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逆風のビッグテックとTwitter問題 来年はアップルHMD? 2022年のテック業界(2)

2022年も残すところわずか。連載「西田宗千佳のイマトミライ」の西田氏と「鈴木淳也のPay Attention」の鈴木淳也(J)氏を迎え、携帯電話や決済、ビッグテックなど、2022年にホットだった話題を振り返りながら、2023年に起こることを前・後編に分けて考察します。

ゼロ円終了・スターリンク、決済の変化などを語った前編に続き、後編はビッグテックや大規模リストラが話題になったTwitter、動画配信についての話題をお伝えします(聞き手:Impress Watch 臼田勤哉 執筆:甲斐祐樹)。

対談は12月5日に実施。19日時点の情報に基づき追記しています。

株価か業績か。日本と海外で受け止め方の違うビックテック

編集部:後半は少しフリートークっぽくお話したいと思います。昨年はビッグテック、いわゆるGAFAが力を持ちすぎだという話がありましたが、今年は大規模リストラなど暗い話も多く、サプライチェーンの混乱もあったりなど時代が変わってきた印象がありました。

西田:ビッグテックの監視は見直しが来ているのは事実だと思いますが、日本とアメリカ、ヨーロッパでは受け止め方が違うと思っています。今年は西海岸に何回か行ったんですが、日本みたいに「ビックテックもそろそろダメか」という感じではない。どういうことかというと株価を評価するのか業績を評価するのかという問題で、ここは凄い大きなポイントなんですが、業績が下がって黒字が生めなくなっている会社はビックテックにはないんです。

西田宗千佳氏

ビッグテックには株価的に大きな成長を期待していたけれど、コロナ後のインフレを先触れとして広告費の圧縮が始まり、広告費をベースとしたビジネスの収益性が下がったことで収益拡大は低調にならざるを得ない。すなわち成長が鈍化するわけですが、この成長が鈍化する状態における株価の下落をビックテックの限界と見るのか、そうじゃないのかという話なんです。

例えばメタのすごく株価が下がりましたって話は出てますが、メタの収益はどうなっているのかとすぐ答えられる人は少ないと思うんですね。メタは赤字じゃなくて成長しているけれど、株主がそれを成長を認めない。四半期で10数%の成長を必ず維持しなければいけないというのがアメリカのテック企業の1つの枷で、その枷がこのままでいいのかという状態がアメリカの見方だと思っています。

つまりここまで十数%上がるつもりで来たものが落ち込むと、当然のことながら会社を小さくしなければいけないし、採用した人もカットしなければいけない。だけどそれは当然のこと、という受け止め方なんです。なのでビックテックが限界かというとそれは違う感じなのですが、日本ではそれがごっちゃになってエモーショナルに捉えられすぎている感はあるなと。

一方でそれと全然違う環境にあるのがTwitterです。黒字が生めなくなっているからなんとかしなきゃいけないというTwitterとメタは違う。そこはきちんと考えておかなきゃいけない。

さらに言うとメタの株価の落ち方はひどいけれど、ザッカーバーグも多くの株を持っています。だから株主の意見も聞くが、俺が株を持っているから方向性は曲げないよという方向にいくのかという話で、今は「株主の話はわかった、多少はリストラするけど方向性は曲げないよ」っていう状況になっているのかなと思っています。

アマゾンも似た話で、Alexaが曲がり角と言われるけど正確にはアマゾンのハードウェアが曲がり角なんですね。アマゾンのハードウェアは利益をほとんど取らないでやってきたビジネスだけれど、結果としてAlexaの収益が悪いという話になっているんですけど、かといってAlexaを止めるとかハードウェアを止めるという話にはなっていない。あまりに売れていないハードウェアを実験的に大量に売るというのは止めるかもしれないですけど。

また、本当だったらAlexaで買い物ができるボイスコマースがもっと広がっているはずだったんだけど、音声認識は良くなったけど意味認識が良くなっていないから買い物に向いていない。結果としてボイスコマースが広がっていないから収益に直結していないという話はあるので、そういう部分での見直しは入ると思いますが、ビックテックが簡単にブレーキを踏むかというとそうではないというのが僕の考えです。むしろ各国の規制対象と今のビジネス状況がどうマッチするのかを少し慎重に見なければいけないタイミングであって、まだビッグテックが退場して新しいプレーヤーが出てくる時代ではないのかなって思います。

