レビュー

キヤノン「PowerShot ZOOM」で、スマホで撮れない超望遠を楽しむ

キヤノンが、またしても新コンセプトのデジタルカメラを商品化した。手のひらサイズで400mm相当(35mm判換算での焦点距離、以下同)の超望遠撮影ができる「PowerShot ZOOM」である。9月10日に「Makuake」でプロジェクトを始めたところ、予定数の1,000台を即日完売し、3,000万円以上の金額が集まるという人気ぶりを見せつけた。

“またしても”と書いたのは、2019年に同じくMakuakeでプロジェクトを成功させた新コンセプトのコンパクトデジカメ「iNSPiC REC」があるからだ。iNSPiC RECは小型軽量、タブネス性能、カラビナ一体型、液晶モニター無しといったなかなか尖った仕様だった。

キヤノン iNSPiC REC レビュー

今度のPowerShot ZOOMも負けず劣らず尖った一品だ。12月10日発売予定で、キヤノンオンラインショップでの価格は35,750円(税込)となっている。

手のひらサイズで400mm! ボタン操作で瞬時にズーム

公式サイトでは、「撮れる、望遠鏡。」というコピーが出ている通り、電子望遠鏡にカメラ機能が加わった製品ということだ。それでいてかなり小型に作られているので、片手で持ってスポーツ観戦や自然観察などができるとのことである。

本体は握りやすい小判型で、名刺よりも少し大きいくらいだ。重さも約145gと、持っていても手が疲れるというほどではなかった。iNSPiC RECと異なり、PowerShotブランドを冠するだけあって、安っぽさはまったくないと言っていい仕上がりだ。

名刺との比較
片手で握りやすい形状になっている

望遠鏡としての機能は、焦点距離100mm相当、400mm相当、800mm相当(400mm相当のズームから切り出す電子ズーム)の3段階でズームできる。倍率でいうと1.2倍、4.8倍、9.6倍だそうだ。

100mm
400mm
800mm(デジタルズーム)

手持ちで双眼鏡を使ったことのある人ならご存知と思うが、10倍ほどになるとだいぶ手ブレの影響を受けるものだ。その点、PowerShot ZOOMにはピタッと張り付く感じの結構強力な手ブレ補正機構が入っているので、手ブレ補正なしの望遠鏡(双眼鏡)よりも安定して見えるのもメリットだ。

レンズ部分。上の2つの穴はステレオマイク

面白いのは光学ズームの位置が2つに限られるステップズームになっており、本体上部のZOOMボタンを押すと瞬時にズームできるところ。100mm位置で見たいものを探しながら、瞬時にアップで見ることができるというわけだ。このカメラの場合、連続式のズームよりも結果的に使いやすくなっていると感じた。本体上部には、電源ボタンとメニューボタンもある。

EVFは0.39型(約236万ドット)で、筆者の場合、眼鏡越しでもほぼ全視野が見えた。ファインダーにはセンサーが付いており、覗いたときだけEVFがONになる仕組みだ。大きめで回しやすい視度調整ダイヤルもあって、望遠鏡を名乗るアイテムらしいところだ。

カメラ機能はオート主体。連写は最高約10コマ/秒

カメラとしては、それぞれのズーム位置で静止画と動画が撮影可能となっている。撮像素子は1/3型、有効約1,210万画素のCMOSセンサーだ。本体の下側にあるシャッターボタン、動画撮影のボタンで記録ができる。

シャッターボタンは半押しでピント合わせもできるが、AFは常時行なわれているので(設定でOFFも可)、基本的にはそのまま押し込めばいいようになっている。静止画はJPEGのみ、動画は最高でフルHD(29.97fps)となる。

撮影機能はかなり絞られており、基本的には全自動で撮影するカメラと言えそうだ。一応露出補正機能もあるが、メニューに入らなければならないので瞬時に操作することは難しい。連写機能も付いており、フォーカス固定だが最高約10コマ/秒で撮ることもできる。

記録メディアはmicroSDカードで、本体の横に入れる。ちなみに8GBのカードを入れると、静止画の記録可能枚数は1,445枚と表示された。画素数が多くないぶん、小容量のカードでもかなりの枚数が撮れる。

側面の蓋を開けるとカードスロットとUSBコネクタがある

電源は内蔵の充電池となっており、付属の両側USB Type-Cケーブルで充電することになっている。試しに、別のケーブルでUSB Type-AのACアダプタに繋いだら充電されなかった。供給側のコネクタがType-Cの必要があるようなので注意したい。

同梱のUSBケーブル。

メニュー画面は同社のカメラと共通。ただし、スクロールのない4ページ構成とかなり項目は少なくなっていて、ほとんど最小限というイメージだ。ただ、コンセプトを考えると別に困ることはなく、このくらいシンプルな方が使いやすいのだと思う。

