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「モノタロウAIストア」は、現時点での無人店舗の現実解だ

工事用資材や工具などの工業用間接資材を取り扱う、事業者向け直販サイトの大手、モノタロウ。そのモノタロウが初めて運営する実店舗として、2018年4月2日にオープンしたのが、佐賀県にある「モノタロウAIストア powered by OPTiM」だ。

モノタロウとオプティムが共同で運営している無人店舗「モノタロウAIストア powered by OPTiM」。佐賀大学本庄キャンパス内に位置している

このモノタロウAIストア powered by OPTiMは、モノタロウ初の実店舗であるとともに、基本的に店員が常駐しない、無人店舗として運営されていることで注目を集めている。そこで、実際に店舗をチェックしてきたので、その様子を紹介する。

モノタロウ初の実店舗は無人店舗

「モノタロウAIストア powered by OPTiM」(以下、モノタロウAIストア)は、佐賀県佐賀市内の国立大学法人佐賀大学本庄キャンパス内に位置している。店舗は、やや小さめのコンビニエンスストアといった雰囲気だ。店舗の延床面積は約100m2(約30坪)で、取扱商品数は約2,000アイテムとなっている。

店内の様子。延床面積は約100m2(約30坪)で、取扱商品数は約2,000アイテム。規模や雰囲気は小型のコンビニエンスストアに近い

店舗の運営は、モノタロウ単独ではなく、AIやIoT、ビッグデータを活用したシステム開発を手がけているオプティムが共同で行なっている。

モノタロウは、実店舗を持たない直販業者として大きく成長してきた企業だが、これまでに直販以外の販売方法についても模索を行なってきており、無人店舗も選択肢の一つとして検討していたのだという。そういった中、以前より取引のあったオプティムも無人店舗への取り組みを模索していたこともあり、双方が協力して実証実験を行なうという目的で、モノタロウAIストアの開設に至ったそうだ。

店舗の立地として佐賀大学本庄キャンパス内が選ばれたのも、共同で運営しているオプティムの本店が佐賀大学本庄キャンパス内にあるからだという。

共同で運営しているオプティムの本店。モノタロウAIストアと同じく、佐賀大学本庄キャンパス内にある

店舗開設にあたっては、無人店舗に必要となる各種ハードウェアなどをオプティムが担当し、販売する商品の用意や、店舗の入退店から商品の決済などを行なうアプリの開発をモノタロウが担当している。そして、毎日の開店・閉店の作業や商品の補充はオプティムの担当者が行ない、それら作業以外は完全無人で運営されている。

2018年に入り、国内でも様々な業種で無人店舗に関連するの話題がいくつか見られるようになってきているが、その中でもこのモノタロウAIストアは、ほとんどの時間帯が完全無人運営されているという点で、かなり意欲的な店舗という印象を受ける。

店舗への入退店や商品の決済は専用アプリを利用

実際のモノタロウAIストア店内は、コンビニエンスストアに近い雰囲気だ。整然と棚が並び、そこに様々な商品が並べられている。取材当日は他に客がいなかったこともあって、やや閑散とした印象もあったが、店内にはBGMも流れており、店員が常駐している通常の店舗と雰囲気は全くと言っていいほど変わらない印象だ。

だが、店舗のエントランスには、入店口と退店口が用意され、それぞれにゲートが設置されており、自由な入退店は行なえない。このあたりから、無人店舗らしい雰囲気が伝わってくる。

こちらが店舗のエントランス。入り口と出口にゲートがあり、自由な出入りはできないようになっている

ただ、実際に店内をチェックしてみると、天井に防犯カメラは設置されているが、その数は思ったほど多くなく、商品棚にもセンサー類は設置されていない。防犯カメラで店内の様子を録画するだけでなく、店内にいる人を検出しているとのことだが、無人店舗としてはややセキュリティが弱いとも感じる。実際にモノタロウの担当者に聞いても、確実に万引きなどを防ぐことは不可能だとしている。

店内には各所に監視カメラを設置しているが、その他のセンサーなどはあまり使われていない
監視カメラで店内を録画するとともに、店内の人数を検出している

それでも、ある程度の抑止効果は実現できているとしている。その理由のひとつが、店舗を利用する場合に、あらかじめスマートフォンで専用アプリ「モノタロウ店舗アプリ」をダウンロードしておくとともに、ユーザー登録を完了させておく必要があるという点だ。