編集部:アクセルの踏み方が少し変わったという感じでしょうか。ブレーキも意識しつつのアクセルになった、みたいな。

西田:全体としてインフレが思っていた以上に厳しいので。我々からするとアメリカは給料が上がっていいよねって思っていたのが、アメリカ人から見たらこの物価状況は耐えられないっていうのが本音みたいなので、アメリカ景気の減退ということの影響が商品に対してもサービスに対しても出てくるタイミングかなとは思います。

編集部:アクセルを踏んでいたけれど、経済全体の流れと整合性を取っていくとアクセルを緩めざるを得ないというと。

西田:そう思うんですよね。例えば高い製品をバンバン出す予定があったとするならそれはちょっと見直しましょうという話になるかもしれないし、実験的な商品もいくつかはやめなきゃいけないかもしれない。そういう意味ではアップルからARとかVRが出るとか言われていたけれど今年は結局出ないし、来年もたぶん怪しい。それはなぜかというと今出してもまだ高いものしか作れないし、大量に売れるわけじゃないから収益に結びつかないわけですよね。市場がまだ暖まっていない以上慌てる必要も無いので、僕の予想としてはすぐには出さないし、出すとしても来年の後半かなと思っています。そんなこと言ってて1月に発表されたら(予想が外れたと)指を指されそうですが。

確かにQuest 2はそこそこ売れているし、メタはメタバースのためにものすごいお金を使っているけれど、使ったお金だけのリターンがあるほど市場が暖まっているかというとそうではないことがみんなの目に見えたわけですよね。特にアップルは無理に暖めにいく必要はないから、慌てないんじゃないかなと。

Meta Quest 2

でも今新しいビジネスを試行しなきゃいけないと考えている企業は直接暖めにいく必要がある。だからメタはやるし、TikTokがいつまで続くかわからないバイトダンスもアメリカ市場は取れないけどアジア市場を取るために頑張るのかな、という流れになるのかなっていう風には思っています。

(バイトダンスの)PICOはどう考えてもバーゲンセール(49,000円)なんだけど、あれだけいいハードウェアを作ってメタをコピーしているみたいに追いかけるのは、それだけ広告費に維持されたSNS市場の伸びに悲観論を持っているんじゃないかなと言う気がしています。

PICO 4(撮影:西田宗千佳)

編集部:次を生み出すために必死ということでしょうか。そうすると広告技術の会社であるメタやGoogle、バイトダンスと、アップルは全然立ち位置が違いますね。アマゾンもちょっと違う。

西田:物が作りにくかった時期は物流の混乱や半導体の製造プロセスの足踏み、そして市場も世界的に良い状況ではなかったという3セットがあって、それを1年位前から予想していたメーカーは、今年は強烈な新製品をお金をかけてマーケティングしていくタイミングじゃないな、と思ったんじゃないかと考えています。

Twitterとは何なのか

編集部:先ほどメタやアップルとは違うと言われたTwitterは、社員を半数以下にするなど過激なリストラを行なっている最中です。ただ、日本ではかなり冷淡な声が多く、Twitterの運営を評価する声が少なかった印象です。Twitterユーザーが、Twitterの運営を嫌っていたことにはすごく驚きました。

西田:ぼくもTwitterが嫌われていたのはちょっと意外でした。ある種のやっかみではあるだろうけれど、一方でTwitterみたいなサービスに重要だったのは平準化だったんだろうなと思います。平準化というのはどっち側の人から見てもなんとなく違う状態にするということで、それはページビューや広告費という指標を満たす上ではプラスだったんだろうけれど、ユーザーの満足度という意味では慢性的にずっとフラストレーションがたまっていたんだろうなと。

