レビュー
キヤノンの新コンセプトカメラ「iNSPiC REC」の、見ないで撮る楽しさ
2019年12月27日 07:45
キヤノンが12月20日に発売した新コンセプトのカメラ「iNSPiC REC(インスピック レック)」が話題になっている。Makuakeでの予約販売も、限定の1,000台が即日完売した。そのiNSPiC RECについて、実写画像も交えてレポートする。実勢価格は15,000円前後。
iNSPiC RECは若者をターゲットにした“日常を記録するカメラ”といったコンセプトの製品だ。昨今は写真を撮るといえばスマホが出てくる場面が多いが、「スマホを出すより早く撮れる」「スマホでは撮りにくい場面でも撮れる」といった部分がメリットとのこと。加えて、防水や耐落下性能もあって、アウトドアにもうってつけという。見るからに異形のカメラだが、デザインだけでなくスペックもキヤノンらしからぬものに仕上がっている。
撮像素子は画素数こそ1,300万画素だが、サイズが1/3型と一般的なコンパクトデジタルカメラよりも小さい。実際、画質は現代のデジタルカメラの水準ではなく、どちらかというとトイデジカメを思わせるものだ。高画質を追求しているキヤノンがよく商品化したものだと最初は感じた。
ただしそれは等倍で見たときの話で、スマホの画面サイズ程度であれば綺麗とは言わないが、観賞に耐えられる画質だった。「パソコンの大きな画面や大サイズのプリントには向かないが、スマホで見るには十分」。こうした画質設定が、このカメラの立場を語っているように感じた。
このカメラの大きな特徴が、カラビナ一体型という点だろう。バッグなどに付けておき、すぐに撮影できるという考え方だ。スマホは、ポケットなどから取り出してロックを解除してカメラアプリを立ち上げるなど、サッと撮るのにはどちらかというと不向き。その点iNSPiC RECは、カラビナを外してモードダイヤルを回すだけで撮影可能になる。
ここでもう一つ重要なポイントは、その動作が片手でできるということだ。カラビナを外したあと、そのままホールド状態にできる。これは細長いデザインが奏功していると感じた。手に収まりが良く持ちやすいのだ。スマホも片手で撮影状態にはできるが、急いでいるときなど落としかねない。このあたりのデザインはよく考えられていると思った。
一方で、モードダイヤルで電源を入れてから撮影できるまでには2~3秒ほどかかるようだ。これでもスマホよりは早そうだが、もう少し起動時間が短いとさらに良かった。
あと気になったといえばシャッターボタンの感触で、一般的なカメラよりも押す力がいる印象。防水のための外装で覆っているせいもあるのだろうが、もっと軽く押せると使いやすくなると思う。
カラビナの穴はファインダーということになっているが、写る範囲は目安程度である。この四角い穴は、目との距離によって見える範囲が全然違ってくる。目に近づけると広くなり、離すと狭まる。裸眼で顔にくっつくほど近づけると写る範囲に近い見え方になった。ただし、筆者はメガネをかけているため、範囲よりもだいぶ狭くしか見えない。裸眼で見ても、個人差があると思う。
ただこの点は、さほどデメリットだとは感じなかった。目の前から少し離して覗けば、ファインダーで見えている範囲は確実に写る。周囲が不要なら適当なアプリでトリミングすれば良い。
それよりも面白いのは、いっそのことファインダーを見ずに撮るという方法だ。今回はiNSPiC RECで街スナップ的な写真を撮り歩いたのだが、最初はファインダーを見ていたが途中で面倒になりノーファインダーで撮ることが多くなった。レンズの焦点距離が25.4mm(35mm判換算)と超広角なので、撮りたいものの方向に向ければだいたい写る。
これだと不要なものまで写ってしまったり、思うような構図で撮れないのだろうが、あとで写真を見返すとそれもまた楽しい。「あ、こんなものが写っていた!」と。その時に撮影画像を見れば失敗したと思って撮り直すと思うが、このカメラには液晶モニターがない。すぐに画像が見られないところも、ノーファインダー撮影の楽しさをむしろ増幅する。
