レビュー

水冷で音が静かなゲーミングノート「マウス G-Tune H5-LC」を使ってみた

筆者は仕事ではノートPC、自宅でのゲーム用にはデスクトップPCをメインに使っています。ゲームにはやはりデスクトップのコスパが断然良いからですが、最近はゲーミングノートPCの性能も高く、いざとなったら持ち運べるメリットもあるので購入を検討したことはあります。ただ、ゲーミングノートPCには気になる点がありました。それは「空冷ファン」の音です。

ゲーミングノートPCは仕事上、これまでいくつか使ったことはあるのですが、実際に負荷の高い重めの処理のゲームを遊び始めると、途端に空冷ファンが高速で回転し始め、ジェット機のような騒音が発生します。ヘッドフォンをしていれば気にはなりませんが、周りに人がいる場合などはちょっと気が引けます。

PCは性能がよければよいほど発熱し、それを排熱するための仕組みが必要になりますが、デスクトップPCは大型のヒートシンクと大型のファンを使うことである程度こうした騒音は抑えられます。しかし、ノートPCでは省スペースであることが禍し、搭載可能な冷却システムの大きさに限界があります。このため、小さなファン+ヒートシンクしか搭載できず、小さいがゆえにファンを高速で回転させなければ排熱が追いつきません。結果として高負荷状態では爆音になってしまいます。これはメーカー問わず基本的に避けられない問題です。

デスクトップ用空冷ファンとヒートシンク

また、発熱は騒音だけでなく、PCの性能が低下する原因にもなります。CPUやGPUは温度が高いと最終的に壊れてしまいますので、それを防ぐために一定の温度以上になると自ら動作を遅くすることで発熱量を下げるようになっています。このため、排熱が追いつかず、高い温度を維持し続けると、PCのパフォーマンスが低下します。

かといってノートPCに大型の冷却ファンを搭載するのは難しいですが、最近では、外付けの水冷システム等を使うことで冷却能力を高められるノートPCも存在します。搭載可能なのは水冷システムに対応した専用のノートPCに限られますが、水冷システムは排熱効率が高く、冷媒と比較的大きなラジエーターに取り付けられた大型のファンで冷却するため、ノートPC内蔵のファンのように小さなファンを高速で回転させる必要がありません。このため比較的低騒音で冷却能力が高いことが特徴です。

ただ、ノートPCに水冷システムが付いた商品はこれまでもありましたが、それほど多くは見かけません。そんな中、今年の7月にマウスコンピューターから水冷システムを標準装備した、同社初のノートPC「G-Tune H5-LC」が発売されました。以前から気になっていたのですが、今回お借りすることができたのでレビューしていきます。

専用の水冷ユニットが付属するマウスコンピューターのゲーミングノートPC「G-Tune H5-LC」

水冷ユニット標準装備

G-Tune H5-LCは、ゲーミングノートPCというだけあって、単体のGPUを搭載するなどノートPC単体でも非常に高い性能をもっていますが、最大の特徴は専用の水冷システムが付属することです。

筆者は水冷のノートPCを使うのは初めてだったのですが、そもそも水冷システム自体をデスクトップPCに取り付けたこともありませんでした。正直なところ、デスクトップPCに関しては水冷の必要性はあまり感じていなかったからです。

デスクトップ用の水冷システムはさまざまなパーツが販売されていて、選択肢は多いのですが、取り付け作業は若干面倒です。最近は手軽に導入できる簡易水冷クーラーなどが1万円程度で購入でき、敷居も下がっているのですが、自宅のPCではオーバークロックはしませんし、空冷でできる静音対策でも必要十分で、騒音が気になることもありませんでした。万が一「液漏れ」がした場合のリスクも気になっていて、導入は見送っていました。

しかし、水冷システムを利用可能なゲーミングノートPCの場合、本体を分解したりすること無く導入できるため、簡単に利用できるのがメリットです。ノートPCの冷却は空冷ではどうしても限界がありますので、デスクトップPCの水冷システムよりも導入するメリットは大きいといえます。

