鈴木淳也のPay Attention

第201回

「ライドシェア」日本導入、現状の課題はなにか

超党派ライドシェア勉強会のメンバーとデジタル庁の河野太郎大臣

現在、超党派で構成される「ライドシェア勉強会」を中心に“ライドシェア”に関する議論が進んでいる。

“ライドシェアリング(Ridesharing)”とは、文字通り移動時に他者と車を共有することだが、昨今このキーワードを指して意味することは、下記のMerriam-Websterの辞書の定義にもあるように、アプリやWebサイトなどを介して個人所有の車で移動を補助してもらうことにある。海外におけるUberなどが代表的なサービスだが、この仕組みをいかに日本に取り込んでいくかということが勉強会での検討事項となる。

an arrangement in which drivers of usually privately owned vehicles who wish to offer rides and passengers who wish to obtain rides use a network (such as one accessed through an app or a website) to coordinate the sharing of individual automobile trips for which the passengers pay a fare

ライドシェア勉強会は2023年11月22日に発足し、元環境大臣の小泉進次郎氏を会長とする。政権与党である自由民主党を窓口とするために同党の小泉氏が中核となっているが、国土交通大臣経験者で省庁事情やライドシェアへの理解もある立憲民主党の馬淵澄夫氏もアドバイザーとして参画しているなど、与野党を含めた多くの国会議員や関係者が参加する超党派の勉強会であると強調している。

12月12日に国会で開かれた会合では、2024年度での法改正提案も含め、現状の課題や目指す姿などを提言案にまとめ、翌13日に規制改革担当の河野太郎デジタル大臣ならびに斉藤鉄夫国土交通大臣に提出している。

デジタル庁で行なわれた記者会見の冒頭挨拶で小泉氏は「タクシー業界の過剰な規制を打破していく」と述べ、特に地方部での“移動の足”の問題に触れ、同様の“足”の不足が都市部や観光地においても場所や時間帯によって局所的に発生していることを前提に、雇用形態の多様性やそれを踏まえた「ライドシェア」制度の創設を提言した。

提言内容を河野氏に説明する小泉氏

ライドシェア導入に向けた提言内容のポイント

現在のライドシェア議論のきっかけは2つあり、1つは少子高齢化や人口減により地方交通を担うバスやタクシーのドライバーの確保が難しくなっており、需要と供給のバランスが崩れていること。もう1つは急激な人流の復活やインバウンドの急増により、都市部や観光地でコロナ禍で減少したタクシー供給が需要に対して追いついていないことにある。

前者のドライバーの確保については「自家用有償旅客運送」という制度があり、いわゆる「2種運転免許」を保有していなくても、同制度において種類に応じた大臣認定の講習を受けるなど、一定の資格要件を満たすことでドライバーとすることが可能だ。ただ提言に盛り込まれたアンケート調査報告によれば、同制度を実施している首長の94%が現状の制度のままでは問題の根本解決にはならないと回答しており、後者の話題と合わせ、2種運転免許取得や地理試験、研修など現状の制度の抜本的な見直しにより、この需給バランスの改善が必要だという。

自家用有償旅客運送の例

提言内容は次の写真の文章のような形でまとめられているが、将来的なライドシェア導入に向けて2段階のステップを踏んでいくことが説明されている。小泉氏は「第1弾としてはとにかくスピード重視でできることを現行法の枠の中でやっていく。省令や政令の改正も含め、できることは徹底的にやって、まずは世の中が動いているということを見せていくのが大事」と述べており、2024年度以降とみられる法改正議論の前に、まずはできる範囲で動くことを優先事項として挙げている。

次のステップは法改正となるが、同氏は「国交省を含めた調整の中では、雇用契約に限らない業務委託といった選択肢があっても、そこで安全性はしっかり担保できるのかという話を斉藤国交大臣とも話している。河野大臣についても(雇用契約と業務委託の)両方があってもいいとのお話でした」と述べ、雇用形態の多様化が前提にあることに触れている。

超党派ライドシェア勉強会からの政策提言書表面
超党派ライドシェア勉強会からの政策提言書裏面

ただ、この雇用形態に関する部分が現在タクシー業界との論点になっているようで、スピード優先をうたうライドシェア勉強会と、公正競争や安全性確保の面から慎重論を訴える全国ハイヤー・タクシー連合会などの業界団体の主張で一部相違があるようにみられる。

