レビュー

タブレットの新たな可能性「Pixel Tablet」 大画面+ハブモードの魅力

「Pixel Tablet」(左)と付属の充電スピーカースタンド

Googleの新型タブレット「Pixel Tablet」がついにお目見えしました。一見してシンプルなAndroidタブレットなのですが、これまでGoogleが「Nest」シリーズで培ってきたスマートホーム機器としての側面も併せ持つという、非常に意欲的な製品に仕上がっています。

「タブレットを買ってはみたものの、持て余してしまった」という経験のある人こそ注目すべき1台です。詳しく見ていきましょう。

11インチ、重さ500g未満のシンプルなタブレット

日本国内では2018年発売の「Pixel 3」を皮切りに、Googleは自社ブランドでのスマートフォン展開を強化しています。しかし、タブレットについては近年音沙汰がなく、2010年代前半に「Nexus 7」などを矢継ぎ早にリリースしていたのがもう遠い記憶になりつつありました。

そうした中で復活したのが、今回レビューする「Pixel Tablet」です。2022年5月の年次イベントで発売が予告され、それから約1年。2023年6月20日に正式発売となりました。

こちらが「Pixel Tablet」。画面サイズは約11インチ(正確には10.95インチ)

製品ラインナップですが、主要スペックが同じで、内蔵ストレージ容量のみ異なる2モデル体制となっています。価格は128GBモデルが79,800円、256GBモデルが92,800円。モバイル通信(LTE/5G)対応モデルの設定はなく、Wi-Fi接続での運用が前提です。となると、ちょっとお高く感じるかもしれませんが、これは本格的な充電スタンドが付属するのが一因です。詳しい説明は後ほど。

さてタブレットを語る上で最重要となってくるサイズ感でしょう。Pixel Tabletは画面サイズ10.95インチ(画面解像度2,560×1,600ドット)で、これは現行のiPad(第10世代)の10.9インチとほぼ同じです。

そして本体サイズは258×169×8.1mm、重量は493gとなっています。ちなみにiPad(第10世代)は248.6×179.5×7mm、477gですから、スペック的にはややPixel Tabletが大ぶりということになります。

Pixel Tabletを実際に手で持ってみると、比較的軽い印象です。横持ち・縦持ちのどちらでも、片手でのホールドは問題ないでしょう。さすがに片手でのキーボード操作やWeb閲覧は厳しいですが、電子書籍のページをめくる程度なら(アプリ側のユーザーインターフェイス設計にもよりますが)片手操作は可能だと思います。

本来カラーは白・ベージュ系のPorcelain、グレー系のHazelの2種類。本体背面の色合いだけでなく、ベゼル、付属スタンドにもそれぞののカラーが反映されています。今回はGoogleから貸出されたHazelカラーのモデルを試用しています。

「Hazel」カラーの背面部

自撮り用前面カメラの配置などを考慮すると、Pixel Tabletは横持ち利用が前提のデザインになっています。この状態での上方右寄りに、指紋センサー兼用の電源ボタン、音量ボタン(+/-の2つ)があります。よって画面認証解除のための指紋センサータッチは、右手の人差し指で行なう機会が多くなります。ちなみに電源ボタンの方は凹、音量ボタンは凸という構造になっていて、目視しなくても指先の感覚で位置を把握できるようになっています。

スピーカーは4つ。横持ち時の左右側面に2つずつ、スピーカー穴があいています。充電用のUSB Type-Cは左側です。

横持ち時の上面部(縦持ち時は左側面部)。右側のほうに電源ボタン・音量調整ボタンがあります
横持ち時の右側面部。2つのスピーカー穴(横長の形状)があります
横持ち時の左側面部。中央にあるのがUSB Type-C端子
横持ち時の下面部には滑り止め

これは筆者個人の経験則ですが、市販のタブレットスタンドにタブレットを常設しておくような運用スタイルの場合、充電端子と電源ボタンの位置関係はぜひ念頭に置いておきましょう。充電ケーブルの取り回しだったり、それこそスタンドに置いたまま動画再生を開始する際の操作性に、決定的な影響を与えます。

例えば筆者私物のAndroidタブレット「Lenovo Tab P11 Pro」は横持ち時、電源・音量ボタン操作は左手側、充電端子は右手側という構造になっています。どちらが良い悪いではなく、好みの問題もあるので、一度じっくり考えてみてください。

