西田宗千佳のイマトミライ

第80回

ドコモ渾身の新プラン「ahamo」が露わにする「日本のケータイ」本当の課題

ahamoを発表するドコモ井伊社長

12月3日、NTTドコモは、5Gも利用できる月20GB・2,980円(税別)の新プラン「ahamo」を発表した。

ドコモ、月額2980円で20GBの新料金プラン「ahamo(アハモ)」

「2,980円」という楽天モバイルを意識した低価格に、他社が提供する20GBプラン、そして「5分間までなら何回かけても無料」という定額通話を組み合わせた、非常にお得な料金体系のサービスとなっている。

その登場の背景には、菅内閣成立以降強まっていた「携帯電話料金引き下げ論」があったのはいうまでもない。今回は、このサービスプランの是非について考えてみよう。

シンプル・低価格のahamoは他事業者に脅威

ahamoは衝撃的なプランだ。安価でお得。しかも、通信品質・通信可能エリアの両方で、「他の(NTTドコモの)プランと、通信品質にはいっさい違いがない」(NTTドコモ・井伊基之社長)というのだから。

価格面を見るとKDDIやソフトバンクにとっても脅威だが、これはまさに、ドコモに回線を借りてサービスをするMVNO(仮想移動体通信事業者)や、エリア拡大の最中である楽天モバイルにとっては厳しい敵となる。

競合の話はともかく、それくらいahamoは消費者に魅力がある。もともとは20代のデジタルネイティブを狙って商品企画されたもの、とされているが、安いサービスはどの世代にも魅力的。海外ローミングに追加コストがかからないこともあって、筆者もサブ回線をahamoにしようか……と思うくらいだ。

ただ、この衝撃的な価格は、条件があって生まれている。それが「シンプルさ」「オンライン限定」だ。

一般的な携帯電話料金プランは、「家族割」や「長期契約割引」「光回線とのバンドル割引」など、多数の割引とセットで売られている。結果として、「カタログ上提示される価格よりも安く契約する人が多い」一方で、「条件が複雑でわかりにくくなる」という副作用がある。

ahamoは最初から1つの料金体系しかなく、家族割を含む割引がない。NTTドコモの料金プランではあるが、他のNTTドコモの回線と家族割の対象にすることもできない。

契約については、基本オンラインでのみで、サポートもすべてオンライン。街中にあるNTTドコモのショップでのサポートなどはない。

「ネットで完結」しても問題がなく、家族割などの必要性がなければベスト。それがahamoの特徴と言える。

「これまでのドコモのプラン」との違いがahamoの難しさ

別の言い方をすれば、ahamoは確かに安いし、プランもシンプルだが、そこには“制約”もある。それをちゃんと理解していればいいプランと言える。

問題は、これが「別のブランド」ではなくあくまで「NTTドコモの料金プラン」として提供される、ということだ。

違いをわかるような人、これから携帯電話に加入する人には特に問題ないが、すでにNTTドコモに長く家族ぐるみで加入していて、割引やサポートをしっかりと利用している層にはマイナス面もある。

そこは、誰がどう教えてくれるのだろうか?

NTTドコモ・井伊社長は記者との質疑応答の中で、「基本リモートだが、(ahamoの顧客が店舗に来ても)ダメです、と単純に断ることはない」と答えている。「単純に、安く・お得になる」と理解されてしまうと、本来はサポートできないはずの「店頭」に、説明や契約変更を求める客が集まってしまう。NTTドコモの販売店に負担をかけないことによって低価格を実現しているはずのahamoが販売店に負担をかけると、販売店側はタダ働きになりかねない。

他社はこうしたプランを「サブブランド」として展開してきた。ブランド名が違うから、サービスの特質が大きく違ってもいい、という立て付けがあるからだ。

今回は、KDDI・ソフトバンクの対応に対し、武田総務大臣が「サブブランドでの値引きでは満足できない」とする姿勢を見せたため、NTTドコモがメインの「NTTドコモブランド」での低価格プランとして提案したように見える部分がある。サブブランドであれば「違う」から理解されやすかったことでも、メインブランドになってしまったからよりわかりづらくなった部分がある。

「選び方の難しさ」を改善していくことが重要だ

そもそも、携帯電話の料金プランはどうやって選ぶべきものなのだろうか?

デジタル機器に親和性の近い世代、働き盛りの世代は大容量プラン、子供や高齢者は容量の小さな低価格プラン……という言い方をされることが少なくない。

しかし高齢者の場合、実際には、低価格プランで複雑になりやすい「通信量の節約」を無理にやらせるより、大容量プランで自由に使ってもらう方が良かったりする。その方が生活を豊かにする、という意味ではプラスだ。

デジタル技術をよく知る世代なら、自宅や会社、学校の回線などを併用することで、携帯電話回線での通信量節約ができる、ということもあるだろう。特に今のようなテレワーク中心の時期には、自宅に高速回線があれば、携帯電話の通信量は少なくてもいい場合もある。

家族割や光回線のセットを最大限に活用して割引を考える場合もあるだろうが、条件をシンプルにしたいこともある。

結局、ニーズは人や状況によって異なるのだ。

MVNOやサブブランドのような存在は、そこで「自分である程度判断する」ことで価格を安くしている部分がある。

では、このままで本当にいいのだろうか。単に「安くなる」でもなく、ニーズに合わせた料金プラン選択を、多くの人がやりやすい条件を整えていくことが重要だ。政府の現状のメッセージは「安くなること」に集中していて、本当に改善すべきことに目を向けていない。

「サブブランドでのシンプルなプラン」も重要だし、「メインブランドでの使い放題」も必要。その判断を誰もがちゃんと行なえる「理解力」の育成と、判断を助ける仕組みこそが求められている。

本来、店舗は単に高コストなプランに導くセールス拠点であるだけでなく、判断を助ける存在であり、ユーザーの不安を解消する場所であるべきだ。現在の携帯電話事業の歪みはそこに集中している。「契約させること」ではなく、「サポート」自体が収益源になる仕組みが必須だろう。

11月19日にNTTドコモは、ドコモショップでの「ドコモ関連サービス以外のサポート」の有料化を発表した。「簡単にできることで料金を取る」と批判する声もあったが、それは正しくない。適切にサポートをすることから収益を得られる体制にしていくことで、「契約させること」ありきの体制を脱する第一歩になるからだ。

ドコモ、LINEやSuicaの移行・設定を有料サポート。1アプリ1,650円

こうした施策の中で、本来オンライン専用であるahamoがどう位置付けられるのだろうか? 何か明確な施策が必要だ。

総務省の携帯電話関連政策である通称「アクション・プラン」の中には、「利用者の理解を助ける」という項目がある。ここを政策と携帯電話事業者がどう連携して拡大していくのか。それこそが、諸問題の解決には重要だ。

NTTドコモは、12月中に他のプランについてもリニューアルを発表する。その時は、価格だけではなく、サポートや料金説明にも注目すべきだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41