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保育園の「使用済みおむつ持ち帰り」は過去に? 行政の通達で「園廃棄」に転換

保育園を利用していると、子供のおむつを毎日持っていく必要があります。他の園児と区別を付けるためにおむつには名前を書き、毎日その作業をするのは地味に手間が掛かります。

そうした保育園へのおむつ持参をしなくて良くなるサービスが、BABY JOBが手掛けるおむつの定額サブスク「手ぶら登園」です。このサービスを導入している保育園では、保護者は園におむつを持っていく必要がなくなり、子供が園にいる間はおむつが使い放題になります。料金は月3,000円ほど。

おむつは保育園に直接配送されるので、保護者はおむつを持ってくる必要がなく、おむつの名前書きも不要になります。また、園内ではサイズごとにまとめて管理し、◯◯ちゃんはLサイズ、◯◯くんはMサイズといった形で運用するため、園児ごとに管理のときに発生していた履かせ間違い等を保育士は気にする必要がなくなります。

手ぶら登園では、おむつをサイズごとにまとめて管理

サービスを開始したのは2019年7月。Impress Watchでは2021年9月に取材しており、当時の導入園数は約1,350カ所でしたが、2023年6月現在は3,550カ所以上に増加しています。前回の取材から1年半で、保育園を取り巻くおむつ環境は大きく変わりました。

当時から何が変わったのか、どんな動きがあったのか、手ぶら登園を運営するBABY JOB マーケティング部の東ネネさんに改めて話を伺いました。

3,550カ所以上の保育施設に導入(6月2日時点)

厚生労働省が「使用済みおむつは園廃棄」通達

BABY JOBによると、2021年9月~2023年5月の1年半の間で手ぶら登園の普及とともに、保育園の慣習としてあった「使用済みおむつは保護者が持ち帰る」ことを廃止して、園廃棄に切り替える保育園が増えたそうです。

その背景には、BABY JOBが運営する「保育園からおむつの持ち帰りをなくす会」が、「保育施設での使用済みおむつの持ち帰り廃止を求める」オンライン署名を1.6万人分集め、2022年9月に厚生労働省に要望書を提出したことも大きく関係しています。この要望書を受けて、厚生労働省は2023年1月、各市区町村に向けて「園処分を推奨する」通達を行ないました。

「保育施設での使用済みおむつの持ち帰りをなくすプロジェクト」としてオンライン署名を実施

「以前取材していただいた2021年9月は、おむつを既に園で処分している、保護者の負担軽減に向けて積極的に取り組んでいる保育園での導入が進んでいる時期でした。当時はなかなか公立保育園での導入が進んでおらず、なぜかというと公立保育園では『使用済みおむつの持ち帰り』が自治体の判断で決められており、おむつを持ち帰り必須の園が私立に比べて多かったからです」(東さん)

手ぶら登園では、おむつを園側がまとめて管理します。名前が書かれていないおむつを使うことになり、使用済みおむつも誰のものかわからず、保護者が持って帰れなくなります。そのため、使用済みおむつを保護者が持って帰るルールを適用している保育園では、手ぶら登園が導入できないという事情がありました。

なぜ、使用済みおむつの持ち帰りをルールにしているのでしょうか。自治体によって理由はさまざまですが、BABY JOBの調査によると「子供の体調管理」が一番多く、「ずっとそうしてきたから」「ごみの保管・回収が難しい」という回答が続いたそうです。

使用済みおむつ持ち帰りの理由(調査期間:2022年2~3月、調査対象:計1,461市区町村の保育課保育園担当者)

しかし、使用済みおむつを保護者に持ち帰ってもらうために、お迎えまで園児ごとに管理するのは保育士側に手間が掛かり、保護者も仕事帰りに複数の使用済みおむつを持ち帰るというのは負担になります。

使用済みおむつを捨てずに管理するのは衛生的にも気になる面があり、コロナ禍も相まって感染症リスクを気にする声も増えました。私立保育園では使用済みおむつは園で廃棄するところが多く、次第に公立保育園でも「使用済みおむつは園で廃棄してほしい」という意見が優勢になっていったそうです。

そうした声の高まりを受けて、先述のオンライン署名は1.6万人分が集まり、要望書を厚生労働省に提出するまでになりました。提出から4カ月で、厚生労働省は各市区町村に「使用済みおむつは園廃棄を推奨する」通達を行なったのです。

