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共創する愛着 ソニーホンダ「アフィーラ」が変える自動運転時代のクルマづくり

日本で初公開となった「AFEELA Prototype」

ソニーホンダモビリティ(SHM)は都内で会見を開き、10月26日より開催される「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に出展し、プロトタイプ車「AFEELA Prototype」を一般公開すると発表した。

また、AFEELA(アフィーラ)が活用するモビリティ開発環境のオープン化「AFEELA共創プログラム(仮称)」を展開することも公表した。

会見には、ソニーホンダモビリティの川西泉社長兼COOも登壇し、狙いを説明している。会見の内容と、その後開かれたラウンドテーブル取材の内容を詳報する。

AFEELAとSHMの川西泉社長兼COO

AFEELAを国内初披露。「AFEELA共創プログラム(仮称)」を発表

SHMはソニーグループとホンダの合弁企業。2026年中に北米での出荷を目指し、共同で電気自動車(EV)「AFEELA」の開発に取り組んでいる。

今年1月のCESではソニーとホンダが協力して開発に取り組んだプロトタイプを公開しており、今回公開されるのもそれと同じものだ。

AFEELAはハイスペックなプロセッサーを内蔵し、5Gでクラウドと接続して動作するものになる。

川西氏は「ハードウェアとしてのクルマにも魅力を持たせる。当面はそこが差別化点になる」と答えつつも、ソフトやサービスで新しい付加価値を追求すると話す。

そのための活動となるのが「AFEELA共創プログラム(仮称)」だ。

「AFEELA共創プログラム(仮称)」を発表。自動車向けアプリやコンテンツなどのオープンな開発プログラムを目指す

具体的には、AFEELAの車内で聞こえる「走行サウンド」の演出や、フロントにある「メディアバー」と呼ばれるディスプレイに流れるグラフィックの開発のようなコンテンツ系に加え、車内のディスプレイ内で動作するアプリや、クラウドを介したサービスなどの開発について、SHM以外の企業やクリエイターが手掛けることを可能とする。

外部で開発できるようにするものの概要

"共創"を日本で発表した理由 SDVとしての拡張性

AFEELAの開発状況はどうなのか? 共創プログラム(仮)の詳細はどうなるのか? 以下、川西氏への一問一答の形でお伝えする。

川西社長は会見後、一部記者とのラウンドテーブル取材で詳細に答えた

なお、内容は今年1月に行なったロングインタビューを踏まえた部分がある。以下の記事も併読していただけるとありがたい。

――現在の開発進捗は?

川西氏(以下敬称略):鋭意頑張っています。色々課題は出てくるのですが、それは「まったく新しいもの」を作る時、常にあることで、車に限った話ではないです。これまでもあった悩みなのですが。

――共創プログラム(仮)では、どんな内容が公開されるのですか? 実車がなくても開発できるシミュレーターなども必要かと思います。また、契約した企業だけに公開されるのか、市井のクリエイターにも開放されるのかなど、範囲も気になります。

川西:車自体がないと開発できない内容のもの、というのは今の状況だと難しいですね。

ですが、OS自体はAndroidですし、極論すると、(ディスプレイ内に表示されるもののような)アプリについては、今スマホで動いているものが、すべてではないものの、そのまま動くものもあります。

車の特性を活かすアプリには実車が必要ですが、そうでないものは、いまのAndroid環境とできるだけ互換性をとりたいな、と思っています。

AFEELAのコントロールパネル。これらの「スキン」デザインのほか、助手席などでも使える「アプリ」が開発対象の1つ

共創プログラムをどういう方々から展開するのかは、ステップ・バイ・ステップで考えています。

弊社側で開発をサポートするための体力の問題もありますので、最初からフルオープンで、というのは難しいです。しかし最終的なゴールとしては、どんな方でも参加できるようにしたい。AFEELAを持ってなくても、開発できるような環境にしていきたい、と思っています。

この話は、最初の段階からビジネス的な利益を想定したものというより、草の根的な、技術先行でのムーブメントを起こしていきたい……という感じです。ソフトウェアの技術開発、例えば西海岸などのトレンドを見ても、作りながらはじめて行くような部分があります。

要は、AFEELAって「おもちゃ」だと思うんですよ、ある意味から言えば。まず開発環境を楽しみながら触ってもらって……というところでしょうか。

――他社もAndroidを採用した自動車を開発しています。そうすると、その上でAFEELA向けに開発したアプリが動く可能性もある。差別化はどうなりますか? スペックの差がはっきり見えるものなのでしょうか?

