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アマゾンがデリバリーサービスパートナーを拡充する狙い

Amazonの東京江東DS

Amazonは3月30日、新しい「デリバリーサービスパートナー(DSP)」プログラムを開始した。既存のDSPは地域ごとにネットワークを持つ事業者にラストワンマイルの配送を委託するものだが、同社が“進化形”と呼ぶ新しいDSPではこれから配送ビジネスを立ち上げるという起業家を主な対象にしたもので、そのために必要な支援をAmazonが提供していく。

同社では現在、日本郵政やヤマト運輸などのパートナー配送業者に加え、アマゾンロジスティクスが管轄する「Amazon Flex」「Amazon Hubデリバリー」「DSP」といった配送プログラムが展開されている。

Flexはパートタイムで、好きな時間や拠点で配送業務を受けることができる。Hubデリバリーは2022年12月にスタートしたばかりの新しいプログラムで、飲食店など地域の事業者が隙間時間に近所の配送業務を請け負えるという仕組み。Flexは個人事業主が対象となるが、新しいDSPではあくまで企業が対象となる。

当初は個人でスタートしても、将来的にドライバーなど従業員を雇用することで事業化を目指すことを想定する。

フルフィルメントセンター(FC)を抜けた後の配達までの流れ。Amazon Logisticsでは3つの配達プログラムを管轄する

新DSP開始にあたりAmazon Logistics(AMZL)事業本部部長のAwanish Narain Singh(アヴァ二シュ・ナライン・シング)氏がメディア関係者を集め、サービスの狙いについて説明を行なった。

DSPプログラム拡大は未来への投資

「今回発表する新しいDSPは従来のプログラムを進化させたもの。過去のDSPは協業プログラムとしてすでに成功を収めており、日本に根付く起業家精神を支援すべくそれを拡張させた。物流分野に興味や経験のある起業家であれば、Amazonとしてテクノロジーやサポートで事業を支援し、スキルアップの手伝いができる。Amazon自身はこの分野で25年の経験があり、もちろん日本でも経験を積んでいる。このプログラムの成功により配送業者は1,200万円から2,400万円の利益を上げられるようになる。われわれは顧客、ドライバー、パートナーの3点にフォーカスしているが、顧客に安心・安全を提供するにはすべての過程において安全性が大事。今回のパートナーシップによって、より効率的によりいっそう荷物を届けることができるようになる」とシング氏は説明する。

Amazon Logistics(AMZL)事業本部部長のAwanish Narain Singh(アヴァ二シュ・ナライン・シング)氏]

シング氏が強調するキーワードが「利便性」だ。複数ある配達プログラムのうち、どの経路(チャネル)で荷物を届くのかという問題があるが、それ自体はユーザーにとっては重要ではないと同氏は述べる。コロナ禍で本格スタートした「置き配」や「Key for Business」といった仕組みがあるが、より便利に受け取れる体制を整えることで顧客は最高のデリバリー体験を得られるようになるという。

そのためのDSPプログラム拡充となるわけだが、同プログラムを利用して配達を請け負う事業者にはいくつかの付加価値サービスが提供される。例えば通常より安価なレートで利用できる自動車保険やガソリン給油であったり、雇用者にとって必要となるドライバーや支払い管理のシステム面での支援やノウハウなどがそれにあたる。これらは強制的に提供されるものではなく、DSPを利用する事業者がメニューで必要なものを選んで導入できる流れとなる。

DSPを含む既存パートナーと新しいDSPプログラムで参加する事業者との住み分けについて、シング氏は「すべてのパートナーとチャネルが重要」と触れつつ、急速に事業規模が拡大しており、それに対応するための施策の1つであることに触れている。

「2019年には1つしかなかったDSが、現在では45まで増加している。物流量も増えており、それを捌く配達側のキャパシティも現在の時点で足りているが、将来的な増加を見越しての未来の投資となる」(シング氏)と、今後の需要増を見越したパートナープログラムの拡大であることを認めた。

脱サラ経営者の挑戦

今回はこの新しいDSPプログラムで運送事業を立ち上げた2名の代表も自身のバックグラウンドを説明している。ワントラック代表取締役の目羅弘司氏はもともと大手企業に20年ほど勤めていたサラリーマンで、業務の過程でこの分野に興味を持ち、会社の立ち上げに至ったという。現在では4名の社員と13名のドライバーならびに車両を抱える企業の代表だが、ドライバー不足が叫ばれる物流業界で人や事業を育てるという点にやりがいを感じているようだ。またAmazonの仕事を請け負うメリットの1つに「人集めがしやすい」ことを挙げている。Amazon自身のネームバリューと合わせ、プログラムの恩恵をうまく利用している。

ワントラック代表取締役の目羅弘司氏

もう1人のCruz代表取締役の伊原雄士氏も別分野でのサラリーマンからの転入組で、最初の会社が倒産したタイミングで運送ドライバーとして業界に飛び込み、次のステップとして独立を果たしたという。同氏が強調するのはプライベートと仕事の両立だ。幼い子どもがおり、以前までであれば仕事の関係で子どもに接する時間と将来への不安を抱えていたが、こういった不安や不満を起業とAmazonとの契約とで払拭していくことに成功したことをメリットに挙げている。

Cruz代表取締役の伊原雄士氏

前述のように物流業界は将来的なドライバー不足を起因としたサービス品質の低下を不安材料で抱えており、おそらくはドライバーの労働条件改善を含めた業界再編が進むことになると予想される。ドライバー争奪戦も予想されるなか、先んじて労働力やパートナー確保に向けて動いているのが現在のAmazonの配達パートナープログラムなのかもしれない。