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最新のAmazon Roboticsを搭載した「アマゾン尼崎FC」を見た

兵庫県の尼崎市にある「Amazon尼崎FC」

先日、Amazon流通網の“ラストワンマイル”を担うデリバリーステーション(DS)」のうち国内最大級の「東京江東DS」の概要を紹介したが、今回はもう1つの重要施設である「フルフィルメントセンター(FC)」の紹介だ。

FCはシンプルにいえば「倉庫」であり、Amazonならびに同マーケットプレイスに出品する業者が商品をいったんこのFCに集め、買い物客からのオーダーに合わせて商品をピックアップ、梱包して各地のDSなどに出荷する役割を担う。いわばAmazonのEC事業の中枢とも呼ぶべき存在だ。

このAmazon FCだが、近年では「Amazon Robotics(AR)」の導入が進んでいる。以前までであれば、広い倉庫スペースに次々と搬入された商品を陳列し、オーダーに応じてスタッフが倉庫内を歩き回って注文商品のピックアップを行なっていたものが、Amazon Roboticsの世界では「棚自体が移動してスタッフの下へとやってくる」という逆転の発想とも呼ぶべき進化を遂げている。

これにより、スタッフは「ステーション」と呼ばれる待機エリアで、移動してきた棚に対して商品の出し入れの作業を行なうだけで良くなった。同時に、人の移動スペースの確保が必要なくなり、棚の空間のさらなる活用が可能になったため、収納効率が大幅に向上するメリットもある。今回、このAmazon Roboticsの最新版が導入された「Amazon尼崎FC」を取材する機会を得たので“動画付き”でその概要を紹介したい。

Amazon尼崎FCの作業スペースの入り口にあるWelcomeメッセージ

筆者は以前にもAmazon Roboticsが導入された「Amazon茨木FC」の模様を取材した(が、Engadget日本版に掲載されていたため媒体終了とともにアクセスできなくなってしまった)。今回、比較対象となる画像素材などはないものの、取材の過程で以前までのアップデートを含めた情報も付記してあるので、どのように技術が進化しているのかにも着目してほしい。

商品の搬入から出荷までの流れ

FCにおける最初の工程は商品の搬入だ。トラックが到着すると、商品の状態を確認しつつコンベアへと流し、商品登録を行ないながら「オリコン(折りたたみコンテナ)」と呼ばれるプラスチックケースへと詰め込む各作業スタッフのエリアへ分配する。

尼崎FCの場合、搬入と出荷に関する作業工程はすべて1階のスペースに集まっているが、搬入からオリコンへの詰め込み作業を行なうスタッフへと荷物が移動する間にいったん中2階へと引き上げられるようになっている。これはコンベアを多量に配置することで人の移動スペースが制限されるのを避けるためで、尼崎FCではところどころに“らせん状”の装置があり、その間を荷物が行き交う様子が見られる。

トラックが到着すると、搬入された商品の状態を確認しつつコンベアに流す
いったん中2階へと引き上げられた搬入物は1階の各スタッフの作業エリアへと届けられ、商品登録とオリコンと呼ばれるケースへの詰め込み作業を行なう
フロア間の荷物の移動はこうした“らせん状”のコンベアが用いられており、尼崎FCのところどころで見ることができる

オリコンに詰められた商品は、次の工程でAmazon Roboticsのエリアへと送られ、スタッフのいる“ステーション”と呼ばれる作業スペースで棚への詰め込みが行なわれる。尼崎FCの場合、2階から4階までがAmazon Roboticsとなっており、どの階のどの棚にどの商品が入っているかはすべてシステムが把握している。

ステーションでスタッフが待機していると、「ドライブ」と呼ばれる運搬ロボットによって棚が自動的にスタッフの目の前に移動してくるので、あとはステーションに届けられたオリコンの商品を棚の空いたスペースに次々と詰め込んでいく。どの棚にどの商品をどれだけ詰め込むかは各スタッフの裁量に任せられており、もし詰め込めないと判断した場合はシステムに通知して次の棚を呼び出すだけでいい。

ステーションのスタッフはオリコンに入った商品をスキャンして棚に詰め込む

詰め込み作業においては「Amazon Random Stow」という方式を採用しており、どこにどの商品を詰め込んでもシステムが記憶しているので問題ないというスタンスだ。商品を混在させて1つのスペースに詰め込むことも可能で、“作業しやすさ”を最優先に、とにかく無理のない範囲で詰め込むことを目的とする。

実は、尼崎FCにおいてAmazon Roboticsが進化した1つのポイントはこの詰め込み作業にある。以前の世代の茨木FCに導入された同システムでは商品の詰め込み前にいったん当該商品をどこに詰め込んだかをバーコードのスキャンで示す必要があったが、尼崎FCの最新システムではAIカメラで自動認識が行なわれるため、このスキャン作業の工程が1つ減らされている。

「Amazon Random Stow」では棚の商品をどこに入れてもいい。実際、1つのスペースに異なる本や商品が詰め込まれているのが確認できる。どの棚に入れたのかは、スタッフ左上のAIカメラで自動的に把握されている
商品を極力棚に詰め込むことが望ましいが、場合によっては無理をせず次の棚を呼び出すのも手だ
ステーションでの「Amazon Random Stow」の作業風景

Amazon Roboticsのエリアを挟んで詰め込み作業とは反対側のステーションでは、ピックアップ作業が行なわれている。オーダーに応じて商品をAmazon Roboticsの棚から取りだしてオリコンに詰めていく作業で、やはりステーション上でスタッフが待機しているだけで棚が自動的に移動してくる。棚がやってくるタイミングは残り秒数などでカウントされるため、これらの作業を安全で確実にこなすのがスタッフの役割となる。詰め込みが終わったオリコンはエレベーターでフロア上部のコンベアへと運ばれ、出荷前の荷合わせのエリアへと移動していく。

