラム制御画面

プログラミングスクール「プロスタキッズ」のワークショップでは、プロの花火師が使用する打ち上げ花火のシミュレーションソフトを活用し、自分だけの花火ショーを作成した。最初は、秒数が書かれた紙に設計図を書いてイメージを膨らませ、次に、ソフトを使って、さまざまな花火の種類を選びながら試行錯誤を重ねた。最後はワークショップの全員で発表し、工夫した点や見どころなどについて語り合った。

プロの花火師が使用する打ち上げ花火のシミュレーションソフトを活用したワークショップ

また教育用の小型コンピュータボード「micro:bit」を活用したワークショップでは、基礎的な操作説明や、LEDを光らせるといった簡単なプログラミングから始まり、最終的には磁石とセンサーとの距離を測って計測の方法を工夫しようというテーマに挑んだ。

micro:bitでは磁石とセンサーを使って計測を行うプログラムを考えた
木製ロボット「キュベット」(PRIMO)は、イギリスで生まれた幼児向けプログラミング玩具。ブロックをコントロールパネルに組み込み、「GO」のボタンを押すとキュベットが動く仕組み。カンヌライオンズ2016年の幼児向け知育玩具部門で金賞を受賞
タブレットでプログラムできる球型ロボット「Sphero(スフィロ)」のワークショップも実施。参加者たちは、動きに合わせてLEDで光るプログラムなどを作って体験をした
YAMAHAはタブレットでプログラムを組み立てながら歌づくりができる「ボーカロイド教育版」のワークショップを開催。小学校高学年〜高校生を対象に試行錯誤を重ねながら、楽しく音楽の創作活動が行えるのが特徴
NTT東日本のブースでは、コミュニケーションロボット「Sota」と、クラウド型ロボットプラットフォームサービス「ロボコネクト」を紹介。社会や家庭の中でロボットがどのような役割を担うのか、未来の社会を体験できる
アイ・オー・データ機器株式会社のブースでは、手軽にBASICのプログラミング体験ができる「IchigoJam BASIC RPi+ プリインストール microSDカード」などが展示された
AR楽器「KAGURA」(株式会社しくみデザイン)は、体の動きで音楽を奏でることができるアプリ。コンピュータのカメラに向かって体を動かし、予めリズムや音楽がプログラムされたパーツに触れると音が鳴る仕組み
AI搭載の英会話ロボット「Charpy(チャーピー)」(株式会社CAIメディア)は、ユーザーの英語力に合わせて会話を学習することができる。英会話初心者から英検準1級、TOEIC800点まで対応し、Wi-Fi環境がなくても使用可能
辞書アプリや英検対策アプリなど豊富な学習コンテンツを揃えるEAST EDUCATION(イースト株式会社)。小学生から高校生までさまざまなデジタル辞書を網羅した辞書アプリ「DONGRI」や、Word文書の音声読み上げアドイン「Word Talker」などを紹介した
チームのディスカッションをガイドするデジタルテーブル「infoverre TOUCH B’s」(AGC株式会社)。自分のアイデアを指でデジタルカードに入力し、カードをグルーピングして集約できる。マンダラモード、マインドマップモードなど議論の展開に合わせて活用できる
オンラインのインターナショナルスクール「nisai virtual academy」(nisai virtual academy)。同スクールでは、5歳から大人までを対象に中高生向けには国際資格であるケンブリッジインターナショナル国際資格取得が可能。英国からライブ配信で学ぶ仕組み
マルチデバイスで活用できるクラウド型の授業支援システム「schoolTakt」(株式会社コードタクト)。ワークショップでは参加者らが意見を書き込み、閲覧数や「いいね」をもらった数などで、意見交流を可視化する機能を紹介し
コンピュータを活用した自立学習教材を提供する株式会社日本コスモトピア。小中高の学力向上教材として習熟度別のプリントを30,000枚以上そろえた「みんなの学習クラブ」などを展示した
紙に書いたメモやスケッチがボタン一つで手軽にデータ化できるスマートパッド「Bamboo Slate」(株式会社ワコム)。紙は何でも使用OKで、「Wacom Inkspace」アプリで編集も可能
手書き文字をデジタル化するスマートペン「Neo smartpen」(ネオラボ株式会社)。専用アプリ「Neo Notes」や「Neo Notes windows」、「Paper Tube」などと組み合わせることによって、筆記内容をより多様に共有し、プレゼンや講義動画の作成も行える
デンマークで生まれたインタラクティブ映像システム「Wize Floor」。プロジェクターから床に投影されたインタラクティブな映像を触る・踏むとセンサーが感知しゲームなどを行うことができ
東京書籍のブースでは、自分で自由にARを作ることができるアプリケーション「マチアルキ」を展示。地域の魅力を発信したり、防災情報を共有したりと日々の学習成果を社会とつなげることができる
誰でも簡単に低コストで大量のVRコンテンツを政策できる「VRider DIRECT」(株式会社アルファコード)。VR空間内の直感的な編集で、ユーザー体験をしながら制作できる
小型インタラクティブ地球儀「Sphere」(国際航業株式会社)。国内外の博物館や国連で使用された世界初のデジタル地球儀。音声による説明や衛生観測データをリアルタイムで表示するなど豊富な機能が搭載されている

このように、「Microsoft Education Day 2019」には多くの教育関連企業が協賛し、さまざまなソリューションに触れられる機会が設けられた。後編では、マインクラフト教育版を活用したワークショップやMIEEの教育者らによる実践発表を紹介する。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。