川西:はい、動作すると思いますが、現時点で言うと、他社上で動くものとは差が出せると思います。

要は「Unreal Engine 5」(注:ゲームエンジンとして広く使われている)がちゃんと動くようにしますから、(動かない環境に比べて)それなりに高いグラフィックス性能がないと表示できないわけですよね。ハードウェアのスペックが高い状態でスタートすることが重要です。

その分、価格は高くなりますが、(ITプラットフォームとしての)パフォーマンスをきちんと発揮できる車にするつもりです。

――ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV:ソフトで機能が定義される自動車)として、性能の差を見せる戦略である、ということですか?

川西:そうです。新しいことをする上でなにがボトルネックになるのは、ハードウェアの性能です。そういうところでつまずいてしまうと、やりたいことはできないんですよね。

これはPlayStationでもそうだったんですが(注:川西氏は過去、PlayStationの開発部隊に所属しており、技術責任者も務めていた)、最初から性能の高いものを投入しておくことがとても重要です。

最初にコストありきで安いハードウェアにしてしまうと、やりたいことはできないんですよ。それは進化しないということにつながります。

今後アップデートします、と言っているのであれば、その何年か先まで大丈夫なハードウェアにしておくことが重要。そこの設計プロセスをちゃんと踏み切れるか、アーキテクチャを最初に考えておくことが、とても重要だと思います。

共創の可能性と課題 社会インフラと連携する自動車体験

――今回、共創プログラムを発表した理由は? 実車は2025年からアメリカで先行予約開始なので、まだ2年間あります。

川西:開発者の方々に開発期間をとった形でご紹介したい、ということでこの時期に発表しています。

――共創プログラム(仮)は日本国内だけにとどまるものではないと思います。今回、日本で発表した理由は?

川西:当然、グローバルでの展開を考えています。日本で発表したのは、やはり我々が日本で生まれた企業だからですね。どうしても日本で発表したかったんです。

――OSはAndroidということですが、Googleと協力して作るのですか? アップデートの保証期間は?

川西:ここはちゃんと切り分ける必要があるのですが、Androidは使いますが、Googleとともに作るわけではないです。いわゆるAOSP(Android Open Source Project:オープンソース版のAndroid)で、車載向けのAndroid Automotive OS (AAOS)を使います。

Googleからアップデートがあればそれが反映されていきますが、Googleと共同開発、というわけではない。

セキュリティ対策などの長期的保証は、もちろんやらないといけません。ただ、自動車向け・産業向けに長期サポートを考慮した仕組みはプロセッサーメーカー側でも提供されるようになってきているので、長期的メンテナンスの環境は整いつつあります。

正確に言えば、Androidを使っているのは車内インフォテイメントの部分、要は表示などですよね。そこは比較的汎用的な部分。ですから、共創プログラムでも開放していきたいです。

また、情報を出せるところはもうちょっと拡大できると思います。

車とのネットワーク接続とか、CAN(Controller Area Network:車載ネットワークで広く使われている)から取得できるハンドルやアクセル、ブレーキの情報なども出せるようにしたいとは考えています。

――要は、情報は取得できてもコントロールはさせない、ということですか。

川西:コントロールについては慎重に考えないといけないと思っています。

――メディアバーは外部に対してのディスプレイですよね。あそこも走行中自由に変えられるよう、公開していくのでしょうか?