動物園で試す。ほとんどブレ無く撮影できた

今回は動物園にPowerShot ZOOMを持っていき、望遠鏡としての使い勝手を試すと同時に撮影もしてみた。

動物園では、動物が結構離れていて小さくしか見えない場合も多く、PowerShot ZOOMを使うと、400mmで動物をかなり大きく見ることができた。800mmは電子ズームなので、画質は劣化するが、見たいものが遠い場合は有用だ。手ブレ補正も十分効く。

続いて撮影だが、シャッターボタンを押すだけなので操作は簡単。動いている動物でもほとんどブレ無く撮影できており、なかなか面白い。スマートフォンではこうした超望遠撮影は難しいので、「スマホで広角撮影、PowerShot ZOOMで望遠撮影」と使い分けると、色々なバリエーションで撮影できそうだ。

こちらはプレーリードッグの展示。さほど離れているわけではないが、個体が小さいため肉眼では大きく見えない。そこで、400mm位置にするとかなり大きく見られた。さらに800mm位置では画面全体に個体を入れることができた。

(参考)他のカメラで撮影した約50mm相当の写真
100mm
400mm
800mm(デジタルズーム)

次はワラビー。そこそこ大きい動物なので肉眼でも十分見えるが、400mmにすると迫力がある。800mm位置にすると顔のアップになった。ワラビーは動き回っていたが、ピントもきちんと追従できていた。

100mm位置
400mm位置
800mm(デジタルズーム)

動画も撮影してみた。こちらもフルオートの撮影となる。録画中でもズーム操作は可能で、瞬時にズームする様子も記録されるのが面白い。考えてみれば、こうした瞬時のズームはミラーレスカメラや一般的なビデオカメラでも難しい機能なので新鮮であった。

プレーリードッグの動画。100mm、400mm、800mmに切り替えている
フクロウの動画。超望遠の効果として400mmで柵を目立たなくすることができた

なお、ピントが合う最短距離だが100mmで1m、400mmで4.5mとなる。スポーツ観戦などは問題なさそうだが、動物園だと近くの動物にはピントが合わないということだ。

また、レンズの明るさは100mmがF5.6、400mmがF6.3の固定式。あまり明るいとは言えないのに加えて、センサーサイズが1/3型とコンパクトデジカメとしても小さい方なので、薄暗い室内などではEVFに高感度ノイズが見られるシーンもあった。公式サイトにも暗いシーンには適していないとあるが、撮影してもノイズっぽくはなる。なお感度の上限はISO 3200。

室内で100mmで撮影(ISO 3200)
室内で400mmで撮影(ISO 3200)
室内で800mm(デジタルズーム)で撮影(ISO 3200)

高感度画質にウィークポイントがあるのは小型化を優先した結果で仕方がないのだろうが、最短距離の長さもあり、室内では使い所が難しい。実際、PowerShot ZOOMを持ってある博物館を訪れたが、ほとんどの展示物は4.5mより近いため400mm位置は使えず、100mm位置だと倍率1.2倍なのであまり拡大の効果がなく、肉眼で見るのと変わらなかった。そういうわけで、このアイテムは明るい屋外で使うのがベストと感じた次第だ。

スマホのお供に最適

いろいろ割り切っている製品なので、カメラとしても万能ではないが一点豪華主義的な凄みのある製品であった。昨今は写真撮影といえば多くの人はスマホで撮る時代。だから広角の写真がデフォルトという世の中だ。一方PowerShot ZOOMは望遠撮影に特化したことで、スマホのカメラと補完し合う良い関係を築いたカメラと言えそうだ。

スマホへの画像転送やリモートライブビュー撮影も、従来のキヤノン製カメラと同様に行なえるので、PowerShot ZOOMがあれば、簡単に望遠撮影した写真をネットでシェアできる。そういう用途を考えると、ここまでの小型化にこだわったのにもうなずける。すなわち、常にスマホと供に持ち歩ける大きさだからだ。

スマホの普及でカメラが売れないと言われているが、Makuakeの状況を見るに、スマホの良き友としてヒットする可能性も感じた次第だ。

スマホアプリ「Canon Camera Connect」を使えば、カメラ内画像の転送やリモートライブビューも可能
PowerShot ZOOM内の画像を閲覧しているところ

ざっと使ってみたが、機能を割り切った結果、操作が簡単になっており子供でも難なく使えそうな部分も興味深い。年齢を問わず広く楽しめそうなアイテムだ。さて、キヤノンの“新コンセプトカメラ”シリーズ、次はどんなカメラが飛び出すか早くも楽しみである。

武石修

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。