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「日本のEV市場が滅びる」 EV充電器補助金の問題点

EV充電サービス事業を展開するENECHANGEは、メディア向けのラウンドテーブルを開催。国が行なっているEV用普通充電器の補助金が、当初の予定より3カ月早い6月に予算上限に達したことをうけ、その問題点や今後の課題などについて解説した。

解説を行なったのは同社CEO 城口洋平氏。国の充電インフラ補助金はそもそも絶対額が不足していて、「このままでは日本のEV市場が滅びる」と口火を切った。

ENECHANGE CEO 城口洋平氏

EVの充電利用シーンには、クルマを使わない時間帯に住宅などで充電する「基礎充電」、移動途中に充電スタンドに立ち寄る「経路充電」(高速SA/PAなど)、出先の駐車場などで行なう「目的地充電」(商業施設や宿泊/レジャー施設など)の3つがある。

これに対し政府の補助金は、急速充電器に約90億円、普通充電器(基礎充電)に約30億円、普通充電器(目的地充電)に約25億円とされ、これに予備費が約30億円設定された合計175億円。しかし、6月で基礎充電、目的地充電ともに予算額に到達してしまったという。予備費については現時点で投入されていない。補助金がなくなればEV充電器の普及は進まず、利用者の利便性は向上しない。EVの普及にもブレーキがかかる。

昨年度の補助金は、9月に予算に到達していたが、今年は昨年度の3倍の予算をつぎ込みながら、早期に補助金が終了してしまった。これにはさまざまな理由がある。

予算額の不足とルール緩和がアダに

政府はGX(Green Transformation)を掲げるなか、EVの推進を促しているが、EV充電器設置を目的とした補助金は、その設置箇所を増やし、EVの利便性を高めることを目的としている。たとえば、政府は、2030年までに国内に120,000台の普通充電器(目的地充電)の普及を目指しているが、これを実現するには、年間12,500台の充電器を設置する必要がある。しかし、現状、目的地充電向けの補助金は25億円しかなく、年間約2,000台分の予算しかない。これでは目標を達成するのは到底困難な状況だ。城口氏によれば、本来なら予算規模は毎年500~700億円が必要という。

予算額を3倍に増やしたのに、なぜ昨年よりも早く補助金が終了してしまったのか。実は2020年までは、駐車場に設置するEV充電器の数は、駐車可能なガソリン車の1.5%までという上限が設定されていた。100台駐車できる場所なら2台まで、という条件だったが、これでは実用上ではやや足りないという意見が多かった。そのため、2021年からはこの条件をなくしてしまった。

上限を撤廃することで、1つの駐車場全ての駐車エリアすべてに充電器を設置することも可能で、100台駐められれば100台分充電器を設置して補助金を申請できる。また、充電器の設置工事は数基設置するのも100基設置するのも、コストとしては大差ないという。このため、大量設置して多額の補助金をもらうという仕組みが実現してしまい、2021年以降は、1つの施設で数百台の申請をする例が急増した。

マンション1棟に数億円の補助金

実際、1つのマンションで、全駐車スペースに数百基の充電器を設置している例がある。これは補助金の目的としては健全ではない。本来、補助金は広く充電器を普及させることが目的であって、マンション1棟のために数億円の助成金を出し、数百基の充電器を設置しても、社会のインフラとしては活用されないし、補助金がいくらあっても足りない。そもそも現在のEVの普及率をみれば、マンションの住人が全員EVを購入するとは考えにくく、過剰な設備投資と言わざるを得ない。

さらに、100台分充電器を設置したところで、同時に100台給電できるところはまずない。実際には同時充電できるのは数台程度というところが多い。充電器の台数全てに見合う給電設備を設置するのはコストがかかる。中には400台の充電器を設置しながら、同時に充電できるのは10台のみ、という例もあるという。城口氏は、「これをロードバランシングだと言い訳している人達がいるが、それは違う。米国では100基充電器を設置したたら、同時に100台最高出力で充電できることが求められる。ロードバランシングというのは、災害時など発電能力が制限された場合などに使われる機能であって、常時ロードバランシングが前提というのはおかしい」と指摘している。

もちろん、これらは制度上はなんの問題も無い補助金の使い方ではあるが、EV充電器を社会に普及させるという本来の目的からはほど遠い使い方だ。制度の運用方法に問題がある。実際に使われない数百の充電器よりも、さまざまな場所で数基ずつ充電器を設置したほうが、社会のインフラとしてはよほど有意で、税金の活用の仕方として意義があり、EV普及にも寄与するだろう。

城口氏は、現状のEVの普及率では「100台中10台分あれば十分」としており、従来の制限が厳しすぎたのは確かだが、上限を撤廃したのはやりすぎだと指摘する。

申請すればするほど利益がでる?

