鈴木淳也のPay Attention

第41回

外出禁止令から4週間、米西海岸の小売店はどうやって生き抜いている?

米サンフランシスコ市内にあるチェーンではない地場のスーパーマーケット「Cal-Mart」。全員ではないがマスクをしている人が多く見られ、6フィート(約1.8m)のソーシャルディスタンスを維持している(写真提供:Stania Zbela)

日本で7都府県を対象とした緊急事態宣言による外出自粛がスタートしており、11日からは東京都などで施設への休業要請も行なわれる。それに先立つ3月16日に「Shelter-in-place Order」(屋内退避)を発令した米カリフォルニア州サンフランシスコ(SF)ならびに、その周辺地域を含むSFベイエリアでは、前例のない外出禁止令のなか、それぞれが手探りでやり過ごす道を探っている。

SFベイエリアの場合、基本的にスーパーやドラッグストアなどへの買い物と、運動不足を解消するための散歩以外での外出を禁止するという、米国の中ではやや緩い内容になっている(後に緩かったルールが若干見直されたと聞いている)。ただし、外出の際には相手と互いに6フィート(約1.8m)のソーシャルディスタンスを維持し、他人の家や建物内など、1カ所に集まることを推奨していない。また建物内の人数制限も厳しく規定されており、例えばレストランなどでのイートインを前提とした営業は許可されない。一方で酒類の提供方法が限られたことから、これまで夜間は禁止されていた酒類の販売制限が一時的に緩和されるなど、ルールに柔軟性を持たせる動きもみられる。

今回は外出禁止令から4週間が経ったSFベイエリアにおいて、小売店がどのように工夫を凝らすことで生き延びているのか、現地の友人らの協力を得て紹介したい。

小規模小売店が外出禁止令の中でどうやって生き抜いているか

サンフランシスコ市内でも太平洋岸にやや近いインナーリッチモンド(Inner Richmond)のエリアに住む友人には、「なるべくいまのサンフランシスコが伝わるもの」というリクエストで写真数点の撮影と簡単なインタビューを依頼した。数点どころではない数の写真が送られてきたが、その一部を紹介すると、前出Cal-Martのように米国の間でもマスクを着用する人が着実に増えつつあり、6フィートのソーシャルディスタンスを取っていることがわかる。ここはスーパーやカフェなどが集まる場所なので人がやや多いが、やや離れた場所にある普段は車がひっきりなしに行き交う主要道路(Geary Blvd)はほとんど車もなく、多くの人々は家から出てこない。

たまの外出でも、基本的には散歩を兼ねたスーパーでの買い物か、事前にオーダー済みの商品のピックアップだ。例えばStarbucksではアプリを使ったモバイルオーダーのサービスを提供しており、基本的にこのサービス経由でのピックアップのみの対応となる。目抜き通り沿いのダイナーではガラス張りの外観がすべて板で封鎖されており、入り口に「ピックアップのみ」ということで事前に電話などで注文した商品を車や徒歩で来店し、会計後にピックアップするだけの対応になっている。

Starbucksもモバイルオーダー経由のテイクアウト対応のみ(写真提供:Stania Zbela)
地元ダイナーのMel's Drive-inもテイクアウト対応のみで、店外のガラスをすべて板で封鎖している(写真提供:Stania Zbela)

個人店舗の中には思い切って平日の営業をすべて止めてしまい、週末に時間限定でピックアップ対応を行なっているレストランもある。あるピザ屋では、入り口は閉鎖し、客席のある窓の1つを開放して、臨時にテイクアウト注文を受け付けるためのカウンターを作っているケースもある。

連日夕飯時には行列が絶えない人気ミャンマー料理店も、金曜日と土曜日限定のテイクアウト対応のみに(写真提供:Stania Zbela)
ピザ屋ではメインの入り口を封鎖して、臨時に作ったテイクアウト用カウンターへと誘導する張り紙を窓に貼り付けている(写真提供:Stania Zbela)
郵便配達のスタッフも、ほとんどコミュニケーションなしでの受け渡しに(写真提供:Stania Zbela)

ピックアップ対応はレストランやカフェだけではない。オフィス用品を扱うOffice Maxという店舗は、スーパーやドラッグストアではないため、客を店内に招いての営業が許可されない。そのためオンライン注文後のピックアップのみということで入り口での受け付けを行なっており、その旨が掲示されている。

レストランだけでなく、オフィス用品店でもオンライン注文後のピックアップのみに対応(写真提供:Stania Zbela)

興味深いのはCVSの店舗だ。ここはドラッグストアなので特に入店制限はないのだが、掲示によれば水曜日の朝8時から9時までの間だけ、特別に高齢者や持病持ちなどのウイルス罹患が危険な人にのみ特別に入店が可能な隔離タイムを設けている。全米のスーパーには同様の対応で午前中の特定時間のみ、65歳以上限定で入店が可能なサービスを提供しているケースがあるが、やはりすべてがオンラインやデリバリーで対応できないという状況で、こうした時間を区切った利用者の分離というのは必要なのかもしれない。

ドラッグストアのCVSでは特に制限はないが、6フィートのソーシャルディスタンスを維持すること、そして水曜日の朝8時から9時までの時間限定で、高齢者や持病持ちなどのウイルス罹患が危険な人にのみ特別に入店が可能な隔離タイムを設けている旨が告知されている(写真提供:Stania Zbela)

