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「デジタルインボイス」普及に本腰 請求から“作業”をなくす

デジタルインボイス推進協議会(EIPA)は28日、デジタルインボイス推進に向けたイベントを開催した。2023年10月のインボイス制度のスタートに向けた「法令改正対応」だけでなく、「業務のデジタル化」による業務効率化に向け、EIPAの会員各社が対応製品などを投入するほか、日本におけるデジタルインボイス普及推進で協力する。

28日には、デジタル庁がデジタルインボイスの標準仕様となる「Peppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0」を公表した。これを受けて、会計・業務システムや、企業のバックオフィス業務を担うSaaS事業者などがデジタルインボイス/Peppolへの対応を進めていくこととなる。

「デジタルインボイス」は、売り手側の請求管理システムなどの請求データが、人を介さずに、買い手側の購買管理システムや仕入管理システムなどに連携され、自動処理される仕組み。これまでアナログで作業していた請求書の処理や支払い処理、入金確認といった業務をデジタル化することで、省力化や業務効率の向上を図っていく狙いだ。

請求から作業をなくそう

EIPA会長で弥生代表取締役社長の岡本浩一郎氏は、「請求から作業をなくそう」をいうキーワードを掲げ、デジタルインボイスの意義について説明した。

EIPA会長の岡本浩一郎氏

はじめに岡本氏が強調したのは「電子化ではなくデジタル化」ということ。

例えば紙の請求書をPDFで電子化した場合、媒体はデジタルに変化するが、「業務のあり方」は従来と大きくは変わらない。電子化だけでなく、デジタルを前提に業務全体を見直す「デジタル化」とその後の業務の効率化こそがデジタルインボイスで目指す世界だという。また、日本においては労働人口が減少していることから、中小企業にこそデジタル化が必要と説明した。

ただし、海外でデジタルインボイスの流れが加速する中、日本ではデジタルインボイスは出遅れていたという。そこで、2020年6月に社会的システム・デジタル化研究会が、「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」を発表。'23年10月のインボイス制度の開始に向けて、「デジタルインボイスを前提とし、デジタルで最適化された業務プロセスを構築すべき」と提言。'20年7月には現在のEIPAが発足し、日本国内の事業者が共通的に利用できるデジタルインボイス・システムの構築を目指すこととした。

2020年12月にはEIPAとして、当時の平井デジタル改革担当大臣を訪問し、「日本標準仕様」の策定に向け、Peppolの運営管理組織OpenPeppolとの交渉などで政府が積極的な役割を担うこと、Peppolの枠組みの中で、政府が「日本標準仕様」に係る適切な管理・運用体制を構築することなどを提言。平井大臣も「デジタル庁のフラッグシッププロジェクト」としてデジタルインボイスに賛同し、以降デジタル庁がPeppolをベースとした日本のデジタルインボイスの標準仕様の策定を進めてきた。

その成果が、28日にデジタル庁が公表した「Peppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0」となる。また、Peppolのアクセスポイントとして活動するプロバイダーの認定も進んだため、ベンダー各社がデジタルインボイスに対応した正式サービスを提供できる環境が整備されたこととなる。

EIPAがデジタルインボイスで目指すこととして、岡本氏は「法令改正対応」のほか「業務のデジタル化」を挙げ、特に後者の重要を強調する。

'23年10月にインボイス制度がスタートするため、事業者が「適格請求書保存方式」に対応できるようにすることは、もちろん重要だ。そのためにEIPA会員各社の製品で対応していく。

加えて岡本氏は、法令改正対応の“先”を見据えてほしいと述べる。「いちばん大事なメッセージは、『業務のデジタル化』をデジタルインボイスで実現すること」とする。

現在の商取引は中小企業を中心に、アナログ処理が多く存在している。デジタルインボイスではインボイスの発行・受領や自動仕訳など会計業務の効率化が見込まれるだけでなく、支払処理、入金消込業務など、後続業務全体を効率化できるためだ。

大企業のEDI(電子的データ交換)では実現されている部分もあるが、日本全体でやり取りするデータが統一されることで中小企業を含むより多くの企業がデジタル化の恩恵を受けられるとする。

デジタルインボイス対応の時期については、「2023年10月に対応開始では遅い。10月には業務として定着している必要がある」という。そのため、2023年前半には本格的対応に着手するよう提案している。デジタルインボイスはこの秋から順次利用可能になるため、自社での対応を準備し、適格請求書に対応するだけでなく「業務の分断、売手と買手の分断をつなげていくような、業務の見直しもぜひ進めてほしい」と強調した。

デジタルインボイスの活用により、金融機関におけるリアルタイム与信判断/融資などの新しいサービスや、資金回収の短縮化などの変化も見込まれる。また、岡本氏は「デジタルを前提とすると、中長期的には、現在の月締請求書から都度請求書にシフトする」と予測する。月締という商習慣も紙の請求書を前提としたもので、「デジタル化」がもたらす変化は大きくなると予測し、それを見越した業務改善が必要になるとする。

各ベンダーもデジタルインボイス対応を強化

EIPA会員各社によるパネルディスカッションも開催された。デジタル庁 国民向けサービスグループ 企画調整官の加藤博之氏が司会を努め、インフォマートの中島健社長、マネーフォワード 執行役員 マネーフォワードビジネスカンパニーCSOの山田一也氏、TKC 執行役員 企業情報営業本部 本部長の富永倫教氏、ROBOT PAYMENT執行役員 フィナンシャルクラウド事業部長の藤田豪人氏が参加した。