全国ハイヤー・タクシー連合会会長の川鍋一朗氏は12月4日にプレジデント誌に掲載されたコラムの中で「タクシー不足を理由にした早急なライドシェア導入議論はフェアではない。料金規制などの厳しい制約があるなかでタクシーは安全性を担保しており、ライドシェア導入であれば同じ条件が提供されるべきであり、需給バランスをきちんと見極めるべき」と述べている。そのうえで、将来を見据えた「移動の足」を増やしていくのが大事というのが同氏の意見だ。

タクシー配車サービスGOのEVタクシー発表会にて挨拶する川鍋一朗氏

こうした声もあり、ライドシェア勉強会では提言の締めに「ライドシェア政策を行う際には、旅客輸送が人の命を預かるものであることを充分に認識し、充分な安全性を担保すること。また、エッセンシャルワーカーであるドライバーの処遇について充分に配慮すること」という文言を載せている。また13日の記者会見後に実施されたぶら下がり取材で勉強会メンバーからは「いま既存の方々の働きにくさの解消という部分の解消がまずあり、その後にそれでは足りない、困っているというところで次のステップに向けて進めていく」という声が出ており、まず現在の輸送を担っているタクシーなど関連業界を下支えすることが重要とする。

また、デリバリーサービスでも問題になった「業務委託」というキーワードの“悪いイメージ”について、現状でも訪問介護や保育業務で実際に幼児や高齢者を預かってもらう業務が成り立っていることを例に挙げ、安全性の問題との両立は「問題ない」という見解も示している。会見前に配布した資料でも触れられており、まず指摘される部分であることを勉強会でも認識していることが分かる。

記者会見前に参考として記者たちに配られた参考資料。業務委託と安全性に関する例が挙げられている

違法行為が跋扈する海外OTAによる「白タク」問題について

本稿執筆中も海外大手OTAらによる「白タク」配車問題が話題になっている(注:ブッキングドットコムなどにおいて、2種免許を持たず自家用車による違法と見られる「白タク」予約ができてしまう問題が指摘されている)。これについてもライドシェア勉強会に尋ねてみた。

「これはしっかり取り締まるべきだと思います。この取り締まりをしっかりやってもらいたいというのが、ちょうどライドシェア勉強会でも出ました。特に警察庁に対して取り締まりの強化を求めることだと思いますが、今回は国交省とこの規制緩和の両方がありますので、この問題については来年ライドシェア勉強会を動かしていくなかで、しっかりと対応策を求めていきたい」(小泉氏)

会見後の囲み取材に応じるライドシェア勉強会のメンバー

実際、海外OTA(Online Travel Agency:旅行予約サービス)や関連事業者が同種のサービスを提供することを止めるのは現状の枠組みの中では難しい。おそらくは警察が現行犯で検挙するしかなく、白タク行為として検挙できるのかも確実な話ではない。しかも利用者がOTAなどの第三者を利用して料金を支払っていることも考えられ、その場合の対応にも苦慮するだろう。

安全性の問題もさることながら、業務委託となった場合の責任の所在や審査方法なども課題になるとみられ、こうした制度を浸透させる過程で違法業者や個人の排除方法の検討が必要になるなど、考えるべきポイントは多い。ただ少なくとも、「白タク」問題の認識は導入推進側では認識しているのは間違いない。

いずれにせよ、ライドシェア勉強会で目指しているのは“ライドシェア”という仕組みを無理矢理普及させるというよりも、先ほども触れた“首長”をを軸とした特定地域の交通問題を解決しつつ、(皆が想像するような)“欧米型”ライドシェアではなく、“日本型”ライドシェアのあるべき形を模索していくことにあるという。

一方で、既存の仕組みではカバーできない問題に直面し、いざ必要な状況に直面した場合、あらかじめ必要な法整備を進めておくのと、おかないのでは大きな違いがあり、さらなる公共交通の選択肢を用意することが重要という考えだ。少なくとも現状の議論を見る限り、“ライドシェア”という単語を聞いて多くが懸念している事項は議題として挙がっていると考えていいだろう。

ライドシェアの議論は現在もなお続くタクシー不足問題の解決策となるのか

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)