西田宗千佳のイマトミライ

第51回

Surface Go 2とSurface Book 3に見る“今”のPCのあり方

新Surfaceシリーズ

5月6日、マイクロソフトは「Surface Go」と「Surface Book」の新モデルをそれぞれ発表した。どちらも日本での発売予定だが、Surface Go 2については、今週5月12日から出荷開始される。

399ドルからの「Surface Go 2」。前世代から64%性能向上

Surface Book 3発表。最大17.5時間駆動で性能は50%向上

筆者の手元にも、Surface Go 2の評価機が届いている。まだ届いてから時間が経っておらず、レビューというほど使えていないが、そのファーストインプレッションとともに、「PCとタブレットとパフォーマンス」についてすこし考えてみたい。

【Surface Go 2】

・カラー:プラチナ、CPU:Pentium Gold、メモリ:4GB、ストレージ:64GB
一般向け:59,800円
法人向け:52,800円
教育機関向け:47,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Pentium Gold、メモリ:8GB、ストレージ:128GB
一般向け:77,800円
教育機関向け:65,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Core m3、メモリ:4GB、ストレージ:64GB
法人向け:55,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Core m3、メモリ:8GB、ストレージ:128GB
法人向け:75,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Core m3、メモリ:8GB、ストレージ:128GB、モデム:LTE Advanced
一般向け:97,800円
法人向け:87,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Core m3、メモリ:8GB、ストレージ:256GB、モデム:LTE Advanced
法人向け:97,800円

「Go」と「Book」が久々に世代交代

Surface Goシリーズの特徴は、安価で軽く、小さいことだ。タブレットとしてみた場合、10.5インチという画面サイズは標準的な物かと思う。一方、PCとしてみればコンパクトなものである。

最初に出たのは2018年で、今回は名前から分かる通り「第2世代」になる。第2世代としての「Go 2」は、ディスプレイサイズが変わってCPU性能が順当に向上しているものの、ハードウェアとしてのイメージにはあまり変化がない。

Surface Go 2

同じSurfaceシリーズでも、「Surface Pro」はより「PC」としての色合いが強く、Surface Goはタブレット寄り……というところだろうか。

筆者は前のモデルも使ったことがあるが、感触としてはあまり変わらない。軽い・コンパクトなPCというより、やはり「タブレットがPCとして使えるもの」という感触だ。本体サイズは変わっていないが、タブレットだと思うと、ディスプレイが大型化しベゼルが細くなったことは、使い勝手の面でプラスといえる。

Surface Go 2評価機。CPUはPentium 4425Y。メモリー8GB・ストレージ128GBの、Wi-Fiモデルとしては上位機にあたるモデル

一方で、「Surface Book 3」はキャラクターが全く異なる。こちらはCPU・GPUともに高性能にこだわって「タブレットとしても使える」、PCとしての価値を、Surface Pro以上に突き詰めたもの、と言える。

Surface Book 3

現状のノート型PCにおいて、高性能なものは「ゲーミングPC」になりつつあるが、Surface Bookはプロ向けの機器という流れの中にある製品だ。Surface Bookの前モデル「Surface Book 2」は2017年末発売で、もう2年以上前のモデルになる。その間に、PCの世界ではCPU以上にGPUが進化した。ゲーミングPCでの競争がその進化を促したのは間違いない。

だが、Surface Bookは「プロ向け」という側面があるので、ゲーム向けとは特質の違うGPUも必要になる。だからこそ、コンシューマ向けに売られるバージョンでは、dGPUが搭載されるモデルの場合「GeForce GTX 1650 with Max-Q Design(13.5インチモデル)」か「GeForce GTX 1660 with Max-Q Design(15インチモデル)」が使われ、法人モデルでは「Quadro RTX 3000 with Max-Q Design」が選べるようになっている。

Surface Book 3 13.5 インチ

・カラー:プラチナ、CPU:Core i5、メモリ:8GB、ストレージ:256GB
一般向け:190,800円
法人向け:188,800円
・カラー:プラチナ、CPU:Core i7、メモリ:16GB、ストレージ:256GB、GeForce GTX 1650
一般向け:238,800円
法人向け:236,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Core(TM)i7、メモリ:32GB、ストレージ:512GB、GeForce GTX 1650
一般向け:287,800円
法人向け:285,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Core(TM)i7、メモリ:32GB、ストレージ:1TB、GeForce GTX 1650
一般向け:310,800円
法人向け:308,800円

Surface Book 3 15インチ

・カラー:プラチナ、CPU:Core i7、メモリ:16GB、ストレージ:256GB、GeForce GTX 1660Ti
一般向け:265,800円
法人向け:263,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Core i7、メモリ:32GB、ストレージ:512GB、GeForce GTX 1660Ti
一般向け:319,800円
法人向け:317,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Core i7、メモリ:32GB、ストレージ:1TB、GeForce GTX 1660Ti
一般向け:340,800円
法人向け:338,800円