会計システムを展開するTKCでは、デジタルインボイスにより「仕訳」が、劇的に楽になると説明。年内にはデジタルインボイスを使ったサービスを開始する。

マネーフォワードでは、「Peppolになることで、(AI-OCRなどと比べ)精度が100%正確な支払いデータがSaaS上に貯まっていくため、Saasの中で支払い処理まで繋げ業務効率化が図れる」と説明。また、中小企業の資金繰りの面でも、支払いデータが溜まると「いつ支払わないといけない」がベンダー側がわかるようになるため、例えば「法人版のリボ払い」のような「組み込みファイナンス」的な機能も実現できるなど、「業務効率化以外にも付加価値を加えられる」とした。

「請求管理ロボ」を展開するROBOT PAYMENTは、受け手側の処理が楽になると、請求書などの「送り手側」の変化も見込まれるとする。「ECや店舗などBtoCの場合は買い手が支払手段を選んでいるが、BtoBになると売り手が決めている。なぜかというと紙の請求書が前提になっているから。デジタルインボイスであれば正しいデータが来るので、今月カードで切って支払いを1カ月遅らせるかなど、買い手側が支払手段を選ぶ時代がくるのではないか」とした。

BtoBプラットフォームのインフォマートは、すでに多くの企業間取引の請求書のやり取りなどをデジタル化しており、約80万社が利用している。Peppolの仕組みは自社と競合するような仕組みにもみえるが、Peppol対応は「とにかく広がりが早まる」という。「それぞれの会社がそれぞれのシステムでデジタル化している中に共通の仕組みができる。ソフトバンクとドコモのユーザーで電話がかけられなかったらおかしい。同じようにPeppolでみんなが繋がり、繋がるベンダーが増えることは日本全体のためになる」とした。

デジタル庁の加藤氏は、「標準化というと皆が同じものを使うと思われてしまう。しかし、Peppolは“繋がろう”という仕組み。自社の中で閉じている部分についてはそれはそれで機能する。ただ、外と繋がろうとしたときに、繋がりませんというのはちょっと変ではないか? 繋がるための共通の仕組みがPeppol BIS Standard Invoice JP PINT Ver.1.0」と説明した。

Peppol Tシャツで登壇したデジタル庁 加藤博之氏

EIPAの岡本会長は、「こういった標準化はいままでもあったが、うまくいかないことも多かった。EDIも業界単位で違いがあり、データのやり取りができない。日本のすべての事業者が当たり前の用にデジタルインボイスを使えるようにしたい。それは可能だし、今のタイミングではないとできない。日本のデジタル化にとって最大のチャンス。ぜひ活用してほしい」とアピールした。

河野大臣「日本のバックオフィスからアナログを無くす」

河野太郎 デジタル大臣も会見にビデオメッセージで登場し、デジタルインボイスへの期待を語った。以下に発言趣旨をまとめた。

コロナが始まったころ、はんこの押印のために出社とか、請求処理はテレワークできないという実態が明らかになった。このことからわかるように日本のバックオフィスは、アナログがデジタル化を阻み、業務を非効率にしている。消費税のインボイス制度への移行まで1年を切った。インボイス制度移行により、登録事業者からの仕入れと免税事業者からの仕入れを区別して管理する必要、3万円以上の取引にかかるインボイス保存、改正電帳法に対応した電子インボイス保存が必要といった変化が求められ、その変化を懸念する声もある。

事業者にとって、なぜこの変化が懸念となるのか?

紙を前提した請求処理では新たな事務負担が負担が生じるからだ。しかし実際には『請求から作業をなくそう』というキャッチフレーズのように、デジタルツールの活用、DXを進めることで、新たな事務負担も吸収できるのではないか。そのように考えている。

そのためのデジタルツールの一つがPeppolに対応したデジタルインボイス。

請求にかかる情報を売り手のシステムから買い手システムに直接データ連携する仕組み。システムとシステムのコミュニケーションであり、その違いによるデータ連携の分断が解消される。人の入力負担が解消され、正確かつ一貫性を持って請求に係わるデータを自動処理可能になる。

デジタルインボイス活用により、自動処理が行なわれれば、登録事業者と免税事業者からの仕入れを区別して管理するなどの変化への対応も、人が作業する必要はない。インボイス制度への対応も円滑に進むことになる。

業務が楽になるだけでなく、デジタルインボイス活用により新たな価値が生まれ、成長につながることも期待している。事業者のなかではデジタルインボイスとしてどうやってデータを活用するか、そういったところに重きを置いたサービスもあると聞いている。非常に重要な取り組みだ。

Peppol対応のデジタルインボイスはデジタル庁のフラッグシッププロジェクト。ただ、状況は刻一刻と変化している。デジ庁は日本のデジタルインボイスの標準仕様を公開した。皆さん(EIPA会員)のサービス・プロダクト開発も最終段階になる。EIPA会員の皆様も、一日も早く皆様の価値あるサービスを手掛け、バックオフィス業務に関わる全ての人が業務が楽になったと実感できるようにしてほしい。そのうえで、日本社会全体のデジタル化が実現されるよう、引き続き貢献いただければと思う。