また、日本で現在主力の充電器の出力は6kWと3kWがあるが、どちらも1台あたりの補助金の最大額は同じで「65万円」。設置コストは勿論3kWのほうが安価で6kWの半額程度で設置可能だが、実際にはさまざまな「テクニック」を駆使して3kW充電器を設置しながら「満額の補助金」が申請されるケースが多いという。

充電器の設置台数の上限が撤廃され、性能の低い充電器を大量に設置することで補助金を不正に取得することも可能で、制度が悪用されている可能性が高いと城口氏は指摘する。これでは速い充電器も普及しない。

城口氏は、「政府の見積もりでは、EVの普及は2030年に新車ベースで25%、全体の所有率では約10%とされており、2030年時点でも100台中10台充電できれば十分。2030年までには技術も進歩し、充電器は高速化し進化する。いまから徐々に追加していけいば、普及に合わせて高速な充電器の値段も落ち設置もしやすい。なのに、EV黎明期の現在のタイミングで2050年(EV普及率100%)を見据えた充電器数を設置する事業に補助金を出す理由はなく、暴論だ」と持論を展開した。

実際に、既にマンション等に設置されている数百単位の充電器は、そのほとんどが実際に使われることなく、仕様も旧式化して将来、再度置き換えが必要になると思われる。

補助金事業が「非公開」に

さらに状況を悪くしているのが、2022年度から「目的地充電について補助金が投入された事業を非公開とする」ことになったこと。これにより、補助金を導入した事業を外部からチェックすることが難しくなった。2021年度までは公開されていたが、理由は不明ながら現在では非公開となった。城口氏は、「国が公共の税金を投入するのに、設置場所を公開しなくなった。意味不明だ」とし、制度を再度見直し、すべて公表すべきであると語った。

また、公表されていた情報も従来は設置場所名称のみだった。これも、申請者や申請金額、充電器仕様の概略なども公表して透明性を図るべきだとしている。

日本のEV充電器の速度が上がらない理由

充電の高速化についても、日本は不利な状況にある。米国では普通充電は6kWが、急速充電は150kWが「最低ライン」というガイドラインが定められ、これを元に補助金が分配されるようになる。これらはあくまで最低ラインであり、普通充電は10kWでもそれ以上でもかまわない。実際に10kW以上で充電できるEV車両は多数あり、6kWという出力は取り立てて高出力というわけではない。

対して、日本の普通充電では、3kWが主流。6kWを超える出力はJARI認証基準で認められていない。普通充電においては、米国の「最低ライン」がギリギリ日本の上限になっている。ただし、現状は政府も認識していて、出力の向上について検討している状況だ。

実際、グローバルのEV市場では、6kW以上で充電が可能なEVが主流で、それ以上の出力で充電できる車両も少なくない。対して、3kWで充電するEV車両は日産のサクラぐらいだ。城口氏は、「6kW以上の充電器でも3kW車両の充電はできる。なら高速な充電器を普及させたほうがいいし、グローバルでは10kW以上が一般的になりつつある現状がある。日本も速やかに規制緩和すべきだ」としている。

また、通信プロトコルの統一も重要な課題。海外ではOCPP規格の採用が進んでいるが、日本では非OCPP規格の充電器やネットワークが未だに使われている。独自規格での運用はコストもリスクも高く、これについても日本は早急な対応が求められる。

日本で高速な充電器が普及しない理由がもう一つある。それは料金制度だ。日本のEV用充電器は現在、時間当たりの従量課金制度になっている。1分あたりいくら、という料金制度だ。このため、速く充電されてしまうと「儲からない」。事業者としては、3kWの充電器でゆっくり充電してもらったほうがビジネスになる、ということになる。これではいつまでたっても高速な充電器は普及しない。

これを解決するのが、「kWh課金」だ。時間ではなく、実際にどれだけの電力を充電したかによって料金を請求する。これならどれだけ高速な充電になっても料金を適正化することができ、回転率もよくなる。理にかなった方式だが、従来こうした方式が避けられていた理由の一つに「充電が終わっても駐車し続けられ、次の人が充電できない」という課題があったという。これについて城口氏は、「充電が終了しても駐車し続けている場合は、駐車料金を請求すればよいだけ。既に他国では当たり前にやっている」とし、料金制度を変えることで日本でも高速な充電が行なえる環境を作っていきたいと語った。

現状では、EV用充電器の設置コストは高く、米国でも補助金がなければそうそう設置はできないという。EVの普及率が上がっていけば利用率があがり充電器の設置台数も増え、コストも下がっていく。将来、普及率が50%程度になれば、補助金なしでも十分設置できるコストになるという。それまでは、充電器のコストが下がっていくのに合わせて、補助金も徐々に下げ、充電器の設置場所を増やして利便性を上げていくのが望ましい。そのためには、再度、充電器設置台数上限の見直し等を図り、健全に補助金を運用できる体制を整えることが重要だ。