これは筆者私物の「Lenovo Tab P11 Pro」。横持ちした場合、電源ボタンは左側面上方・音量ボタンは上面左方にあります。Pixel Tabletとは全く配置哲学が違います

ちょっと注意したいのはカメラ仕様です。背面カメラは800万画素、固定フォーカス、シングルレンズ仕様という具合で、デュアル・トリプルレンズ仕様が当たり前の最新スマートフォンとは土台からしてスペックが違います。QRコードを読み取ったり、文書をスキャンするためのカメラとして捉え、美しい写真の撮影はスマートフォンに任せる。そして撮った写真は「Google フォト」のクラウド経由でPixel Tabletで見る。これが、開発者が狙っている世界感と思われます。

背面カメラはシングルレンズ・固定フォーカスと、かなりシンプルな仕様

最新OSの安心感こそPixel 一部アプリはタブレット画面に最適化

Pixel Tabletでは、Googleの最新スマホであるPixel 7シリーズと同じ「Tensor G2」チップセットが採用されています。このおかげで、Googleが得意とするAI機能の利用はもちろん、サードパーティ製アプリの動作挙動なども非常に安定したものとなっています。ちなみにメモリは8GBです。

OSのバージョンはAndroid 13。現行Androidの最新バージョンです。GoogleのPixelスマートフォンでは最新OSがいち早くリリースされる体制が確立していますが、Pixel Tabletでも同じ効果が期待されます。Pixel Tabletの場合、OSのアップデートは2026年6月まで、セキュリティアップデートは2028年6月まで提供されることが明言されていますので、製品を長く使う上での安心感もあります。

実際の画面は、タブレットの大画面が考慮されており、スマートフォンのそれとはかなり違いがあります。特にPixel Tabletを横持ちする場合、ホーム画面では最下段に検索用ウィジェットと主要アプリのアイコンが一直線上にズラッと並ぶようになっており、これならPixel Tablet横持ち時、自然と親指が届きやすいはずです。

ホーム画面
アプリ一覧画面
通知パネルもスマートフォンのものとは異なります

また、本体設定の画面では、左側に項目一覧、右側に詳細が表示される2ペイン制になります。こうした画面表示のタブレット最適化はアプリ単位で行なわれており、特にGoogle系は先行しています。例えばChromeブラウザの場合、スマートフォン版とは違って画面上部にタブが表示されるため、PC版により近い見た目になります。

本体設定画面は2ペイン構成になっています
Chromeブラウザで画面最上部にタブが表示されるのも、タブレットならでは

「タスクバー」機能もPixel Tabletならではの機能です。画面の最下部から上方に向けてスワイプをすると、ホーム画面に戻るというのが近年のAndroidの標準的挙動ですが、このスワイプ量を少なめにすると、タスクバーが代わりに表示されます。

タスクバーからアイコンをタップすれば、該当アプリが起動しますし、またアイコンを画面の左右どちらかにドラッグすると、分割画面でアプリが起動します。この操作法だとかなり直感的に複数アプリをコントロールできるので、もし店頭で端末に触れる機会があったら試してみてください。

画面下部にご注目。アイコンが並んでいるのがタスクバーです。ホーム画面に戻らなくても、各種アプリを起動できます
タスクバーからアイコンをドラッグすれば、アプリ複数起動の指定が簡単です

充電台兼外付けスピーカーのホルダーが標準同梱

このようにPixel Tabletの本体仕様は相当シンプルです。しかし、差別化の観点で言うとむしろ本題はここから。その主役が充電スピーカーホルダーです。Pixel Tablet専用の充電台であり、さらに内蔵スピーカーによって動画・音楽の再生体験を強化します。単体購入価格は17,800円ですが、Pixel Tabletの本体パッケージに1つ、標準同梱されています。

標準同梱されている充電スピーカーホルダー。ちなみに単品価格は17,800円

Pixel Tabletの本体カラーに合わせて、充電スピーカーホルダーにも2つのカラーバリエーションが用意されています。またファブリック調の外装デザインが目を惹きますが、これはGoogleのスマートホーム製品との連続性を意識したものでしょう。

タブレット本体のカラーバリエーションに合わせて、充電スピーカースタンドもカラーは2種類。この画像はHazelのものになります。右下の黒い穴は電源コード差込口
付属の電源アダプター(右)の端子は充電スピーカースタンド用の専用形状。どうしてもUSB Type-Cケーブルで充電したいのであれば、Pixel Tabletと直接接続するしかありません

