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アシックス、温室効果ガス排出量が最も少ないスニーカー

アシックスは、温室効果ガス(カーボンフットプリント)排出量を最も低く抑えたスニーカー「GEL-LYTE III CM 1.95(ゲルライトスリーシーエム1.95)」を開発した。アッパー、ソール、靴ひもなどの各パーツや輸送、エネルギーなどに対して、温室効果ガス削減のために16の取り組みを行なっている。発売は2023年。

温室効果ガス排出量は1.95kgCO2e(二酸化炭素換算)で、排出量が公表されているスニーカーの中で最少。これまではスニーカーに関しては4.3kgが最少、スニーカーに限らずランニングシューズを含めると2.9kg程度が最少だった。

実現に向けた取り組みは、2010年のアシックスとマサチューセッツ工科大学による、製品ライフサイクルから排出される温室効果ガス排出量の測定、および削減方法に関する分析と改善策に関する共同研究から始まった。

そこで得た知見をもとに研究を重ね、製品ライフサイクルにおける4つの主要段階である材料調達と製造、輸送、使用、廃棄で温室効果ガス排出量の削減策を特定。材料調達や工程を改善することで、商品のクオリティを損なうことなく、温室効果ガス排出量最少のスニーカーとして実現した。

材料調達と製造においてはシューズや包装材の材料作製に必要なプロセス、ソール製造とシューズ組立のための工程が含まれており、ここでの排出量は1.33kgで、アシックスのスポーツスタイルカテゴリーのシューズの平均的な値と比較して80%削減。

輸送についてはサプライヤーからシューズ工場、工場から配送センター、店舗、返品・使用済みシューズの廃棄施設への移動などが含まれており、排出量は0.15kgで、75%削減。

使用については、アシックスが推奨するお手入れ方法に基づき、廃棄されるまでに3回洗浄するシナリオにおいて、排出量は0.03kgで、従来と同等。

廃棄については、焼却・埋め立てといった実際の廃棄方法により即したシナリオにて計測して、排出量は0.43kg。業界標準が設定する廃棄方法をベースにシューズのリサイクルが広く行なわれていないことを踏まえた廃棄方法をシナリオとして採用しているため15%増となる。

具体的には、16の取り組みが行なわれており、特に力を入れたのは、スニーカーのミッドソール(甲被と靴底の間の中間クッション材)と中敷に使用しているカーボン・ネガティブ・フォームの開発。サトウキビなどを原料とした複数のバイオベースポリマーを配合することで、実質温室効果ガス排出をマイナスに保ちながら、履き心地、品質を損なわないフォーム材を完成させたという。

サトウキビ由来の原料については、サトウキビの成長過程でのCO2吸収量などがCO2排出量のマイナス要素となり、その量がフォーム材作製に必要なプロセスに由来するCO2排出量よりも大きいため、フォーム材としてカーボンネガティブを実現している。なおカーボン・ネガティブ・フォームには、クラレのサトウキビなどを原料にしたバイオベースポリマー、セプトンBIO-シリーズを一部使用している。

アッパー(甲被)と中敷には、環境負荷の低いソリューションダイという技法で染色したリサイクルポリエステルを使用。これは、2030年までに100%リサイクルポリエステルに切り替えるというアシックスの目標を反映している。

アッパーの補強パーツには、廃棄ロスの少ないテープ形状パーツを必要量のみカットし、折り返すなどして効果的に配置。材料の廃棄を最小限に押さえつつ、フィット感やサポート性を確保している。

そのほか、製造工程における再生可能エネルギーの利用、バイオ燃料を使った輸送や委託先工場でのリサイクル施策などがある。

パーツの数も無駄をなくすために減らしており、GEL-LYTE III CM 1.95では19のパーツから作られる。発表会で比較用に展示されていた従来モデルのスニーカーのパーツの数は65。

GEL-LYTE III CM 1.95のパーツの数は19
従来モデルのパーツの数は65

履き心地は変わらず 価格は約150ドル

発表会では試し履きをすることができたが、素材が一般的なものと異なっていることは一切感じることはなく、軽量性や、硬すぎず柔らかすぎずの心地良いクッション性など、アシックスが持つシューズ開発の知見や技術がしっかり盛り込まれているクオリティを感じられた。

また、バイオ素材などコスト面では高い素材を使っている部分もあるが、多くの人に使ってもらうことが重要であるという考えから、最終的な価格は決定していないものの、ドルベースで150ドル程度で検討しているという。

アシックス 代表取締役社長CEO兼COO 廣田康人氏は「将来世代がスポーツを楽しみ、心の高揚感を味わうことができるかどうかを左右するような、たくさんの環境問題に直面している。アシックスでは地球の未来のために自分たちの役割を果たすことを重要視しており、未来の世代にスポーツのすばらしさを伝え続けることにつながる」と説明。

また、アシックス サステナビリティ統括部 統括部長 吉川美奈子氏は、気候変動がスポーツに及ぼす影響について、アスリートの熱中症による棄権、子供の外遊びの制限、部活動の酷暑による試合中止、スポーツ大会の参加国や試合時間を減らす可能性などを挙げる。さらに、観衆をあまり集めないようにするといったことも予測されていると懸念を示した。

アシックスではこういった問題に向き合い、「2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ」を掲げており、廣田康人氏は「GEL-LYTE III CM 1.95は“健やかな地球環境の実現に貢献する”というアシックスのミッションを体現している」とコメント。将来的には、より大きな規模でアシックス製品に展開していくことを目指す。

(左から)吉川美奈子氏、廣田康人氏、アシックス サステナビリティ統括部 サステナビリティ部 荒井孝雄氏