モノタロウAIストアでは、店舗の入退店から商品の購入、決済まで、その専用アプリを利用することになっている。店舗の入退店口にはゲートがあり、そこにアプリが表示するQRコードをかざすことでゲートが開き、入退店が可能となる。そして、このアプリを利用するには氏名や住所などの個人情報を登録する必要がある。つまり、店舗の入退店には個人情報を晒す必要があるわけだ。

モノタロウAIストアへの入退店や商品の購入手続き、決済には専用アプリ「モノタロウ店舗アプリ」を利用する

加えて、立地も不特定多数の人が足を運びやすい場所ではない佐賀大学本庄キャンパス内となっている。こういった部分で、万引きなどの犯罪を抑止する効果を狙っているという。もちろん、抑止効果として完ぺきではないかもしれないが、効果は十分あると考えられる。

では、実際の入店から商品購入、退店までの流れを見ていこう。まず、あらかじめ登録を行なったモノタロウ店舗アプリを起動して、画面に入店用のQRコードを発行、そのQRコードを入店口ゲートのQRコード読み取り窓にかざすことで、ゲートが開いて入店できるようになる。

エントランスには、アプリを使った入店方法などを記したポップを用意
入店時に、アプリで入店用のQRコードを表示させる
QRコードを入り口ゲートの読み取り口にかざすと、ゲートが開き入店できる

店内に入店したら、購入する商品を選択するが、商品の読み取りや決済についてもモノタロウ店舗アプリを利用する。購入したい商品のバーコードをアプリのバーコードリーダーで読み取るか、商品の注文コードを直接入力すると、その商品がアプリのバスケットに登録される。複数の商品を購入する場合には、その都度商品のバーコードを読み取ることになる。また、同一商品を複数購入する場合には、アプリで購入数を入力する。

入店したら、店内から購入したい商品を見つける
購入したい商品のバーコードを、アプリのバーコードリーダーで読み取る
商品のバーコードが読み取られ、アプリのバスケットに登録される
同一商品を複数個購入する場合には、アプリで個数を入力する

購入商品を全て登録したら、アプリで決済を行なう。決済にはクレジットカードを利用するが、その作業はインターネットの通販サイトで行なう場合と変わらない。そして、決済が完了したらアプリに退店用のQRコードが表示され、そのQRコードを出口のゲートにある読み取り窓にかざすことでゲートが開き、退店となる。

購入する商品全てをバスケットに入れ、決済へと進む
決済はクレジットカードのみ対応。現金などクレジットカード以外での決済は行なえない
決済完了後、アプリの「退店する」ボタンを押すと退店用QRコードが発行される
退店用QRコードを出口ゲートのQRコード読み取り窓で読み取って退店する

モノタロウAIストアは、派手さこそないが現時点での無人店舗の実用解

AIを駆使した店舗として大きな話題となっているのが、米Amazonが運営している「Amazon Go」だ。多数のカメラやセンサーを駆使し、商品を手にしてそのまま退店しても正確に購入した商品が判別され、自動的に決済が行なわれる。

また、国内でもAmazon Go同様に、カメラやセンサーを活用して商品選別から決済までを自動で行なう無人店舗の実証実験も始まっている。そういった店舗は、その近未来感も手伝って、非常に大きな話題となっている。

それに対しモノタロウAIストアは、無人の実店舗に入店して実際の商品を手に取って購入するとはいえ、専用アプリに用意されているバーコードリーダーで商品のバーコードを読み取りアプリ上で決済するという手順から、体験としてはインターネットの直販サイトで商品を購入している場合とほとんど変わらない流れとなっている。Amazon Goなどのような派手さがなく、近未来感が感じられないのも事実だ。

ただ、実際に運営する無人店舗として考えた場合、現時点ではモノタロウAIストアのほうが実用解に近いと感じる。Amazon Goのようなシステムは、今後の店舗運営のあり方を変えるほどのインパクトがあるのは事実だが、店舗あたりのコストは非常に莫大で、よほどの体力のある企業でなければ展開は難しい。

また、現在のAmazon Goでは無人運営は実現できておらず、逆に通常店舗よりも多い店員が常時店舗に配置されていたりもする。しかし、モノタロウAIストアはすでに開店・閉店処理と、商品補充以外は完全無人で運営されている。このインパクトはかなり大きいと言える。

モノタロウは、現在のモノタロウAIストアを完成形としては捉えていない。今後、オプティムと共同でさらなる開発を続け、よりAIを駆使した無人店舗として発展させていきたいという。

様々な企業が無人店舗の仕組みに取り組んでいる中、モノタロウAIストアがどのように発展していくか、今後も注目していきたいと思う。