もう1つ、面白いと思ったのはFoggy Notionという手作り商品を扱う個人商店だ。もともと小物を扱う小さな趣味の店なので、ここまで挙げたようなレストランであったり、既製の商品を販売する場所とは異なる。この店ではサンフランシスコでShelter-in-place Orderが発令された直後の3月16日、米Squareの提供する小売店向けのECストアのシステム「Square Market」を使い、自身のオンラインストアを立ち上げている。店舗入り口にもその旨が掲示されており、これを機に当面の窓口をオンラインに移行してしまったわけだ。

Foggy Notionという手作りショップでは、店舗を開ける代わりにオンラインストアを利用してほしいと告知(写真提供:Stania Zbela)
Foggy Notionは同市のロックダウン発動直後の3月16日に臨時にオンラインストアをオープン

飲食店の生き残りはデリバリー対応が鍵に

もう1人、今回の取材に協力いただいたのはSFベイエリアでも南側に位置する米サンノゼ在住のkikidiary氏だ。外出禁止令が発動された直後は外出の制限や範囲が分からず、買い物や食事の方法にも難儀していたようだが、現在ではストレス解消も含め数少ない楽しみである弁当購入のバリエーションも増え、厳しい状況下でも日々の家族との生活と在宅勤務をこなしている。

同氏が今回お勧めだと教えてくれたのが「Dan Izakaya」という米サンノゼの居酒屋レストランのテイクアウト用弁当。鮭いくら丼、うにいくら丼が美味しいという。名前からもわかるようにランチと夜の居酒屋営業のレストランだが、現在はサンノゼが属するサンタクララ郡の規制に従い、多人数がお店に入れないようにレイアウトが変更され、座席はすべて机の上に置かれて店内での食事は不可能になっているようだ。これはDanに限らず、多くのレストランが規制に合わせて基本的に客が1人しか入れない運用になっており、レジまたはカードリーダー端末が入り口付近に配置変更され、基本的には入り口またはお店に入らない形で会計を済ませるようになっている。注文はサンフランシスコ同様事前に行なうシステムで、電話で注文しておいてピックアップか、DoorDashのようなデリバリーサービスを活用することになる。

Dan Izakayaという米サンノゼの居酒屋レストランのテイクアウト用弁当。鮭いくら丼、うにいくら丼が美味しくてお勧めだという(写真提供:kikidiary)
Danのテイクアウト用メニュー。基本的にDoorDashでのデリバリー注文か電話での事前オーダーによるピックアップ対応となっている(写真提供:kikidiary)

同氏によれば、今回のシステム変更で米国特有の文化である「チップ」がない関係上、本来提供されるサービスの代わりにピックアップ用のお弁当には創意工夫が凝らされており、それが美味しく見えるようにしたうえでFacebookなどで積極的に宣伝を行なってお客を呼び込んでいるとのこと。本来であれば店内で紹介するような内容が、入店制限やピックアップ対応により宣伝機会を失っているため、リピーター向けにFacebookなどのSNSを活用しだしているという点で興味深い。

Danをはじめ、イートインができなくなった各レストランでは創意工夫を凝らし、Facebookなどでこのように新メニューを宣伝しながら顧客にアピールを繰り返している
これはDoorDash対応を行なったときの投稿。これによりピックアップだけでなく、デリバリー提供のオプションが増えた

ここで鍵の1つとなりそうなのがDoorDashの存在だ。米国でこの手のサービスといえば日本でも人気のUber Eatsを想像する方が多いかもしれないが、最近の米国ではこれにGrubHubも含め、DoorDashが一番人気の地位を得ているという。

そのため、今回の急な閉鎖騒動でレストラン各社がデリバリー対応を行なう場合、このDoorDash対応が重要になっているようだ。「意外なお店までデリバリーやピックアップにも対応してます。例えば、IHOPとか」(kikidiary氏)ということで、これまでイートイン専門だった大手チェーンでもDoorDashを通じてデリバリーを提供するケースが増えているようだ。

米国で熾烈な競争を繰り広げているデリバリーサービスだが、DoorDashが最大手として抜きん出たのはつい最近のこと。今回のロックダウンではDoorDash対応が1つの鍵になっているようだ
筆者を含め、一部に大人気のパンケーキレストラン「IHOP」だが、ここもDoorDash対応で自宅で楽しめるようになった

もう1つ気になっていたのが「現金」の取り扱いだ。以前に別誌のコラムでも触れたが、米国では東海岸の一部で飲食従事者が直接現金に触れることを禁止する通達が行なわれているケースがあり、極力クレジットカードやデビットカードを用いるか、オンラインオーダーを活用し、それでも難しい場合は手袋などを用いて対応するという話だった。

だが今回2人の話を聞いている限り、特に現金を特別扱いする措置はSFベイエリアでは行なわれておらず、逆に現金のみ扱うというケースも少なからずあるという。衛生対応では前述のように多くの店舗で店員がマスク着用を遂行しているほか、6フィートのソーシャルディスタンス維持で乗り切っているようだ。

鈴木 淳也/Junya Suzuki

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)