川西:メディアバーの部分は、まだ法規的・認可的な問題があります。どこまでどういうシチュエーションで使えるかというのは、これから当局とも話し合う部分です。

しかし、やはりできるだけ色々な可能性を示していきたいです。そうしないと道は開けない。やっぱりムーブメントを起こしていくことが大事だと思うんですよ。

1月にCESで撮影した写真より。AFEELAのフロントには「メディアバー」というディスプレイがあり、これを活用することで従来の車とは差別化する路線を進む

――表示でどこまでエンターテインメント性が出せるものなんでしょうか。

川西:スタートアップの方々が作っているロボットタクシーなどに乗ると、内部から、色々な情報が見れたりするんですよ。自動車や歩行者を認識したり、どこを把握して動いているのか、とか。

それは運転指示じゃなく見ているだけなんですけど、それだけでも相当面白かったりするんですね。今の車には、その楽しみはないです。

そういう部分の最適化も含め、これから考える部分は多いですが、そんな面白さは出せるんじゃないかと思っています。

会見プレゼン資料より。街中を3Dで表示し、認識範囲などを見せている。このような表示をエンタメに昇華しようとしているのだろう

――「中国のEVではインフォテイメントの部分がかなり進んでいる」と、既存の自動車メーカーは危惧しています。その点どう見ていらっしゃいますか?

川西:「スマホでやっていることに近いな」と思ったので、そこまで驚きは感じていないです。私はこれまでにスマートフォンの開発も担当していた身なので、立場の違いが受け止め方の違いになっているのだと思います。

AFEELAでも、インフォテイメントの先進性については期待していただけるよう、がんばります。

――ソニーと言えば、ゲームや映画、音楽などでのサービスコンテンツを思い出しますが、それらをリカーリングで提供する、ということになるのでしょうか。

川西:それはベーシックな部分ですね。いまでもスマホがあれば出来ている世界。それを車の中でやる良さはありますが、新奇性はあまりない。モビリティならではのエンターテインメントを考えていかなければいけない、と、常々思っています。

――サービス部分のビジネスモデルは?

川西:こうする、という絵は決めきれてはいないです。

時期によって、都度課金がいいかサブスクがいいのか、トレンドも変わるじゃないですか。いまは「なんでもサブスクはどうか……」という揺り戻しもあります。

実際、色々なやり方ができますからね。AFEELAの機能アップについて、一部をキャンペーンで無償公開して、一定期間後に有償提供……ということも簡単にやれます。

――自動車にとってのエンターテインメントと言えば「走る」「動く」という部分があります。そこにIT的な面白さの演出を加えることはできますか?

川西:やればやるほど欲は出てくるんですけど、やっぱり、車の制御に密接する部分については、慎重にやらなければいけないところがあります。あまり無責任な話はしたくないので、ご容赦ください。

ただ、車両の制御もかなりやれるところはあります。

例えば、今の車は、「コンフォート」とか「スポーツ」など、3つくらいのモード変更しかありません。本当は、やろうと思えばいくらでも変えられるわけですよ。もっとリアを効かせるとか、ダイナミックに変えていくとかできるわけです。

それが楽しいかどうかちょっとわからないです。でも「いじれる楽しさ」ってあるじゃないですか。オーディオデバーのイコライザー変えてみるとか、そういうものと同じで。

ですから、乗り味をちょっと変えてみて、その結果が体感してもらえたなら、それはそれで1つのエンターテイメントだと思うんです。

――アメリカでテスラに乗ると、車内から駐車場のバーを上げ下げできたりします。あれは「車が街につながっている」ような感覚がするのですが、ああいう連携は可能になるんでしょうか?

川西:もちろんいろんな可能性はあります。

ただ社会インフラと紐づくような部分なので、一社ではなかなかできないんですよ。

共創プログラムの中では、そういう外部でサービスをされている方々とつながれないといけない、と考えてもいます。すべてを弊社が用意していては間に合わないかもしれないので、外部から自由に利用・開発してもらう環境整備が必要です。

それは最終的には社会貢献だと思うので、その環境を自ら提案し、働きかけていくことが大事だと思います。

ハイエンド路線で「自動運転時代の車内」を考える

――ホンダとソニーでどこまで分業していくんでしょうか? SHMじゃなくホンダのものにフィードバックされるとか……

川西:UIは独自でそれぞれやるのかな、とも思いますし、置かれている立場や車種、価格帯にもよると思います。どの製品にも(成果が)適用できるわけではないので、折り合いがつけば……というところはあります。

あまりこちらからどこをどう、と言えるものではありません。

少なくとも、我々については言えます。SMHではやれるところまで、性能限界までやります。

――インフォテイメントの充実が、AFEELAのようなハイエンドな自動車の付加価値になるという部分をもう少し詳しく教えてください。それでどこまで評価される車になると考えているのか、という点です。