平準化されていることが可視化されていなかったので、なんとなく偏っているんじゃないか、自分が思っているタイムラインと違うんじゃないかということはわかっていても、意図的に平準化が行なわれていたということが不透明だった。それがリストラによって人の手で平準化されていた部分があるとか、今まで見えてこなかったツイートが見えるとか、人によっては自分が期待していたタイムラインが戻ってきたということが、結果として「Twitterは邪魔なことをしていたんだ」という感情につながっているんだと思うんですね。

それはある意味自業自得なのかと思いつつも、ネットサービスって多分そういうところがあるんでしょうね。UXが良くなるという価値観と、ユーザーがたくさんサービスを使ってくれて収益が上がるという価値観がイコールではない。それはどうすべきかというのは結構深い課題じゃないかという気がしています。

鈴木:そもそも万人が納得するプラットフォームって存在しないと思うんですね。Windowsだってみんなが使っているけど何かしら不満を持っているわけで、そういう意味ではTwitterも全員違う意見を持っていて、結果として納得いかない部分が多かった結果、こういう状態になっているのかなっていう。

鈴木淳也氏

編集部:我々メディアも、Twitterのモーメント(ストーリーのまとめ的な機能。先日停止)を作って「ニュース」のタブ向けに送る、ということはやっていましたが、多くのユーザーはTwitterにメディア的な機能は求めてなくて、ユーザーの声を聞く場所だと信じていた。Twitterもメディア的な機能としてキュレーションを行なうと公表していたけれど、「メディアではなくプラットフォームです」という立場があるゆえに、ちゃんと打ち出せていなかったし、誤認につながるようなUXでもあったかとは思います。それにしても予想以上にフラストレーションを覚えている人が多かったのだなと。

西田:あるコラムで「(Twitterは)元々不透明だった物をかき混ぜてみたら沈殿し始めた」ということを書いたんですが、イーロン・マスクがやったことって多分それなんですよ。とりあえずかき混ぜてみたけど問題は解決したわけではない。

鈴木:根本的なところに話を戻すと、Twitterはなぜそういうことをやっているかというとユーザーを増やして広告ビジネスをするというのがあってあの形になっていた。それが今全部剥がれている状態ですから、それも含めてTwitterが今後どうしたいのかという部分が当然見えてないし、まったく解決されていない。

編集部:イーロン・マスクがTwitter 2.0といって発表したものって、「楽しい広告を出して動画と決済を強化して、認証バッジも再開して」みたいなことが書いてあるんですが、書いてあることは普通なんですよね。

西田:意外感はないですね。

鈴木:逆に言うとTwitterである必要がない。

編集部:「会議と議論に開かれた場を提供するというミッションは普遍」といっていますが、さて何が変わるのかというとまだわからない。

西田:Googleが15年ぐらい前に通過した話をもう1回言っているような気がしますね。Googleがスタートしたときに、我々は機械的なアルゴリズムで抽出するので、誰にとっても民主的であるという言い方をしていた。ところがどっこいアルゴリズムもやっぱり特性があるし、穴もあるから公平な状態ってのは作れないし、出てきた物をみんなが満足するわけでもないというのがわかったので、今は一生懸命人の手も入れるし、アルゴリズムを毎日変えて対応するような形になっているわけですよね。

ではTwitterは書き込みがある場所に対して機械的な選別が本当に成立するかというと、それはかなり怪しい、無理なんじゃないかなっていう気はしちゃいますよね。

鈴木:個人的にはGoogleはSEOに負けたって思っているんです。なぜかというと機械って特性がわかるとハッキングできるんですよ。Twitterが人の手を加えると何事だっていわれるけど、結局そうしないと生のデータが流れてきて、結局みんなの意図しない方向にまた行っちゃうという。だからみんなが恐れていたことは結局機械化しようが発生すると個人的には考えています。

西田:先日聞いた話で面白かったのが、アメリカではTwitterの利用率が低いので大手メディアは全然記事にしていなかったけれど、イーロン・マスクの騒動があまりに面白くて報道合戦が起きていると。それはTwitterのユーザー数増加にはつながっているかもしれないけど、Twitterに何かが起きているわけではない。要はイーロン・マスク劇場が人気なのであってTwitterが人気なわけではないんだそうです。