液晶モニター非搭載というのはまるでフィルムカメラのようで、現代にキヤノンがリリースするデジカメとしてはずいぶん思い切った仕様だ。もっとも、フィルムカメラと違って“フィルム代”や“残りのコマ数”を気にする必要はない。iNSPiC RECの静止画はJPEG記録のみで、今回撮った画像のファイルサイズは1.6MB~7MB位だった。例えば16GBのmicroSDカードを入れておけば、数千枚は撮影できる計算だ。
もう一つ気になるバッテリーの持ちはどうか? iNSPiC RECは内蔵バッテリー式で、充電時間は約3時間。今回試したところでは、フル充電から約350枚+動画を計約3分撮ったところでバッテリー切れとなった。カタログでは約1,000枚撮影できるとあったが、それに比べると少ない枚数だった。
電池切れまでの撮影時間は4時間ほど。今回はレビューということで電源ONの状態が長く、加えてかなりのハイペースで撮ったせいもあるが、一般的な使い方ならもう少し撮影できると思う。また、バッテリー切れでもモバイルバッテリーを繋ぎながら撮影はできるので、バッテリー交換ができなくともなんとかなりそうだ。
画像の閲覧は専用のスマホアプリ「Canon Mini Cam」で行なえる。初回接続時のみペアリングが必要だが、それもステップ毎にガイドが出るので、すんなり接続できた。スマホに画像を転送できるほか、SNSへのアップロード機能もある。メモリーカードやバッテリーの残量もこのアプリで確認できる仕組みだ。メモリーカードのフォーマットもここで行なえる。
2回目以降は早ければ5秒ほどで繋がるが、場所によっては接続エラーが数回続くような場面もあった。今後アプリのバージョンアップなどでの安定性向上を期待したいところだ。なお、2回目以降の接続時もスマホのWi-FiとBluetoothを両方ONにしておく必要がある。
作例で見るiNSPiC RECのカメラとしての実力
以下作例を等倍画像(クリック先)で掲載する。撮影当日は曇りで途中から雨が降るという悪天候だったが、それでもこのスペックのイメージセンサーにしてはしっかり写ったように思う。
暗めの環境となる屋内でも撮影してみる。撮影データを見るとシャッター速度が1/120秒、絞りがF2.2、感度がISO 100だった。開放F2.2とレンズが明るめなので、いたずらに感度が上がらずに撮れるようだ。
カメラ本体にもCanon Mini Camにも画像の加工機能は付いていない。そこでモバイル版のAdobe Lightroomでモノクロ化したところ、グッと印象的な写真になった。こうして見ると、軽快な“パンフォーカス・スナップカメラ”という使い方にも興味が湧いてくる。
スマホを繋げてのリモートライブビュー機能は多くのデジカメに搭載されているので特段珍しいわけではないが、小型軽量、耐衝撃、防水といったiNSPiC RECの特徴を活かせば面白い撮影ができそうである。
今回は雨が降ってきたところで傘の先に小型三脚を使って装着し、リモートライブビューで写真を撮った。万一落下しても2mの耐衝撃性能があるので、まあ安心感はある(とはいえ高さはギリギリだが)。高価なカメラでは躊躇するセッティングだろう。静止画の撮影ではタイムラグが1秒ちょっとあるのが難点だ。
スマホにも一眼にもない、新しくも懐かしい楽しさ
使っていてなんだか懐かしい気持ちになった。iNSPiC RECが「レンズ付きフィルム」のデジタル版ではないかと感じたからだ。「AFなしのパンフォーカスレンズで、撮る人はシャッターボタンを押すだけ。画像はすぐには見られない」のだから。
そんなわけで、若い人の間でフィルムカメラが流行っているのを見ると、iNSPiC RECの「若者向け」というコンセプトには頷ける。その一方で、筆者のようにフィルムカメラをかつて使っていた世代にとっては、なんとなく昔を思い出すカメラだった。
機能が極めてシンプルで、画質も現代のスマホにも及ばないが、タフネス機能を備えていることを考えると、15,000円前後という価格は割高には感じない。普段使いにももちろんいいが、雪山だとか夏の海だとかスマホで撮りずらいシーンも沢山ある。そういうときにiNSPiC RECがあると、もっともっと楽しめるのではないだろうか。