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スマホで確定申告した 便利になった「書かない確定申告」の魅力と課題

2024年も確定申告が始まりました。確定申告期間は2月16日から3月15日までです。

国税庁による「確定申告特集ページ」も毎年強化されています。2024年(令和5年度分)確定申告では、「マイナポータル連携」が強化され、「源泉徴収票」をマイナポータルから取得できるようになりました。会社員の確定申告で面倒だった、源泉徴収票の転記が完全デジタル化されることで、非常にラクになるはずです。

マイナポータル連携では、その他にもiDeCoや国民年金基金掛金の自動取得に対応しており、できることが着々と増えています。

筆者の場合、会社員として年末調整済みで「医療費控除」と「ふるさと納税」のために、毎年確定申告をしています。ここ数年、iPhone(とマイナンバーカード)だけで確定申告していますが、今年の「源泉徴収票の自動取得」はかなり魅力的に映りました。

数年前から比べると大きな進歩で、政府が標榜する「書かない確定申告」にかなり近づいていると感じます。ただし、いろいろ注意点がありうまく行かない部分もありました。2024年もスマホで確定申告を試してみました。

マイナンバーカードとマイナポータルで確定申告

Impress Watchでは、初のスマホ対応となった2019年以来「スマホで確定申告」を紹介していますが、2024年もスマホ(iPhone 15 Pro)を使って確定申告しました。この記事では確定申告書の書き方などには触れず、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」のスマホ申請の新機能である、マイナポータル連携を軸に、“うまくいかなかった部分”も含めて紹介します

スマートフォンを使った確定申告は、「マイナンバーカード方式」と「ID・パスワード方式」が用意されていますが、将来的にはマイナンバーカード方式へ集約予定です。マイナンバーカードの交付枚数は9,791万枚、人口に対する割合で約78.1%(2月11日時点)と普及が進んできたこともあり、この記事でもマイナンバーカード方式での使い方を前提とします。

今回、「確定申告コーナー」で強化された「マイナポータル連携」は、事前設定が必要です。

マイナポータルは、マイナンバーカードと連携し、自治体サービスの申請のほか、様々なサービスを紐付けて情報の取得などが行なえるサービス。ここから医療費やふるさと納税などのデータを取得できるのが「マイナポータル連携」です。そして、今回ついに「源泉徴収票」のマイナポータル取得に対応したというのが、注目点です。

筆者の場合2022年時点でマイナポータル連携を設定し、「医療費」「ふるさと納税」などのデータを取得できるようにしていました。ただし、今年も相当数の作業や設定が必要な部分が追加されています。ただし、マイナポータル上に「確定申告の事前準備」という専用ページができていて、これに沿って進めるだけで、“設定”は比較的簡単にできると思います(後述しますが、申請ではハードルがあります)。

確定申告の事前準備

むしろこちらが本番? 「確定申告の事前準備」

マイナンバーカードをかざして「マイナポータル」にログインすると、親切なことにホーム画面に「確定申告の事前準備」という専用ページが用意されています。

ここでまず、「取得したい証明書等の種類」を選択し、取得に必要な設定を確認できます。

マイナポータル
確定申告の事前準備

筆者の場合は、今回の確定申告で必要な証明書は、「ふるさと納税」(寄付金控除に関する証明書)と「給与」(給与取得の源泉徴収票情報)だけですが、その他の「医療費通知情報」や「生命保険料控除証明書」、「iDeCo」、「住宅ローン」(住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書)なども、すでにマイナポータル連携済みで、その設定が確認できました。

ここで、連携する表示リストの中で「未完了」のものがある場合、該当するサービスの「連携」を押して、連携に必要な手続きを行ないます。筆者の場合今回の申請では、「e-私書箱」と「e-Tax」との連携を行ないます。このあたりの連携の仕組みは慣れるまでややわかりにくいかもしれません。

会社員的には今回の目玉機能が「給与所得の源泉徴収票情報」の自動取得です。そのためには設定が必要なほか、「勤め先が税務署に申告者の給与所得の源泉徴収票を提出していない場合」、「申告者の給与所得の源泉徴収票を書面や光ディスク等により提出しており、e-Tax又は認定クラウド等で提出していない場合」などの場合、マイナポータル連携の対象となりません。そして、弊社(インプレス)もこちらに該当してしまうようで、筆者の「書かない確定申告」もこの点で挫折しました。ただし、設定方法等は変わりませんので、そのまま紹介します。