鈴木:そもそもプラットフォームの属性って国によって結構違うんですよね。日本ではTwitterがLINE的な使い方をされているけれど、アジアではWhatsAppがあって、その他にFacebookやInstagram、Telegramというプラットフォームがある中で、Twitterはそれほどメジャーな存在ではない。Twitterってそもそも何だったの? という根本的な話なんですよね。

Twitterは上場していたので、Twitterが何を求められているのかというときに株主に聞かなければいけない。先日(創業者で元Twitter CEOの)ジャック・ドーシーも「こんなに赤字を拡大したのは自分の責任だ」と謝っていましたが、結局はTwitterもどんどん拡大して売上を出してユーザー増やせというプレッシャーの中でたくさんの人を雇っていくと、インフレがどんどん進んで今みたいな状況が生み出されていく。株主が強すぎたという側面が1つにはあって、それをイーロン・マスクが買ったことで株主の側面がなくなったわけですよね。そこでTwitterが今後どうなるかというのは今までに無かった視点だなと。

西田:そういう意味で面白いのは、シリコンバレーのビックテックって、雇用者への報酬を株式で支払っている部分があるじゃないですか。その比率がここ最近の企業は多すぎて、そうすると社員に対して給料を払うだけではなくて株価も維持しなければいけない、つまり株価を上げることを目的に経営しなければいけないというアンバランスな状況が生まれてしまっていました。そういう意味でイーロン・マスクのやることは成功するにしろ失敗するにしろ、これは経済の教科書に載るなと思っています。

鈴木:結局株主に至れり尽くせりだった状況がちょっと歪んでいたというか、今後どうやって自制された形で修正されていくのかな、という段階でしょうか。

西田:そういう意味ではビックテックの曲がり角ではあるけれど、アメリカの株式全体を見たときにビックテックの占める割合って非常に大きいので、ユニコーンと呼ばれていた企業をどう評価するかと言ったところも含めて今見直しが来ているのかなと。ソフトバンクも投資会社としてあれだけユニコーンと言っていたのに、最近は一歩引いているところは関連していない話ではないように思いました。

イーロン・マスクってすごいところはすごいけれど荒いんだと思うんですよ。SpaceXでロケットをどう作るかみたいな方法論を編み出すところはすごいけど、経営体制どうなっているのというのはテスラやSpaceX、Twitterでも感じるので。

鈴木:ブレーンがいないとだめなタイプだけど、Twitterだとブレーンになりそうな人がみんな逃げちゃってますね。

編集部:ナンバーツー、ナンバースリーが支える体制がないというのが(SpaceXなどとの)違いなんでしょうか。

海外では踊り場を迎えるも日本は成長が続く動画配信市場

編集部:エンターテイメント、中でも動画配信がいろいろと大きな動きがありました。その中でもコロナ禍で急激に伸びた動画配信が反動で踊り場を迎えた中、Netflixがあれだけ嫌っていた広告を始めたというのが1つ象徴的なトピックでした。

西田:あれほどの手のひら返しは無いなっていう話ではあるんですが、結局はさっき話した成長とは何かという話になっちゃうんですよね。Netflixがいつの段階かでユーザー数の踊り場を迎えるということは自明だったわけで、アメリカは3年前から踊り場だった。そしてヨーロッパも踊り場になっていま成長しているのはアジア、正確に言うとインドと日本と韓国しかない。ではこれ以上の成長はどうするんだと言うときのエクスキューズとして、新しい広告というビジネスを導入することにしました、っていう話だと思うんですね。さらに言うと絶対やらないと言われていたスポーツをやるらしいという噂も出てきていたりする。

一方で、Netflixを脅かす企業っていないんですよね。ディズニーが伸びていると言っても、世界的に大きいディズニープラスと、アメリカで大きいHuluとESPNで、それぞれで重複しているユーザーも含めてやっと2億程度でNetflixに追いついてきたというレベル。さらに言えばNetflixはコンテンツ制作で大変な赤字を出していたけれど今はブレイクイーブンになっている一方で、ディズニーは赤字続きで経営を立て直しますよと言う話になってきた。