カラー:プラチナ、CPU:Core i7、メモリ:32GB、ストレージ:512GB、Quadro RTX 3000
法人向け:382,800円

・カラー:プラチナ、CPU:Core i7、メモリ:32GB、ストレージ:1TB、Quadro RTX 300
法人向け:403,800円

Surface Go 2は「テレワーク」「教育」に向いている

新型コロナウィルス禍によって、PCのニーズは大きく変わりつつある。

テレワークの増加によって「持ち運ぶためにPCを軽く」というニーズは減る一方で、主たる作業以外にビデオ会議などのためのサブマシンが欲しい、という人もいるだろう。教育向けPCのニーズは以前より高かったが、自宅学習の流れが強くなった今は、「子供専用のPC、もしくはタブレット」を求める人はさらに増えた。

そういう意味で見ると、Surface Go 2の位置付けは、結果として変わらざるを得ない。もちろん、製品の企画・開発段階で現在の状況を見通すのは不可能だったろうが、今の状況に合わせてメッセージをあわせていくのも、メーカー側の力量である。

Surface Go 2

Surface Go 2のPVは、非常に教育色の強いものになっている。もともとの企画として教育用途は想定されていたのだろうが、「大人が持ち運ぶサブPC」という部分よりも、今にフィットしつつ、さらに普遍性が高い教育用のPC・タブレットとして推すことになったのだろう。

率直に言えば、性能はまだ足りないと思う。少なくとも、PCアーキテクチャで作るのであれば、メインメモリーは8GB程度必要だ。

同じタブレットでも、iPadは「スペックが上がったことが感じにくく、高性能モデルを選ぶモチベーションが湧きにくい」のが課題だが、一方でPCは、「低価格モデルだと快適な性能のレンジから外れやすい」というジレンマがある。Surface Go 2は、まだそのジレンマの中にある印象が強い。

だがそれでも、製品としての作りは価格以上の満足感を感じるものであり、自分が小学生から中学生で、親から教育用PCとしてこれを渡されると相当に嬉しいはずだ。Officeのフルパッケージが使えること、PCとしての柔軟性を備えていること、ウェブブラウザーの能力が高いことなど、「PCとしての良さ」が差別化点そのものだ。

一方で、タブレット用としての「新しいアプリ」はiPadOS向けに成長しており、カメラやペンと連動するアプリでは、iPadの方が充実している。電子書籍を読んだり映像を見たりする場合にも、「手触りの良さ」ではiPadが上である。

もうひとつのライバルであるChromebookは、少なくとも日本においては、個人向けとしては少し弱い。そんなバランスを考えると、Surface Go 2は「不満はあるが競争力はある位置付け」と言えそうだ。

タブレットの完成度が高まった今、「PCの自由」を見直すべきとき

個人的には、ここ2年ほどの間で、「過去よりもPCにはパワーが必要になっているのではないか」と思うようになっている。

多くの作業はiPadなどでも十分できるようになった。同じタブレットでも、iPad Proあたりになると処理性能はかなりのものだ。軽さ重視のモバイルノートだと、iPad Proの方が性能が高かったりもする。ベンチマークテストレベルでいえば、iPad Proの性能はもはやMacBook Proと大差ない。

では、PCやMacとの差はどこにあるのか? PCやMacの利点は「自由さ」にある。

テレワークが急に増えたことで、PCの価値は高まったと思っている。例えば、「SnapCamera」などのアプリを使って背景や顔を入れ替えたり、Zoomを使って多人数で飲み会をやりながら遊んだりするには、「ちょっとしたソフトで工夫する」ことが求められる。一眼レフデジカメをウェブカメラがわりにして「高画質で落ち着いたビデオ会議をする」のも、高音質なマイクをつないで聴きやすくするのも、PCの方がやりやすい。

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「自由闊達さ」を生かすには、性能がより高いほうがいい。ゲームやVR、映像のエンコーディングなど、GPU性能が重要なシーンも多くなった。そして、そういう自由度を持つPCは、それなりの値段がするものだ。Surface Go 2のような「ギリギリの性能のPC」よりも、Surface Book 3のようなもののほうがいい。

そういう意味でも、実はSurface Book 3の方が「“今”に合っているPC」ではないか、とは思っている。もちろん、高価なPCなので手が出ない、という人も多いだろうが。

Surface Book 3

軽さを求めなくなった今だからこそ、PCの性能については少し考え方を変えてもいいのではないだろうか。GPUを含め、少し高性能なPCを選ぶと、ゲームを含め、もっといろいろなことができる。

テレワークによる環境の変化は、「PCが持つ自由さ」に対する評価を、多くの人に再び感じさせる結果になっているのではないだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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