設定は、「取得したい証明書等」の選択で「給与」を選び、「連携状況リスト」画面のe-Taxの項目で「登録(連携)」ボタンを選択。e-Taxのマイページで内容を確認して、「e-Taxからの情報取得を希望する」をタップ、本人のカナ氏名を入力し、マイナンバーカードを読み取り(1回目)して、4桁の暗証番号を入力すると読み取りが完了。読み取り完了するとSafariで前のページを開くよう促され、マイナンバーカードから読み取った情報が表示されるので内容を確認します。

e-Taxで連携

続いて2回目のマイナンバーカードを読み取り、ここではマイナンバーカードの6桁から16桁の署名用電子証明書のパスワードを入力します。次へをタップして、マイナンバーカードを読み取ると、読み取りが成功。受取画面が表示されます。これでe-Tax連携の事前準備が完了します。なお、この設定は初回のみです。

全体の流れは国税庁による説明動画を一回見ておくとわかりやすいかと思います。

スマホ申告 給与情報のマイナポータル連携

給与取得の源泉徴収票が取得可能となった場合、e-Taxのメッセージボックスに給与所得の源泉徴収票情報を格納したと通知が届くことになっています。

筆者の場合、2月16日に設定を終えたのですが、通知が届きませんでした。国税庁では「設定の反映までに数日かかる」と告知していため、しばらく待っていたのですが、その後も通知は届かず、マイナポータル連携での源泉徴収票取得を試しましたが、取得できませんでした。

そのため、社内で担当に問い合わせたところ、弊社は今年は対応していないとの回答。複数の関係先が連携するのでしようがないのですが、問題の原因がどこにあるかがわかりにくいのは課題と感じました。まあ弊社の問題ですので来年こそは改善して欲しい……。

ともあれ、これでマイナポータル連携の基本設定は完了。今回の筆者の申告の対象外ですが、医療費やiDeCo、生命保険等のデータは問題なく取得できていました。

マイナポータル連携で様々なデータを取得可能

ただし、ふるさと納税については、少し注意が必要です。筆者は、ポータルサイトの「ふるさとチョイス」を使っていますが、ふるさとチョイスでは、民間送達サービスとして野村総研の「e-私書箱」というサービスを採用しており、e-私書箱とe-Taxを連携させ、その後にe-私書箱の中の対応サービスとして「ふるさとチョイス(株式会社トラストバンク)」を選択する必要があります。

筆者の場合、この設定は以前に完了しているのですが、これだけではすぐに確定申告できず、「証明書未発行」と記されています。

実は、「ふるさとチョイス」側でも「チョイススマート確定申告」の発行申し込みが必要で、これを行なうことで、寄付金控除に関する証明書(XMLファイル)が発行されます。即時発行できず「1~3営業日」必要と記されているため、「今すぐ確定申告を終わらせよう」と作業を開始しても、その日に完了することはできません。こまかく事前準備が必要なので、このあたりは注意しておきましょう。

筆者は、昨年も同じことを記事に書いているのですが、今年はすっかり忘れていました。なお、「チョイススマート確定申告」の発行申し込みを16日(金)の23時50分にしたところ、翌17日(土)の8時2分には証明書が発行されていました。

これで事前設定は完了です。

なお、筆者の場合、マイナポータル連携済みの項目でも、医療費は10万円未満のため今年の申告の対象外で、「生命保険」や「iDeCo」、「住宅ローン」については、会社で年末調整済み。そのため、ふるさと納税と給与に絞って説明しています。

余談ですが、特にiDeCoは、加入者で年末調整を忘れている人が多いと聞きます。マイナポータル連携で簡単に取得可能になったので、年末調整を忘れてしまった人は、確定申告したほうが良いでしょう。

また、今回筆者は対象外ですが、マイナポータル連携で最も便利なのは年間の医療費が一瞬でわかることです。

医療費控除は、年間の医療費(保険診療)が10万円を超えると、超えた部分の医療費を所得から控除する仕組みです。10万円を超えた場合、収めた所得税から一定額が返ってくる(場合がある)のですが、そのために1年分の医療費の領収書を集めて集計する必要があります。家中に分散した領収書を集めるのも大変ですし、集めた結果10万円に満たない(控除の対象外)ということもあります。

マイナポータル連携が済んでいれば、この面倒な1年間の医療費集計がマイナポータル上ですぐに確認できます。マイナポータルのホームから「医療費」を開くと、2023年の筆者の窓口負担相当額は49,134円でした。10万円以下なので、医療費控除の対象外となります。

マイナポータルでは、昨年から1年間分の医療費取得に対応しており、筆者は今年からは紙の領収書を集める(残す)のを止めています。自分が医療費控除の対象かどうかが一発でわかるのは、従来の手間暇を考えると大幅な進歩で、これぞデジタル化のメリットと感じます。

