西田宗千佳のイマトミライ

第34回

「CES 2020」を前に今年のテックトレンドを考える。先読みの難しいCES

CES 2020会場のLas Vegass Convention Center(Car Watch)

テック業界の1年を占うイベントである「CES」が、今年も米ラスベガスで、1月7日から10日の日程で開催される。筆者もすでに現地入りし、取材準備を始めているところだ。

会期は7日からだが、プレスイベントは5日からスタートする。記事や発表なども、日本時間の6日午後あたりから目立つようになるはずだ。では、今年のCESではどんな動きがありそうなのか? 開催前だが、ちょっと予想をしてみたいと思う。

10年前に比べ「読みにくくなった」今のCES

とはいうものの、正直、年々「CESを事前に予測するのは難しい」と思うようになっている。

なにも情報がないわけではない。事前に情報が見えている「大手企業」がトレンドを主導する範囲が狭まってきている、というのがその理由だ。

10年前まで、CESのトレンド予測はシンプルだった。大手家電メーカー、特にAV機器に関する企業が家電のトレンドを明確にリードしており、多くの人が知るべき情報もそこに集約されていた。そこに関連する企業の数も限られているので、前兆をウォッチしておくべき企業の数も少数で良かった。

だが、今は違う。

もちろん、AV関連の発表、大手家電メーカーの動きが重要でない、というわけではない。だが、CESを構成する要素はもはや「家電」だけではない。自動運転を軸に自動車関連メーカーも集まっているし、様々なハードウェア製品を持ち込むスタートアップ企業もいる。

家電メーカーの目線でみれば厳しいことだが、消費者がまず「欲しい」と思う製品も、いわゆる家電ではなく、スマートフォンやその周辺機器になってきているし、B2B向けの新しいソリューションを打ち出したい企業側の思惑もある。

結果として多様化したわけだが、多様化したがゆえに、すべての企業に目端を利かせるのが難しくなる。複数のジャンルがあり、そのうちどこが飛び出るかの予想もつきづらい。特に、スタートアップ企業の動きは読みづらい。

だが、そうした混沌とした状況から、毎年なにかの傾向が生まれる。混沌から生まれるものを先に読むのは難しいし、中に入ってすぐに見通すのも困難だ。だからここ数年、プレスデーが終わった直後や会期一日目に「今年のCESをひとことで」とコメントを求められるのが、一番困る質問になっている。

「ディスプレイの使われ方」が久々に変化。ミニLEDに注目。有機ELはPCに

とはいうものの、まったく予想がつかないのか、というとそんなことはない。

筆者の目線でいえば、今年は「ディスプレイの変化」と「ハイパフォーマンス機器」が注目されるタイミングではないか、と考えている。

ディスプレイの変化というのは、もちろん、各製品が搭載する「ディスプレイパネル」の変化だ。

テレビの方は4Kが主軸になってきて、「次は8K」といいたいところなのだが、そこまでシンプルではないかもしれない。もちろん、多数の8Kパネル搭載テレビが出るだろうが、単純に「8Kである」ことだけがポイントではないだろう。

例えばTCLは、「次世代ミニLED TV」をCESで発表すると宣言している。ミニLED TVとはいわゆる部分駆動型バックライト液晶テレビなのだが、バックライトとして使うLEDに超小型のものを使い、分割数を一万個単位にまで、劇的に高めた製品のこと。液晶を使わずLEDを直接画素として使う「マイクロLED」とは異なるが、液晶をさらに高コントラスト化し、薄型化・ナローベゼル(狭額縁)化を進められる。これはTCL同様サムスンが積極的で、CESでの発表が確実視されている。

TCLは「次世代ミニLED TV」の発表を予告済み

レノボが発表したクリエイター向け4K液晶ディスプレイもミニLEDを使っている。こちらはLED数を10,368個と公開しているので、その性質がわかりやすいだろう。

Lenovo「ThinkVision Creator Extreme」

Lenovo、10,368個のLEDでローカルディミングを実現した4K液晶など

こうした変化に加え、液晶は有機ELより「8K」が作りやすい。だからサムスンは「8K+ミニLED」で攻めてくると予想できる。他にも液晶勢で、ミニLEDを推してくる企業があっても不思議はない。

有機ELについては、テレビでの利用だけでなく、PCでの利用が増えてきたことにも注目しておきたい。

1月3日(現地時間)、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)は、アメリカ市場への参入と新機種3モデルの存在を公開した。中でも注目は、「LAVIE VEGA」。15.6インチ・4K有機ELを採用しているハイエンドモデルだ。今回の発表はあくまでアメリカ市場向けだが、NEC PCなので、日本展開は当然想定できる。

LAVIE VEGA

NEC PC、米国向けに4K有機EL HDR対応の15.6型ノート「LAVIE VEGA」投入

スマホでの「フォールダブル」(折りたたみ型)なども、昨年同様提示される可能性は高い。ディスプレイパネルに新しい流れが見え始めるのが2020年、ということになると予想している。

スマートホームとスマートグラスにも注目

もうひとつ、会場で動きが予想されるのは「スマートホーム」だ。日本ではまだ動きが鈍いが、アメリカ市場では、特にホームセキュリティを軸に堅調な立ち上がりを見せている。

昨年のCESでは、GoogleとAmazonがそれぞれブースを作り、Google Nest関連製品とAmazon Echo関連製品をアピールする、という形になった。今年もGoogle・Amazonともに大きなブースを出しているので、同じようにアピール合戦が行われる可能性は高い。

昨年末、Amazon・Apple・Googleの3社とZigbee Allianceが、スマートホーム統一規格に向け協力する、とのニュースが流れた。それが今回の展示内容にどれだけ影響しているか、気になるところだ。

Amazon、Apple、Google、スマートホーム統一規格に向け協力

昨年多かったスマートグラス関連展示は今年も多そうだ。とはいえ、高度なAR機能を持った製品は、そこまで急に増えて来るとは思いづらい。一方、メッセージやナビなど、シンプルな情報だけを出す「情報系スマートグラス」のソリューションは増えると予想できる。

すでにボッシュが、スマートグラス向けの新ソリューション「Light Driveシステム」を発表済みで、CESにも展示するとアナウンスしている。こうしたソリューションを使った製品の姿がどうなっているか、ニュースに注目していただきたい。

ボッシュ、直射日光下でも鮮明なスマートグラス「Light Drive」

Impress WatchシリーズのCES特集

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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