「Amazon Random Stow」のステーションとはAmazon Roboticsを挟んで反対側に位置するピックアップのステーション
ピックアップの終わったオリコンは上部のコンベアを通して次の出荷作業(荷合わせ)エリアへと運ばれる
Amazon Robotics ステーションでのピックアップ作業風景

先ほども触れたように、尼崎FCだけでもAmazon Roboticsのエリアが3層に分かれており、オーダーによっては複数の階にわたって商品がバラけている可能性がある。このように1つのオーダーに複数の商品が含まれている場合など、いったん異なるフロアやステーションごとにピックアップし、後でオリコンの中身を1つにまとめる「荷合わせ」の作業が行なわれる。これにより、1つの梱包で複数の商品を入れて発送可能となる。

また、場合によってはFC同士で商品の転送をかけることもあるとのことで、「可能な限り無駄を省いて安価に商品を届ける」というAmazonの目標を実施するポイントにもなる。

特にこの荷合わせで行なわれる「P2R」という工程は尼崎FCでは最新のものが導入されており、その作業ステーションの1つを見学できた。

動画と写真で紹介しているのは、同一フロア内に商品があった場合の「荷合わせ」で、Amazon Roboticsで次々と運ばれてくるピックアップすべき商品を、緑のランプが点灯している棚に詰め込んでいくのがステーションのスタッフの役割となる。棚の反対側では梱包を担当するスタッフがおり、システムが複数ある梱包資材のどれを使うべきかの提案を行なってくるので、それに従う形で棚の商品を先ほどのスタッフとは反対側の向きから抜き取って詰め込み作業を行なう。

同一フロア内の「荷合わせ」を行なうP2Rステーションの作業の様子
ピックアップ作業を行なうスタッフとは反対側の棚から商品を取り出し、発送のために梱包するスタッフ

すべては顧客満足度につなげるための投資

尼崎FCは、現時点で日本最大級のFCの1つ。特に関西以西の九州を含めたエリア全体をカバーする重要な拠点だと説明するのは、国内20拠点以上のFCの統括責任者であり、アマゾンジャパン オペレーションズ代表の島谷恒平氏だ。同氏によれば、Amazonにとっての日本は世界でも最も早く品質の高いサービスが提供されるエリアであり、今回のケースでも最新のAmazon Roboticsが導入されるなど重要な拠点となっているという。

「Amazonの強みは何兆円規模に近い研究開発投資を毎年行ない、トライ&エラーを繰り返しながら世界中でテストを続けている。それができる会社は世界でもそうない。この最先端が日本でできているというのが嬉しいところ」と戦略的な重要性を示唆する。

アマゾンジャパン オペレーションズ代表の島谷恒平氏

通常のよくある倉庫とは異なり、Amazon Roboticsでは専用の作業フローとシステムに関する膨大な開発投資があり、この投資対効果(ROI)の判断が最も重要になると同氏は述べる。そのため、既存のAmazon Roboticsが入っているFCのアップデートをはじめ、実際にどの程度のROIが出るかを考慮したうえで判断が下されるということで、今回の尼崎FCのシステム更新はそれだけ同拠点が重要であることを示している。

例えば、同拠点では現在1,800台のドライブと2万のポッド(棚)が稼働しており、1,000万個の商品が格納された空間から1日に数十万個の商品が出荷されているが、茨木FCのものと比較してもドライブなどの性能向上が図られており、棚の高さ拡充と、それにともなう格納可能な商品点数の増加が可能になっている。

島谷氏は「単純にポッドを高くすればいいというものでもなく、運ぶ際のバランスの調整もある。それらをすべて考慮して最適なシステムが設計されている」と、前述のトライ&エラーができる環境の重要性を述べる。

Amazon Robotics内のエリアを徘徊して棚(ポッド)を運ぶ「ドライブ」と呼ばれるロボット群

また、Amazon Roboticsのアップデートに際しては尼崎FCの機能をいったん停止する必要があり、「どの時間帯に作業するのが効率がいいか」「迂回先となる他のFCへのインパクトはどの程度か」を考慮しつつ流通へのダメージを最小限にする計画が練られたという。「Amazonではラストワンマイルまでの行程をすべて把握しており、どれが一番安くできるかをすべて計算している。移行作業も含め、これだけ規模が大きくなると、システム的インフラがないと、すでに人間でどうこうできるレベルではなくなっている。いかに約束を違えずに商品を安く出せるか、バックアップのシステムがモデルとして組まれていることが重要」(島崎氏)

このような話を聞くと、Amazonがビジネスの効率性ばかりを重視しているようにも思えるが、実際にはこれだけ規模が大きくなると地域コミュニティとのつながりも増え、そこへの投資もまた重要なってくるというのが同氏の考えだ。Amazonの哲学として、第1に顧客があり、第2に「ワーカー」がある。Amazon Robotics導入の意図として、生産性を上げていくというよりも、顧客が求めるスピード感をワーカーが自然に出せることが目的で、AIカメラで作業フローを簡略化したのもその延長線上にある。安全対策やステーションでのゲーミング的な要素も含め、ワーカーの作業環境を快適にすることが最終的に顧客満足度につながるという考えで、すべてはそれに向けた投資というのが最新のAmazon Robotics導入における大きなポイントなのだろう。