というのは、やはり自動車はこれまで「走り味」「乗り味」で評価されてきました。そこは重要だけれど、車内体験をリッチにすることの価値はまだ定まっていない。そこでどのくらいインパクトを出すことができるのか、という話なんですが。

川西:走りを求める方は当然一定数いらっしゃると思います。ただ、それはまた別の道です。

車内の空間をどう作り上げていくのかとは必ずしも一致しない。どちらに楽しみを求めるか・自分の趣味はどっちなのかとかによって、それはお好みだと思います。別にいい・悪いではない。

だから、どちらも残る。

ただ、自分たちは新しく伸びていくかもしれない方向性に賭けていきたいと思います。いかに空間として楽しんでもらうか、というところにリソースをかけて、ユーザーの方々にも、魅力を感じていただきたいです。

自動運転のトレンドも変化がありますが、今かなりブレイクスルーしそうな気配があるんですよね。いわゆる「レベル4の自動運転ができたかできないか」ではなくて、実力ベースで評価した自動運転の革命が起きた時に、それに対応できるのか。僕はそこにすごく危機感を持っています。

もしそれが起きてしまった時は、多分もう、走行中にハンドル収納してしまえる世界になるでしょう。

その時の車室内って、完全に違う空間になっちゃうんですよね。運転しない空間になってしまうので。それは今からやっぱり考えていかないといけないんじゃないかな……というのが、自分の中での、技術的なトレンドの追い方なんです。

――「愛着を持ってもらえる車を目指す」という話がありました。では、自動車に「ソフトウェアやサービスで」愛着を持ってもらうには、どんな存在になるべきだと考えていますか?

川西:ひととモノとの関係、ということだと思います。考えているのは「ほっとけない存在」になることです。そこで完璧すぎてもダメなところがあって。人間関係でもそうじゃないですか。

AFEELAにはその人の運転履歴が蓄積されていくわけですが、それをどう生かしていくかがポイントです。

データは基本、クラウドに蓄積されます。そうすることで、乗り換えた時に情報を継承できますので。

――AFEELAは高付加価値路線です。一方、中国などを中心に自動車業界が低価格路線に向かおうともしています。この変化をどう考えていますか?

川西:2極化が起きてくんじゃないかなと思うんですよね。

低価格帯は当然、普及のために増えてくと思うんです。それとは別に、やっぱり、高価値帯・ハイエンドというか、性能志向の車っていうのもある程度出てくると思うんですよ。

これはスマホでもPCでも起きた話です。性能を追い求めて、高いお金出しても買いたい人もいれば、とりあえずそこそこ使えればいいや、と思って買う人もいる。

多分、人口的には安価なものを求める人の方が多くなります。だから分かれていくと思いますが、自分たちは付加価値の高い方でやりたいことを実現していく。それがだんだん、買いやすい価格帯の方に広がれば、普及につながっていくんじゃないかな、と見ています。

これは家電の考え方と一緒です。

数を出すには、ある程度安い価格帯が必要だと思うんです。ただ、それは安く作るのではなくて、「高い技術のものがだんだん量産することによって安い値段でも作れるようになる」っていうような方向でやらないと、技術レベルが上がらないんです。

半導体のトレンドとも一緒です。半導体はハイエンドから作り、その数が出ることによって、ボリュームメリットが出て安くなってくる。

つまり、性能は向上して、でも安くなっていく。

この構造を導入していかないと、安かろう悪かろうの商品を作ることになってしまう。それはやりたくないんです。

――AFEELAを作っていく上で、メインの半導体パートナーはQualcommです。しかし、「独自の半導体を作るべきか迷っている」とのお話もあります。自分たちで作るべきか迷っている半導体、というのはどういう部分なんですか?

川西:少なくとも、3nmプロセスのような最先端半導体の部分は、本業でやっている方々に敵わないです。そこは作れない。

ですが、最適化が見込めるだろう領域については、自分たちで半導体を作ってもいいかもしれない……と考えています。ただ、インフォテイメントまで全部半導体を1つにすべきだ、という意見もあるので、なかなか折り合わない。奥が深くて、なかなか語り尽くせないくらい深いです。

――それって、いつまで悩んでいられるんですか?

川西:いやあ、まあそうなんですが、考えているだけでも楽しい話ではありますね。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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