医療費控除を受ける方へ

e-Taxで確定申告。画面に従って進めるだけ

あとは「e-Taxで確定申告をはじめる」を押して、確定申告を開始します。基本的には、「作成開始」で画面に従って進めるだけで、申請までたどり着けるようになっています。なお、確定申告書の書き方等には触れません。

確定申告書等作成コーナー

令和5年分のスマホ申告に関するマニュアル

【確定申告書等作成コーナー】から作成開始をタップすると、作成のステップが示され、「次へ」を押すと、作成する申告書や申告書の提出方法の確認となります。作成する申告書は「所得税」、提出方法は「e-Tax(マイナンバーカード方式)」を選びます。

マイナポータル連携は「連携する」を選択し、「申告内容に対する質問」に応えると、マイナポータル連携に移行します。マイナポータルアプリは事前に入れておきましょう。

ここからe-Taxへログインするためにマイナンバーカードの読み取りを行ない、「同意して次へ」をタップします。マイナポータル画面が表示され、マイナンバーカードを読み取り、ログインすると、登録情報が表示されます。

このマイナポータル連携で、本人情報を[取得する]にすると、医療費通知情報や寄付金控除に関する証明書等が取得できます。マイナポータルから取得可能な控除証明書等の一覧が表示され、必要な証明書だけをチェックして「次へ」をタップすると、確定申告コーナーの緑の画面に戻ります。

文章にするとややこしいのですが、実際には画面の指示に従うだけなので、それほど難しさは感じません。ただ、何回も似たような操作をしているような印象はあります。

マイナポータルから取得したデータは、取得情報で確認し、削除も可能です。

これでマイナポータル連携による準備が完了。今回、マイナポータル連携で源泉徴収票を自動取得できれば、このまま進めるだけで、給与取得の金額が自動で入力されている“はず”なのですが、今回は会社都合により、私は取得できませんでした。自動取得できれば、データとしても正確ですし、まさに「書かない確定申告」になるはずなので残念です。源泉徴収票が取得できない場合は、会社の対応を確認したほうがよさそうです。

ということで、昨年までと同様に「カメラで読み取り」で源泉徴収票のデータをカメラで読み取ります。源泉徴収票をカメラで撮影して、OCRで文字入力するというものです。この方式でも書かずに入力できるのですが、筆者の昨年の例だとパソコンで自分の源泉徴収票(PDF)を100%表示し、iPhoneのカメラで撮影。データが抜けていないか確認し、誤りがある場合は再撮影もしくは手動で入力する手間が発生していました。

カメラで読み取り

とはいえ、この「カメラで読み取り」自体は簡単です。パソコンに表示した源泉徴収票(PDF)をiPhoneのカメラで撮影したところ、10秒ほどで取得が完了。今年は1回で支払金額などが全ての数値が取得できていました。

ただし、(1)金額が源泉徴収票と相違ないか確認する、(2)カメラで撮影するためにパソコンや紙の源泉徴収票を用意する必要がある、など、マイナポータル連携に比べると余計な手間が発生するとも言えます。やはり、データで取得できるようになるとより理想的だとは感じます。

あとは、所得控除の入力ですが、筆者の場合医療費はなく、その他は年末調整済み。扶養家族等の確認などを行ない、還付される金額がある場合には、還付金の額が提示されます。その後、還付金の受け取り方法の選択画面が表示されます。受け取り方法は、銀行口座を指定もできますが、個人の場合は「公金受取口座」で良いケースが多いのではないでしょうか。

あとは、本人情報を確認し、「e-Tax送信」の画面で[送信]をタップするだけ。送信結果の確認が出てくるので、申告書の控えPDFや入力データを保存できます。

見えてきた「書かない確定申告」

今回の例では、会社員の「ふるさと納税」だけですが、ほとんどのデータはマイナポータルから取得でき、それを確認して提出しているだけです。今回、源泉徴収票が取れなかったのは残念ですが、「入力する確定申告」から、「確認する確定申告」になった、という実感があり、手動で入力する項目はほとんどありませんでした。

ただし、「マイナポータル連携の設定」では、2回ほどマイナンバーカードの読み取りが必要ですし、設定項目もわかりにくい部分はあります。また、今回筆者が陥ったように、自分が対象者かどうかを把握しながら作業を進める必要があり、まだ過渡期という印象も残りました。

それでも、「書かない確定申告」に向けた将来はイメージできるようになりましたし、実際に確実に便利になってきたと感じます。細かな課題は残っていますが、マイナンバーカードの発行枚数も1億枚に迫る中、多くの人に使いやすい仕組みになってきたと言えそうです。

臼田勤哉