つまり、サブスクで毎月お金が取れて安定的な収益になるというシナリオが、天井に到達し始めたら安定的といっていいのか、入ってくるお金が計算できる状態でどう経営するかという問題になってきた。それがコロナになる前は2025年とかもっと先の話だったのが、コロナ禍でユーザーを先食いしてしまって、彼らの計算から2、3年くらいずれて(天井が)やってきてしまった。Netflixも決算の中で「コロナの状況はカオスだ」と言っていて、そのくらい彼らにとってユーザーが入ってきてくれるのはありがたいけど先が読めない状況でしょう。

一方で伸び盛りの日本には関係ない話なんですよ。日本は動画配信において圧倒的に後進国で、広告なんてなくてもたぶん全然問題ない。一方でアメリカやヨーロッパなどある程度伸びが止まってきて、想定より収益が上がっていない地域は見直さなければいけないという話になっていて、日本と海外では見えている風景がやっぱり違うのかなという気はしますね。

鈴木:それもこれも全部伸びが前提っていうところなんですよね。最大の敵は株主というか、投資家というか。

西田:株主の強すぎる環境はどうなのかという指摘は昔からありましたが、それがテクノロジーの分野ではいよいよ明確になっているということなのかとも思いますね。なのでおそらくNetflixはスポーツも導入するだろうし、広告もターゲティングを導入するだろうし、割と普通の動画配信になっていくのかなという気がします。

鈴木:ウォルマートみたいにコロナ禍で参入してきた事業者もありますよね。ああいうところはどうやって生き延びるんでしょう。

西田:アメリカの市場だけだと、椅子取りゲームの椅子が3つある、っていうのが答えだと思います。アメリカって元々ケーブルテレビに払っていた金額が1世帯80ドルとか90ドルとか結構良い値段で、そこにインターネット回線やプレミアムチャンネルも加入すると毎月150ドルとか払っていたわけですよ。それに比べれば1契約10ドルの動画配信が3つくらいあっても問題ないけれど、最初からその椅子がありそうな市場はアメリカくらいで、ヨーロッパや日本は椅子が2つしかない。そうすると特性が似たサービスは食い合うことになって、おそらく各市場のトップとグローバルなサービスのプラス1、ということになる。

日本でも3社が生き残る? PPVやスポーツの可能性

西田:動画配信では日本だとAmazon Prime Videoが勝ち組で、2位がNetflixということになっているので、問題は3位以下がNetflixをたたき落としていくのか、という話になるかという気はしますね。だからAmazon Prime は値上げしないんですよ。そろそろ値上げかなと思っていたけど(アマゾンジャパン社長の)ジャスパー・チャンが「値上げしない」と言っちゃったので、半年か1年は値上げしないでしょうね。

鈴木:というより、値上げできないんですよね。

西田:動画配信もショッピングも音楽も月500円の低価格帯でそのサービスを抑えちゃったので、それがグローバルと同じような800円、900円くらいの価格に上がると(1位から)落ちるという分析をしているんじゃないかと思います。

鈴木:逆の言い方をすると、Netflixはともかくそれ以外の事業者が入ってきても利益体質にならないという可能性があります。先日ドコモがエイベックス通信放送を子会社にして、dTVを純粋な自社サービスにするという動きがあったけれど、将来的に見て結局どうなのかという。

西田:結局のところユーザー数に対してかけられるコストの掛け算になっているんですが、1つポイントなのは国内コンテンツ調達の難易度が下がっているので、調達コストは昔危惧されたほど上がってはいない。だからこそコンテンツを作っている人たちが儲からないという話にもなるんですが。

実は上手いことやっているのはU-NEXTで、U-NEXTって値段が高い(月額2,189円)のに3位なんですよね。映画や電子書籍やアダルトが見られたりという多様性があるわけですが、他よりも単価が高いのに3位を維持できていればやっていけるのかなという気がします。

逆に言うと日本で市場開拓ができていないのって有料のビデオオンデマンドなんですよ。月額制で見放題のサービスはいくらでもあるけど、1本単価でというビジネスが立ち上がっていないので、むしろそこなんでしょうね。

