西田宗千佳のイマトミライ

第233回

Echo Hubの狙いとiRobot買収断念の影 アマゾンスマートホーム戦略の今

Echo Hub

Amazonは2月21日から、スマートホーム機器「Echo Hub」の販売を開始した。昨年9月に発表されていたが、出荷は日本を含む全世界でこのタイミングからとなった。

またAmazonは、先日、iRobotとの合併が破談になったばかりだ。そしてそのiRobotは、より安価に使えるサブスク路線に活路を見出し始めた。

これもまた、スマートホームを巡る変化の流れだ。こうした流れがどういう文脈で生まれているのかを考えてみたい。

拡大するスマートホームに応える「コントローラー」需要

「Echo Hub」は、その名の通り、AmazonのEchoシリーズの1つ。スマートホームのコントローラーと言っていい。

ディスプレイが付いていることから「Echo Show」と似たイメージを持ちそうだ。実際、推奨はされていないものの、卓上スタンドに置いて使うと、イメージ的にもEcho Showに似てくる。

メーカーとして推奨はされないが、卓上に置くとEcho Showに似た感じに

だがこの製品は、あくまで壁につけて使うことを想定している。また、同じ壁につける前提である「Echo Show 15」がコンテンツ視聴も志向しているのに対し、Echo Hubはそうではない。

ではどう使い分けるのか? AmazonはEcho Hubを「スマートホーム機器をたくさん使いたい人向け」としている。

Echo Hubには複数のスマートホーム機器をまとめて操作する機能が搭載されている。また、声での操作もできるが「タッチパネル」動作を主軸としている。Echo Show 15にも搭載されていた「近づくと画面が変わる」仕組みが採用され、遠くでは情報表示用として、近くでは操作用として使える工夫がなされている。

実のところ、操作する機器が5つ、6つならあまり便利とは思わなかった。だが、一軒家で家族と共に暮らしており、それぞれの部屋にスマートホーム機器が導入されているような家庭だと話は変わってくるだろう。

Amazonは自社サイトでの販売状況から、「年間10台以上Echo対応スマートホーム機器を買い足すユーザー」、つまり積極的導入期にあるスマートホームのヘビーユーザーが、2020年からの3年間で2.5倍になったと話す。縦軸のない、絶対値のわからないグラフなのでその点留意は必要だが、確かに、一度便利だと思った人は複数の機器を買い足す傾向にある。そういう「すでにヘビーユーザーである家庭」を想定して作られたのがEcho Hubである。

Echo HubをAmazonは「スマートホーム機器を多く使う人向け」と定義している

このことは、アメリカではさらに顕著な傾向にある。実のところ、Echo Hubは日本以上にアメリカで有用な機器かとは思う。

なぜならアメリカの場合、スマートホームのキラーアプリケーションが「セキュリティカメラ」だからだ。

日本の場合だと多くても2つ(玄関とガレージなど)というところだろうが、アメリカでは治安の問題と家の広さから、3つ・4つと付け足す場合が多い。それらをまとめて管理する機能がEcho Hubには備わっており、まさに「多数の機器を管理する」のに向いている。

Echo Hubでは複数のRingスマートカメラを同時にチェックできる

この製品は、今の時期にはまだ少し早い、と判断することもできるだろう。だが、こうした機器を打ち出しておくことで、初期ユーザーの「機器が増えると大変だ」という声に応えることができるし、今後のユーザーのためのアピールにもなる。

アメリカの場合、家のどこに機器が置かれているのかという「ホームマップ」をスマホで作る機能も準備中だが、こちらは日本向けにはまだ予定がない。

昨年9月、アメリカでのAmazon発表会では、iPhoneを使って「ホームマップ」を作る機能もお披露目された

スマートホームにとっては、各デバイスの機能はもちろんだが、家庭内でいかに管理し、使い勝手を上げるかが重要だ。そこで「自分でパネルをタッチする」のはスマートではないのでは……と感じる部分もあるが、現実解は重要だし、「色々なことを本当に、勝手に操作してくれる」スマートホームもその先にある。

EUの壁に潰えたiRobot買収

スマートホームの中でも、掃除機は大きな役割を果たす製品だ。筆者も使っているが、出かけるときに一声かけて掃除をしておいてもらえるのは、とても便利だと感じる。

また、スマートホームにおいては、どこにどのような機器があり、どんなレイアウトなのかという「ホームマップ」が重要になる。それを取得して管理するノウハウは、自動掃除機を持つメーカーの手元にある。

というわけで、2022年8月、Amazonは「ルンバ」で知られるiRobotを買収すると発表した。買収予定額は17億ドル(当時で約2,285億円)という巨額買収の「予定」だった。

iRobotの買収は、Amazonにとって、自動掃除機とホームマップ技術を手にする策であったと同時に、iRobotにとっては窮余の策でもあった。なぜなら当時から、同社は中国勢に追い立てられる立場にあったからだ。

買収発表の直前には、売上は上がっているが利益率が急激に下がっている状況だった。だが2022年度には利益が急激に低下、赤字化した。株価も急激に下がっている。

iRobotの、2月25日時点での株価。買収発表で若干持ち直したものの、赤字化やAmazonとの買収破談でさらに下がっている

こうなることは予測されていたため、AmazonによるiRobot買収は「ギリギリのタイミングでの救済」という側面もあったわけだ。

だが、結果的にこの買収は破談に終わった。EU規制当局の承認が得られなかったためだ。

創業者でもあるコリン・アングル氏はiRobotのCEOを辞することになり、掃除機以外(空気清浄機や芝刈り機など)からは撤退する。

EU当局がこの買収を承認しなかったのは、Amazonというビッグテックに、家庭用ロボット技術が集中するのを防ぐ狙いがあったとみられている。

だが、それは本当に正しい判断だったのだろうか。

すでに市場では多数の中国メーカーが覇を競っており、iRobot独占ということもない。中国メーカーの自動掃除機も、iRobotに近い性能をより低い価格で実現するようになっている。iRobot以外の企業が持つホームマップもあり、独占を加速することにはならなかっただろう。

EU規制当局はアメリカのビッグテックに厳しい目を向けている。その理由もわかるし、今回の判断もそこに起因している。

だが、今回の判断は果たして正しかったのだろうか? 他の欧米企業がiRobotの買収に動き出さないところを見ると、Amazonによる買収は悪い策ではなかったように感じる。

仮に今後、iRobotが中国系企業に買収されることになれば、むしろそちらの方が問題かもしれない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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