2022年9月、厚生労働省に署名と要望書を提出。左から、BABY JOB 東ネネさん、上野公嗣代表取締役社長、加藤勝信厚生労働大臣、寺田静参議院議員

「国が各自治体に対して、使用済みおむつを保育園で処理することを推奨する通達を行なったことに対し、大変嬉しく思っております。要望書の提出からはわずか4カ月というスピード感だったこともあり、非常に驚いたのが正直なところです。要望書を提出した際に、加藤勝信厚生労働大臣とお話をしましたが、ご本人も使用済みおむつの持ち帰りを実際に体験されていたこともあり、大変ですよねと理解をしてもらえたのが大きかったと思います」(東さん)

国からの通達で「園廃棄」が進む

厚生労働省の通達は影響が大きく、それまで「おむつの園廃棄は検討しません」と言っていた自治体で、通達以降すぐに園廃棄に切り替えるといったこともあったそうです。

おむつ持ち帰りの理由として園側が挙げていた「子供の体調管理」については、園で子供が便をした場合は写真に撮って保護者に送るといった対応に切り替わったところもあるそうです。子供の体調管理のために便がついたおむつを持ち帰っても、再度おむつを開く方が感染リスクが高まりむしろ不衛生、という意見が多数派になったようです。

また、国からの通達の中に、使用済みおむつのゴミ箱の購入費用を補助するという内容も記載されていたので「ごみの保管が難しい」という課題も解決できるようになったそうです。ごみの廃棄費用についても、これまでは「まとまった量のおむつ廃棄はお金が掛かる」と言われていたそうですが、実際に計算するとそこまで費用が掛からないこともわかり、自治体で負担をするケースも多いようです。

厚生労働省から各自治体への通達資料

公立保育園があるすべての市区町村に電話

オンライン署名や要望書の提出といった活動とともに、「公立保育園における使用済みおむつの持ち帰り状況に関する全国調査」も2022年から行なっています。

これは公立保育園があるすべての市区町村の保育課に電話で調査するもので、使用済みおむつの持ち帰り状況を年に1回ヒアリングしています。

2022年は1,461市区町村、2023年は1,452市区町村に電話調査。1年で9市区町村減っているのは、廃園などで公立保育園が存在しない市区町村が出たためです。

2022年と2023年の全国のおむつ持ち帰り状況の比較

2023年の調査では、2022年から比較して、おむつの持ち帰りをしている市区町村は11%減少しました。しかし、2023年の調査は厚生労働省が通達をした1週間後に行なったため、「園廃棄の検討にちょうど入ったところ」という市区町村も多かったそうです。

「我々も厚生労働省から1月末に通達が出されることは知らなかったので、予定通り2023年2月からおむつ持ち帰り実態調査を行ないました。市区町村の保育課にお電話をすると『通達があったので検討に入ったところです』という回答が結構多かったので、現在の園廃棄率は調査時よりもさらに高くなっていることが予測されます」(東さん)

また、1,500近い市区町村への電話調査は骨が折れそうですが、これは育児中の女性が多く在籍する外部の調査会社へ依頼することで実現したとのこと。Google スプレッドシートやExcelを活用し、回答結果の入力をスムーズにできるようにシステム化して行なっています。

「調査会社には働くママさんが多く在籍しているため、使用済みおむつの持ち帰りに対する解像度が高く、とても協力的に行なってくれています」と東さんは話します。

「もちろん通達後も『園廃棄はしない』という自治体はありますが、理由を聞いて調査用にまとめています。園廃棄をしないことが悪いことではなく、大事なのは自治体が『保育園のおむつの持ち帰り実態を把握しているか』ということです。我々が調査を始めた数年前は『わからない』と回答する自治体もありました。把握していない自治体が0になることが望ましいと考えています」

調査はGoogle スプレッドシートやExcelを活用。「持ち帰りなし(園廃棄)」「持ち帰りあり」「各園判断・不明」の3択で回答で集計

おむつを廃棄する保育園が増え、あわせて公立保育園でも手ぶら登園の導入が増加しました。

「保護者や保育士の負担軽減のために、おむつの持ち込み・持ち帰りを同時になくす取り組みを行なう園や自治体も増えてきました。このまま、時代に合わせて変わっていくといいなと思っています。

出生数の減少とともに保育園は定員割れをする施設も増えてきており、我々はそうした課題解決にも取り組むため、保護者と保育園をマッチングする『えんさがそっ♪』というサービスも始めています。今後も保護者、保育施設どちらにも寄り添った活動を進めていけたらと思います」(東さん)

西村 夢音