コロナ禍の良かったこととして、動画配信をみんな理解したので、これからはスポーツや映画やイベントなどのペイパービュー(PPV)に動いてきている。ペイパービューで収益が上がっている興行もでてきているようなので、そこは注目して良いのかなと思います。

日本はアメリカと順番が逆になっていて、アメリカは単品のペイパービューが昔からあった上でのサブスクだったけど日本はサブスクが来てからサブスクにないものを単品で見る、みたいな世界になっていて、そこが今後どうなるのは気にしています。

編集部:配信系のキーワードとしてスポーツが来ていたというのはありますね。DAZNのようなサブスクがあったり、Prime Videoもボクシングの“ライブ配信”が大きな話題になったり、ABEMAも那須川天心VS武尊がものすごい売上になったとか。配信でライブスポーツやペイパービューの文化が立ち上がってきた気はしますね。

西田:興行におけるペイパービューの在り方は明確に変わったかなと。映画は映画館行くかサブスクで配信するまでいいという人はが多分ほとんどだと思いますが、スポーツやコンサートのような興行と呼ばれるものは、ファンはお金を払っても良いという流れになったのはとてもいいことで。その中で一番元気があるのがスポーツっていうことなんでしょうね。

あと2.5次元はすごく売れるらしいですね。DMMが動画配信に参入しますが、主力コンテンツの1つが2.5次元の舞台だと聞いています。

編集部:来年以降にNetflixがスポーツに参入する場合、ペイパービューで配信するという可能性もあるのでしょうか。

西田:Netflixはシステムをワールドワイドで作らなければいけないので、ペイパービューのシステムをワールドワイドで立ち上げるのはリスクが大きいんじゃないかな。あくまでサブスクの雄としてここまでやってきたので、スポーツをやるとしてもサブスクのままなんじゃないかなと思います。

編集部:そういう意味で面白いポジションにいるのがABEMAですね。ペイパービューで売上を立てるだけでなく、ワールドカップという特大コンテンツを無料でいまのところ無事に配信しています。

西田:今のところね(対談日は12月5日。日本対クロアチア戦の直前でABEMAから視聴制限がかかる可能性があるというアナウンスが行なわれていた)。

編集部:日本独自の配信として確固たるポジションというか、本当に「マス」になったんだなと。

西田:(サイバーエージェントの)藤田さんは本当に博打が上手い人なんだなって思います。実は調査データとしてはGYAOもABEMAと同じくらい見られているんだけど、ブランドやマインドシェアとしてABEMAが非常に強い。それはある意味広告媒体として強いということだと思うので、定着していると考えて良いんだろうなと思います。このままワールドカップを切り抜けて、日本代表がベストエイトにでもなってもうひと盛り上がりしたなら、ABEMAとしては本当に願ったり叶ったりなんじゃないかとは思いますね。

いろんな人が、ワールドカップの配信をABEMAにやってもらって良かったと言っているのはすごいことだと思います。落ちないというだけでなくサービスとしてマルチアングルだったりスタッツやコメントを見たり、後からオンデマンドで再生したりが全部できる。しかもそれが全部ストレートに無料で、追っかけ再生だけ有料という大盤振る舞い。こういうきれいな切り方をしているのは認知にもつながるし、ユーザーを敵にしない、非常に考えられたサービス設計だなと思います。

一方で、サイバーエージェントの来年の収益の伸びはちょっと落ちているんですよね。それはワールドカップへの投資が多かったからだと想定しているので、次に藤田さんに話を聞くことがあればそこがどうだったのか突っ込んでみようと思います。

Nreal Airの体験で見えた可能性 高い満足度のMac

編集部:そろそろ締めに入りたいと思いますが、その前に今年買ったものや良かったサービスはありますか?