水冷ユニット

もちろんノートPCとしての仕様も豪華です。CPUに第12世代インテルCorei9プロセッサー、GPUにはGeForce RTX 3070 Ti Laptop GPUするためゲーミング性能は抜群で、メモリも32GBを標準搭載するなど余裕たっぷりです。

G-Tune H5-LC
ゲーミングPCらしくキーボードは光ります
パームレスト部分にもLEDが仕組まれていて光ります

マウスコンピューター「G-Tune H5-LC」仕様

  • CPU:インテル Core i9-12900H プロセッサー
  • グラフィックス:GeForce RTX 3070 Ti Laptop GPU
  • メモリ標準容量:32GB(16GB×2/クアッドチャネル)
  • M.2 SSD:1TB(NVMe Gen4×4)
  • パネル:15.6型液晶パネル(ノングレア/240Hz対応/Dolby Vision対応/2,560×1,440ドット)
  • 本体サイズ:360.2×243.5×28mm(幅×奥行き×高さ)
  • 本体重量:約2.27kg

導入も取り外しも簡単

本製品はノートPC本体と外付けの水冷ユニットで構成されています。さっそくセッティングをしていきます。まず注意したいのは、PCの大敵である「水」を使うことです。このため、周囲には濡れたら困るようなものを置いておかないようにして、タオルケットなども置いておきたいところです。

水冷ユニットに水を注入する前に、ノートPCと水冷ユニットを専用のチューブで接続していきます。その後、水冷用の水を自分で注入します。水は工業用の精製水を使うことが推奨されていて、あらかじめ付属していました。付属する注水用のボトルを使って精製水を180ccほど注げば準備は完了です。

ノートPCと水冷ユニットをチューブで接続します
キャップを外して水を注ぎます

水冷ユニットは、使用前に5秒ほど電源ボタンを押して「循環モード」にします。循環モードが終われば準備完了です。

電源ボタン

水冷ユニットはBluetoothで制御します。まずはWindowsでBluetooth機器として接続すると、その後はマウスコンピューターの専用アプリ「Mouse Control Center」で操作ができるようになります。無事にコントロールセンターに水冷ユニットが表示されたら「接続」をクリックすることで冷却がスタートします。

もちろん、水冷ユニットを物理的に切り離すこともできます。ノートPCと水冷ユニットの接続部分はワンタッチで外すことができ、通常のノートPCのように持ち運びが可能です。再度取り付けるのもワンタッチです。

これによりゲームを遊ぶときは自室で水冷、外出して仕事をしたいときや、リビングに持ち込んで使いたいときなどは水冷ユニットを切り離し、持ち運んで使うこともできます。いざとなったら持ち運べるのは、デスクトップPCとは異なる大きなメリットだと思います。

チューブを外しても水冷ユニットから水が漏れてこないようになっています
ノートPC側のコネクタ側にはキャップがついています

ジェットの爆音がしなくなる

水冷ユニットを使ってみると、ポンプやラジエーターを冷却するファンの音はするので無音というわけではありません。同社によると、空冷のみでは約49.1dBになる騒音を、水冷BOX併用で約39dBへと約25%削減できるとしています。

実際に処理の重いゲームを動かしたときにその効果はてきめんで、空冷時の悩みだったジェットエンジンのような回転音がなくなります。むしろあの爆音が無くなってしまうのでちょっと不安にすらなりますが、むしろ空冷時よりも水冷時のほうが温度が下がっています。

また、空冷ファンの場合は、負荷にあわせて回転数が上がったり下がったりするため、これが余計に耳障りなのですが、本製品の水冷ユニット場合は、ファンの回転数が一定で静かなため、徐々に環境音として慣れてきます。個人的には不快感がはるかに少なく思いました。

