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「モアタイム」知ってる? 夜も休日も銀行振込が即時入金

モアタイムってなに?

モアタイムが2018年10月スタート
出典:全銀ネット モアタイムシステムのご紹介

2018年10月9日、多くの銀行で「モアタイム」が開始され、約1年が経過した。が、モアタイムと言われてピンと来る人は少ないかもしれない。

モアタイムは、銀行間での平日夜間・土日祝日における即時入金時間を拡大するもの。銀行間の振り込みは、全国の金融機関が「全銀システム」を経由するが、昨年10月までは平日の午前8時30分~午後3時30分にしか全銀システムが稼働していなかった。この稼働時間を24時間に広げ、平日昼間以外の夜間や土日祝日でも銀行間での即時入金を実現した。

モアタイム以前は、銀行への入金は「平日日中のみ即時入金」のため、夜や土日祝日に振り込んでも、「入金は翌日(月曜)午前です」といった表示がでていことを覚えている人も多いだろう。こうした制限をなくし、即時に入金が反映されるようにしたものが「モアタイム」だ。

今年5月にはみずほ銀行も対応。10月7日時点では、512の金融機関が参加している。

とても便利になったはず。だが、消費者から歓迎の声を聞くことは少なく、知名度も高くなさそうにみえる。筆者も複数の友人に「モアタイム知ってる?」と聞いてみたが、「なにそれ?」状態。ただ、「土日も銀行間で即時入金されるようなった」と伝えると「そうらしいね」ぐらいの知名度はあるようだ。

モアタイムとはなにか? そしてこの1年間でどのような変化をもたらしたのか。モアタイムに当初から参加しているジャパンネット銀行 取締役 常務執行役員 IT本部長(CIO)出口剛也氏と、IT本部/業務本部 副本部長 IT本部開発二部長の奈良井均氏に聞いた。

ジャパンネット銀行 出口剛也 取締役 CIO(左)とIT本部/業務本部 奈良井均 副本部長

なぜモアタイムが必要なのか

全銀システムは、全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営する、金融機関相互間の内国為替取引をオンライン処理するシステム。

1973年の稼働開始から、運用時間中は一度もオンライン取引を停止したことが無く、安定性、信頼性は実証済み。国内のほぼ全ての銀行が参加しており、世界に先駆けて平日日中帯の即時入金を実現しているという。

ただし、これまでの稼働時間は8時半から15時30分まで(コアタイム)。以降はリアルタイム処理ではなく、振込の「予約」となり、着金するのは翌日以降となっていた。もっとも従来の店舗や会社での取引では、この時間帯と振込予約の運用で概ねカバーできていた。

では、なぜモアタイムが始まることとなったのか?

出口氏によれば、「モアタイム対応は、世の中の流れからも必然だった」という。

出口氏(以下敬称略):店舗でもコンビニは24時間開いていますし、銀行もインターネットでは24時間、ECも24時間開いています。『銀行は24時間開いているのに、なんでお金は送れない』という違和感が出てくるのは当然です。世の中の流れからも、モアタイムへの対応は必然だと思います。

ただし、開始から約1年経過しても、モアタイムの認知率はそれほど高くない。どのように使われているのかはあまり浸透していなさそうだ。

出口:モアタイムが始まっても「変化を感じていない」という声はあります。これまでの振込予約でも、振り込みする人にとっては操作が完了していますから、変化は感じないかもしれません。問題は受取人のほうです。「受取側がすぐに受け取れる」ことがモアタイムのキモであり、そこにニーズがあります。

モアタイムを実現
出典:全銀ネット モアタイムシステムのご紹介

即時入金への「受け手側」のニーズとは?

では、具体的にはどのようなニーズがあるのだろうか?

出口:会社に経理の担当がいて資金を管理するというケース。この場合は、営業時間以外での振り込みをすることはあまりないかもしれません。しかし、リアルの店舗だけでなく、ネットの店舗や事業が増えてくると、ネットは当然24時間でキャッシュレスです。そこでは24時間決済ネットワークが動いている必要があります。

ですから、リアルからネット・ECにシフトする中で、24時間決済できるサービスが必要になります。

日本のECではクレジットカード決済が広く利用されている。クレジットカードは“立て替え払い”となるが、カードを持っていない人もいる。また、クレジットカードの場合、入金は月2回程度となる。ECでも大手の場合はそれでもいいが、「中小企業・店舗は、資金繰りの関係からできればその日、遅くても翌日には入金してほしいという場合が多い」という。

さらに、ヤフオク!などの個人の出店者においても、入金のリアルタイム性が求められるという。こうしたニーズには、クレジットカードではなく、銀行入金のほうが望ましいというわけだ。

モアタイムによる利便性の向上
出典:全銀ネット モアタイムシステムのご紹介

全銀システムやモアタイムと直接の関係はないが、受取人の即時入金ニーズの高さを示すのが、ジャパンネット銀行で加入を増やしている「PayPay加盟店」の事例だ。ジャパンネット銀行で口座を作ると、リアルタイムではないが、翌日には売上金を無料で振り込むという施策を実施。ここが中小企業や店舗に広く支持されているという。

広がるモアタイム利用

ジャパンネット銀行における、モアタイムでの利用も徐々に拡大しており、昨年11月と今年8月の比較では、概ね2倍になっている。モアタイム利⽤で増えているのは、個人間の取引だけでなく、バスの予約やチケットの売買、キャンペーンのキャッシュバックなどの法⼈の利用も拡大しているという。

ジャパンネット銀行におけるモアタイムの利用状況

また、モアタイムは新たなサービスを育てる土壌にもなっているという。

例えば最近増えている「給与前払い」サービス。給与を前払いしてもらい、「すぐにお金を使いたい」というニーズに応えるものだが、銀行がモアタイムに対応していないと、即時の入金はできない。いつでも銀行入金される環境が整ったことが、こうしたサービスの拡大を後押ししている。

ジャパンネット銀行としては、「提携先に『こういうことができます』とソリューションを提案していく立場」としながらも、「資金繰りが、マンスリーからデイリー、いまと、どんどん細かくなってきてきている。そこに対応できるシステムが銀行にも必要」(出口氏)という。

全銀システムはモアタイムでは、振込を一括して依頼できる「総合振込」に対応していないが、ジャパンネット銀行では、独自のAPIを用意。モアタイム中でも振込を一括で行なえるようにしている。こうした対応が、数千件単位の即時入金が必要なパートナー企業の支持を得ているという。

銀行が24時間動くことで、実現できるサービスがある。「モアタイム」は、密かに我々の生活を便利にする重要な基盤になってきているようだ。