西田:良かったというか勉強になったのはスマートグラスの「Nreal Air」ですね。製品自体は目の前に画像が出るだけというよくあるものなんですけど、マイクロOLEDの技術を使ってちゃんとした光学系で作るとこんなにちゃんとした絵になるんだという驚きがあって。スマートフォンやタブレットにつないでみると、移動中に快適に過ごせるなと思っていたんですね。

Nreal Air

映像を現実と重ねながら見ると言うことがもうそんなに夢物語ではなくて、それを5万円くらいで買えることがわかったのは大きかった。このままではまだマニアックな商品だけれど、もう少し工夫すると意外と化けるんじゃないかなという気はしますね。Quest 2をかけるのは普通の人にはまだ厳しいかもしれないけれど、新幹線や飛行機の中で時間を潰すときにスマートグラスをかけるくらいはそんなに変なことじゃなくなる可能性もある。

で、こういうものができるんなら、ノートPCクラスのスペックからディスプレイをなくしてしまって、ディスプレイの代わりに使うこともできるんじゃないかとか、ARグラスが実現したらどうなるのかということがいろいろ想像できてすごい面白かったんです。2015年くらいに完全ワイヤレスイヤフォンがクラウドファンディングに出てきたばっかりの頃ってあったじゃないですか。あの頃の感覚に近いです。

鈴木:私は正確に言うと去年の年末なんですけどMacBook Proの14インチを買いました。便利ですよね。内蔵バッテリーで終日使えるのでアダプターを持ち歩かなくなりました。

西田:バッテリーが長時間持って発熱しないっていうのはこんなにいいことなのかとは思いますね。

鈴木:本当に楽ですよ。何も考えず開いてすぐ使えますし。

西田:そういう意味ではWindowsのPCももう一声がんばれとは思っちゃうんですよね。インテルもがんばってるけれど、ほんのちょっとしたことがまだ追いついていない。だから次や次の世代のプロセッサで追いついて欲しいと思うところではあります。

鈴木:結局は全体の完成度なんですよね。これで満足だというレベルになっているかどうかという。

西田:私ももちろん買っていて、知り合いで毎年パソコンを買うような人でもMacBook Proを買って満足したから今年は買わなかったという人もいるので、満足度の高さはありそうだなと。

鈴木:新製品が出ていないっていうのもあるんですけどね。

編集部:明らかに完成されてきて不満がなくなってきたというところがあるんでしょうか。

鈴木:デバイスメーカーとしては複雑ですよね。買い換えてもらってナンボ、というところもあるので。

2023年はWindowsの逆襲? アップルのHMDはでる? でない?

編集部:今年の振り返りはこれくらいにして、来年以降期待しているものやサービスはありますか?

西田:来年期待しているのは意外とない、というのは嘘ですが、インテルのプロセッサがだいぶ変わってきているので、次や次の世代でもうちょっとWindowsのいいものが出てくるのかなという期待はしますね。

あと、PlayStation VR2(PSVR2)は体験がよかったので、高い(74,980円)けどPS5と両方買える人には面白いんじゃないでしょうか。Quest Proを使えばもうちょっと面白いこともできたりするんですけど、PS5とPSVR2というパッケージが悪くないかなと思います。PS5も年末くらいからそこそこ手に入るみたいですし。

PlayStatin VR2

あと先ほども言ったとおり、アップルのHMDは2023年には出ない、と考えているので、来年はまだ出ないというつもりで話しておきます。

鈴木:西田さんとは逆に、テクノロジー的には2023年にアップルのHMDが出るかもという説を推しておきます。ただ、アップルがどう出してこようとも値段は高くなるので、この状況でどうやって市場を作っていくのかを見てみたいなと。

もう1つテクノロジーで言うと Qualcommが「Oryon」を発表しましたが、これって元アップルでAプロセッサやMプロセッサを作った人たちが作っていて、それで訴訟にまで発展していますが、どういう製品になるのかなと。あまり流行していないWindowsのARMやSnapdragonといったあたりをどうしていくのかが気になっています。

Qualcomm Oryon

サービスでは交通系でJR東日本が実験するといっていますが、改札でQRコードにどう対応していくのかというあたりが気になっています。いわゆるウクライナ問題だとロシアに制裁したことで決済が分断されているという話が出てきているので、世界的情勢と決済がどう絡んでいくかは注目ポイントですね。