水冷ユニットの動作はいつでもOS上で切替え可能です。ちょっと軽い作業をしたいだけの時などは、Mouse Control Centerから「切断」をクリックすることでいつでも水冷ユニットを停止して空冷に切替えられます。「接続」をクリックすればいつでも水冷を再開できます。たとえゲーム中でも空冷と水冷を切替え可能です。

Mouse Control Center

前述のとおり、水冷ユニット自体は無音ではありませんので、空冷ファンが回らない程度の軽い作業をする場合は、水冷ユニットを切断したほうがより静かになります。贅沢を言えば、負荷に応じて水冷と空冷を自動で切替える機能などがあれば、より満足度は高いかもしれません。

熱が抑えられるとゲームのパフォーマンスも上がる

実際にどのくらい水冷の効果があるのか「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」を使って調べてみました。ベンチマークソフトは、PCに一定の負荷をかけることで、PCの性能を測ることができるものです。このベンチマークの場合、結果の数字が大きければ大きいほどPCの性能は高いということになり、FINAL FANTASY XVを快適に遊べるかどうかの指標にもなります。

まず、空冷でベンチマークを行なうと、早速空冷ファンが高速で回転し始めます。ただ、G-Tune H5-LCの基本性能はかなり高いので、ベンチマークはすんなりと進んでいきます。数回ベンチマークを行ないましたが、結果は「快適」で、スコアはだいたい7,800~8,000前後という感じでした。FINAL FANTASY XVをプレイするのに支障が無い性能を備えているということになります。

これを水冷で行なうと、当然ながら空冷ファンの騒音はないまま、ベンチマークはスムーズに進みます。結果は同じく「快適」なのですが、スコアは8,000~8,300ぐらいで、明らかに差がでていました。冷却効果によってパフォーマンスは確かに向上しています。

実際、CPUの温度がどのくらいになっているかも見てみましたが、空冷時はおよそ70~75℃あたりで推移し、一時的に80℃になることはありましたが、常時その状態というわけではありませんでした。一般的に80℃を超えるとリスクが上がると考えられますので、騒音は大きいものの、しっかりと冷却されていることが分かります。仮に水冷ユニットが無い状態でも安心して使用できる温度です。

しかし、これが水冷になると、最高で60~70℃前後という結果になりました。70℃を超えるのは一瞬だけで、大抵は60℃~65℃あたりで推移する感じです。空冷よりも10℃ほど温度が下がっている印象です。高負荷な状態でもこれほど低い温度を維持できるのは驚きです。さすが水冷ユニットというところでしょうか。これなら負荷をかけてもパフォーマンスは低下しませんし、温度が低いほうが半導体の寿命も長くなりますので、メリットは大きいです。

パフォーマンスと静音性を両立

筆者は今回初めて水冷ノートPCを使ってみましたが、非常に満足度の高い結果となりました。これまでは、ゲーミングノートPCも仕事用のノートPCも空冷しか使ったことがなく、負荷がかかった場合に空冷ファンが高速回転して騒音が出るのは当たり前、と諦めていましたが、その価値観が変わってしまいました。決して空冷ファンが悪いわけではないのですが、その上の選択肢として水冷も検討したくなってしまいます。

また、元々高い性能をもつノートPCですので、仕事で動画編集や画像編集をする場合にも快適な環境で作業を行なえます。動画エンコードのように高負荷かつ長時間の作業が発生する場合でも、空冷ファンよりも静かに効率良く作業できるのはとてもありがたいです。

ゲーミングPCとしてのコスパはデスクトップPCのほうがよいのですが、ノートPCには「持ち運べる」という大きなメリットがあります。本製品のように高性能なゲーミングPCを持ち運べる事自体が大きなアドバンテージですし、水冷ユニットを使えば弱点である騒音も抑えられます。

G-Tune H5-LCの価格は349,800円からと、決してゲーミングノートPCとしては安いほうではありませんが、価格に見合う付加価値のある製品と言えそうです。

清宮信志