このホルダーの重量は実測値で401g。接地面は楕円形で、横幅が17cm、奥行きが6cmほどとなっています(あくまで筆者環境での実測値です)。またスタンド背部には電源アダプター差込口がありますので、実環境での設置にはもう少しスペースが要ります。

底面部は楕円形状

Pixel Tabletの固定は磁気式となっており、スタンドに近づけるとピタッとくっつく仕組み。この際、タブレット背面側にあるポゴピン端子とスタンド側端子が物理的に接触し、充電が自動的に開始します。こうした仕組みもあって、Pixel Tabletは純正スタンドへの“横置き”のみで縦置きはできません。

タブレット背面のポゴピン。スタンド接続時の充電・データ伝送に使います
スタンド固定状態を背面から見たところ
固定状態を側面から

またスタンドで固定中は、音声再生は原則全てスタンド側スピーカーからとなります。一例として、Pixel TabletでYouTube動画を再生中にスタンドへ設置すると、音声の再生は一瞬停止しますが、基本的にそのまま再生が継続します。

スタンド側には43.5mm径のフルレンジスピーカーが内蔵されていて、音の響きっぷりはさすがの一言。配置構造やスピーカーが限定されたタブレット内蔵スピーカーと比べて豊かな音が出ます。これであれば、スタンドに固定したPixel TabletでBGM的に音楽を再生しっぱなしにするという用途も十分あり得るでしょう。

ただし充電スピーカーホルダーは約400gという重量感もあって、こまめに設置場所を変えるには不利な側面も。基本的には、棚や作業机の隅っこあたりに置きっぱなしにするアイテム、と考えた方が良いでしょう。

Pixel Tabletの真価は「ハブモード」にあり

そしてPixel Tablet最大の特徴と言えるのが「ハブモード」です。Pixel Tabletを画面ロック状態で充電スピーカースタンドに固定しておく際、特別に起動する専用モードのことです。

ハブモードで動作中のPixel Tablet

ハブモード中は、Pixel Tabletがスマートディスプレイそのものになります。Googleアシスタント機能が有効化され、「OK、Google」と音声で呼び掛けて各種ハンズフリー操作ができますし、スマートフォンなど別デバイスで選択した動画・音声などをPixel Tabletへ転送して再生する、いわゆる「Chromecast」機能も利用できます。

筆者個人としては、このハブモードの存在こそがPixel Tabletの真の価値だと考えています。筆者は普段、Googleのスマートディスプレイ「Google Nest Hub」シリーズを自宅内で3台並行稼働させているヘビーユーザーです。自宅ドアベルの来訪者を、Nest Hubのディスプレイで目視できるからというのが最大の理由ですが、それ以外にも音声入力で目覚ましをかけたり、AM/FMラジオをradiko経由で再生したり、翌日の天気を確認したり、とにかくハードに使い倒しています。

それこそ旅行でホテルに泊まると、Nest Hubが使えなくてヤキモキするほどになってしまいました。

こちらは「Google Nest Hub(第1世代)」。普段はアート画像などがスライドショー表示されていますが、シーンに応じてドアベル映像を出してくれたり、天気を表示してくれたりと我が家では大活躍しています

Pixel Tabletのハブモードは、このNest Hubにかなり近い動作をしてくれます。前述の充電スピーカースタンドのおかげで、サブスク音楽を再生するにはピッタリ。また画面サイズは7インチのNest Hubに対してPixel Tabletは約11インチと大きく、YouTube動画をChromecastで再生すると、その迫力はより増します。

Nest HubとPixel Tabletの比較。画面サイズはかなり異なります

それでいて、バッテリー非内蔵で持ち運び操作が想定されていないNest Hubとは異なり、Pixel Tabletはハブモードを解除すればあくまで普通のタブレットにもなります。必要な時は手に持ってWebブラウザーを閲覧したり、大きな画面でGoogleマップを検索したりできる。この2面性の素晴らしさを、Pixel Tabletでハッキリと感じることができました。

なお、ハブモードと通常モードの切り換えも特に難しい部分はありません。画面ロックをしてスタンドにくっつけるだけでOK。画面ロック解除状態でスタンドに取り付ければ、その時は普通のPixel Tabletとしてブラウザーや各種アプリの操作ができます。

ハブモードの動作設定は、Pixel Tablet本体設定から行ないます。ハブモード中には、アートや自然風景の画像スライドショー、メディア再生用のコントロールメニューなど、多彩な項目を設定して表示できます。

スマートディスプレイの使い位置としては、例えば天気予報の確認
音楽サブスクと連携して楽曲を再生
「Google Home」アプリと連携して、対応する防犯カメラやドアベルの映像をチェックすることもできます
「ハブモード」の設定画面
既定のアート画像のほか、Googleフォトに保存してある画像もスライドショー表示できます

便利だが、重さが気になる純正ケース

Pixel Tabletには専用ケース「Google Pixel Tablet ケース」が別途用意されています。こちらもカラーバリエーションは2つ。また、充電スピーカースタンドとの併用を前提としていて、大変凝った作りとなっています。

「Google Pixel Tablet ケース」

ケース本体に相当する部分はシリコン製ですが、背面に大きなリング状金具が付いています。これは無段階調節式のスタンドになっており、充電スピーカースタンドがない場所でもPixel Tabletを自立させられます。

金属製リングがスタンドになる

また金具部分をたためば、充電スピーカースタンドに干渉することなくタブレット本体を固定できます。これはもうアイデアものといいますか、メーカー純正品に相当するケースならではのアイデンティティーになっています。

ケースを取り付けたまま、スムーズに充電スピーカースタンドに固定できます

ただし、重いです。公称値は265gとなっており、これを495gのPixel Tabletに装着するとなおズッシリさを感じてしまうのです。どこにでも立てられる利便性は分かるのですが、5G/LTE通信機能がなく、主に自宅内・オフィス内での利用が主流であろうことを踏まえれば、あえて装着しない選択肢もありそうです。お値段が1万円超え(12,800円)なのも、ちょっと考えどころですね。

Google製タブレットの新世代 今後も着実な展開を

ここ1~2年で、Androidタブレットの選択肢は広がりました。レノボ、NEC、シャオミ、OPPOなどが中価格帯をラインナップしつつ、サムスンからは10万円クラスのプレミアム製品もリリースされるようになりました。

そうした中、Pixel Tabletは後発となるものの、ハブモードを軸にしっかり差別化してきたな……というのが筆者の率直な感想です。正直、Pixel Tablet単体だけを触っただけでは、先行する機種とそれほど代わり映えしないかもしれません。

スマートディスプレイ的な側面をもつタブレット。それがPixel Tabletにとって最大の差別化ポイントでしょう

しかし、充電スピーカースタンドをリビングなどに置き、普段はそこに置いて充電しながらスマートディスプレイとして使う。そして、いざとなったらタブレットとして使う。この流れが確立したときに「なるほど、こうやってPixel Tabletを使えばいいのか!」と、初めて気付ける。そういう意味では、ちょっと魅力のアピールが難しい製品かも知れません。

加えて、スマートホーム機能は自宅にWi-Fiがないとあまり意味がありませんから、一人暮らしで通信回線をすべてスマートフォンに集約しているようなケースでは、Pixel Tabletはあまり威力を発揮できないでしょう。ですが、スマートディスプレイ愛好家は注目すべき一品です。

また、むこう3~5年に渡るソフトウェア更新サポートが明言されているのも、地味ながら注目したいポイントです。タブレットはスマートフォン以上に長く使い続けられる製品ですから、後々になって効いてくる価値だと思います。

最後に市場分析的な話になりますが、iPadはもう10年以上、アップルが毎年きっちり責任を持って新製品を投入し続けています。対するPixel Tabletはまだ1世代目。市場からの信頼感という意味では、大きな開きがあります。Googleには着実に、しっかりとユーザーに向き合い続けていただきたい。そうしてこそ、Pixel Tabletに興味を持つ方が増えていくはずです。その上でモバイル通信対応モデル、廉価モデルなど、さまざまな可能性にチャレンジしていってほしいものです。

森田秀一

1976年埼玉県生まれ。学生時代から趣味でパソコンに親しむ。大学卒業後の1999年に文具メーカーへ就職。営業職を経験した後、インプレスのウェブニュースサイトで記者職に従事した。2003年ごろからフリーランスライターとしての活動を本格化。おもな取材分野は携帯電話、動画配信、デジタルマーケティング。「INTERNET Watch」「ケータイ Watch」「AV Watch」「Web担当者Forum」などで取材レポートを執筆する。近著は「動画配信ビジネス調査報告書 2021」(インプレス総合研究所)、「BtoB-EC市場の現状と販売チャネルEC化の手引2020」(共著、インプレス総合研究所)。